第73話 プルンアラモード
ご飯を食べたあと、まずは催事場に向かってみた。
掲示板には、
『もふもふ狂騒曲、演出ドル、弥生開幕予定!』
と書いてあった。
「やっぱりまだまだ先ね。暖かくなってからね」
「そうだな。それにしても、この演目名すごいな」
「そうね。亜人が入り乱れそうね」
「きっと、最後にモカプルンでみんな平和になるプイ」
「そうナノ」
「そういえば、争いを鎮める話のほうをお願いしたわね」
「弥生になったら観に来るノ」
「そうしましょう。演劇ってどのくらいの期間やってるの?」
「毎回違うから分からないノ。でも1カ月はやっていると思うノ」
「そんなに長くはないわね。遠くにいるとやっている期間に帰って来れなさそうだわ」
「まあ、しかたないんじゃない? あんまり長くやると、観たことある人しかいなくなるじゃん」
「そうね。外から来る人は少ないから、ドスシウダの人がみんな観たら終わりになりそうね」
「マポリンはどこにいるかな? 演劇の稽古でもしているのかな?」
「うーん。見た感じ催事場にはいなさそうだからお家かしら? それともラパン?」
「そのどっちかだと思うノ」
◇
とりあえず、マポリンの家の前に来てみた。
(チリンチリン)
呼び鈴をならした。
「はあい」
(ドタドタッ! ガタッ!)
マポリンはいるようだ。大丈夫だろうか、転んだ音が聞こえた気がする……
「どちら様? あっ! プリン! いらっしゃい! 帰ってたのね」
「昨日、ドスシウダに来たノ」
「演劇の稽古頑張ってる?」
「頑張ってるけど、もうすごく大変なの。稽古がある日は朝早いの」
「マポリンは朝死ぬほど弱いからしかたないノ」
目覚まし時計を使わないのかなと思ったが、よく考えると、この世界で時計を見たことがない気がする。時計がなければ、目覚まし時計もないはずだ。
でも、それなら朝何時に来いとは言われないはずなんだけどな…… 俺がいろいろと不思議に思っていることに気付いたプリンが教えてくれる。
「あっ、マポリンにとって朝早いっていうのは、昼前に来いという意味ナノ」
「なるほど! 納得したよ。細かくいつ頃に来いって言われなさそうな気がしたんだよ」
「そうナノ。朝ごはん前と後、昼前と後、晩ごはん前と後くらいナノ」
「昔は2食だったって聞いたプイ。だから昼だけ、ご飯と関係ない言い方をするみたいプイ」
「そうなんだな。まあ、そのくらいで十分なのか」
クルルとプリンは俺とモカがこちらの世界の常識を知らないことをよく理解しているからちゃんと説明してくれる。むしろ、マポリンが不思議そうな顔をしていた。
「相変わらず常識が通じない世界に生きてるって感じね」
「ヤマとモカだからしょうがないプイ」
「そうナノ。ヤマとモカだからナノ」
「ふふっ、そうみたいだね。その信頼感の強さがみんなの良いところだね」
なんかいい風に解釈してくれたからよしとしよう。
「あっ、マポリン明日時間あるかしら?」
「明日は稽古なの…… 昼過ぎまでだから、夕方なら家にいるかも」
「そうか。じゃあしかたないか。明日衛兵施設の調理場で試しにプルンにひと手間加えてみようと思って。よければ試食してほしいな、って思ったんだけどね」
「ん? 昼過ぎに作って、夕方に帰るようにして、そのとき持ってこればいいんじゃない? 夕方なら今日でも間に合うかも?」
「そっか。そうかもしれないわね。とりあえず宿屋戻って様子見て、今日にするか明日にするか考えるわ」
「えっ、私に何か試食させてくれるの? 楽しみ!」
「じゃ、また来るノ」
「うん、じゃあね」
◇
武器屋に寄って壊した武器の分を補充してから宿屋に戻った。武器をインベントリにしまったあと、モカに聞く。
「プルンの材料とか見る?」
「うん。見たいけど、ヤギ乳はそっと出してほしいの」
「あっ、クリームにしたいプイね?」
「そうなの。泡立てるほど量がなくても、トロッとかけるだけでもおいしいかなって」
「分かった。やってみるよ」
(スー)
超慎重に取り出した。モカがヤギ乳を見ている。
「うん、多くはないけどいけそうだわ」
スプーンで別の容器に上澄みを移している。そういえば、スプーンとかも買ってたな。
「よし、じゃあ、調理場に行くわよ!」
「そうだよな。どう見ても日持ちしない材料だもんな」
「そうなのよ。とりあえず一旦、インベントリの冷蔵庫にしまっておいてくれる?」
「了解」
◇
衛兵施設の調理場に向かった。
昼過ぎなので、夕方までにできるかどうかだ。お菓子作り大会でもやれたのだから、大丈夫な気がするが、どこまで手間をかけるつもりなのか分からないからモカまかせだ。
調理場はまだ晩御飯までには時間があるため、誰も使っていなかった。インベントリから材料を出して、モカがお菓子作りを始めた。
例によって、まずはモカプルン作りだ。ここは、何度も作っているから特に課題はなさそうだ。クルルとプリンも作れそうだという顔をしている。
そのあと、みかんの皮をむき始めた。中の薄皮も丁寧にむいている。缶詰の果物があるわけじゃないので、全部手作りだ。
たぶん、6人分作っているのだろうが、それにしても多いな。まさか、10人分にして、俺たちはボコ隊長とマポリンとで2回食べる計算かな?
さらに、干し柿をスライスしていく。干し柿入りのプリンアラモードは俺は食べたことがないが、おいしい気はする。普通の柿が入っているのは見たことがある。
そうか、干し柿が甘すぎるかもしれないから、少しトロッとした泡立てていない生クリームをかけたいのかな。それか干し柿のほうが弾力があるから、ミルク状のものをかけると柔らかくなるのかな?
でも、全体的に甘さのバランスを整えるのが難しそうだ。モカは迷いつつ、生クリームに黒糖を加えるのをやめた。
「プリン、氷出してくれる?」
「大きさはどのくらいナノ?」
「小さいのがたくさんのほうがうれしいわ。プルンと果物と生クリームをより早く冷やしたいの」
「分かったノ」
氷を使って、冷蔵庫よりも早く冷やすようだ。今日のところはここまでのようだ。ホイップはしないんだな。
「ホイップするにはやっぱり量が足りないかな?」
「量もそうだけど、レイシュトのお菓子屋さんのがおいしかったから、あそこで買いたいわよね。きっと何か工夫しているわよ」
「なるほどね」
「それと、この季節だと干し柿を使うから、甘くなりすぎないようにしたいの。おいしいか分かんないけどね」
「たぶんだけど、バランスを整えれば和洋折衷感が出るから人気になるとは思うよ」
「私もそう思うのよ。だから、今回は単なる試作品よ」
しばらく冷えるのを待った。夕方が近くなってきた。
「そろそろボコ隊長と私たちの分の5個を完成させましょう」
入れ物にモカプルンと、みかんと干し柿をきれいに並べ、その上から生クリームをトロッとかけた。
さくらんぼとホイップクリームがないのは残念だが、プルンアラモード試作品と呼んで恥ずかしくない出来にはなっているだろう。
それを持って、ボコ隊長のところに向かった。
(トントン)
「どうぞワン」
「こんにちは。新しいお菓子の試作品を作ったの。一緒に食べて感想を聞かせてくれないかしら?」
「食べるワン!」
(ブンブン!)
ボコ隊長は激しくしっぽを振り、俺たちのほうにやって来た。仕事は大丈夫なのだろうか……
「これは…… すごい豪華ワン!」
「これはプルンアラモードっていう名前なのよ」
「変わった名前ワン」
「でも、ものすごくおいしそうプイ」
「食べたいノ」
「そうね。みんなで食べましょう」
(パクっ!)
「うまっ!」
「すごいおいしいワン! このトロッとしたものは何ワン?」
「これがクリームの素よ。これをもう少し用意して、泡立てたりするともっとふわっとするの。レイシュトのお菓子屋さんが作っているわ」
「おいしいプイ」
「すごいノ。新しい食べ方ナノ」
「よかったわ。ところで、クリームは甘さ足りない?」
「そんなことないプイ。十分だと思うプイ」
「私もこれくらいが好きナノ」
「よかった。たぶん干し柿の甘さに合わせないといけないから毎回甘さを整えたほうがいいかもしれないわ。干し柿じゃなくて普通の柿だったら甘くするのがいいかもしれないわね。じゃあ、マポリンのところに持っていくのもこれでよさそうね」
あっという間に食べてしまった俺たちはボコ隊長にあいさつして衛兵施設を出た。どうやらマポリンと食べる分はマポリンの家でしあげるつもりのようだ。
「そうだ。プリン。マポリンの家って台所あるわよね?」
「大丈夫ナノ。台所は」
それを聞いてみんな安心した。
◇
再びマポリンの家に来た。まだ明るいから大丈夫だろう。
(チリンチリン)
「はあい」
(トタトタッ)
おっ、今度は軽快だ。きっと俺たちが来るのが分かっていたから片付けをしてくれたのだろう。
「やっぱりプリンたちね。いらっしゃい。どうぞ、入って」
「お邪魔します」
「マポリン、台所少し使わせてほしいノ。最後の盛り付けとかをするからナノ」
「いいわよ。場所分かるよね?」
「分かると思うノ」
マポリンの家の奥に案内され、台所に行った。
気を使ってくれたのか、食べるところを準備しに行ったのか、マポリンがいないうちにインベントリからプルンとかを出しておく。プリンは手慣れた様子でマポリンの台所から食器を出していた。
プリンはこれまでも何回も来ているのだな。
衛兵施設で作ったのと同じように5個作った。やっぱり俺たちの分もあった。もう1個食べたいなと思うくらいおいしかったからよしとしよう。
最後にトロッとクリームをかけて完成だ。
ちょうどクリームをかけているときくらいにマポリンがやってきた。
「わぁ、なにそれ! すごいおいしそうじゃん!」
「そうナノ! プルンアラモードって言うノ。食べたらもっと驚くノ」
「楽しみ! あっちの食卓で食べよう!」
みんなで食卓に持っていき、一緒に食べることに。俺たちは実は今日2個目のはずなのだが、誰もそれを気にしていないのはさすがだ。
(パクッ!)
「うまっ! このトロッとしたものはなあに? めちゃおいしいよ!」
「これがクリームよ。これに黒糖とかを混ぜて冷やしながら泡立てるとホイップクリームになるのよ」
「ホイップ?」
「ああ、それは本物見ないと分からないわよね。レイシュトのお菓子屋さんが作れるようになったの。そのうちこのあたりにも伝わると思うわ」
「本当すごいね。こんな新しいお菓子を生み出せるなんて」
「まあ、モカだからな」
「「そうプイ(ナノ)」」
「モカは『お菓子の神様』って呼ばれているノ」
「前にも聞いた気はするけど、これを食べるとよく分かるよ。こんなの創り出すなんて神様だよ」
「いやあ、私は神様なんて柄じゃないわ。それを言ったらヤマだって『ネコ人の神様』なのよ」
「すごすぎね。よく考えたら『神様夫婦』だったのね……」
「えっ?」
「まあ…… そんなところかしらね」
「ええっ?」
「そうナノ。私は第3夫人ナノ」
「私が第2夫人プイ」
「だよね。そうとしか見えないもん」
なんかモカのメモにあった『将来の』っていうキーワードが取れている気がものすごくするが、もはや気にする必要もないだろう。
というか、こっちに結婚制度があるかすら分からないから、周りから見たら夫婦でしかないのかもしれないと今更気付く俺だった。
「そういえばこのあとみんなはまた遠くに行くの?」
「そうね。モルジクまで行くつもりよ。しばらくモルジクに行ってなかったから」
「たまには里帰りしたいよね」
「そうプイ」
「ドスシウダにもまたそのうち来るわ。できれば演劇をやっているときにね」
「うれしいわ。観覧券を4枚用意しておくわ!」
「ありがとうナノ。楽しみにしてるノ」
「稽古頑張ってプイ」
「うん。なんか明日から起きれる気がしてきた!」
「ナ!? それは…… これで何回目ナノかな……」
「まあ、マポリンを信じてあげようよ。そのうち、モカが朝起きれる道具を作ってくれるかもしれないし」
「そうするノ。信じてみるノ! ヤマの言う通りナノ」
和やかな雰囲気でプルンアラモード試食会が終了した。




