第80話 第1施設からの道
扉を通り、久しぶりに第1施設にやってきた。
入るとすぐにモカと機械の話が始まった。
「よく来ました。護り人たちよ」
「こんにちは。お久しぶりです」
「これまでの護り人よりも短い間隔ですね」
「そうなんですね。みなさんいつもどのくらいですか?」
「1年に1回程度来ることが多いです」
「たしかにそれに比べると短いですね。今回はちょっと洞窟に用事があったので、そのついでに来たんです」
「そうだったのですね。いつでも歓迎です」
「ありがとうございます。あっ、そうだ。ここにあった武器はもう少し貸しておいてください。普段はもっと強いのを使っているのですが、強すぎて困るときがあるので」
「問題ありません」
「そうそう、あなたたちのおかげで、私たちは5つの施設をすべて巡ることができました」
「素晴らしいです」
モカは機械のそばで扉のほうを振り返る。
「ここから扉の外の様子って分かるのですか?」
「いいえ、ほとんど何も分かりません。扉に誰かぶつかればその音くらいは分かるかもしれませんが、そういうことも起きたことはありません」
「そうなんですね。もう1つお聞きしたいのですが、私たちの先代の護り人がここに来た最後はいつですか?」
「1年1カ月25日前です」
「ありがとうございます。そのときは3人でしたよね? 人間2人とウサ人の3人です」
「はい、そのとおりです」
「ならいつも通りという感じですね」
「そうですね。いつもと変わらなかったです」
モカはこちらにきて、小声でつぶやく。
「となると、1度ここに寄った直後になるのかしら……」
「みたいだな……」
このあとどうするか、と思って周りを見回して今さら気付いたのだが、既に少し薄暗くなってきている。
「もう夕方か」
「そうね。いろいろ調べながら来たから時間かかっているわよ」
「じゃあ、今日はここで寝ていく?」
「そうね。朝になったらいきましょうか」
モカが機械に話に行く。
「もうじき暗くなるので、ここで寝させてください」
「もちろん構いません」
施設には、ついでに寄っただけではあるものの、ちょうど泊まれてよかった。
しかも、2つ分かったことがある。護り人は年に1回は洞窟巡りをしていたことと、ユイさんたちはここに寄ったあとに殺されたことだ。
例によってここで話すと機械に聞かれてそうで良くないため、静かにみんなで一緒に寝袋で休むことにした。
◇
次の朝、第1施設を出発した。道中で、昨日分かったことを確認し合う。
「第1施設に寄ってよかったな」
「そうよね。護り人は1年に1回程度来るのね」
「そうみたいだな」
「ユイさんたちが巡るタイミングだとして、ここが最初だとすると、残りの洞窟は巡るタイミングよっては私たちがたどり着くまでに倍近くの期間を放っておいたことになるわ。特に第5施設のところはほぼ倍の期間があったはずよ。だから、あんなにキメラが強かったのよ」
「そうだな。あのときの土のコネクトは危なかったよな」
「そうよ。ヤマがいなかったら犠牲を避けられなかったわ」
「そうプイ。だから、私たちはヤマのものプイ」
「そうナノ」
「えっ? そういうこと?」
「ふふっ、ヤマは単純ね。そんなことがなくてもヤマのものよ」
「「そうプイ(ナノ)」」
「?」
あっ、ひょっとしてからかわれたのかな? まあみんなかわいいからいいか。
「ま、いっか。あとさ、ユイさんたちは最後に第1施設に寄ったあとにスミロ人に遭遇したんだな」
「そうね。まさに帰るところで出会ったんだわ」
そう言いつつ、おそらく出会ったであろう場所を通過した。
このあたりで出会うとなかなか逃げるのは大変かもしれない。ユイさんたちが身を挺してノエさんを逃がしたのだろう。その前にノエさんは左足におそらくケガかやけどを負ったのだろう。
そうか、それがきっかけかもしれない。
「ひょっとしてさ、ノエさんが左足をケガしたか、やけどをして、スミロ人にとても勝てないことが分かったから、何とか逃がしたんじゃないかな?」
「なるほどね。前話したみたいに戦う前に逃がしたんじゃなくて、攻撃を受けて勝てそうにないから、っていう説もありよね。そうだとすると、おそらくだけど、ケガじゃなくてひどいやけどよ。ノエさんくらいの強さなら普通の攻撃でケガするなんて考えにくいもの」
「火のコネクトを最初に使われたときに受けたやけどだと思うわ。スミロ人という言葉を知っていても、元のスミロかスミロ人の見た目を知らなければ、まさか火を使ってくる相手だなんて思わないでしょうから」
「俺のあれと同じか。予想できないなら対処できないよな」
「そうよ」
火のコネクトは予想すらできないという意味でも恐ろしい攻撃だと改めて感じた。
◇
会話をしたり、考えたりしている間に洞窟を出た。
さて、これからどうするか。
「このあと、どっちの道を行く? 森の道をこちらから通るか、エーンスタットに行くか」
「迷うわね。ノエさんがたどったのと同じ向きで、こちらから行ってみるのは意味があるかもしれないけど、新しく何か分かるかどうかはなんとも言えないわね。プリンの気持ちを優先するのがいいと思うわ」
「私もそう思うプイ」
「そうだな。プリンはどうしたい?」
「……」
プリンは考えている。俺たちはだまってゆっくりと待つ。
「……もう1度、森を通りたいノ。新しいことは分からないと思うけど、でも、最後に師匠が歩いたところと同じところを歩きたいノ」
「よし、ならもう迷う必要はないな。森の中を通って、お墓のところまで行って、それからモルジクに行こう」
「ありがとうナノ」
俺たちは森のほうに向かって進んだ。
◇
新しいことが分かることは期待していなかったのだが、森のところまで行くと、さっそく新しいことに気付いた。
「たぶんここだったよな? こっちから見ると、全く道に見えないな」
「そうね。つまり、森に入る道を選んだんじゃなくて、森そのものに逃げ隠れたというのが正しいってことよ。最初に私たちが森に逃げ込んだのと同じよ」
「そうか。あのときと同じか。あのときは森に入ったあと、川がないか探して歩いたよな」
「そうだったわね。そのときにクルルに助けてもらったのよね」
「そうそう」
「なあ、プリン。ここから川の音って聞こえる?」
(ピクッ ピクッ)
「全然聞こえないノ。近くにはないと思うノ」
「やっぱりそうか。となると知っている町とかを目指すしかないな」
ノエさんの心理をなんとなく理解しつつ、森の中を進んだ。基本的にはたどってきた道を引き返しているだけなのだが、ノエさんの気持ちを想像し、後ろを気にしながら歩くことになった。
こちらに来たときもそうだが、俺にはあまり方向感覚がない。ウサ人ならあるのだろうか?
「なあ、プリン。今、どっちに向かって歩いているか感覚的に分かる?」
「においと音くらいでしか分かんないノ。だから、初めての場所だと難しいかもしれないノ」
「なるほどな。ノエさんもさすがにここは通ったことないよな。他に足跡すらないんだから」
「わざとそういう道を選んだのだと思うわよ。そのほうが追いにくいから」
「そうだな」
ここを通るときは不安だっただろう。ただ、まさか感染症や敗血症などになるとは予想できないだろう。なぜか調子が悪くなってきたという感じだったのだろうか。
そんな想像をしながら、来たときと同じようにキャンプを挟みつつ移動した。
◇
その後は特に新しいことに気付くことはなく、お墓のそばまでやってきた。
「他には新しいことは見つからなかったわね。でも、ノエさんがたどった道を通れてよかったわ」
「そうナノ。みんなありがとうナノ」
「いいんだよ。俺たちもたどりたかったしな」
「そうよ。このまま行くと、もうじきお墓よね」
「そうだな。それにしても護りのコートを着てても防げない火って怖いな……」
「そうよね。護りのコートは硬い細胞でできているのに、やけどしたあとに菌とかウイルスとかが入るのは防げないのかな」
「あるいは、細胞の数が減って、覆いきれなくなったとか」
「なるほど、それはありそうね。たぶん、最後まで護りのコートは身に着けていて、一緒に埋められているでしょうから確認のしようはないけどね」
そうこうしているうちに、お墓が見えてきた。
「最後にこのあたりで倒れて、何とか護りのネックレスを外して、腕輪とともに埋めようとでもしたのかな。でも、そういう跡はなかったな」
「うーん。倒れたのはお墓のところそのものじゃないかしら? 普通、スコップを持ち歩かないでしょ。掘るのは大変だから、ダブル爺は土をかきあつめてかけてあげたのだと思うわよ。実際、お墓は盛り上がっているし」
「なるほど……」
「そこまでして弔ってくれたノね」
「ダブル爺らしいプイ」
近くに生えていた花を取ってきて、お墓に供えた。こんな季節でも咲く花があるんだな。
「さすがヤマね。スイセンならこの季節でも咲くわね」
「これスイセンなのか。たまたま見つけてさ」
みんなであらためて手を合わせて供養する。プリンはこれまで以上に強く志を持ったようだ。
「師匠、行ってきますノ…… 見守っていてほしいノ」
そっと、プリンの肩に手を置き、軽くうなずく。大丈夫だ。きっとノエさんはプリンの活躍を見ていてくれるはずだ。
俺たちはモルジクに向かって歩き出した。
◇
モルジクへの道はこれまで通った道の中でもたぶん1番安全な部類だ。そもそもこのあたりには強いキメラが少ない。
両サイドが森になっている道をゆっくりと無駄な戦いを避けつつ進んだ。ただ、途中でラッキーなことにブタウシに襲われたので、モルジクへのお土産とすることにした。
数日後、モルジクに着いた。
ちゃんと数えてはいないが、たぶん5カ月ぶりくらいじゃないだろうか。クルルはうれしそうにしている。
「久しぶりプイ。まずは私の家にどうぞプイ」
「ありがとう。本当、久しぶりね。そういえば私たちが最初に着ていた服とかもまだ置かせてもらったままだったわね」
「全然問題ないプイ」
クルルの家に案内された。当然のことだが、以前と変わらない感じで、乾燥青パパイヤがいっぱいあった。
(もぐもぐ……)
気付いたらさっそくクルルは食べている。モルジクの青パパイヤが特に好きなのかもしれない。
「今日は早めにゆっくりとお風呂に入って休むのがいいプイ」
「そうね! お風呂久しぶりだわ!」
そのあと、例によってモカの長風呂をゆっくりと待つことになった。
◇
しばらくしてホカホカのモカが戻ってきたので、ご飯を食べながら話をする。
「モルジクは変わっていなくてホッとしたわ」
「そうプイね」
「明日はダブル爺たちのお墓参りもしような」
「行くプイ!」
「ダブル爺たちのお墓があるノ?」
「そうか、プリンはダブル爺たちのことをあまり知らないんだよな。まあ、俺とモカも大して知らないけど、でも俺たちの恩人なんだ」
「モルジクにはダブル爺とブイ婆ちゃんのお墓があるプイ」
「ダブル爺は俺たちと同じ世界の人間で、ブイ婆ちゃんはモル人なんだ。2人はとっても仲良しなんだ」
「私とヤマみたいプイ」
「ま、そうだな。ダブル爺とブイ婆ちゃんは、俺とみんなみたいな関係さ。だから、ダブル爺はこっちの世界に残る決意をしたんだよ」
「そうナノね。そういえば手紙にいろいろ書いてあったって言ってたのを覚えているノ」
「そうだな。手紙が隠してあった洞窟にもう1回行くのもありか……」
「そっちから行って、研究所までたどり着ければ、裏口側になるでしょうね」
裏口から入るのが本当に正解なのだろうか。
「うーん。どっちがいいんだろうな。裏口から入ったら絶対怪しい人だよな。堂々と『モカです』って正面からモカに入ってもらうのもありかな、って」
「えっ、でも私があの研究所を訪問する理由は普通はないわよ。そもそもほとんど知られていない研究所なんだから」
「そういえばそうだな。でも、エーンスタットからどうやって行くのかも少し気になるんだよ」
「それはそうね。普通はそっちを通るわよね。それに、そっちから行かないと研究者とすれ違う可能性があるわね」
いろいろと考えていると、クルルが疑問に思ったようだ。
「ねえねえ、裏口って普段から開いてるプイ?」
「そういえば、あのとき開いてたわね。周りにばかり気を取られていて、鍵を意識しなかったわ」
「たしかに開いてたな。まあ、あのときは中にいたから、鍵がかかっていても開けて出ることは簡単だったけど。普段人が来ないから閉める必要もないのかな?」
「そうね。まあ、裏口については、仮に鍵が閉まっていてもヤマなら開けられるし、なんとでもなるわよ」
「それよりも、ダブル爺のあの洞窟から研究所までどうやってたどり着くかのほうが難しいわ。適当に東に歩いて着けるのか分からないわ」
「あっ、そうだな…… あのときは川を目指して歩いてて、どこをどう通ったかなんて全然覚えてないな」
「だから、エーンスタットから道なりに行って、研究所が見えたら裏口にまわるとかが現実的じゃないかしら」
「そうだな。そうしようか」
意外にも次に向かう先が、早くも決まった。




