↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/129

第83話 研究者との再会

 翌朝、研究所に向けて森の中を進んだ。


 そばに来て気付いたのだが、森に面しているのは1つの棟だけのようだ。残りは、この建物よりも海側にありそうだ。


「私たちが捕まった場所は1番森側だったのね。いくつかの棟があるけど、こんな場所だから、生活している場所と研究施設が分かれているのかしらね」


「そうかもな。でも、研究者って家に帰らない人とか、研究施設で寝てる人もいそうじゃない?」


「よくある話ね」




 目指す場所は俺たちが森に逃げ込むときに通った扉だ。とりあえず建物を横目に森の中をゆっくりと進むと、モカが小声で言ってきた。


「全然人の気配がないわね」


「まあ、騒ぐような研究じゃないからじゃない?」


「今日は休みとかならいいんだけど」


「休みだと、あの2人にも会えなくないかな?」


「それもそうね。テルさんみたいにいつも研究している人ならいるかもしれないけど」


「とりあえず忍び込まないと分かんないね」




 しばらく進むと、見たことのある扉が見えてきた。


「あ! あそこよ!」


「間違いない。ここから逃げてきたんだ」


「中には誰もいないプイね」

「足音とかも聞こえないノ」




 少し様子を見るが人が行き来する様子はない。


「じゃあ、行こうか」


「そうね」





◇


 まずは扉の脇に移動する。鍵がかかっていないか確認するためだ。


 俺がそっと扉に手を伸ばし、開けられるか確認してみる。




(あれ? 鍵がかかっている……)




 扉の脇に戻り小声で伝える。


「鍵がかかってる」


「そうなの? 前回とは違うのね。あの日は誰かがここを出入りしてたのよ、きっと」


「なるほどな。運が良かったということか」


「ヤマ魔法で開けて、そのままみんなで入ってすぐ閉める感じね。音を立てたくないから、内鍵を回さないようにずっとヤマ魔法でお願い」


「分かった。じゃあ、行くよ」




 再び扉の前に行き、鍵の出っ張りの先を別の並行世界に移動させる。


(スッ)

(今のうちに……)


 手でみんなに合図した。みんなが入ったところで、そっと閉めた。




 モカが先頭で階段に向かう。階段の手前で道が分かれているのが分かる。モカがプリンの耳を指差した。


(ピクッ…… ピクッ……)

(コクリ)


 周囲の音をプリンが探ってくれた。どうやら大丈夫なようだ。


 モカは今度は階段の下を指差した。そのあと、ゆっくりと下りていく。


 下りながら、下の階の様子を伺うモカ。誰もいないようで、そのまま進んだ。




 地下1階に下りたあと、プリンのほうを見つめるモカ。プリンがそれに応えた。


(ピクッ…… ピクッ……)

(コクリ)


 プリンの反応を見て、階段の下にまわる。武器庫の入り口があるところだ。


 扉の鍵の出っ張り部分をのぞいているモカ。俺のほうを見たので、そばに行った。


 やはり、鍵がかかっているので、例のやり方でそっと開けよう。


(スッ)

(今のうちに……)


 例によって手で合図した。みんなが入ったところで、扉をそっと閉めた。


 真っ暗なので、モカが弱い光で照らしてくれた。それとともに、かなり小さい声で俺に伝えてきた。


「武器を返しましょう」


「そうだな」




 インベントリから最初に拝借したロングソードとダガーを取り出し、もともとあった場所に返した。


(ピクッ!)


 プリンの反応に気付いた俺たちは手をつないだあと、モカが光を消した。


 廊下を誰かが歩く音がする。それに続いて壁の向こうから声が聞こえてきた。




「カエデは真面目だな。休日くらい休めばいいのに」


「休んだってこんな場所じゃやることないわよ。研究を早く終わらせて、エーンスタットかドスシウダでモカプルンを食べるほうがいいわ」


 あの2人だ。間違いない。女のほうはカエデさんというのか。モミジさんと名前が似ている。間違いなく、モミジさんのお姉さんだろう。



(パタン)



 扉を閉める音が聞こえた。モカが例の小部屋方向に光が向かないように工夫しつつ光を出した。


 小声でモカが言ってきた。


「モミジさんのお姉さんで間違いないわ。カエデさんと言うのね。例の男の人と2人みたいね。他の人の声とか音は聞こえる?」


(ピクッ…… ピクッ……)


「聞こえないノ。2人だと思うノ」




 今行くか迷う。戦いになれば、あとから護衛たちが来る可能性が高いからだ。


「どうする? 他の人も来るのを待つ? 2人だけなら変に廊下をふさがないほうがいい気もするし」


「そうね。他の人は来るか分からないから行くしかないんじゃないかしら。用があるのはあの2人だけよ。たぶんカエデさんと話ができれば、それだけでも十分よ」


「そうか…… それで、どうやって部屋に入る? 普通にノックして入るのがいいんじゃないか、って思うんだけど」


「それがいいわね。別に敵対したいわけじゃないから。私が頑張って説明するけど、たぶんいきなり戦いになるから、そのときは例の作戦で。あの男の人は風を使うかもしれないからプリンが相手するのがいいわ。カエデさんのほうも同時に武器を持って向かってきたらクルルが対応するのでどうかしら」


「「分かったプイ(ノ)」」




「さらに人が増えたらとにかく武器をはじき飛ばすの優先でいきましょう」


「扉から入るのは、プリン、クルル、モカ、俺の順かな。警戒されにくい順番で。俺の顔を見たら間違いなく反応するから」


「そうね。躊躇せずに行くわよ」


「「分かったプイ(ノ)」」




「そうだ! 武器はこっちを使って」


 インベントリから出した弱い武器をクルルとプリンに渡す。一応、俺とモカも弱い武器も携帯する。


「さあ、行きましょう!」





◇


 武器庫からそっと出た。俺も腹を決めた。


 みんなでうなずきあって、さっき扉が閉まった音がした部屋のほうに進んだ。扉から明かりが漏れているので間違いない。




 プリンが覚悟を決めてノックする。


(トントン)


「はあい。どなた?」


「こんにちは」




 俺たちは決めていた順番でぞろぞろと部屋に入った。最初は呆気にとられていた2人もモカ、そして俺の顔を見て驚いた表情になった。


「お前たち!」


「あっ、誤解よ! 先に話をさせて!」


「そうは行くか!」


「タツキ!」


「まかせろ!」




 血の気が多い男が武器を構えて向かってきた。男の名前はタツキさんと言うようだ。やむを得ない。


(ピカッ)


「うわっ!」


(ヒュッ!)

(カン! くるくる…… カタン)

(サッ)

(スッ)

(ドン)



 以前、練習したように武器を取り上げ、水晶のボックスに閉じ込めることに成功した。


「な、何をした!」


「だから、話をしたいのよ。おとなしくしてくれれば危害は加えないわ」


(ドンドン!)


「人間の素手じゃ動かせないわよ」


「カエデ、逃げろ!」




 だが、カエデさんは落ち着いている。


「すごいわね。私たちじゃ勝ち目はないわね。で、どうしたいの? 私たちを殺しに来たの?」




 モカが説得を始める。


「違うわ。話をしに来たのよ」


「何の?」


(ヒュン!)

(ヒュッ!)

(カン! くるくる…… カタン)

(スッ)


 カエデさんは短剣をヒュンと投げてきたが、プリンがはね飛ばした。危ないからインベントリに回収しておいた。



「あなたたちは私たちが侵略者だと思っているみたいだけど、勘違いよ。私もヤマもそんなつもりはないわ」


「そうプイ。モカやヤマがそんなことするはずないプイ!」

「そうナノ!」


 クルルたちまで熱くなっている。




「だってあなたたち! えっ? モカ?」


「そうさ。『モカプルン』のモカさ」


 カエデさんの反応を見てすかさずモカの正体を伝えた。




「うそ!? じゃあ、なんであんなことを?」


「あんなことって、どれのことかしら?」


「いろいろよ! 何か柔らかい弾丸みたいなものを飛ばしてきたり、気持ち悪い虫を飛ばしてきたり!」


「ごめんなさい!」




 俺は真剣に謝った。


「弾丸って言ってるのは消しゴムって言って、書いた文字を消すための道具なんだ。俺が子どものころに使っていたやつなんだ。名前が書いてあったでしょ?」


「『ナギ ヤマト』ってやつかしら?」


「発音変なんだよな…… 『山と』じゃなくて『大和(やまと)』っていうのが俺の名前で、みんな俺のことをヤマって呼ぶんだよ」


「ナギは?」


「名字なんだけど、こっちの世界にないんだよな…… 家族単位で同じ名字を名乗るんだよ」




「……ヤマトは役職じゃないのか?」


 タツキさんが口を挟んできた。


「役職? 何の?」


「衛兵組織とかの」


「へ? 単なる名前だよ。そうだ。奇跡の超天才が『テン キドナ』って言うのと同じだよ」




「なるほどね。じゃあ、あの気持ち悪い虫はなんなのよ…… 私の上を走ったのよ!」


「うわぁ、本当にごめんなさい! 俺、あの虫が大嫌いで、突然出てきたから思わず消し飛ばしちゃって…… まさかここに飛ばされたなんて知らなくて」


「ヤマはこういう人だから許してあげてほしいプイ」

「そうナノ」




「どこまで信じていいのかしらね……」


「信じちゃダメだぞ! カエデ!」




 カエデさんに迷いが生じているようだ。男は相変わらず警戒心をあらわにしている。モカも少し困っているようだ。思わずつぶやく。


「どうしたものかしらね…… モミジさんとは仲良くなれたのに……」


「えっ? モミジ!? あなたたち、モミジに何したのよ!」


「えっ、何もしてないわよ? 仲良しなだけよ。あっ、そう言えばこれをモミジさんからもらったわよ」


 以前、モミジさんからもらったモミジの押し花が並んだものを見せた。




 それを見た途端、カエデさんの態度が急変した。


「うそ…… 私なんて馬鹿なことを……」


 急にその場に膝から崩れ落ちた。




「どうした! カエデ! 貴様ら、モミジを殺したんだな!」


「タツキ! やめなさい! モミジの命の恩人になんてこと言うの! 誰が何と言おうと私はあなたたちの味方になるわ……」


「はぁっ?」


 タツキさんは状況を飲み込めずにいるようだ。俺たちもよく分かっていないのはあまり変わらないが。カエデさんが説明し始めた。




「その押し花たちは、モミジが本当にお世話になった人にしか渡さないの。しかも、その色の並び、モミジの命の恩人を表しているの。もう気付いているのでしょうけど、モミジは私の大切な妹なのよ。私は妹の命の恩人に短剣を投げつけてしまった…… ズズッ…… ごめんなさい……」


 カエデさんが泣き始めた。




「あ、いや、そんな。いいんですよ。元はと言えば俺が消しゴムとかGとかを消し飛ばしたのが悪いんだから」


「モミジは無事なの? 何があったの?」


「もちろんモミジさんは無事よ。トライオラシでシカトラを探しに行きたいって言われて私たちが護衛しただけよ。ただ、シカトラが強すぎて、シェド隊長とモミジさんが危なかったから、2人を護りながら倒しただけよ」


「だけって…… シカトラって未確認キメラのあのシカトラ?」


「そう言えばそんなことをモミジさんが言ってたな。あっ、そうだ。そのときに俺たちはシェド隊長からこれをもらったんだ」


 シェド隊長の特別証を見せた。これを見た瞬間、タツキさんの態度も変わった。




「まさか……」


「タツキ、あんたもこれなら信用できるでしょ?」


「ああ…… なんか俺たちはとんでもない誤解をしていたらしい」


「分かってくれてよかったわ」


「なら、もうこの水晶は要らないな」


(スッ)


「えっ? 消えた? うそだろ!?」


「まあ、ヤマだからプイ」

「いつものことナノ」




「あっ、あとこれも」


 インベントリから武器を出して2人に返した。




「えっ? えっ? どういうこと?」


「ああ、まあ、これは、ヤマ魔法ね」


「そうプイ」

「ヤマだけが使える魔法ナノ」




 2人が唖然としている。ちょうどそのときだった。


(トントン)


「こんにちは」




 誰かが入ってきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。