第79話 ユイたちの痕跡
第1施設のある洞窟に久しぶりに入った。
前回はプリンの能力向上するために来た。それから4カ月くらい経っていそうだ。おそらく、キメラたちもまたそれなりの力を取り戻してきているだろう。ただ、最初に来たときほどはまだ強くはなっていないかもしれない。
強くなっていないのはコネクト能力だけで、キメラがもともと持つ身体能力は変わらない。そのため、いくら俺たちが強くなったとは言え、油断をしてはいけない。
洞窟に入ると、イノウシやトカコウなど、以前もここで戦ったキメラにすぐに遭遇した。だが、俺たちにとってキメラは今はどうでもよく、襲ってきたときだけ短時間で倒していた。
俺たちは壁とかに傷が残っていないかを確認することに注力していた。牙でつけたと思われる傷の他に、火のコネクトでついた焦げ跡がないかも気にしていた。
まず入り口のあたりを入念に見たが傷は見当たらなかった。
「このあたりに傷がないということは、入り口まで追いかけてきて戦闘にはなっていないということよね。奥のほうに傷があることはたしかなんだし」
「なるほどな。追いかけてきて、ここで戦ったなら跡が残るということか」
「だから、やけどは奥で負ったと思うのが自然かしら。もう少し進みましょう」
◇
少し奥に進んだが、これと言って変わったところはなさそうな気がする。モカは入念に壁を調べている。
「スミロ人だとすると、亜人なんだから、武器も使うわよね」
「ん? そういえばそうだよな。別に牙や火でいつも攻撃するわけじゃないんじゃないかな?」
「ノエさんたちより強いとしたら、ここのキメラで苦戦することはないわ。だから、このあたりに戦った痕跡がないのよ。武器とかであっさり倒したのかもしれないわ」
それはそうなんだろうけど、何か引っかかる。
「スミロ人ってなんでそんなに強いのかな?」
「ん? どういうことかしら?」
「いや、たしかに火のコネクトは強いかもしれないし、スミロドン、じゃない、スミロは強い動物かもしれないけど、人間と合わさっただけでしょ? むしろ体力とか腕力とかは落ちているはずだよな。それなのに、細胞を吸収したキメラたちどころか、護り人よりも強くなれるのかな?」
「……たしかにね。でも、こういうところで戦えばキメラだって細胞を吸収して強くなるのよ。だから、こういう場所で戦えるならスミロ人も強くなれるわ」
「なるほど。それは一理あるな……」
ここで戦える地力があるなら、たしかに強くなれる気がする。キメラと同じだ。
「それに…… メノヴィーアの遺跡に鉱石があったわよね。もし、昔からスミロ人にも伝わっていたら、鉱石の力も使って強くなれているかもしれないわ」
「それもありそうな話だな。となると、結局俺たちとの差は、複数スロット使えることと、能力の底上げができることか。元から能力が高いならそんなに差がない可能性があるってことだな」
「そうね。能力向上できない腕力は間違いなく私たちより上よ。おそらく身体も大きくて、すばやいわ。さらに高い知能もあるわけよね。火のコネクトで追い込まれたら相当危険な相手になるわ」
◇
もう少し奥に行く。あと少しで最奥というあたりで、少し傷が見つかり出した。
「そうそう。このあたりからよね。前も見たのはこのあたりだったわ」
(ヒュッ! ヒュッ!)
(……ドサッ)
襲ってきたキメラを斬りながらプリンも近づいてくる。あれは最初に俺たちが撤退したサイガメな気がするけど、まあ、今のプリンなら一瞬なんだな。
「今のこの小太刀でもこういう傷にはならないノ」
「それにメノヴィーアの傷と同じでしょ?」
「そうだな」
「やっぱりメノヴィーアのあとにここに来たプイね」
「なぜここだったのかしらね。単なる偶然かしらね」
「ユイさんたちが洞窟に入るのを見かけて追いかけたとか、かな?」
「なるほどね。あとは、ここでスミロ人がコネクトを鍛えていて、そこにユイさんたちが来てしまったか…… 追いかけるよりは理由が分かりやすいわ」
「そうだな。追いかけるとしたら理由が要るもんな」
モカが何やら考えている。
「……ユイさんたちって、見ただけで、『奇跡の超天才』ゆかりの人って分かるのかしら? そういうものってあるの?」
「私は聞いたことないノ」
「私も分からないプイ」
「モカが気にしたのは、『奇跡の超天才』ゆかりの人だから襲われたんじゃないか、ってこと?」
「そうよ。メノヴィーアが襲われたのと共通する要素は『奇跡の超天才』くらいじゃない?」
「共通点か…… たしかに他に襲われていた地域もなさそうだしな」
「……でも、意外と偶然かもしれないプイ」
「共通点がないといけないわけではない、と思うノ」
「そうね。クルルとプリンの言う通りよ。偶然の可能性はずっと残るわ。実はそれより気にしているのは、被害の少なさよ」
「ん?」
「それだけの強さがあって、凶悪だとすると、もっと被害があっても良さそうじゃない? メノヴィーアからここまでの間、たまたま都市を通らないことはできるけど、それにしても、他で被害がなさすぎない?」
「まさかとは思うけど、スミロ人って思ったほど凶悪じゃない?」
「可能性はあるわよ。だって、テンは少し穏やかなスミロ人も生み出しているのよ。そっちが生き残っていて、何か理由があって今回のことを引き起こしたのかもしれないわ」
「なるほどな」
「私たちと研究所の人が勘違いで今の関係にいるように、何らかの誤解があって、戦いになっちゃったかもしれないわ。そうだとすると、あまりに不幸だけど……」
「そうだな。でも、その説って、ノエさんを追いかけたりしなかったっていうところとは整合しそうだよな」
「そうなのよ。殺したり奪うことを目的にしてたら追いかけるわよね」
「仮にそうだとしても、そのときに気付くのはほとんど不可能だよな」
「ええ、私たちでも無理だと思うわ。向こうが戦う意思を示している限り」
傷を見ながら、もう1つ考えたことを伝える。
「ここは傷が少ないし、奥は傷が多いのは、ここであったのはユイさんたちとスミロ人の戦いじゃなくて、強めのキメラとスミロ人の戦いじゃないかな?」
「なるほどね。それは十分納得できる説明だわ。そうだとすると、奥に先にいたユイさんたちと奥でばったり会ったという感じね」
「洞窟から出ようと思ったところで鉢合わせプイね」
「そうかもな…… とりあえず1番奥に行くか」
「いきましょう」
◇
1番奥にはやはりキメラが待ち構えていた。が、クマシカではなかった。あれは、チーターとヘラジカ、つまりチーシカのデカいやつだ。
「とりあえず倒さないと調べられないな。チーシカって氷を使うよな」
「前会ったチーシカはそうだったわね。ただ、こっちのほうが大きいわよ」
「そうだな。いつもクマシカというわけじゃなくて、そのとき1番強いキメラがここにいるんだな」
「そのようね」
さすがにこのクラスになると油断は一切できない。
(ダダダダッ!)
作戦とかの相談をする前に、いきなり向こうから突進してきた。クルルがまずは水の弾丸で応戦する。
(ズバババン!)
(サッサッサッサッ)
なるほど。さすがにすばやいようだ。
「短期決戦でいこう。弾丸じゃなくて、濡らすために水を使えるかな?」
「分かったプイ」
(ザバッ!)
威力は全くないが、クルルは広く薄く水を出した。向こうは威力がないことを見抜いているため、よけることはしない。
だが、そのあとの攻撃は予想していないようだ。
(ビリビリ!)
(ビクッビクッ!)
「あとはプリンよろしく!」
「まかせてナノ」
(ヒュッ! ヒュッ! ヒュッ!)
(……ドサッ)
相手の動きを封じてしまえば全く怖くない。今の俺たちなら油断しなければ負ける相手ではない。最後は居合抜きであっという間に勝負がついた。
「お疲れ様。私は特に何もする必要はなかったわね」
「たしかに。光を使うか放電を使うかの選択って感じだったな」
「もともと3人でも倒せるキメラだと思うプイ」
「そうナノ。護り人が3人が多いなら、3人で倒せていたはずナノ」
「私もクルルとプリンの意見に賛成だわ」
このチーシカも施設に行ったことのない3人だけで勝つのはかなり難しいだろう。まず攻撃を当てることすら難しそうだ。クマシカもそうだった。まともに当たったのは俺の専用技だけだったし。
あたりにキメラの気配が無くなったところで、壁の調査を始めた。壁には多くの傷があった。やはり牙の傷のようだ。
「こっち来てほしいノ!」
「ん?」
奥のほうからプリンが呼んだ。奥と言っても扉側ではないので、近づいたことのないあたりだ。
「これは…… 焦げ跡ね。しかも広いわ。ものすごい火力よ。火炎放射器ではなく、もはや爆発みたいなものね」
「コネクトで呼び出す火ということは、山火事みたいなものか、人間が作り出した火か、ってことだよな。山火事なら広範囲だし、火の量も多そうだ」
「1万年前からあるものだから、このくらいの威力になると、山火事が濃厚かしらね」
ここまで条件が揃うと、もはやスミロ人としか思えない。
「これが見つかったことにより、スミロ人の生き残りっていうのでほぼ確定だよな」
「そうね。牙の傷と火による焦げ跡を両方作れるのはスミロ人か、別の世界の人間か、くらいね」
「別の世界の人間と言っても、兵器を持ってこないと無理じゃない? そういうものが見つかったことがあれば別だけど」
「これまでいろんなところに行ったけど、そういう話は聞いたことがないから、ないんじゃないかしら」
「やっぱりスミロ人ナノね……」
「そうなんだよな。亜人なのにな……」
「私は不幸な勘違いで戦いになってしまった、って今でも思ってるわ。それが全体を1番うまく説明できているもの」
「だな。だけど、そのスミロ人に会ったら戦いは避けられないよ。ノエさんのかたきなんだから」
「そうナノ」
「そうプイね」
「まあ、話ができれば1番いいけど、たぶん、戦ったあと、最期の瞬間に話がようやく少しできる程度でしょうね」
「ああ、それが目標だな。プリン、無理に許そうとしなくていいんだよ」
「ありがとうナノ……」
ここで、ユイさんたちは亡くなったのか。
(あれ?)
「なあ、ここでユイさんたちは亡くなったんだよな?」
「たぶんね……」
「じゃあ、ユイさんたちが亡くなったことを知った人たちは、それを知らずにここまで来て、それで初めて知ったのかな?」
「えっ? そうか…… そうよね。普通来ないわ。行方不明のままになるわよね」
きっとこれも俺の中で何か引っかかっていたことの1つだろう。
「だよな。なんか不思議だったんだよな。プリンたちにユイさんたちの死が伝わると言うことは、それを確認した人がいるんだよ。ノエさんの遺体は見つからなかったって言ってたよな。逆に言えば、ユイさんたちの遺体は見つかったはずだよな」
「となると、おそらくユイさんたちは瀕死の状態で洞窟から出たのよ。エーンスタットとかに着く前、たぶん洞窟を出てすぐに亡くなったのよ」
「ひょっとしたら本当にキメラに殺されたのかもな。瀕死の状態で襲われたらさすがに勝てないと思うよな。きっとノエさんは先にユイさんたちが逃がしていたから、その時にはそばにいなかっただろうし」
「そうよね。だからか…… 私も気になっていたの。火や見たことのない傷で亡くなったなら、みんなそのことに気付くはずなのよ。でも、そんな話を聞かなかったから。キメラに攻撃されて亡くなったのなら、説明がつくわね」
「結局、スミロ人は3人ともその場ではトドメは刺さなかったということ?」
「そうかもしれないけど、結果的にはトドメを刺したのと同じよ。助けたわけじゃないんだから」
「そうだな。ただ、スミロ人の考えが分からないなって。そのままどこかに行ったわけだし」
「そうね。理由があるなら知りたいわね」
いくつかのことが分かった。
やはりノエさんたちが戦ったのはスミロ人で間違いなさそうなこと。
でも、スミロ人は3人にその場ではトドメを刺さなかったこと。
ノエさんはやけどなどの傷が原因で、お墓のあたりで力尽きた可能性が高いこと。
ユイさんたちは、瀕死の状態で洞窟を出たところでキメラに襲われて亡くなったかもしれないこと。
一方で、分からないことも残った。
そのあとスミロ人がどこに行ったかは分からないこと。
ユイさんたちとスミロ人が戦うきっかけは分からないままであること。
ただ、理由はどうあれ、ノエさんたちが亡くなったことはたしかだ。その事実は重い。もし、単なる勘違いとかが戦いの原因だとしたら悲しい事実だ。
そんなことを考えていたら、クルルが口を開く。
「せっかくここまで来たから、第1施設に寄るプイ?」
「そうね。特段の用事はないけど、お話くらいしていこうかしら」
俺たちは扉のほうに向かった。




