第78話 ノエの通った道
ガトアルデに戻ると、みんなまだしっかりとこたつの中にいた。
こたつに入ったらネコはもちろん、人間もそう簡単には出られない。その2つの種族が合わさったネコ人が簡単に出られるわけがなかった。
みんながネコ人ホイホイ2に捕まっている横で、俺たちは泊めてもらうことにした。
◇
翌朝、出発する前にゲンタに少し聞いてみる。
「このあと、モルジクのほうに行こうと思うんだ。久しぶりにクルルも帰りたいだろうし。道の途中にお墓があるんだけど知ってる?」
「そういえば見た気がするニャ。誰のお墓か分からないニャ」
「そうか。お墓ができたのは1年くらい前だよな?」
「そのくらいだと思うニャ」
「やっぱりそうだよな。そのあたりにも行ってみようかなって思ってるんだ」
「みんななら大丈夫だと思うけど、気を付けてニャ」
「うん。そうだな。油断せずに行くよ」
「じゃあ、また」
「またいつでも来てニャ」
「「モカお姉ちゃんもクルルちゃんもプリンちゃんもまたね!」」
「またね」
「「また来るプイ(ノ)」」
ゲンタと子どもたちに見送られて、ガトアルデを出発した。
◇
少し進むと遠くに森が見えてきた。
たしか森の中の道に入ってからほどなくしてお墓があるはずだ。そういえば、ここまでプリンと来たことがなかったはずだ。プリンの様子を気にしながら進むことに。
「もうじき、お墓が見えるはずだよ」
「そうナノね……」
モカが優しくプリンをなでる。プリンも覚悟を決めたようだ。キリッとした表情になり、しっかりと歩き始めた。
森まで進むと、以前と変わらぬ感じで道から少し森に入ったところ、こちらから見て右側のほうにお墓があった。
「あれだな」
「……」
「まずはしっかりとお参りしましょう」
俺たちはお墓に手を合わせた。
よく考えたらこっちには宗教は無いから俺たちの行動は少し奇妙に見えたようだ。ただ、その姿を見て、クルルとプリンも真似て手を合わせる。
「こんな場所なのに、ちゃんと弔われているノね」
「ダブル爺が弔ってくれたんだよな」
「そうプイ」
「とってもいい人ナノね」
「そうプイよ。ヤマみたいな人プイ」
「そうナノね。ありがとうございますノ。ノエ様も感謝していると思いますノ」
お参りを終えたあと、周りを見渡してみた。
思えば、前に来たときは周辺を詳しくは調べなかった。今回は周辺を荒らさないように調べてみることにする。
「だいぶ草が伸びて分かりにくいわね。たしかお墓の後ろのところが、人が通った跡のようになってたはずよ」
「ここで弔われたということは、ここのあたりに何か落ちているかもしれないかな?」
「どうかしら? そういうものがあれば、ダブル爺が一緒に埋めていると思うけど」
「それもそうか」
実際、周りを調べても、特に何も見当たらなかった。お墓の周りの土が多少掘られているくらいだ。
「特に何もないわね。じゃあ、奥に行ってみる? 先にモルジク行ってもいいけど、やっぱりなんか気になるわよね」
「私は奥に行きたいけど、クルルはそれでいいノ?」
「もちろんいいプイよ。モルジクにはいつでも行けるし、後でいいプイ」
「ありがとうナノ」
「よし、じゃあ、行こう。途中で何か落ちているかもしれないから、ゆっくりと行こうな」
「そうしましょう」
◇
森の中に入っていく。見た目では道かどうかはほとんど分からない。
道をたどるというより、昔に誰かが通った気配をたどるという感じだ。そのため、俺とモカはほとんど役に立たない。クルルとプリンの感覚に頼って進む。
だが、しばらく進んでいくと、途中から足跡のような跡が見え隠れするようになった。足跡を見る限り、まだこのあたりでは歩ける体力が残っていたようだ。
モカが草が生えている足跡を調べている。大きさを調べたり、足跡の間隔を自分の歩幅と比べたりしている。途中でプリンの足跡とも見比べていた。別にウサ人とは言え、靴を履いているから、人間と何も変わらないが。
「うーん。走っているような感じはないわね。歩きの歩幅だと思うわ。それに、左右で均等じゃないから、ケガを負っていたのでしょうね。それにこのあたりは普段は誰も歩かないところなのね。ほかに足跡とかがないのよ」
「ほかに足跡がないということは、追われてもいないということだよな?」
「そうね。少なくともこのあたりはそうね」
俺もじっくりと見てみる。足跡のみで、血の跡とかはなかった。以前はあったのに水で流されたのだろうか? その割には足跡は残るようだ。
「意外と足跡って残るんだな」
「歩いたときに多少湿っていて、跡がしっかりと残ったあとに乾いたんじゃないかしら? 足跡って化石として残るくらいなんだから、条件次第ではいくらでも長い期間残るわよ」
「そうか…… ここまで歩いてきたとなると、もう少しというところで、体力が尽きちゃったのかな」
「おそらくね。そもそも足跡が1人分しかないけど、仮に何かから逃げて最後に追いつかれたのなら、このあたりは走っていてもおかしくないしね。それにお墓からここまでの道で激しく戦ったような跡はなかったわ」
たしかに、木が倒れているとかそういう戦いの跡はなかった。ノエさんくらいの強さの人が戦ったならそのくらいの跡が残るほうが自然だ。
改めて後ろを振り返ってここまでの道を眺めてみる。たぶんだが、俺たちは森の中を草原との境界線に沿って歩いてきたのだろう。でも、森の中だから太陽の方向だけを確認しながら、方向感覚を保つのは難しそうだ。
「なあ、今、俺たちは東に向かっているはずだよな? 大体、森と草原の境界に沿って」
「そのはずよ」
「そうか。だとすると、やっぱり草原を歩きたくなかったとしか思えないよな」
「そうね。草原を歩いたほうが早いわ。ただ、草原だと周りから見つかりやすいわよね。草原を歩いていたらガトアルデまでギリギリたどり着けたかもしれないわね……」
「うーん。ガトアルデじゃなくてモルジクを目指したんじゃないかな?」
「モル人なら水を使えるから、ということね?」
「そうなんだよ。それに草原を歩いてガトアルデやエーンスタットに行くのは、追手を連れ込んじゃうから避けたいし。となると、森を抜けて気付かれずにたどり着けそうなのはモルジクかなって。ほぼ真西に向かったのはこっちに行けばそのうち道にぶつかるわけだし」
「そうね……」
「師匠らしいノ」
「プリン……」
「大丈夫ナノ。私は師匠がたどった道を確認したいノ」
「そうか。分かった。進もうか」
◇
そのあとは、先に進むもこれといって目立つものは見当たらない。そうしている間に夕方が近づいてきた。
「第1施設の洞窟まではまだ何日もかかるよな。無理せずに早めにキャンプしながら行こう」
「そうしましょう」
ここは森の中だから、安全のために土壁で囲った空間を作り、そこで休む。休みながら改めてノエさんが歩いたときのことを想像する。
「森の中を1人で何日も歩くのは大変だよな」
「そうよね…… あっ、プリン。ノエさんは水のコネクトを使えたか知ってる?」
「分からないノ。風と光は見たことあるけど、水はないノ」
「そうか。水無しだときついよな。水たまりの水を飲むとかするしかないか。川は近くにないよな。あっ、でもウサ人なら草を食べれば大丈夫かもな」
「そういえばそうよね。たぶん水筒は持っていたと思うけど、数日になると水筒じゃなくて、草とかのほうがいい気がするわね」
なかなか当時のことを推測するのは難しい……
◇
翌日も、さらに次の日も足跡とも単なる模様とも言えそうな跡を追う。
しばらく行くと、モカが立ち止まった。
「このあたりから歩幅広くなってない? はっきりとは跡が残っていないから気のせいかもしれないけど」
「もう少し行ってみよう」
「そうね」
さらに進むと、やはり歩幅は広いようだ。ただ、均等ではない。
「たぶんだけど、このあたりは走っていたのね。でも、左足にケガを負っているのは間違いないわ。この感じだと、お墓のそばで最後に戦って殺されたというより、そこまで逃げている間に傷口からの感染症とかで亡くなった感じだわ。やっぱりノエさんは戦って負けるほど弱くなかったのよ。もう少し村とかが近くにあればね……」
「それでも、エーンスタットに向かわなかったのは、やっぱり護るためだよな。立派な護り人だったんだよ」
「そうナノ」
クルルが何か気付いたようだ。
「プ!? あっちのほうで、倒れている木があるプイ」
「えっ? 行ってみましょう」
近くに行ってみた。たしかに太い木が倒れている。武器で斬ったというより、押し倒した感じだ。
「うーん。これは何かをぶつけたか、風とかで倒した感じかしらね。少なくとも、刀とかの武器で斬り倒した感じじゃないわね」
「そうだと思うノ。私かモカが風を放てばこうなるはずナノ」
「そうね。しかも倒れているのは1本だけね。思い切り周囲を吹き飛ばしたというより、狙って放った感じね。この程度で倒したり、逃げる時間を稼げたりするくらいの相手なら、ここまで逃げてこないわね。仮にこれがノエさんが戦った跡だとしても、たぶん普通のキメラに遭遇しただけよ」
「なるほどな。それで、本来の逃げるべき相手に気付かれた可能性を考えて走ってこの場を離れたんだな」
「そうかもしれないわね」
「……」
何やらプリンが考えている。
「……それならなんで武器で攻撃しないノ?」
「た、たしかに……」
「武器を落としたり、壊されたりしたか、手にケガを負ったか。うーん。私たちと同じような強さの武器なら、そう簡単には壊れないわね。とすると、たぶん、手にケガを負っていたのだと思うわ」
「相手は火を使うスミロ人か。やけどを負っていたのなら、刀を振るうのはなかなか大変だろうからな」
「そうか! やけどよ。やけどを負って、重度の感染症や敗血症、多臓器不全とかになったのよ。それなら数日後に死ぬことがあるわ」
「なるほど。それで、戦っている跡がほとんどないのに、最後のほうで急に……」
これは火のコネクトが危険な理由の1つだな。
「敗血症だったら、俺たちでも助けられないな」
「そうね。さすがに抗菌薬が無いと助けられないわね……」
「俺たちでも火を浴びたら危険ということだな」
「そうよ。水の膜とかで護り続けないと厳しいわ」
やはり火には水が有効なのだろう。いつか対峙することになるかもしれない相手を想像し、少し怖くなる。だが、モカは気にせずに前を向いているようだ。
「明日くらいには森を出られるんじゃないかしら?」
「たしかに、だいぶ草原との境界が近い気がするな」
◇
予想通り、次の日には草原に出ることができた。
草原から出てみると、遠くに洞窟らしきものが見える。間違いなく第1施設のある洞窟だ。
「やっぱりここに出るのね」
「これでつながったな」
エーンスタットのそばにある第1施設の洞窟自体はこれで3度目だ。洞窟に近づきながら、以前のことを思い出す。
「この洞窟は、サイガメとかいたよな。1番奥はクマシカだよな」
「そうだったわね。見方によっては、これまで戦った中でクマシカが1番危なかった相手かもしれないわね」
「ああ、俺はクルルとモカが死んだと思ったよ」
「そんなに危なかったノ?」
「そうなんだよ。昔、簡単に説明したけど、相手の作戦に引っかかって、巨大な岩をクルルに落とされたんだ。それを本当ギリギリのところでモカが助けたんだ。俺とクルルはとっさのことで全く動けなかったんだ」
「そうプイ。モカがいなければ私は死んでたプイ」
そう言いながらクルルはモカに抱きつく。モカがクルルの頭をなでながら話をする。
「本当なら今の私たちくらいの強さの護り人が一緒に戦わないといけないのよ。それを私たちだけで行ったから危なかったの。あのときは、最後にトドメを刺すことができるヤマ魔法がなければ、3人とも死んでたわね」
「そうだったノね」
「今なら、プリンの居合抜きで一瞬で勝負がつくわよ。あるとしても、私が光を使うかどうか迷うくらいね」
「久しぶりに入ってみるよな?」
「ええ、もう1度、傷跡を確認したいわ」
そのまま洞窟の入り口に俺たちは向かった。




