第87話 次に向かうところ
みんなは建物の入り口を入ったところで待っていた。
「お待たせ」
「おかえりなさい。少し休憩しましょうか」
「そうだな」
よく見ると、カエデさんたちはまだぼう然としていた。とりあえずさっきご飯を食べた部屋に向かおう。
部屋に入り、椅子に座ったところでようやく落ち着いたようだ。モカが心配そうにカエデさんに声をかける。
「大丈夫?」
「ええ、あなたたちのおかげでね。あんなキメラが来るのはめったにないわね。あなたたちがいなかったら私たちは死んでたわ……」
「外は危ないときもあるからしかたないわ。私たちはプリンやクルルと一緒に行動しているから、人間だけよりすばやく危険に気付けるのよ」
「なるほどね。でも、気付いてからの対処も早かったわ」
「まあ、それは慣れかな。あとは4人がそれぞれすべきことをするだけだけど、信頼し合っているから動ける感じかな」
「そうプイね」
「そうナノ。ヤマがみんなを護っていたから、私が居合抜きで斬れたノ」
プリンの言葉にタツキさんが反応する。
「え? あ、あのキメラを小太刀で斬ったんですか?」
「師匠の技ナノ」
「すごい…… ノエさんの技なら斬れても不思議じゃないか…… ちゃんと継承されていたんですね!」
「そうナノ。できるようになったのは師匠が亡くなってからだけど、ちゃんと使えるようになったノ」
一瞬暗い顔をしたプリンだが、すぐに明るい表情に戻る。
「風のコネクトを追い風として使えば、速さをぐっと上げられるノ」
「あっ、ひょっとして、モカさんが私を助けたときに使っていたやつ? ものすごい速さだったわ」
「そうそう。私は居合抜きまではできないけど、原理は同じよ」
「訓練すればたぶんタツキさんなら使えるようになるノ」
「ありがとうございます! 頑張って訓練してみます!」
「でも、外で訓練するときは気を付けたほうがいいわ。できれば、部屋の中とか、衛兵施設の訓練場とかがおすすめね」
「私もそう思うわ。タツキたちがキメラに殺されるのは嫌よ」
「そうだな。今度、トライオラシにでも行ったときに師匠と訓練するか」
「それがいいノ。やり方を知ってればすぐにできるの。こんな感じナノ」
(ヒュッ!)
「は、はやっ!」
「俺たちの木刀をよけるときには使ってなかったような?」
「見抜けたようナノね。その違いが分かるなら大丈夫ナノ」
「あ、ありがとうございます!」
全部俺たちで護ることはできないから、研究所の護衛たちが強くなって安全が確保できることを祈るしかなさそうだ。ぜひ頑張ってもらおう。
しばらくしてみんな落ち着いたらしく、それぞれ研究室がある建物に戻っていった。カエデさんたちも研究があるためだ。イツキさんたちはもうじき、エーンスタットに戻るらしい。
俺たちは貸してもらった部屋でくつろぐことにした。
◇
久しぶりに4人だけになったので、今後の話をすることにした。
「このあとどうする? やっぱりレイシュトに行ったほうがいいかな?」
「そうよね。まずテルさんがどう動くか分からないわよね。変な場所で対決するよりは場所が分かっているほうがいいし、できればユキさんがいるところで会いたいわよね。ユキさんには何か秘策があるみたいだし」
「そうだよな。一体なんだろうな?」
「ちょっと想像つかないわよね……」
考えてみてもさっぱりだ。そもそも、テルさんが俺を狙うとして、どうするつもりなのかすら分からない。
「テルさんは俺に会ったらどうしたいのかな? 俺を殺して特殊チップを吸収するつもりかな?」
「それはないと思うわ。AI細胞だけが特殊ならそれで失われる可能性が高いわ。ひと言で言えば、研究がしたいんだと思うわ」
「研究ね……」
「例えば、どんな効果があるのか、とか、AI細胞が特殊なのか、エネルギー変換細胞が特殊なのか、とか?」
「でも、どうやって調べるのかな? 施設の機械でも解析不能だったのに……」
「たしかにね…… ただ、逆に言えば、ヤマ魔法以外は外から確認する方法が存在するのよ。テルさんがそれを知ってるかはさておき、ヤマ魔法を外から分析しようとする可能性はゼロではないわ」
「それにヤマに寄生していること自体まだ知らないと思うわよ。だから機械にチップを入れて調べるとか、自分に寄生させるとかしたいのかもしれないわ。あっ、でも、たぶん別のチップを既に寄生させているでしょうから、読み取ってコピーするとかを目指しているのかしらね……」
「なるほどな。そもそもテルさんが第1施設に行ったことがないと決めつけることはできないし、ひょっとしたら引き継いだテンの言葉に何かヒントがあるのかもしれないな」
「あり得そうね……」
これ以上は考えても分からなさそうだ。それにテルさんがテンの子孫だとすると、これまで考えていたことの前提がいくつか変わる気がする。
そういえばモカがいくつかの謎が解けたって言ってたな。
「なあ、モカ。テルさんがテンの子孫だと分かって、謎がいくつか解けたって言ってたよな?」
「そうよ」
「どう解けたの?」
「「私も知りたいプイ(ノ)」」
「そうね。テルさん関連以外にもいろいろあるんだけど、まずはテルさんの話からね。テルさんがテンの子孫だとユキさんが知ったのは結婚後だと言ってたわよね。あの言い方が少し気になったの。まるで結婚前に知ってたら結婚しなかった、って言っているようなものよ。わざわざ結婚後なんて言う必要ないじゃない」
「なるほど」
「それにユキさんと結婚するというのは、護り人になるということと等しいわ。つまり、テンの子孫を護り人にしてはいけないと思った可能性があるのよ」
たしかにその可能性はありそうだ。だけど、テンとマリは仲が良さそうだったって第5施設では言ってたはずだ。
「でも、テンとマリやユリって別に敵対してたわけじゃないから、一緒に護り人をしてもいいんじゃない?」
「そこは私も最初は疑問だったんだけど、敵対してないって、私たちの推測よね?」
「ん? まあ、そりゃそうだけど、事実は分からなくない?」
「大事なのは、事実じゃなくて、ユキさんにどう伝わっているかなのよ」
「護り人たちに伝わっている情報って、メノヴィーアの地下遺跡は含まれないかもしれないのよ。最近まで滅ぼされていなかったわけだし、2重の鍵で封印されていたから腕輪だけあっても入れなさそうだし。仮にそうだとすると、第5施設で教えてもらった歴史が最後よ」
「第5施設で教えてもらった歴史か……」
「そう。『凶悪な支配者を生み出してしまう危険性』よ。しかも、ユキさん自身は第5施設の機械から詳しくは聞いてないはずよ。その第5施設だって、こっちから聞かなきゃテンとマリが仲良しだったことは教えてくれなかったわ」
「そうだよな。ちゃんと聞けてなければ、テンが凶悪な支配者にならないようにするためにマリが隠した、と思うのが普通だよな。それがそのまま子孫に当てはまるのかな?」
「そこは分からないわ。ユリの子孫の間でどう受け継がれたか次第だもの」
たしかにそうだ。どう伝わればあの行動につながるのだろうか。
「なるほど。長い年月が経っているからな。図書館の情報だけだと足りないし、施設を巡って、さらにいろいろ考えて、それでも分かんないくらいだもんな」
「うーん。例えばだけど、テンの子孫はずっと特殊チップを探しているから渡してはならない。一族が保管している特殊チップを護り続けるのが護り人なんだ、ってゆがんで伝えられていてもおかしくないと思わない?」
「たしかにな。特殊チップ自体は実際ユリの子孫一族が護っているわけで、そう言われて育っても不思議じゃないけど。でも、それを施設巡りする前に伝えるのかな?」
「私もそこは疑問だったの。でも、漢字を教えるのには時間と労力がかかるから子どものころから何かしら伝えるんじゃないかしら?」
「実際、ユキさんがヤマに特殊チップを寄生させたことが分かったじゃない? ということは、ユキさんは少なくとも特殊チップの保管場所やいざというときの避難方法を知っていたことは確実よ。第5施設に行く以外の方法で特殊チップ避難方法を知るのはユイさんから教えてもらう以外にないと思うわ」
「そうか。ユリの直系の子孫にしか伝わっていない情報があるわけだもんな」
「そうよ。施設巡り前だとしても、そろそろ施設巡りをさせる頃だと思って伝えていたんじゃないかしら?」
「なるほどな」
推測と確実な点が混ざるし、代々どう伝えられてきたかが絡むから非常に難しいが、少しずつ理解できてきた気がする。
「それに、テンの子孫であることを最近薄っすら気付いているって言ってたわよね。あれも気になるのよ」
「というと?」
「もともとは気付いていなかったということよ。つまり、ユキさんと出会ったあと、たぶん結婚後に何かで気付いたということよね?」
「そうだろうね」
「気付くきっかけって何かしらと思って……」
「なんだろうな。護りの腕輪を渡しているだろうから、その関連かな?」
「でも、それってユキさんが護り人の一族、ユリの子孫だと分かるだけな気がするのよね」
「となると、特殊チップ?」
「うーん。テンの思いを考えたときに特殊チップのことをテンの子孫に伝えるのかしら……」
「たしかに。むしろ伝えない気がするな」
「そうよね……」
ここまで黙って聞いていたクルルとプリンが話し始めた。
「ねえ、メノヴィーアの石碑とかは関係ないプイ?」
「私もそれ気になってたノ」
「どういうことかしら?」
「石碑に書かれていることと、テルさんに伝わっているテンの言葉ってずいぶん違うと思うプイ」
「石碑を見たことがある人やメノヴィーアの人から聞いたことのある人から、内容をテルさんが聞いたらどう思うかなって考えたノ」
「すごいわ! クルルもプリンも! そうよ。それよ!」
「たしかにな。自分の一族に伝わっている言葉と、テンの生まれ故郷と言われているメノヴィーアに伝わる話とがあまりに食い違っているとすると、自分の一族は何者なんだろうって疑問に思うよな」
「それにメノヴィーアでの話はあまりに英雄話に偏っていて、違和感があったのかもしれないわ。自分が知っている言葉のほうがずっと信ぴょう性がありそうだと。で、そんな話が伝わるなんて、テンに相当近い家系しかなくて、直系の可能性が高いと思うわよね……」
「でも、ユキさんはどうして気付いたんだろう?」
「メノヴィーアが滅びる前か後か分からないけど、一緒に石碑を見たか、一緒に話を聞いたんじゃないかしら? そのときのテルさんの様子で気付いたのよ」
「なるほどな」
事実かはともかく、そういうことがあってもおかしくはなさそうだ。
「他に分かったことあるプイ?」
「そうね。リアさんにネックレスを渡さなかった理由かしら?」
「ナ? 分かったノ?」
「たぶんだけど、テルさんがテンの子孫と分かったことと、ユイさんが亡くなったことの両方が関係していると思うわ」
「「「?」」」
「さっきの話からすると、テンの子孫であるテルさんを護り人にすることって迷うと思わない?」
「たしかに」
「それに、リアさんにネックレスを渡そうとまでしたのに、ユイさんたちだけで第1施設に行くって少し変じゃない?」
「そう言われてみればそうだな……」
「ユイさんたちが殺されたときって、本当は6人で行く予定だったんじゃないかしら? その直前にテルさんがテンの子孫と分かって、ユキさんが迷って、何か理由を付けて次回に延期したのよ。でもユイさんたちはキメラを抑えるために行かないといけないから3人で行ったんじゃないかと」
「すごいな。ありそうな話だな。そんなときにユイさんたちが亡くなったら……」
「困るでしょうね。特殊チップをヤマに託して、もう護り人自体を終わりにするしかないと思ったんじゃないかしら?」
「そうだよな。自分たちだけで洞窟に行けるわけないし、施設で教えてもらってないから護り人がどこまで護っているか知らない可能性が高いし……」
「テルさんには何か理由を付けて説明したプイね」
「そうだと思うわ」
「そうなると、特殊チップの行方はどうなるノ?」
「たぶん、どこにあるのか分からないという扱いでしょうね。テルさんとユキさんで探すっていうことにでもなっているんじゃないかしら? どちらにしろヤマのもとにあるから、見つからない想定だっただろうし」
「なるほどな。どこまで当たっているかはさておき、そんな感じの事情があるんだろうな。となると、やっぱり放っておけないよな?」
「やっぱりヤマね! 私も放っておけないわ」
「テンとマリみたいにちゃんと仲良くなってほしいプイ」
「そうナノ」
「クルルもプリンも良いこと言うね。本当そうだよな。じゃあ、レイシュトに行こう」
「そうしましょう」
「「行くプイ(ノ)!」」
俺たちの次の目的地が定まった。




