第67話 護衛
今回はインベントリを堂々と使えないので、リュックを持っていくことにした。だが、モカが『リュックから出し入れする振りしてインベントリから出し入れすればいいのよ』、と名案を出してくれたので、本当に必要最低限のものだけ、リュックに入れた。
東門に着いて少しすると、シェド隊長とモミジさんが来た。
「お待たせしましたワン」
「では、行きましょうか」
東門の衛兵が気付き、あいさつしてきた。
「隊長、いってらっしゃいませワン」
「ここの護りを頼むワン」
「承知しましたワン」
目的は洞窟ではなくシカトラだから、必ずしも洞窟に行く必要はない。だが、洞窟以外で見かけた記憶もないから洞窟に向かうことにした。
前方と、湖側である左側を俺たちが護る。シェド隊長は後方にいる。
いつものように何も気にせずに戦いながら行くわけにもいかないから、周囲を警戒しながら、襲われないようにしよう。
そのおかげか、以前は何回かキメラに襲われた気がするが、今回はキメラから襲われずに洞窟の近くまでたどり着くことができた。
日をまたいでから、改めてシカトラを探そう。そのため、みんなでキャンプをして休むことにした。一応、交代で見張りをしながら。
◇
次の朝、周囲を確認するところから始めた。
「洞窟の外にはキメラはいなさそうでしたね」
「以前戦ったときはどのあたりでしたの?」
「……洞窟の入り口あたりですね」
外に出ていると言うとそれはそれで問題になるので、ある程度正直に言うことにした。
「困ったわね。さすがに洞窟の中は危険よね」
「入り口あたりを見てみるだけならいけそうかワン?」
「うーん。どう思う? モカ」
うかつなことは言えないので、モカに託そう。
「いいんじゃないかしら。しっかり様子を見て、危なそうだったらやめればいいんだから。私たちがいれば入り口くらいならたぶん大丈夫よ」
「じゃあ、行ってみましょうか。初めて洞窟の中を見るわ」
シカトラはともかく、カバガメを見かけたら一応逃げるかな。そう思いながら洞窟の中をのぞいた。
「意外と明るいのね」
「そうなんですよ。なので戦えたんです」
(ピクッ)
「あっちのほうに何かいるノ」
プリンが指差した。
壁の向こうに隠れていて姿は見えないため、何がいるかは分からない。
「シカトラかな?」
「静かだからそうかもナノ」
「においはシカトラだと思うプイ」
「これがシカトラのにおいなのかワン」
人間には分からない次元の話をしているようだ。亜人は優秀だ。
モミジさんは思わず後ずさった。小石とかを蹴って音で気付かれないか不安だが、そもそももう気付かれていそうだ。
「もう、向こうはこっちに気付いているよな?」
「間違いないプイ」
壁の向こうから影が動いてくるのが見えた。ゆっくり忍び寄ってくるようだ。
ついに、顔が見えた瞬間――
(ズザーッ!)
(ヒューッ! ヒューッ!)
「それにしてもいきなりね…… 大丈夫、私たちが護りますから」
「大丈夫ナノ」
「あ、ありがとう」
「た、助かったワン。こんなすごい水の攻撃なんて回避できないワン……」
モカとプリンが、モミジさんとシェド隊長を連れて回避した。
2人は圧倒され、少し足がすくんでいそうだ。このままじゃ危なすぎる。モカからさっそく指示が飛ぶ。
「ヤマ、クルル! 2人を壁で護って!」
「「もちろん(プイ)」」
(ドン! ドン!)
俺が土壁を円筒状に作り、さらにその外側をクルルが岩壁で囲う。もうこれで大丈夫なはずだ。
(ズザーッ! ドドドン!)
壁が気に食わなかったのか、壁に水鉄砲を放ってきた。だが、クルルの巨大な岩壁の前には無力だ。
「シェド隊長とモミジさんはそこで待っててください。倒したら、壁どけますから」
「わ、分かりましたワン」
「あんなのと戦うなんて…… 私はなんて軽弾みなことを…… 本当にごめんなさい…… ズズッ」
壁の向こうで泣きそうな声での後悔の念が聞こえるけど、まあ、俺たちの心配をしてくれていると前向きにとらえよう。
壁を壊せないと分かったシカトラは俺たちに向かってきた。
爪と角での物理攻撃を選択したようだ。
(ブンブンブンブン!)
(サッサッサッサッ)
(ガゥ!)
俺たちは振り回される爪を余裕を持って回避しながら、作戦を相談する。
「どうするプイ? 角を切っちゃうと研究で困るプイ?」
「そうかもしれないわね」
(ブンブン!)
(サッサッ)
「じゃあペチャンコにするのも困っちゃいそうナノね」
「そうだよな。足とか斬り落とすのもやめておこう。できるだけそのままがいいよな」
(ズババン!)
(サッサッサッ)
(ガゥガゥ!)
途中で水の弾丸も混じってきた。全部回避されてシカトラは怒っているようだ。
「やっぱり、首だけ斬り落とすのがいいと思うノ」
「そうね。そうしましょうか」
(ズザーッ!)
(サッ)
(ガゥ!)
「う、うそ!? なんかものすごい戦いの音は聞こえるのに、あんなに余裕で会話できるものなの?」
「あまりにも次元が違いすぎるワン……」
ん? なんか驚かれた気がするけど、今は気にしてもしょうがないか。ここまで連れてきちゃったんだもんな。
「じゃ、倒し方決まったし、なんか向こうも怒ってるみたいだから、終わりにしようか」
「そうね。行くわよ、プリン」
「分かったノ」
(ピカッ!)
(ガ、ガゥ!?)
(ヒュッ! ヒュッ!)
(……ドサッ)
急に攻撃に転じたモカとプリンに全く対応できず、光と居合抜きにより、あっさりと勝負がついた。このクラスなら放電とかを使わなくても余裕だな。前戦ったときと比べても弱いかもしれない。
さて、戦いも終わったし、壁を取っ払おう。
(スッ)
まず、外側の岩壁を消す。土壁を同じように消すのはマズいから、薄くするだけにしておく。
(スッ)
「クルル、メイスで壁をそっと崩してくれる?」
「分かったプイ」
(ズザザッ)
土壁の一部が崩れて、2人の姿を確認できた。
「もう出てきて大丈夫ですよ」
「えっ、も、もう?」
「ワン!? あれは…… すごいワン……」
シェド隊長は、首だけ斬られて他はそのままのシカトラの姿を見て、開いた口がふさがらないという感じだ。
「あっ、そうそう、あれをどうやって持って帰りますか?」
「えっ、あ、ど、どうしようかしら…… 思っていたより大きいわね」
「とりあえず頭だけ持って一旦帰りますか? あとで体のほうは東門のそばにでも俺たちで持っていきますよ」
「あ、ありがとう。そ、そうね。それがいいわね」
あまりのことにモミジさんは全く頭がまわっていないようだ。
「じゃあ、この頭は、力がありそうなシェド隊長に持っていただいて」
「? 分かったワン」
「ここは危ないので、モカとクルルと一緒に、先に洞窟の外に行ってもらってもいいですか? 俺とプリンで、シカトラの体が他のキメラに食べられないように処置しておきますから」
「そ、そうね。お願いしますわ」
「じゃ、私たちは洞窟から少し離れたところで待っているわね。あとはヤマ、よろしくね」
モカたちが2人を連れ出してくれた。
姿が見えなくなったところで、インベントリにシカトラの体を格納した。一応、プリンに氷を出してもらって、腐らないようにしておこう。凍りつかせるとさすがにバレそうだから、冷やす程度で。
処置自体は一瞬なのだが、わざと少し時間を置いてから、俺たちも洞窟を出て、モカたちに合流した。
「処置できましたんで、行きましょう」
◇
帰り道、まだ2人は信じられないという感じだった。
「洞窟から出てきたキメラはとても強いワン。いつもは10倍くらいの人数で倒すワン」
「まあ、犠牲覚悟で戦うならそうなるかもしれないわね」
「ワン?」
「少人数のほうが攻撃をかわしやすかったりすることもあるっていうだけかしら。都市を護るには大人数で壁を作るのが正解だと思いますよ」
モカがうまいこと衛兵のやり方を正当化する。
「洞窟のキメラってあんなに強いんですね……」
「まあ…… 今は落ち着いてるから、危険なときだともっと強いかもですね。そうですよね、シェド隊長?」
「たぶんそうワン。でも、あのキメラは今まで見た中では最強に近いかもしれないワン」
今回は弱かっただけと言ってもらおうかと思ったがそうはいかなかった。
とは言え、やはり、洞窟から出てくるのは洞窟では生き残れそうにないキメラということのようだ。
「キメラもいろいろなので、相性もあるとは思います。私たちみたいに種族が混じっていたほうが有利ですよ」
「それはそうワン。それにしても、圧倒的だったワン」
あのキメラ相手ということもあり、これ以上言い訳してもかえって俺たちの強さを印象付けるだけになってしまいそうだ。
とりあえず、速くトライオラシに戻るのが良さそうだ。モカもそう感じたのだろう。周りへの警戒を促した。
「そう言えば、今、私たちはキメラの頭を持って移動しているので、周りには十分気を付けたほうがいいわね。キメラが肉を狙って襲ってくるかもしれないわ」
「そうでしたワン」
「できるだけ足早に移動しましょう」
「分かったワン」
モカのおかげでそのあとは落ち着いて周囲を警戒しつつ、トライオラシに戻ることができた。
「では、キメラの頭はこのまま私がキメラ研究所の入り口までお持ちしましょう」
「ありがとうございます」
「じゃあ、俺たちはとりあえず今日は宿屋で休んで、明日、体を取りに行ってきます。明後日には戻ってきますので」
2日間時間があいたな。しかも都市の中にいると面倒なことになりそうだ。
あとで何をするかモカたちと相談しよう。
◇
宿屋で、今日はそれほど長くないモカのお風呂を待ったあと、明日、明後日の相談をし始めた。
「一応、明日取りに行くことになってるけど、ヤマはもうキメラの体を持っているわよね?」
「もちろんだよ。さすがに置いたままだとどうやっても食べられると思うよ」
「そうよね。土に埋めておいたってことにするしかないわね。明後日出すときに少し土を付けておいたほうがいいわ」
「たしかにそうだな。そうするよ」
「じゃあ、明日、明後日は暇ね。都市の中にいるわけには行かないし、どうしようかしら」
「そうだよな。湖でまったりするか、普通に洞窟まで往復するか」
「ある程度洞窟のほうに行かないとあやしいわよ。普通に往復してもよいかもしれないわ」
「そうだな。速く着いたら少し中に入ってもいいし」
とりあえず明確な目的はないので、次の日、洞窟に行くことにした。
◇
洞窟には次の日の昼過ぎに着いた。
俺たちだけだと、キメラから逃げながら歩く必要はないので、短時間で移動できた。せっかくなので、洞窟の中を進むことにした。
以前来たときは、たしか崖をどう降りるかで時間がかかった洞窟だ。
その時に結構キメラを倒したので、当時よりもキメラの数は少ない。倒す必要も特にないため、できるだけ遠くで見つけ、回避しながら進むことにした。
すぐに崖まで到達できた。以前はここにカバカメがいた。
「以前は崖の向こう側には行かなかったわね。罠がありそうだったから」
「そうだよな。どうする? 行ってみるか」
「そうね。風だけで行けるけど、岩の橋でも架けない?」
「それいいプイね」
「そうだな。帰りに消していけばいいし」
(ドン!)
立派な橋をクルルが架けた。音でキメラが寄ってくるか、と思いきや来なかった。
「意外とキメラ来ないな」
「そうね。奥のキメラを倒したから、みんな奥に集まって勝負でもしてるんじゃないかしら?」
「そうかもな」
キメラが大会をしている姿を想像しながら、橋を渡った。
橋の奥には小道が続いていた。小道の先は中くらいの部屋のような空間があった。特に何もない、行き止まりのようだ。キメラの姿もなさそうだ。
「なるほど。ここにキメラが待ち伏せしていることもあるんだろうな」
「きっと、ここにいたであろう、クマザルみたいなのが、次のボスキメラになりに奥に行ったのよ」
「じゃあ、そのうち、ここにも新しいキメラが来るよな」
「たぶんね」
「あのとき、何も考えずに崖を渡っていたら、ここにいたキメラに襲われた可能性はありそうだな」
「そうよ。今の私たちなら怖くないけど、あの時の私たちなら危なかったかもしれないわ」
「やっぱり先代の護り人と来るように出来ているよな。それ以外の狩り目的とかで来たらほぼやられる感じになってるし」
「私もそう思うわ。知らないとキメラ有利になる構造が多いわ」
これで、特に見てないところはないかな。
「この洞窟で来てなかったところに来れたし、そろそろトライオラシに帰るか」
「そうしましょう」
だが、橋まで戻ると、橋の向こうにはカバガメが鎮座していた。
「あ、やっぱりこうなるんだね。しかたないから戦うか」
「見逃してはくれないわよね」
「しかたないプイね」
「向こうが水を使う前に、水と放電で気絶させてほしいノ。そのあと一瞬で斬るノ」
「「分かった(プイ)」」
(ザバッ! ビリビリ!)
(ビクビク!)
(ヒュッ!)
(……ドサッ)
カバガメは水をかけられても怖くないと思って油断したようで、一瞬で勝負がついた。向こうが水を使ってきたら放電をやめるつもりではあったが。やはり、前戦った時よりも弱い気がする。
その後、洞窟の外まで足早に出てキャンプし、明日トライオラシに向かうことにした。




