第77話 ネコ人ホイホイ2
足音の主は例の執事と思われる尻尾の長い白いネコ人だ。
「これはよくお越しいただきましたニャ。どうぞ、お上がりくださいニャ」
「お邪魔します」
俺たちはお屋敷の奥に案内された。お屋敷の中の箱も増えていた。しかも、大体の箱にしっかりとネコ人が収まっていた。
みんな俺たちに気付くとなぜか箱から出てきて、後ろを付いてきた。そのため、奥に着いたときには結構な人数を後ろに引き連れてぞろぞろ歩くことになっていた。
お屋敷の奥にはゲンタがいた。
「ニャ? みんなどうしたニャ?」
最初は大人数がぞろぞろと来たことに驚いていたゲンタだが、すぐに俺たちに気付いた。
「ニャ! みんな来てくれたのニャ! 久しぶりニャ!」
「久しぶり。俺たちはずいぶん南まで行ってたから、数カ月ぶりかな」
「どこまで行ったニャ?」
「フィナルメンシウタットまでかな」
「ニャ! ものすごく遠いニャ! すごいニャ」
「でも、そんなに遠くに行ったのに、このお守りには本当に助けられたんだよ。だから、どうしてもお礼が言いたくて来たんだ。本当にありがとう!」
「どういたしましてニャ。ヤマはそれだけのことをネコ人にしてくれたニャ」
「そう言ってもらえてうれしいよ。それにしても出かけている間に寒くなったよな。でさ、お礼にちょっと作りたいものがあるんだけど、いいかな?」
「ニャ! まさか、また何かすごいものをかニャ?」
「すごいかどうかは分からないけど…… そうだ。使ってない薄い布団があったら使いたいんだけど、ないかな?」
「ニャ? あるニャ。いくつか用意しとくニャ」
ここまで聞いてモカは分かったようだ。
「あっ、ヤマ、まさか!」
「ふふっ、お楽しみに。あっ、紹介するの忘れてた! こちらは俺たちの仲間のプリンです」
「こんにちはナノ。プリンですノ。ヤマの第3夫人ですノ」
「ヤマの仲間なら大歓迎ニャ! ニャ? 第3夫人?」
「私が第2夫人プイ。当然、モカが第1夫人プイ」
「なるほどニャ。たしかにどう見てもそんな感じニャ」
「えっ、納得しちゃったのか…… まあ、もういっか」
「ふふん」
モカはご機嫌のようだから問題ないことにしよう。否定するほど嫌でもない、というか嫌な要素など全くないわけだし、そうなれたら俺も幸せだからだ。
「そうそう、プリンは武器での戦いなら俺たちの中で1番強いんだ」
「ニャ! ヤマたちより強いニャ!?」
「実は、俺たちもあのときよりずっと強くなったんだ。トカコウくらいならたぶんみんな1人で簡単に勝てるんじゃないかな?」
「やっぱりヤマは神様ニャ。あとで狩りを教えてほしいニャ」
「それもいいかもな」
ゲンタたちは氷使いだから、あとでプリンに作戦を聞いてみるか。
「そうそう、例によって資材も使っていい?」
「もちろんニャ」
「じゃあ、どうしようかな。俺1人で作りに行ってもいいかな? モカとクルルはプリンと一緒にみんなと遊んでてよ。そうすればネコ人のみんなとすぐに仲良くなれるから」
「分かったわ」
「まかせてプイ」
◇
俺は資材置き場から低めの机に使えそうな木を選び持っていく。
インベントリからダガーを出して、加工し始めた。
まず短い4本の足を切り出す。短いと言っても、ネコ人はネコよりは大きいので、あんまり短くしすぎないようにした。
それと別に天板その1を作る。ここは本当は穴があいた枠だけのような形の天板が普通なんだろうけど、電気で暖める部分はつけないから普通の板でよさそうだ。
天板と足がはまるようにする必要がある。天板側と足の両方にテーパーを付け、さらに丸い穴をあけておく。余った木を使って木釘をたくさん作っておく。
まず、テーパー部分をうまくはめ込んだ上で、穴に木釘をしっかりと打って固定した。これくらい丈夫にすれば、上にネコ人の子どもが乗っても大丈夫だろう。
天板その1の上にもう1枚の天板その2を載せられるように板を作成する。
最後に、ケガをしないように入念にヤスリをかけて、準備OKだ。
一応、これを全部で3つほど作る。いくつ使えるかは布団の数次第だ。本当は下の天板その1には暖める部分をつけたいが、火事が怖いのでやめておく。これだけでも十分に機能するはずだ。
そう、これは『こたつ』だ。
あと、布団を入れるだけにした状態のこたつをとりあえず1つ持って、みんなのところに戻った。
どうやらこの間にプリンもしっかりなじんだようだ。
「それ何プイ? 机プイ?」
「ふふっ。布団あるかな?」
「これニャ。モカが選んでくれたニャ」
「さすが、モカ。いい感じのを選んでくれたな」
「それはそうよ。私は何を作ろうとしているか分かったもの」
「これは何ナノ?」
上の天板その2をどかして、布団を置き、天板その2を戻す。これで、こたつの完成だ。
「これは『こたつ』って言うんだ。本当は中に暖かくなる部分を付けるんだけど、火事が怖いから今はこれだけで――」
「ふふっ、さっそく入っていったわよ」
説明は要らないようだ。さっそくネコ人の子どもが吸い寄せられるように入っていった。ネコ人ホイホイ2の完成だ。
「ま、説明はいいかな。見事に予想通りの使い方をしてくれたから。実はあともう2つ作ってあるんだ」
そのあと、残り2つも持ってきて、こたつ化作業を完了させた。こちらも完成したらすぐにネコ人が吸い込まれていく。
こたつの中から声がする。
「ニャァ、ヤマ様は神様すぎるニャ」
「もう出られないニャァ」
「しあわせニャァ」
気付くと3つのこたつは満員だった。ネコ人ホイホイ2の威力は抜群だ。
「相変わらずすごいニャ。こんな良いものが作れるなんて、やっぱり神様ニャ。ありがとうニャ」
「いいんだよ。俺が作りたくて作ったんだし。ネコ人はこたつで丸くなるのが良いと思うんだ」
「そうみたいニャ。僕も後で入ろうかニャ」
「ふふっ」
そういえば、このあたりの様子を聞くのを忘れていた。
「ところで、最近、このあたりのキメラはどうかな?」
「とりあえず危ないことはあまりないニャ。でも、ちょっと前にトカコウが飛んでいるのが見えて、ちょっと不安ニャ」
「じゃあ、倒し方を一緒に考えよう。な、モカ」
「そうね。ネコ人のみんなは氷を使えるのよね?」
「そうニャ」
「そうか…… とりあえず外を軽く見回りながら考えましょう。できれば一緒に来るのはゲンタ1人がいいわ。危ないから」
「そうするニャ。僕はちょっと出かけてくるから、みんなはこたつを楽しんでいてニャ」
「はぁいニャァ」
こたつの中からうっとりした声が返ってきた。
◇
俺たちはゲンタと村の外に出た。暗くなるまではまだ時間があるとは言え、あまり遠くには行かないほうが良さそうだ。
「そうそう、俺たちの戦い方とかはゲンタだけの秘密にしておいてほしいんだけど、いいかな?」
「もちろんニャ。約束するニャ」
「ありがとう。ゲンタの今の氷での攻撃で1番強いのはどんな攻撃かな?」
「出来るだけ大きい氷の塊を降らせることかニャ。こんな感じニャ」
(ドン)
ふむふむ。それなりの大きさではある。ただ、これだけでトカコウとかを倒すのは難しそうだ。
「なるほど。氷の弾丸は撃てる?」
「弾丸ニャ? どんな感じニャ?」
「じゃあ、プリン見せてあげて」
「分かったノ」
(ドドドドド!)
「ニャ! す、すごいニャ! しかもウサ人なのに氷ニャ…… 秘密にしてほしい理由が分かったニャ」
「これは出来るだけ小さくする変わりに速さを上げているノ」
「やってみるニャ」
(ドドド)
プリンほどじゃないが、それなりの弾丸は出せるようだ。ただ、トカコウの羽根を貫けるかはやってみないと分からないレベルか。
「あとは、どうかな。氷を薄くして、刃物みたいにできるかな?」
「ニャ?」
「こういう感じナノ」
(ヒュン! スパン!)
プリンが遠くにある木の枝を切り落とした。風を使わなくてもこのくらいの威力なら余裕で木が切れる。
「難しそうニャ」
(ヒュゥ パリン!)
ゲンタの放った氷の刃は木に当たって砕けた。
「うーん。いきなりは難しいか。やっぱり大きい氷かな」
ここまで見ていたモカがようやくアドバイスしてくれる。
「ゲンタの強みはその抜群の運動神経よ。コネクトだけで倒そうとするから無理があるのよ。トカコウ相手にやりにくい理由はただ1つ。相手が飛んでいることよ。だったら、コネクトは相手を地上に降ろすことだけに使えばいいわ。地上にさえ降りてきたら問題なく倒せるわよ」
「なるほど。じゃあ、弾丸で十分かな?」
「うーん。たぶんだけど、弾丸だけじゃダメね」
「そうか……」
「でも、あの大きい氷が上から振ってきたらトカコウならよけるわ。よけた先で弾丸を当てるのよ。そうしたら態勢を崩すと思うわ。そのまま落ちてこなくても、態勢が崩れていれば、ゲンタなら飛び上がって攻撃当てられるでしょ?」
「すごいニャ! それならできそうニャ!」
さすがモカだ。俺たちみたいにコネクトだけでなんとかしようなんて考えはなくて、ゲンタの強みを活かした作戦を提案できている。
試してみたいから、トカコウがいないか探してみよう。もともとこの辺にはあまりいないはずだが。
「トカコウはエーンスタットの東のほうにもいたから、東側に少し歩くか」
「そうね。そのほうが遭遇する可能性が高そうね」
道を外れて東側に向かった。位置関係としては洞窟に近づくほうだ。ガトアルデのそばにも洞窟にもいるなら、このあたりに生息していても不思議はない。
最初に気付いたのはやはりクルルだ。
「あそこにいるプイ」
木に停まっているトカコウを発見した。
俺たちだけなら戦いを避けるところだが、ゲンタもいるし、何よりガトアルデにかなり近い。倒しておくほうが良さそうだ。
「じゃあ、行くか。ゲンタが1人で倒してごらんよ。危ないときは助けるから」
「ありがとうニャ。やってみるニャ」
ゲンタが先頭を歩き、トカコウに近づく。ある程度近づいた段階で、向こうもこちらに気付いたようだ。
飛び上がって向かってきた。気付かずにトカコウのいる木のそばを通ると襲われるパターンが想像できた。上から一気に襲われるとかなり危険かもしれない。
ゲンタは戦闘態勢に入った。
(サッサッサッサッ)
すばやく動き、トカコウに迫っていく。まずは相手に的を絞らせないようにするのと、攻撃のチャンスを作るためだろう。狩りの達人と言われるゲンタの動きはすばやい。プリンには遠く及ばないものの、それでも衛兵隊長レベルに達していそうだ。
たまらずトカコウが岩を使う。
(サッ)
(ドォン!)
この瞬間を待っていたようだ。岩を横にかわすと同時に作戦を開始する。
(ドン)
(バサッ)
(ドドドド)
(キキッ!)
大小の氷の組み合わせに少しだけバランスを崩したようだ。氷の弾丸が羽根に当たったのが大きい。
(ピョン! ズサッ!)
(キキーッ!)
一連の氷攻撃では落ちて来なかったが、ゲンタのジャンプ力で十分届いたようだ。ゲンタの攻撃が羽根をきり裂き、勝負あった。ゲンタは着地とほぼ同時にトドメを刺した。
「すごいわね。1人でしっかり倒せたわね」
「ありがとうニャ。作戦のおかげニャ」
「これならガトアルデを護れるわね」
「そうなのニャ。それが1番うれしいニャ」
もうじき夕方だ。そろそろガトアルデに戻ろう。
「ゲンタの見事な戦いを見られたことだし、ガトアルデに帰ろうか」
「そうしましょう」
後ろを向いて帰り始めたとき、なんと、もう1匹トカコウが目の前に迫ってきていた。
(ヒュッ!)
(……ドサッ)
一瞬でプリンが飛び上がりつつ、居合抜きでトカコウを倒した。俺たちには見慣れている光景だ。
「珍しく連携して襲ってきたノかな?」
「たまたまじゃないかしら?」
「そうだと思うよ」
「きっと、私たちが広がってゲンタの戦いを見てたから、向こうが気付いただけプイね」
「ニャ……」
平然と会話を続ける俺たちと違い、ゲンタは驚いている。無理もない。
「つ、強いニャ…… ものすごい速さニャ…… しかも一撃ニャ」
「プリンだからプイ」
「そうね。プリンならいつもこんな感じよ」
「そうだな。いつも通りだな」
驚きで開いた口がふさがらないゲンタを連れて、ガトアルデに戻ることにした。




