第72話 対人戦略
なかなか良い案が浮かばない。
武器で攻撃するのもダメ、紐で縛るのも難しい、岩で閉じ込めるのはやりすぎ、水晶だと武器の種類によっては殴られると割れてかえって危ないのだ。
じゃあ、素手で格闘? それもダメだろう。
「武器で攻撃しないのは当然として、俺は素手で殴りあいたくないな」
「そうよね。それに素手で殴って勝てるか分からないわよ。私たち、別に力が強くなっているわけじゃないから」
「それは言えてるな。一緒にいた男の人は、なんていうか冒険者みたいな筋肉マッチョだったよな」
「そうよ。仲間の女の人にすら『筋肉の塊』って言われてたじゃない」
「そうそう。あの2人って絶対仲良しだよな」
「たしかにね。そうだと思うわ」
困ったな。武器でダメ、素手もダメか。
困っているとクルルが疑問を投げかけてくれた。
「ねえ、素手なら水晶割るのは難しいプイ?」
「そうね。素手だとかなり難しいし、下手に殴れば骨が折れたりして危ないと思うわ」
「なら相手を素手にして、水晶の壁で取り囲んじゃうのはどうナノ?」
「いい考えだわ! 相手はこれまでの感じだと人間しかいないわ。だから岩とか氷も使えないはずよ。残りのコネクト単体だと普通の人では武器無しで壊せないわ。あとは、どうやって武器を奪い取って素手にしようかしらね」
なるほど。それならいけそうだな。しかも、こっちには俺がいる。
「それなら俺が適任だろうな。相手の武器をインベントリにしまっちゃうんだ。インベントリならあとから返せるし」
「いいわね。でも、相手が武器を持った状態でしまえる?」
「うーん、危ないかな?」
「インベントリにはこっちから流し込む感じよね? 消すわけじゃないわよね?」
「そうだな」
「なら持っている手も引っ張られて危ないわね」
「そうプイね。じゃあ、みんなで武器をはじき飛ばして、それをヤマがインベントリにしまっちゃうプイ」
「それよ! 前、シェド隊長相手にプリンがやったじゃない」
「おお、シェド隊長相手にできたのなら、ほぼすべての人相手にできるよな」
「間違いないわ。しかも、私が光で目くらましした隙にクルルとプリンで武器をはじき飛ばして、ヤマがインベントリに隠しちゃうのよ。それなら対抗できる人は護り人以外にまずいないわ」
「完璧な作戦だな」
「じゃあ、プリンに武器を持ってもらって、クルルに武器のはじき飛ばし方を練習してもらうか。プリンはもうできるだろうから」
◇
インベントリから量産品の剣を出して準備する。たくさん買っておいてよかった。だが、プリンが少し考え込んでいるようだ。
「……その前に試しに私の小太刀でその剣をはじき飛ばしてみたいノ」
「ん? いいけど」
「……ああ、そういうことね。さすがプリンね」
「?」
俺にはよく分からないけど、モカは理由が分かったようだ。とりあえず俺が剣を持って構える。
プリンが構えると、居合抜きの要領で俺の持っている剣をはじき飛ばす。はずだった。
(ヒュッ!)
(スパン!)
「えっ……」
「やっぱりナノ……」
「剣を斬っちゃったプイ……」
「この小太刀自体がものすごく強いノ」
「今のすごいな! 橙色の光の刃って感じで、当たった感触もあまりなく斬られちゃったよ。木刀のようにはじき飛ばせないほど強いんだな」
「ねえ、ヤマ。これまで施設で交換した古いほうの武器はまだ全部あるわよね」
「あるよ。そうか、この中で1番弱い小太刀を…… これでいいかな?」
「それで合ってるノ」
「じゃあ、もう1回やろう」
プリンが再度構える。繰り出された居合抜きは先ほどと速さはほぼ同じだ。
(ヒュッ!)
(カン!)
攻撃が見えていても、はじき飛ばされそうになるし、手がしびれそうになるほどだ。
「おお、すごい衝撃だ。これは分かってて見えていても握っているのが難しいくらいだな。光でひるんでたら相手に力があってもはじき飛ばせるな」
「よかったノ」
◇
「じゃあ、次はクルルね。クルルはメイスだから、いつものメイスでいけるかしら? でも、なんかダメな気がするわね……」
「そうかな?」
「やってみるプイ!」
今度はクルルが構える。俺も剣を構える。
クルルがメイスで俺が握る剣を攻撃してきた。居合抜きではないため、速さはプリンには劣るが、それでもうまくタイミングをずらして反応しにくくしながら攻撃してきた。これだけでも、普通の人間には回避できないだろう。
(サッ! サッ!)
(ブン!)
(ポキン!)
「えっ……」
「プイィ……」
「そうよね。メイスも強力よね」
「すごいノ」
「そのメイスって剣をへし折るほど強いんだ…… クルルも強いなぁ。じゃあ、こっちならどうかな?」
インベントリから昔使っていたメイスを出した。
「やってみるプイ」
もう1回試すことに。
今度はさっきと少し動きを変えてきた。
(サッ! ササッ!)
(ブン!)
(ガン!)
手がしびれる…… だが、なんとか剣は持ちこたえてくれた。
「おお、こっちもすごい衝撃だ。持ってる手が少ししびれたよ。速さと斬れ味のプリン、威力のクルルって感じだな。これが武器の種類の違いなんだな」
2人とも相手の武器をはじき飛ばせそうだ。あとはうまく連携できるかだな。
「じゃあ、最後に、プリンが相手役として、買ってきた剣を持ってゆっくり動き回り、途中で止まってくれない? 光を受けたときを真似してね。だから、止まるときに少し握る手を緩めて油断してね。プリンが止まった瞬間にクルルは剣をさっきみたいにはじき飛ばして。ヤマはそれを即座にインベントリに入れる役ね。私はそのすぐあとに、プリンを水晶で閉じ込めるわ」
「おお、それで完成形だな。光との連携はいつも見てるし、そこはやらなくても大丈夫だよな? まぶしいし」
「大丈夫だと思うプイ」
「私は慣れてるから大丈夫ナノ」
「よし、やってみよう。水晶で危ないときは俺がすぐ助けるから」
「ちゃんと空気穴はあけるから息はできるはずよ」
「分かったノ」
これが最終テストだ。
まずはプリンが剣を持って動き回る。普通の人にはゆっくり…… には絶対見えないと思うが、俺たちにとっては十分ゆっくりだ。プリンはタイミングをはかって、突然止まり、クルルがすぐに反応する。
(ヒュッヒュッ! ピタッ)
(サッ! ブン!)
(ガン!)
「ナッ!」
(くるくる…… カタン)
(サッ!)
(スッ!)
(ドン!)
意外と簡単にうまくいった。俺が剣をスッと消すよりも早く、クルルはちゃんと水晶を予想してサッと回避した。さすがクルルだ。それを見てタイミングを合わせてモカが水晶をドンと出したのだ。
プリンは水晶の電話ボックスに入っているみたいだ。
「これすごいな。クルルみたいにはじき飛ばしたらすぐに回避しないとな」
「そうね。さすがクルルね」
「えへへプイ」
「プリン、私の声、聞こえる?」
「良く聞こえるノ。クルルのメイスの衝撃はすごいノ! ああやってすぐに回避しないといけないノね」
「意外と普通に会話できるんだな」
「空気穴をいっぱいあけてあるのよ。プリン、ゆっくりと水晶を押してみて。あっ、ヤマはもし倒れそうならすぐに消してね」
「「分かった(ノ)」」
プリンが両手で軽く押してみた。
「ナ!?」
全く動く気配がない。プリンはこちらをうなずき、そのあと力を込めて動かそうとしている。
「うーんナノ! ナ!? これ本当に重いノ。全然動かないノ」
「重そうだな。俺も動かしてみるか」
(うーん!)
これはとんでもなく重いな。人の力で動かすのは無理だ……
「これなら人なら出られないな。ゾウ系のキメラとかじゃないと無理だと思うな」
「よかったわ。プリン、じゃあ軽く素手で叩いてみて。手をケガしないように強く叩きすぎないでね」
(トントン)
最終は軽くノックする感じだ。全く問題なさそうだ。
(ドンドン!)
次は扉をドンドン叩く感じで叩いたが、これも問題なさそうだ。
そのあともプリンがいろいろな叩き方を試してみるが、さすがに素手ではビクともしない。
「うん、全然壊れないノ。ビクともしないノ」
「完成ね。これならケガさせずに勝てるわ」
「すごいな。じゃあ、そろそろ消そうか。プリンを出してあげようよ」
「ヤマ、よろしく」
水晶部分のみを慎重に消す。これは上から消さないと天井が落ちてきて危ないな。
(スッ)
無事にプリンの周りの水晶電話ボックスはなくなった。モカが声をかける。
「ふふっ、おかえり、プリン」
「えへへ、ただいまナノ」
「よし、これならうまく行きそうだな。水晶の箱は1人ずつのほうがいいよな」
「そうね。2人で協力して押したりしたら危ないかもしれないわ」
この作戦はなかなかいいアイデアだったな。モカもそう思ったようだ。
「ぶっつけ本番にしなくてよかったわね。さすがに戦いながらこれほどの作戦は思い付かないわ。試している間に、ケガさせるか、武器を壊しちゃうか。何かしらやらかさないと無理だったわね」
「そうだな。実際、だいぶ武器を壊しちゃったしな。壊した分を一応補充しておくかな」
「念のためそうしましょうか。準備してても護衛たちの武器を壊しちゃうかもしれないわ。そのときは武器をあとであげないとね」
無事に対人戦略を立てることができた俺たちだった。
◇
ボコ隊長のところに訓練が終わったことを伝えに行く。
(トントン)
「どうぞワン」
「こんにちは。訓練場使わせてくれてありがとう。おかげで良い訓練ができたよ」
「おお、それはよかったワン」
またすぐに俺たちはドスシウダから出発することになりそうだ。
「俺たちは明日か明後日くらいにはまた出かけちゃうかもしれないけど――」
「あっ、でも調理場は使わせてもらうかもしれないわ」
すっかり忘れていた…… 作戦を立てられて満足してしまった。
「そうだった…… じゃあ…… またすぐ来るね」
「ワン? もちろん、いつでも来ていいワン。調理場も使ってもらっていいワン」
「ありがと。おいしいものができたら一緒に食べましょうね」
「楽しみワン!」
(ブンブン!)
「じゃあ、俺たちはご飯食べたり買い物したり、ちょっと出かけてこようかな」
「いってらっしゃいワン」
しっぽをブンブン振るボコ隊長に挨拶をして、衛兵施設から出た。
まずは俺たちはお昼ご飯を食べに行くことに。ちょうど催事場とは反対側だ。
「前にドスシウダに来たときに演劇をそのうちやるって言ってたと思うんだけど、さすがにまだだよな?」
「そうね。前聞いた話だともう少し後だと思うけど、掲示板をあとで見たいところね」
「マポリンにも会いに行くノ」
「そうだな。ご飯食べたら会いに行ってみるか。家にいるかは分からないけど」
ご飯を食べに行くとはっきり分かるのは、こちらの世界は肉料理中心だということだ。日本みたいなところなのに、魚料理が全然ないのだ。
たぶん、湖にはキメラがいるから湖の魚を捕れないのだろう。じゃあ海の魚はなんで食べないのかとも思うが、ドスシウダの場合は海から距離があって、キメラに襲われるから輸送できないのだろう。
そんなことを考えていると久しぶりに魚料理を食べたくなるが、それはここでは簡単には叶わぬぜいたくだ。いつか魚料理を食べられる世界になるよう頑張るしかない。
今日考えた作戦が、そういう未来へとつながっているといいな。




