第86話 研究所観光?
めったにない研究所観光を満喫中の俺たち。今いる棟は、生活をしている棟というだけあって、中は普通というか、衛兵施設の1階のようだった。
医務室もあるようだが、医者がいるというより、傷薬などが常備されている場所という感じだった。
「1階は医務室と休憩室、あと奥に調理場があるわ。まず、調理場を見ましょう」
「そうね!」
調理場は食べるところもセットで建物1階の奥の一面を占めていた。やはりこういう場所だから、食べることくらいしか楽しみがないのだろう。
「大体衛兵施設の調理場と同じね。ここなら作れるわ」
「えっ? 衛兵施設の調理場を使ったことあるの?」
「だって私たち衛兵隊員でもあるのよ?」
そう言いつつ、ドスシウダの特別衛兵隊員証を見せた。見せたあと、平然と調理器具の確認をし始めるモカ。
「いやもう、どんだけ活躍してるのよ……」
「でも、これもらったときって、ドスシウダに入り込んだウシガメを倒しただけじゃなかったっけ?」
「そんな気がするプイ」
「あっ、でもそのあとボコ隊長と手合わせして仲良しになったノ!」
「あっ、そっか。ボコ隊長と仲良くなったおかげだな!」
「え…… ウシガメ……」
なんかマズいこと言ったかな…… ウシガメなら衛兵でも倒せる強さだけどな。
モカは…… というと、一生懸命調理器具を確認しているから、こちらのやりとりに気付いていないようだ。まあいっか、と思っていると、プリンがモカのほうに様子を見に行った。
俺たちは特にやることもないので、カエデさんの説明を聞きながら部屋の中を歩き回っていた。
しばらくして、モカが離れたところから聞いてきた。
「カエデさん、冷蔵庫使っていい?」
「いいけど、氷切れてないかしら?」
「足しといたから大丈夫よ」
「そう、分かったわ。なら使っていいわよ。えっ? 足した?」
「まあ、いつものことだから気にしなくていいプイ」
「そ、そうね……」
クルルになだめられたカエデさんだった。
◇
調理場をあとにした俺たちは2階のあいている広めの1部屋を使わせてもらうことにした。
「やっぱり1部屋なのね。すごいわね。人間とモル人とウサ人の3人を妻にしている人に会ったのは初めてよ……」
「あっ、いや――」
「「ヤマだからプイ(ナノ)」」
「私たちはいつもこうよ」
「たしかにそんな感じね。もう驚きはないわ」
なんか俺が答えるまでもなく、一瞬で納得されてしまった……
「じゃあ、そろそろ卵とヤギ乳を取りに行きましょうか」
「楽しみね!」
◇
もう1棟に行き、卵とヤギ乳を手に入れてきた。それらを冷蔵庫にしまって、とりあえず準備OKだ。どうやらモカはさっそく作るようだ。
「もう作ろうと思うけど、一緒に作る? 研究が忙しいなら、できたあとに呼びに行くわよ」
「今は『モカプルン』のほうが研究より大事よ!」
「なら一緒に作りましょう! 作り方はその紙に書いてあるわよ」
「ありがとう!」
カエデさんはすごい意気込みでレシピを読んでいる。
「意外と簡単なのね。これであの味が出るなんてすごいわね」
「じゃあ、まずは――」
2人が楽しそうにモカプルンを作り始めた。やはりモカプルンはすべての種族をつなぐお菓子なんだなと改めて感じる光景だった。
◇
ちょうどモカプルンが出来上がったころ、外を歩く男の人たちが見えた。
「あっ、いいところにタツキたちが来たわ」
そう言うと、カエデさんはタツキさんたちを呼びに行った。タツキさんはどうやら護衛の6人と一緒のようだ。
全員で調理場に来たが、やはり6人とはこれまで会ったことがなかった。6人のうちの1人がタツキさんに尋ねる。
「タツキさん、この方たちが?」
「ああ、そうだ。都市とかで会ったことはない?」
「残念ながらないですね」
「私たちも初めましてかな。たまたますれ違いになっていたのかしら」
そのあと、ひと通り自己紹介をした。そうこうしているうちにカエデさんはお腹がすいたようだ。
「ちょうどお昼ご飯よね。ご飯食べたらみんなでモカプルンも食べましょう!」
「えっ、モカプルン? あのモカプルン?」
「そうよ。だってあのモカさんなんだもん」
「えっ!」
護衛陣はモカがあのモカであることに驚いていた。すると、イツキさんが思わずタツキさんにクレームをつける。
「タツキさん。あのモカさんが侵略者なんてひどすぎる勘違いですよ」
「だな。俺もそう思ってたところだ。師匠に会ったら叱られそうだ」
「ほんとそうですよ」
そのあと、総勢12名でご飯を食べ、モカプルンを堪能することになった。
「やっぱり『モカプルン』は最高よね!」
「カエデはドスシウダでもたくさん買い込んでたよな」
「そうよ。日持ちしないから、こっちに来たら食べられないじゃない? でも、作り方を教えてもらったから、これからは食べられるわよ」
「えっ? それはすごいな」
「だからタツキさん言ったじゃないですか。俺たちだって、モカさんの噂は都市で耳にしましたけど、絶対侵略者と別人と思ってましたよ」
イツキさんがタツキさんに再度愚痴をこぼしていた。
そもそもGくらいでなんで侵略者なんだろうか。侵略者のイメージはどこから来るのだろうか。モカも同じことを疑問に思ったようだ。
「そうそう。侵略者って言ってたけど、どうして侵略してくると思ったの? 過去にもあったのかしら?」
「うーん。過去にはないと思うけど、コネクトって並行世界からものを持って来ちゃうでしょ? ある意味私たち泥棒なのよ。だから、並行世界の人が怒ってないかなって…… 奪われたものを取り返しに来たりとか?」
「なるほど。でも、水とか土とかだから持っていかれても気付かないと思うわよ」
並行世界研究所の人ならではの視点だなと感心してしまった。大事な部分の土とか、間違って生物ごと移動させなければ気付かれないような気はする。
でも、土の中に虫とかが混じってた記憶はない。
「そういえば、土を持ってきても、土の中の生き物とかも持ってくるのは見たことないよな……」
「ヤマの言うとおりね…… それってすごく不思議よね。コネクトが生き物に反応しないのか、生き物がいない深いところの土なのか、だけど、生き物だけを除外するのは難しいわ。土とか水とかは生き物がいない深いところのものなのよ。風とかはどこかしらね。いずれにしろ、安全なところをテンが最初に選んだのよ」
「なるほど…… となると、気付かれていないという説はありそうね」
カエデさんもモカの説明に感心していた。
一方のモカは何か弱い風を使って試している。
穴に触ろうとしている? 穴が逃げているようにも見えるけど。
モカが首をかしげている。かわいい……
「あれ? でも、逆に私たちを連れてきた遺物って生物にしか反応しないんじゃない?」
「えっ? そうなの? それは私も初めて聞いた話よ」
「たしかに。俺もモカの意見に賛成かな。だってそばにいろいろあった物は一緒に来なかったから」
「でも、身に着けていたり、手に持っていた靴とかは一緒に来たから、生物以外を排除したりはしないのよね。となると…… 難しいわね……」
モカが考えている。というか、たぶんこれ以上は話さないほうがいいという顔だな。だとすると、おそらくモカが考えているのは護り人しか知らない情報だろう。例えば結合力とか。
「あなたたちすごいわね。そうやっていつも議論しているから、いろいろたどり着けるのね」
「俺たちはモカの考えを聞いているだけだけどね……」
「いや、それは違うと思うわよ。ヤマさんの別角度の意見をモカさんが取り込んで議論を深めているのよ。例え、ちょっとした意見でも、ものすごく意味のある結論につながるときもあるのよ」
「さすがカエデさんね。研究者なだけあるわ。完全に同意よ」
「えっ、そうなの……」
「ヤマは自分が役に立っていることを全然気付かない人だからしょうがないプイ」
「そうナノ。でも、それがヤマらしくていいノ」
「そうなのよね。それでこそ私たちのヤマよね」
「「そうプイ(ナノ)」」
「ふふふっ、3人の妻のほうがあなたのことをよく分かっているようね」
「ま、まあ、3人が俺より俺のことを理解しているのはそうかもしれないけど……」
「えっ、3人とも妻なんだ……」
タツキさんだけ別の観点で驚いている。そりゃ驚くだろうな。俺でも驚いているくらいなんだから。
◇
みんなで楽しく食事とモカプルンを堪能したあと、タツキさんたちがそわそわし始めた。ついにプリンに向けて話し始めた。
「じゃあ、そろそろいいですか?」
「ナ? 稽古しましょうナノ!」
「はい!」
どこで稽古するのかな、と思ったら外だった。キメラが少ない地域だからできるのだろう。
特に木刀とかを持ってなさそうだったから、インベントリから出して渡した。こんなところで役に立つとは。
「木刀まで持っているなんて準備いいわね」
「これまでも衛兵の訓練場で使うことがあったから、持ってたら便利かなって」
「おかげで助かったわ。いつもの剣とかだと危ないから」
「そうよね。プリンの小太刀で斬ったら剣も斬れちゃうわよ」
「えっ? そういえば、最初に私たちの部屋に来たときと今持っている武器が違うわね」
「そうよ。ケガさせないようにわざと違う武器を用意して、やり方も練習してきたのよ」
「私たち、あんなことしたのに、あなたたちに護られていたのね」
「ま、俺たちはみんなの幸せを護るために頑張っているから」
「私やタツキじゃ勝てないわけよね……」
そうこうしているうちに、プリンとタツキさんたちが向かい合っていた。どうやら、稽古の前に手合わせをするようだ。しかも、7対1のようだ。まあ、それでもプリンには一撃も当てられないだろう。
「ほ、本当に7対1でいいんですか?」
「大丈夫ナノ。頑張って当ててみてほしいノ」
(ごくり)
プリンの余裕の姿に圧倒されている7人。だが、心を決めたようだ。
「では、行きますよ」
「いいノ。コネクトも思い切り使っていいノ」
「よし、行くぞ!」
(タタタタッ! ブン!)
(サッ)
最初にすばやく突っ込んだタツキさんの木刀をプリンは軽々とかわす。その後、残り6人も一斉に向かう。
(ブン! ブン!)
(サッ! サッ!)
「木刀を振るだけじゃ当たらないノ」
「コネクトを使うぞ!」
6人が一斉にコネクトを使うようだ。どうやら風と土と水が2人ずつのようだ。バランスを取ったのだろう。そして、コネクトの合間を縫ってタツキさんがプリンに斬りかかる。
(ズザーッ! ズザーッ!)
(ドン! ドン!)
(ビューッ! ビューッ!)
(サッサッサッサッサッサッ)
プリンは全部軽々とかわしている。かわしたところにタツキさんの木刀が迫る。
(カン! カカン!)
やはりタツキさんはそれなりに強いようだ。だが、追い風などの使い方は正しくは知らないようだから、教えがいがありそうだ。プリンもそれに当然気付いている。
(サッ)
プリンが7人と距離を取った。
次の瞬間――
(ヒュッ!)
(カカカカカカカン!)
居合抜きがさく裂し、7人の木刀が宙を舞うとともに、タツキさんののど元に木刀が突きつけられていた。
「す、すごい……」
「みんなまだまだやれることいっぱいありそうナノ」
俺たちの横で見ていたカエデさんも驚いている。
「本当すごいわね……」
「まあ、プリンだからプイ」
「そうよね。プリンだもん」
「だな」
◇
プリンが木刀を拾って、タツキさんたちに返した直後だった。
プリンが反応した。
(ピクッ!)
あれは間違いない。キメラだ。
すぐに俺たちも反応する。
(ヒューッ!)
「きゃっ!」
まず、モカがカエデさんをタツキさんたちのところへ連れて行った。
「ここでみんな固まってて! クルル、ヤマ、壁を!」
「「分かった(プイ)!」」
(ドン! ドン!)
土壁と岩壁で防護した。
直後にキメラが俺たちのところに到着し、岩の弾丸を放ってきた。
(ドドドドドド!)
(サッサッサッサッ)
俺たちはかわしつつ、キメラの様子を見る。どうやら初めて会うキメラだ。
「これはクマワシかしら? 飛ぶクマってなかなか面倒ね。でも、このキメラなら斬れるから大丈夫そうね」
「そうナノ」
「じゃあ、まず水がかけられるか試してみる?」
「分かったプイ」
(ザバッ!)
(バサッ!)
「やっぱり羽根があるから濡れるのは嫌がるわよね。しかたないからクルルとヤマで動きを制限して――」
「いや、俺はカエデさんたちを護るほうに集中するよ。岩を使うから、上から落とされたら俺しか対処できないし。3人いれば倒すのは簡単だと思うから」
「分かったわ。じゃあ、ヤマは護りをよろしく。クルル、プリン、行くわよ」
「ああ」
「「分かったプイ(ノ)」」
(ズバババン)
(ドン!)
(ヒラッ)
クルルの水の弾丸とプリンの巨大氷で、かわす方向を誘導している。洞窟のキメラではないようで、よけるので精一杯のようだ。だが、油断はいけない。
そのヒラッとかわした動きにどうも違和感があった俺は空中に意識を集中した。
(ピカッ!)
(ブカッ!)
いつものように光がさく裂した。クマワシが光で驚き声をあげた瞬間、驚きとは裏腹に上空に岩が複数出現した。
「プリン、こっちはまかせろ!」
(コクリ)
(ヒュッ! ヒュッ!)
(スッ! スッ! スッ!)
(……ドサッ)
やはり、最後に岩を放ってきた。クマ系の強さは油断ならない。居合抜きで倒しても、カエデさんたちが岩でやられたら意味がない。
「さすがヤマね。それにしても、向こうが相討ちを狙うなんて」
「なんか嫌な予感がしたんだよ。かわし方も違和感あったし」
「そうナノ。他の方向を気にしてたノ」
「あ、みんなの周りの壁を戻すプイ」
「そうだった」
(スッ)
岩壁を取り除き、土壁を薄くした。最後はクルルに崩してもらう。
(ズザザッ)
「もう大丈夫プイよ」
「あ、ありがとう…… えっ? こんな強そうなキメラと戦ってたの?」
「ん? このキメラは初めてなのよね。クマワシかしらね?」
「岩さえ気を付ければそんなに強くはないノ」
「そうだな。油断が1番怖い相手だな」
「あ、あまりに次元が違いすぎる……」
タツキさんたちは驚きのあまりぼう然としているようだ。それにしても、たまたまとは言え、また壁で護ることになるとは。
「なんかちょうどモミジさんとシェド隊長を護ったときと同じ形になったな」
「そうね。さすが仲良し姉妹と師弟ね!」
「だよな」
「この護り方が1番安全プイ」
「私もそう思うノ」
「これからもこの壁で護るやり方は活用できるわね」
「じゃあ、建物に戻ろう……か?」
「あっ、そ、そうね! あまりのことにぼう然としちゃったわ。他にキメラが来ないうちに行きましょう!」
「そ、そうだな。イツキたちも急ごう」
「「は、はい!」」
「後始末はしとくから、モカとクルルは一緒に行ってあげて」
「「分かったわ(プイ)」」
みんながいなくなったあと、細胞を吸収した上で、地面に穴をあけてクマワシを埋めた。クマはおいしくなさそうだし、肉のストックはまだ十分にあったからだ。
(スッ)
あとは、巨大氷と残りの土壁も消しておく。これで元通りだ。
後始末を終えた俺とプリンはみんなを追った。




