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第88話 3度目のレイシュトへ

 部屋でゆっくり休んだ翌日、レイシュトに出発する前にカエデさんたちにあいさつに行くことにした。


 その前にロープを返すのを忘れていたので、インベントリから出して、燃えた跡が残る部分を切り落としておく。



(トントン)


「はあい」


「おはようございます」


「あら、いらっしゃい。ゆっくり休めた?」


「おかげさまで」




「そろそろ私たちはレイシュトに行こうと思っているの」


「ユキちゃんに会いに行くのね?」


「そうよ」



 そうだ。忘れないうちに返さないと。


「あっ、その前にこれを返そうと思って」



 ロープをカエデさんに渡した。タツキさんも部屋にいたので、ロープを見て目を丸くしながら近づいてきた。


「やっぱり紐を持ってたのね…… なんで持って行ったのか私たちでは理解できなかったのよ……」


「いやあ、まさか外が森とは思ってなくて……」


「そうか。都市の中とかと思ってたわけね。それで何かの役に立つと思って持って行ったわけね」


「そんな感じかな。実際は使うことは1回もなかったけど……」




 タツキさんがロープを見ながら懐かしそうに言う。


「まさかこんな風に抜け出てたとはな…… 記念に持って行ってもらってもいいけど、縛られた記念ってのもいまいちだろうから、返してもらおうかな」


「そのほうが俺としてもありがたいかな」


「ふふっ、そりゃそうよね」


 カエデさんもロープを見てどこか懐かしがっているようだ。




「いつか元の世界と行き来できるようになったら誘いに来るから、そのときは一緒に俺たちの世界を楽しんでもらいたいな」


「すごいわ。楽しみにしてるわ」

「あんたらならやれてしまいそうだな」


「ふふっ、ヤマだしね」

「そうプイね」


「ちゃんとシェド隊長のところで訓練するノよ!」


「はい!」


 完全にタツキさんはプリンの弟子になったようだ。


「じゃあ、またね」


「また来てね!」



 俺たちは手を振って部屋を出た。


 最初はどうなることかと思った並行世界研究所だったが、ちゃんと和解できて本当に良かった。





◇


 並行世界研究所を正面から出た。


 レイシュトが目的地だが、かなり遠いため、まずはエーンスタットに向かおう。



 エーンスタットに向けて歩き始めてからではあるのだが、大事なことを思い出したので、クルルに確認することに。


「なあ、クルル。こっちに来ちゃったけど、ダブル爺の洞窟に行きたい? 今なら手紙の全文を読んであげられるけど」


「どうしようプイ……」


「せっかく近くまで来ているから行きましょうよ。私とヤマだけ全文を知っているのはかわいそうよ」


「だよな」

「ありがとうプイ」


「それに今からレイシュトに俺たちが急いで行くと、どこかでユキさんを追い抜いちゃいそうだし」


「そうよ。だから、裏口のほうから森に入って、行きましょう。川沿いに行けばきっと分かるわ」



 ということで、正面から出たものの、森に向かうことにした。


 最初のときと全く同じ道にする必要もないので、今度は南側からまわる。川が南側にあるためだ。





◇


 研究所の南側のあたりから森に入り、しばらく進むと意外とすぐに川に到達した。


 川は正面を流れており、右から左、つまり北から南に流れているようだ。前は歩いている方向に平行だった気がするが……


「川が蛇行しているのね。もう少し北に進むと川がきっと西のほうに曲がるのよ」


「あ、そういうことか。前来たときとなんか川の向きが違う気がしたんだよ」


「たしか、ちょうどダブル爺の洞窟のそばで曲がると思うわ。あのとき川下のほうを見たとき、そう見えた気がするわ」


「そんなところ見てたんだ……」



 あのときは余裕がなくて水を飲めたことに満足しちゃってたな。やっぱりモカはすごい。




 モカの言葉通り、川に沿って北上すると、すぐに川が左に曲がり始めた。曲がり終わったあたりで、なんとなく見覚えのある光景にたどり着いた。


「このあたりで水を飲んで、そのあと森に入ったところでイノウシの子どもと遭遇したんだよな」


「そうね。クルルに助けてもらったところよ」


「あのときはちょっと驚いたプイ。人間2人がイノウシの子どもにやられそうになってたプイ」


「迷わず助けてくれたクルルのおかげで無事だったのよ」


「クルル、えらいノ!」


「えへへプイ」



「そうだよな。あのときは本当助かったよ。ということは、ダブル爺の洞窟はもうすぐそこかな?」


「そうプイ。あれプイ」



 クルルが指差す方向に洞窟があった。





◇


 洞窟の中に入り、少し行くと行き止まりとなった。例の仕掛けのところだ。


「ヤマたちがいなかったら、ダブル爺の手紙にたどり着けなかったプイ」


「そうだよな。これは偶然で当てられる仕組みじゃないんだよ」


 仕掛けを操作し、扉を開けた。


 扉の先は以前来たときと変わらぬままだった。手紙も置いたままだった。よく考えれば、手紙は持っていっても良かったのかもしれないが、なんとなく持っていく気にはならなかったのだ。



 そのあと、モカが手紙を全文、読んで聞かせた。





◇


 クルルは目に涙を浮かべて聞いていた。


「全部教えてくれてありがとうプイ」


「手紙はクルルが持ってる? それともここに置いておく?」


「ここに置いておくプイ。ダブル爺がそうしたかったんだから、それがいいプイ」


「分かったわ」


 手紙を元のところに戻した。



「ところで、ダブル爺はどうやってこっちの世界に来たんだろうな?」


「そうなのよね。遺物を使う以外にないと思うんだけど。そのあと、私たちと同じように逃げて来たのかしら?」


「かもしれないな。さすがに侵略者扱いされたのは俺だけだろうけど」


「それはそうね。遺物自体よく分かってないみたいだから、誤操作とかで連れて来られた可能性もあると思うわ」


「なるほどな。向こうの世界で言うところの神隠しにあったみたいなものか……」


「まさにそんな感じだと思うわ」




「ダブル爺とヤマたちは向こうの世界で会ったことはないプイ?」


「ないわ。私たちが生まれる前にこっちに来たみたいだし」


「それに急にいなくなった人の話を身近では聞かなかったからな……」


「でも、それなりに近いところにいた人なのは間違いないわ。同じ言葉をしゃべるわけだし」


「それもそうだね。ひょっとしたらつながりのある人かもしれないな」




 せめてこちらの世界で会っていれば何か分かるかもしれないが、亡くなってしまっているため、これ以上は難しそうだ。


「ダブル爺って何歳くらいだったのかな?」


「分かんないプイ。でも、おじいちゃんだったことはたしかプイ」


「俺たちの親世代よりは上かな。向こうに行けたら親に聞いてみるのはありかな」


「そうね。せめて顔が分かればいいんだけど、絵にするとかは難しいわよね」


「それは難しいプイ…… ヤマと似たにおいとしか言いようがないプイ」


「しょうがないわね」



 ダブル爺のことをクルルに無事伝えることができた俺たちは洞窟を出て、エーンスタットに向かうことにした。





◇


 キャンプを挟みつつ、川下のほうに進み、森から出た。


 森から出たところで川は合流していた。森を流れて来た北西からの流れと、おそらく湖のほうから来た南西からの流れだ。合流した流れが東に向かっている。この東側のほうに先日渡った橋があるはずだ。


 一応、川沿いなのでキメラが飛び出してくることを警戒しつつ、東に向かった。だが、キメラには遭遇することなく、橋までたどり着き、渡ることができた。


「やっぱりこのあたりはキメラが少ないよな。クマワシはかなり珍しいよな」


「そうね。たまにすごく強いキメラが来るとは言っていたから、特別ではないのでしょうけど、どこから来たのかしらね?」


「ん? そうだよな。北の方に洞窟でもあるかな?」


「道もないから、なかなか探すのは難しそうね」


「それに、北の方には山があるから行くのは大変プイ」




 第5施設で教えてもらったことを改めて思い出した。


「あっ、そうか。このあたりは山に囲まれているんだったわ」


「そうだったな……」


「そうか、だからワシ系だったのね。山から来たんだわ」


「ああ、なるほど。南の山のそばでワシ系が多かったのと同じだな」


「そうそう」



 なら特段心配することはなさそうだ。俺たちはそのままエーンスタットのほうに進むことにした。





◇


 エーンスタットまでは遠いものの、道なりに進むだけなので、特に問題なく到着した。数えてはいないが、この区間だけで10日以上かかった気がする。


 食べ物などを補充したあと、南門のそばの宿屋に入った。久しぶりのため、例によって、モカは長風呂タイムを満喫していた。



 特にエーンスタットでは用事がないため、補給と休息のみで、翌朝出発した。ただ、俺の気のせいかもしれないが、モカがチップ屋を気にしていた気がする。



 ラパンもちょうどキャンプ代わりにプリンの家に滞在させてもらうだけで、次の日には出発した。



 今回はドスシウダに寄ることもなくレイシュトに向かい、その数日後にようやくレイシュトへと到着した。





◇


「並行世界研究所からレイシュトは本当遠いわね」


「3週間近くかかってないかな?」


「そのくらいだと思うわ。まっすぐ進めばもっと早いのでしょうけどね。道なりに来ているし、短い昼間の明るい時間帯だけしか移動してないから、1日あたりで進める距離が限られるのよね」



「風を使ったらもっと短い時間で移動できるノ」



「そうかもしれないけど、モカとプリンが疲れちゃうでしょ? 4人とも使えるようになったら考えよう」


「施設での風の登録って、しばらくしたらまた登録できたはずよね。いつか使えるようになるわ」


 いつかはもっと楽に移動できることを願いつつ、この日はレイシュトでこれまでも利用していた宿屋でゆっくりと長旅の疲れを癒した。




 翌朝、これからの行動について相談することに。いつもなら夜寝る前に相談することが多いが、昨夜はさすがに移動疲れでみんな寝てしまったからだ。


「今日、というか、これからどうしようかな」


「そうね。まずはユキさんが戻ってきているかが大事よね。ユキさんが戻る前にテルさんに会うのはマズいわ」


「じゃあ、リアさんにまずは聞くのがいいと思うプイ」


「そうね。狙われるのはヤマだけでしょうから、テルさんが家にいないことが確認できるまではヤマには隠れてもらおうかしら」


「まあ、それでもいいけど……」


「たぶんだけど、北の方に行けば雰囲気だけで研究所にみんな行っているか分かるわよ」


「前来たときもそうだったな。北の方の家に人のいる気配があまりに無かったもんな」


「そうなのよ」




「お菓子屋さんは行かなくて大丈夫ナノ?」


「もちろん行くわよ? 材料調達もいるし、リアさんのところに行くならクリームとプルンを買っていかなきゃ」


「やっぱりそうなのね……」



 当たり前のようにお菓子屋さんを経由することになっていたらしい。それはともかく、今日のコースが決まったため、出発することにした。


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