第76話 ヤマ魔法の特殊性
奥が深いモカ予想を聞くことができたが、ふと現実に戻る。
「じゃあ、接続先の記録地点は一旦インベントリだけにしておくな。エネルギーを消費しそうだから」
「そうね。それがいいわね。それに予想が正しいなら、記録地点はインベントリともう1つあれば足りるかもしれないわね」
「たしかにそうだな」
意識を集中し、忘れるイメージを持つ。たぶんこれでうまくいっただろう。
「じゃあ、インベントリに荷物を戻そうか」
「そうね」
「「分かったプイ(ノ)」」
荷物を順番に戻し、元通りとなった。
「こうやって別の世界に入れたものを取り出せるって特別なんだな…… あれ?」
「どうしたの?」
「俺はいつも、こっちの世界の好きな場所から別の世界の決まった場所につないでいるじゃない?」
「そうよね」
「例えばさ、インベントリの穴から俺自身がインベントリに入ったとして、こっちの世界に戻ってくるときにはどこにつながるんだろ?」
「そうね……」
「コネクトもそうだけど、向こう側の場所は固定でも、こっち側は自由に移動しているよな」
「うーん。自由というわけじゃなくて、エネルギー変換細胞がある近くだわ。エネルギー変換細胞が穴をあけるエネルギー変換を行っているから、そんなには離れられないはずよ。だから、たぶんだけど、今ここでインベントリに入ったら、ここの場所にインベントリ側からはつながるんだと思うわよ。インベントリ側でヤマが動いたら、インベントリ側の穴も動いちゃうと思うわ」
「なるほど! それなら分かる気がする。自分のいる側の世界の穴の位置はエネルギー変換細胞とともに動き、反対側の世界の穴の位置は変わらないんだな」
「そうね。つまり、穴を作っているヤマが世界間を移動することは特別な効果を生むわね」
たしかにそうかもしれない。何かが切り替わるのかな?
でも何か違和感がある。
「……俺が穴をまたぐ瞬間ってどうなるの? 右足が向こう側で、左足がこっち側とか」
「たぶんだけど、どちら側も穴の位置が固定になるわ。あれ? でも、そもそも固定にできないと移動できないんじゃないかしら」
「あっ、そういうことか。そういえばさ、あれを使い始めた1番最初のころなんだけど、俺が動くと一緒に穴も動くことが多かったけど、意識すれば穴の位置をそのままにして動くこともできたから、どっちが普通の状態なのかよく分からなかったんだよ」
「つまり穴の位置って意識したら固定にできるんだよ。俺としてはそれが普通だったんだけど、実は特殊だったのかな?」
「えっ? まさか完全に穴を動かなくする感じにできるの?」
「そうそう。ピタッと止めておく感じ」
「それコネクトじゃできないわよ。穴の形は変えられるから、それを工夫すれば近いことができるけど、固定というより意図的に狙って変形させる感じよ」
「私も固定するのはできないプイ」
「私もナノ」
「そう言われて見ると、水を出すときはできない気がするな……」
コネクトだと自分との位置関係が固定というのが基本な気がする。
確認のために、試しにインベントリの穴をあけ、固定してみる。俺が動いても穴の位置は全く動かない。
「こんな感じなんだけど」
「すごいわ」
「「さすが『私たちのヤマ』プイ(ナノ)!」」
やっぱりこれは特殊だったのか…… 最初からできたから違和感がないままだった。
「その状態でどのくらい離れられる?」
「うーん。コネクトを放てる距離と同じかな」
「なるほどね。なら世界間を移動するくらいの動きなら全然余裕ね」
「これはどう考えたらいいんだろうな……」
「もともとコネクトはつながる先の座標だけが固定なのよ。ヤマ魔法だけが両方の座標を固定にできるのよ」
「そうなんだろうけど、なんとなく、両側を固定するほうが普通は基礎的なんじゃない?」
「あ…… 固定って言い方で誤解させちゃったわね。プリンの家の蔵に固定してるって言っても地球は自転も公転もしているわけだし、宇宙空間で見たら移動しているのよ。だから何に対して固定するかの違いだけなの」
「分かるような分からないような……」
「コネクトだと、つながる先は地球に固定っぽいわね。でもこっち側はエネルギー変換細胞に対して固定するのが標準なんだと思うわ。じゃなきゃ居合抜きとかできないじゃない。でも、ヤマ魔法はこっち側の固定基準も地球にすることができるみたいね」
「なるほど」
「それに、エネルギー変換細胞に対して固定の位置に穴があるなら、ヤマはどう頑張っても穴を通れないわよ。ヤマと一緒に動いていっちゃうじゃない。だからさっき言ったように、そもそも穴の位置を地球とかに対して固定にできないとヤマ自身は移動できないのよ」
「たしかに! ニンジンをぶら下げられた馬みたいに穴を追いかけちゃうな」
「それをやられたウマシカが遠くに走り去ったのを見たことあるプイ……」
「おお…… ウマシカさん…… 思わず俺は同情してしまったよ」
でも、いろいろ分かった。
「要するに、あとは元の世界の座標を登録できれば、行き来できるってことだな」
「そうだと思うわ!」
希望が見えてきた!
◇
ひと仕事を終えた気分で少し休憩したあと、外を見るともうすっかり暗くなっていた。
そこで、晩ご飯といつもの長風呂待ちモードになる。
お風呂上がりでホカホカのモカが現れたあと、俺たちは明日のことを相談することに。
「ラパンでやる必要があることは全部終わったかな? プリンはあと何がしていきたい?」
「特に考えてなかったノ。道場は前に行ったし、マポリンにも会ってきたし、あとは畑で野菜を採ってくるくらいナノ」
「そうね。お野菜は大事よ」
「そうプイね。青パパイヤがあれば最高プイ」
「もちろんあるノ。いっぱい干してあるノ」
「プイィ!」
「じゃあ、明日野菜を採ってきたら、エーンスタットのほうでも行くか」
「そうね。エーンスタットは久しぶりよね。変わってないといいけど」
◇
翌朝、畑で野菜を採り、というかクルルとプリンは畑でも食べ、満足したところで、出発した。
エーンスタットまでの道は久しぶりだ。前回通ってから3カ月、いや、4カ月近く経っているだろう。
そのときはまだ第2施設にも行っていなかったころだ。今はそのときよりも格段に強くなった。
奇襲だけ気を付けて、余裕を持ってエーンスタットまで移動できた。エーンスタットには次の日の夕方、日が暮れる直前に着いた。
久しぶりに見るエーンスタットだ。こちらはたしか西門だ。西門のそばにも宿屋があるため、今日はそちらに泊まることにした。
「エーンスタットは特に用事がないから通過するだけだけど、衛兵施設も行かなくていいよな。一応、明日宿屋の受付で最近キメラが出ていないか聞くくらいでいいような気がしてるけど」
「大丈夫だと思うわ。前来たときにはチップ屋さんにも行ったわね」
「そうだな。モカにもチップが寄生していることを知って驚いたよな」
「そうよ。しかもスロット登録無し状態だったわよね」
「そんなチップがあるノね」
「そうみたいよ。不思議なんだけどね。たぶんだけど、『遺物』のせいよ。私たちがこっちに来たときに寄生したみたいなの」
「『遺物』は謎だらけナノ」
「研究所に行けば少しくらいは分かるかしらね」
「ま、その前に研究所の人たちと仲良くならないとな」
「そうプイ。そのための訓練もしたプイ」
「そうよね」
「明日はガトアルデに行くノ?」
「そうだな」
「私、ガトアルデ初めてナノ」
「私たちが前行ったときはまだプリンに出会う前だったわね」
「大丈夫プイ。私もネコ人のみんなと仲良くなれたプイ」
「そうナノ? なら安心ナノ」
そうか。ウサギにとってもネコは本能的に怖いのかもしれない。あんまりサイズは変わらないけど、草食と肉食だもんな……
クルルも最初は怯えてたが、ゲンタたちのおかげで馴染むことができたから大丈夫だろう。
◇
翌朝、宿屋の受付で最近のエーンスタットの状況を聞く。
「おはようございます。ものすごく久しぶりにエーンスタットに来たのですが、特に変わったこととかないですか? 他の都市みたいにキメラに襲われたとか」
「おはようございますノ。ご安心くださいノ。キメラに襲われたりはございませんノ。最近の流行りは『モカプルン』ですノ。もし、まだ食べたことがないならぜひナノ」
「そうか。エーンスタットにも『モカプルン』は伝わったんですね。俺たちはいろいろな都市をめぐって来たので、食べたことはあるのですが、せっかくなのでちらっと見てから出発します」
「いってらっしゃいませナノ」
エーンスタットでもモカプルンは流行っているようだ。お菓子はすごい力を持っている。
都市の真ん中の十字の交差点のあたりにあるお菓子屋さんでモカプルンを探す。と言っても、探す手間がないほど、目立つ位置にあった。
「いらっしゃいませニャ」
「『モカプルン』がほしいんですけど」
「ありがとうございますニャ。今大人気ですニャ。少し前のドスシウダお菓子作り大会で優勝した有名なお菓子なんですニャ。プルプルしててとってもおいしいのでぜひみなさんで食べてくださ…… ニャ! もしかしてモ、モ、モカ様ニャ!?」
解説し終わる寸前でモカの姿が目に入ったようだ。
直接モカを見たことがあるのか、既にモカの姿が伝説になっているのか……
さすがに反応からすると前者かな。お菓子屋さんにとってお菓子作り大会は大事なイベントなのだろうし。
「あら、気付かれちゃったわね。はじめまして、モカと言います。プルンを売っていただいて本当うれしいわ」
「ありがとうございますニャ!」
「じゃあ、4つくださいな。楽しみだわ」
「分かりましたニャ!」
モカはこの世界でもう知らない人はいないんじゃないかと思うくらい有名人だ。今日のおやつのモカプルンを無事に手に入れた俺たちは北門に向かった。
◇
エーンスタットとガトアルデは非常に近い。前も半日くらいで着いた気がする。エーンスタットを出たあと、今の俺たちの感覚からするとすぐにガトアルデが見えてきた感じだ。
ガトアルデに入ると、以前来たときと大きくは変わらない雰囲気だった。
みんな相変わらず自由気ままで、ゴロゴロしているものや、何かを追いかけているもの、木で爪研ぎしているものなどがいた。
ただ、唯一違うのは、箱が増えていて、外にも置かれていたことだ。もちろん、しっかりと中身はネコ人が詰まっていた……
よく見ると、プリンがソワソワしている。ちょっとこわいようだ。
「プリン。おびえなくて大丈夫だよ。そもそもプリンより強いネコ人はここにいないから」
「ナ!? そういえばそうかもナノ」
自分が強いことも忘れていたようだ。本能とは恐ろしい。でも、強いことを思い出したら落ち着いたようだ。
しばらく歩くと、子どもたちが俺たちに気付いてくれた。
「ニャ! 神様とモカお姉ちゃんとクルルちゃんニャ! ウサ人のお姉ちゃんが増えてるニャ!」
「みんな、こんにちは。久しぶりね! 元気してたかしら?」
「元気ニャ! 箱も増えて、お外でもまったりニャ」
「楽しそうでよかったわ。ゲンタ村長に会いたいんだけど、いるかしら?」
「お屋敷にいるニャ」
「ありがとう。またあとでね」
「はーいニャ」
ゲンタの家というかお屋敷に向かった。ゲンタの家は1番大きいから分かりやすい。
ノックでもしようと思ったとき、後ろから子どもたちの声が聞こえた。どうやら俺たちについてきたようだ。
「ゲンタ村長、神様たちが来てくれたニャ!」
その声が聞こえたのか、お屋敷の中から走ってくる足音が近づいてきた。




