第82話 研究所への道のり
数日後、エーンスタットに着いた。
今回は南門から出発することになるため、南門のそばの宿屋に行くことにした。それぞれの門のそばに宿屋があって便利だ。だが、エーンスタットの南門のそばにも宿屋がある意味は何だろうか?
少し疑問に思いつつ、例によって、モカの長風呂タイムとみんなでのくつろぎタイムを過ごした。
翌朝、出かける際に受付でそれとなく話をしてみることに。
「おはようございますワン。いってらっしゃいませワン」
「ありがとうございました。あっ、1つ伺ってもいいですか?」
「はい、もちろんですワン」
「この宿屋って南門のすぐそばにあると思うのですけど、普段どういう方が利用されるのですか? 南門から出ても、次の都市までは遠いって聞いたんです」
「たしかに遠いですワン。でも、いろんな方にご利用いただいてますワン。他の宿屋がいっぱいだったと言っておられた方もいますし、たまに研究者の方がいらっしゃったりしますワン」
「へえ、研究者の人がエーンスタットまで来ることもあるんですね」
「ほら、フューラスタードでも研究所の人が北に向かうって言ってたじゃない。だからこのエーンスタットの南門から来ることもあるんじゃない?」
「あっ、そうか」
「たしかにフューラスタードから来る方がたまにいらっしゃいますワン。大体みなさん長旅で疲れ果てているのですぐに分かりますワン」
さすがモカ。うまく話をつないでくれた。そのままモカが話を続ける。
「そうなんですね。最近もそういう方はいるのですか?」
「ここ最近はいないですワン」
「そうなんですね。まあ、たまに強いキメラが出ますもんね」
「そうなんですワン。エーンスタットは最近落ち着いていますが、ここ何カ月かの間で他の都市では強いキメラがそばまで来たことがあると聞きましたワン」
「私たちも他の都市にいたので、そういう話を聞きましたわ。気を付けないといけないですね」
「そうですワン」
「じゃあ、そろそろ私たちもいきましょうか」
「そうだな」
「いってらっしゃいませワン」
◇
宿屋から出て、そのまま南門に向かった。
南門まで行くといつも通り衛兵がいた。
そして『このさきフューラスタードほうめん』と書かれた立て札があった。
「この先、フューラスタードまでは非常に遠いので、お気を付けくださいワン」
「ありがとうございます。危なかったら引き返してきます」
「それがいいと思いますワン」
前も似たような会話をした記憶がある。あれはトライオラシからフューラスタードに向かうときだったか。フューラスタードはどこから行っても遠い都市だ。フィナルメンシウタットほどではないが。
南門を出て少し行くとすぐに道は左側に曲がっていた。つまり、東側に進むということだ。
「以前、エーンスタットの道具屋さんで教えてもらった通りね」
「えっ、そんなことあったっけ?」
「ほら、地図が無いか探しに行ったじゃない?」
「そう言われるとそんなことがあった気はするけど、会話の内容までは覚えてないな……」
「ヤマは相変わらずプイね」
「えっ? 俺と違ってクルルは覚えているの?」
「もちろん全然覚えてないプイ!」
「じゃあ、俺と一緒じゃん……」
「そうプイ」
「まあ、覚えているモカが普通じゃない気がするノ。でも自信満々なクルルも面白いノ」
「だよな!」
「プイッ!」
自信満々に覚えていないと言い切るクルルに和む俺たちだった。
◇
道を進んですぐに気付いたのは、北側に湖が広がっているということだ。東門のほうに衛兵施設が無かったら洞窟探しのときにこちらに来てしまいそうなほどだ。
そして、湖が近いということは――
(ザバッ!)
(サッ)
「やっぱり湖から襲ってくるのね」
平然と攻撃をかわしながら、モカが分析している。あれはワシワニだ。第2施設のある洞窟の奥にいたキメラだ。湖にいても全く不思議ではない。
せっかく濡れているなら、これがいいだろう。
(ビリビリ!)
(ビクビクッ!)
(ヒュッ! ヒュッ! ヒュッ!)
(……ドサッ)
さすがに今の俺たちの敵ではない。だが、研究者にとってはかなり危険なキメラのはずだ。
「この道って、実はそんなに安全じゃないよな?」
「私も思ったわ。私たちだから平然と通れるけど、普通の人だと相当警戒しながら進まないと危ないわ」
「こんなのが待ち構えていると知ってたら、フューラスタードからエーンスタットに行かずに直接研究所に行くんじゃないかな?」
「そうだと思うわ。宿屋にそれらしい人が最近いなかったのもうなずけるわ」
「第2施設のキメラよりは弱いけど、結構硬いから私でも1回では斬り落とせないノ」
「そうだよな。たしか第2施設の手前のところでは、俺が最後ロングソードを突き立てたんだっけ」
「そうナノ。あのときはまだ斬れなかったノ」
「プリンも強くなったな」
「えへへ、ナノ」
「私たちはまだクルルの岩とヤマ魔法の組み合わせっていう奥の手を使わずに倒せてるだけかなり余裕があるわね」
「そうだな。でも、不意打ちをかわすのは大変だから、俺とクルルは湖側を歩かないほうが良さそうだな」
「そうプイね」
そのあと、たまにキメラに襲われては倒すというのを繰り返しながら進んでいった。
◇
北側に湖がずっと見えている状態が続いていたが、少し離れたかなと思えた3日目に、分岐が見えてきた。
分岐の右方向には『このさきフューラスタード』と書かれた立て札があった。もちろん、俺たちが来た方には『このさきエーンスタット』と書かれた立て札があった。
「並行世界研究所の案内表示はないのね」
「やっぱり秘密なんだな。この状態でまっすぐ進むのは、先に何があるか知っている人か、無謀な挑戦をしたい人か、くらいだな」
「そうね。ここからは特に人が通らないところだから、キメラに気を付けましょう」
「そうだな」
警戒しつつ、分岐をまっすぐに進んだ。
ところが、予想に反し、分岐を進むとキメラはほとんど出なくなった。徐々に湖から離れたからだろうと最初は思っていたのだが、途中からそうでもなさそうだと思い始めた。
「こっちに来ると、キメラ少ないよな」
「そうね。全くいないわけじゃないけど、少なくとも強いキメラには全然会わないわね」
「もともと南のほうが強いキメラが多いノ。だから北の方はあまりいないと思うノ」
「そうよね。でも、ここまで差があると思わなかったわ」
「モルジク側でももう少し多いプイ」
「そうだよな。あっ、でも、森の中の川を越えるとキメラが少なくなるんじゃなかったっけ?」
「そうプイ。ダブル爺のあの洞窟のあたりとかはキメラが少ないプイ」
「理由は分からないけど、ラパンそばの洞窟のところと似ているわね」
並行世界研究所は人が住んでいるところから離れていて、かつキメラがあまりいない場所に狙って作ったということか。
「それにしても、研究所って遠いよな。あとどのくらいかかるのかな?」
「数日以上はかかるはずよ。だって、東に行くのと、北に行くのと両方必要よ」
「そうか。そうだよな。モルジクくらい北にあるんだもんな」
まだまだ遠そうだ。
◇
そこからは特に何もないところをひたすら歩いた。ただ、徐々に道が北の方に曲がっていっているのが分かった。
数日進むと、右側には海が見えてきた。左側にはどうやら川がありそうだ。川は左側から正面の方に流れ、右に曲がって海にそそいでいるようだ。
つまり、このまま行くと、川を渡ることになる。
「あそこで川を渡るんだよな」
「そうみたいね。キメラはいるかしら?」
「さあ…… この辺は全然いないから、川の中も少ないんじゃないかな?」
「私が最初に橋を突っ切るノ。それでキメラが飛び出してくるか見るといいノ」
「なるほどな。今のプリンの強さならそれで問題なさそうだな」
「そうね」
そうこうしているうちに川にたどり着いた。一応、あたりを見回す。特にキメラらしき気配はない。それはクルル、プリンにとっても同じようだった。
「じゃあ、行くノ」
「うん。気を付けて」
(ヒューッ!)
橋の向こうまであっという間にプリンは移動した。
川からは何の反応もない。近くにはキメラはいなさそうだ。
「大丈夫そうプイね」
「じゃあみんなで行くか。いざというときにかわせるように警戒して行こう」
「そうね。私が最後に行くわ」
(タタタタッ)
(ヒューッ!)
みんな橋を渡ったが特に何事も無かった。
◇
橋を渡った先の道は海沿いを通っていた。海を眺めて見ても、特にキメラらしいものの姿はない。
「なあ、クルル。海にキメラの姿とか見える?」
「それらしいものは見えないプイ」
「やっぱりそうか」
「変な音も聞こえないノ」
「海のキメラはいないのね。モミジさんが言っていたように地上で動けるものばかりのようね」
キメラにはほとんど遭遇しないものの、初めての道ということもあり、緊張しつつ進む俺たち。さらに2日ほど進んだところで、モカが足を止めた。
「もうじき研究所だと思うわ。もう少し行ったところで道が左に曲がっているのが見えるわ。きっとあそこを左に進んだ先に研究所があるのよ」
「どうする? 道なりに行くと、研究所の正面に着くよな?」
「そうなのよね……」
「でも、とりあえず建物が少しは見えないと場所が分からないプイ」
「クルルの言う通りね。もう少し進んで、遠くに建物がギリギリ見えたところで考えましょう」
結局、そのまま道を進んだが、左に曲がってもまだ建物は見えなかった。
しかたなくしばらく進んだところで、ようやく建物らしきものを遠くに確認できるところまできた。意外と大きな建物だった。しかも1つじゃなくて、いくつかの棟がありそうだ。
「ようやく見えてきたわね。今日はこれ以上進むのはやめて、道から外れて北の方に回り込んだところで休みましょう」
「そうだな」
俺たちは研究所を中心に円を描くように北に進んだ。
ある程度進むと、森が見えてきた。おそらく最初に逃げ込んだ森だ。
「なあ、キャンプは森の中にしない? 周りから見えにくいから」
「そうね。いつもの土壁に護られていれば大丈夫よね」
研究所がギリギリ見えるかどうかという距離で森に少し入ったところでキャンプをした。
◇
いよいよ、明日は研究所に乗り込むことになりそうだ。やっぱり緊張する。みんなで寝袋でくっつきながら話をする。
「いよいよ明日だな……」
「そうね。最初に逃げ出してから半年近く経っているんじゃないかしら」
「ドキドキするプイ」
「私もナノ」
「そうだよな。簡単に言えば忍び込むんだからな」
「そうよね。私もドキドキしているわ」
目的のあの部屋はたしか地下1階だったはずだ。どうやって気付かれずにそこまで行くか……
「建物に入ったら、地下に行かないといけないわ。ついでに武器庫に武器を返しておきましょう」
「そうだな。泥棒したかったわけじゃないから、返さないとな。問題はどうやってそこまで行くかだな」
「裏口から入るノ?」
「そのつもりよ。正面は守衛が普通はいるわよね」
「戦い方は覚えているけど、大きな声とか音でみんなに気付かれる気がするプイ」
「たしかにね。まず、どのくらい人がいるのか偵察しないといけないわね」
「でも無茶はできないよ?」
「そうね…… 外から眺めるくらいかしら。あるいは、あの部屋の前あたりに土壁でも作っておけば音を気にせずに行けるかしら」
「ずいぶんと思い切ったことを…… 人に見られたら明らかに不審者参上って感じだけど」
「なら水晶の壁ならどうプイ? 触らない限り気付かれないかもプイ」
「悪くない案ね! 静かに出せるかが重要ね。頑張るわ」
「出すなら壁というより箱型のほうが倒れなくていいと思うよ。倒れたら危ないから」
「そうね。ヤマの言うとおりだわ。使わなくてもいいくらい人が少ないといいわね」
「そうだな」
「あとは、プリンとクルルの耳が頼りだな」
「そうよね。建物の中だと、遠くの状況は音しか頼りにならないわ」
「「頑張るプイ(ノ)!」」
ドキドキしながら明日の作戦会議をしつつ、休む俺たちだった。




