第63話 理想郷?
今度はリコ隊長が聞いてきた。
「ところで、みんなはいつまでフューラスタードにいる予定ワン?」
「特に決めてないけど、出発するのは早くても明日以降かな? 畑にもまだ行ってないし」
「「そうプイ(ナノ)!」」
「なら、お菓子屋さんに寄ってみてほしいワン」
「何かいいものがあるのかしら?」
「モカプルンにあんこを乗せたものが今流行っているワン」
「それ、絶対おいしいやつだ」
「小倉プルンね」
「オグラって何ワン?」
「あっ、そうか…… あんこプルンかしら?」
「『モカあんプルン』ワン」
「なんか、モカのあんこみたいで面白いな…… あっ、まさか! あんこの色って?」
「それは見てみてのお楽しみワン」
これは、うぐいすあんと同じ発想だな。モカは入ってないけど、モカ色のあんこだな。
モカとプリンが混ざったスイーツだ。光と居合抜きで相性抜群の2人がスイーツでもつながるとは。これは楽しみだ。
「あと、もし時間があれば、何かいい戦い方がないか相談に乗ってほしいワン。衛兵はほとんどイヌ人だから土のコネクトしか使えないワン」
「そうだな。俺たちが見たことのあるやり方とか教えてあげるよ。ダン隊長も工夫してたよ。な、プリン」
「そうナノ。私が風を使うことを予想して土を使っていたノ」
「?」
「もし時間あるなら、今から試してみる?」
「お願いしたいワン!」
◇
すぐに訓練場に向かうことにした。今回は手合わせというより、作戦伝授という感じだ。
「まず、風を使うキメラの中には私たちみたいに追い風を自分に当てて、すばやく動くものがいるノ。これまで何度か見かけたノ」
(ヒューッ、ヒューッ)
プリンとモカがゆっくりと見せている。
「そんな使い方があるワンね…… しかも2人も使えるのね」
「本当は4人とも使えるようになりたいんだけど、俺とクルルは風を使えないんだ」
「このとき、相手に向かって風が吹いているから、うまく間に砂をまくと、勝手に当たってくれるノ。ダン隊長の技ナノ。やってみてほしいノ」
(ヒューッ)
(パラパラッ!)
プリンが動くタイミングに合わせて、リコ隊長が土を放った。
さすがにうまい。1発で成功だ。
「すごいノ。ダン隊長と同じで1発でうまくできたノ!」
「これをキメラ相手に決めれば相手は目に砂が入ってひるむわよ」
「すごいワン! でも、全然効いていないように見えたワン」
「あ…… それはプリンだからかしら」
「そうプイ。プリンだからしょうがないプイ」
「そうだな。効いてないのはプリンだから気にしなくていいよ」
「大事なのは、追い風を使うキメラに遭遇した時にうまく使えるかだから」
「……分かったワン」
納得してくれたかはどうかは分からないが、ここはプリンだからとしか言いようがない。分かりにくいが、まあしかたない。
「あとは、本当に最終手段にしてほしいけど、キメラを生き埋めにすることもできるわ」
「ワン? そんなに土を出せないワン」
「1人じゃ無理でも力を合わせたらできるんじゃない?」
「たしかにワン…… どのくらい出したらいいかワン」
「うーん。このくらいかな?」
(ドン!)
「……ワン!? た、たしかにこれなら10人くらいで息を合わせればできるかもワン……」
「強いキメラだとこれの何倍も大きな土を落としてくるときがあるから気を付けてね」
「ワン……」
「もう、ヤマ。リコ隊長をビビらせてどうするのよ」
「あっごめんごめん。俺は同じ土でもこういうかわいいもののほうがずっと好きなんだけどね」
和ませるためにモカ人形を出す。
(ドン!)
「もう、だからなんでわた…… あっ、今回は私でいいけど…… うますぎるのよっ!」
「相変わらずモカへの愛情が深すぎるプイ」
「そうナノ」
「大丈夫。2人のもあるから」
(ドン! ドン!)
「「やっぱりヤマ、プイ(ナノ)」」
「ふふふっ、あなたたちは本当にいつも楽しそうだワン。うらやましいワン」
3人分の土人形が揃ってご満悦の3人と、それを見て笑っているリコ隊長だった。
土の使い方はこんなところかな。土壁はもともと使っていたし。
そうだ、連係技を伝えておいたほうがいいかな。
「あっ、そうだ。もし、ウサ人やモル人とかが衛兵にいたら、風や水と組み合わせることもできるよ。水と合わせると泥を作れて足元を不安定にできるし、風と一緒に使えばこういう事もできる。な、プリン」
(ビューッ)
俺が出した砂のような土をプリンが飛ばして小さな砂嵐にする。
「目がふさがれても、イヌ人なら鼻が効くだろうから、何とか相手の視界を奪うんだ。そうしたら、強いキメラにも勝てるよ」
「……な、なるほどワン。勉強になったワン」
リコ隊長が目をつむっているうちに、さっきの土の塊と人形を消しておこう。俺たちはみんな護りのコートのおかげで砂嵐が全く効いていないのだが、そのことはさすがに内緒だ。
(スッスッスッスッ)
砂嵐が収まったあと、声をかける。
「大丈夫だったかな? 軽めの砂嵐でも結構役に立つと思うから使ってみるといいよ」
「ありがとうワン」
「土の使い方だとそんなところかな?」
「そうね。あんまり一気にいろいろ話しても忘れちゃうから十分じゃないかしら?」
「そうワン。十分だワン。じゃあ、あとは土を片付け…… ワン?」
リコ隊長が周りをキョロキョロしている。
「ああ、もう片付けといたから大丈夫だよ。リコ隊長も忙しいでしょ?」
「ワ、ワン? いつの間にワン?」
「まあ、ヤマだからプイ」
「ヤマだからナノ」
「ヤマだし、しかたないわね」
「……ワン」
リコ隊長は唖然としているが、まあこれもしょうがない。
◇
そのあと、リコ隊長にあいさつをして、衛兵施設を出た俺たち。
このあとは、畑とお菓子屋さんだ。畑に行ったら夕方まで帰れないから先にお菓子屋さんだ。
目当てはもちろん『モカあんプルン』だ。
フューラスタードのお菓子屋さんは都市の真ん中のサークル状の部分にあった。ちょうどサークルの真南あたりだ。
「こんにちは」
「いらっしゃいませナノ」
「あの、『モカあんプルン』がほしいんですけど」
「はい、こちらですノ。今大人気ですノ。これはもともとモカ様という方が作られたモカプルンにモカ様の髪の色を真似たあんこを乗せたお菓子ですノ」
「たしかにモカの髪色に似てるな」
「ほんと良く似てるノ」
「モカのことをリコ隊長から聞いたプイね」
「モカあんって言われるとちょっと恥ずかしいわ。でもおいしそうね」
「これ絶対おいしいと思うよ。買おうよ」
俺たちの会話を聞いて、お店の人が何かに気付いたようだ。
あからさまにあたふたし始めた。
「ナ? 人間お2人にウサ人とモル人のみなさんで、リコ隊長から聞いていた話とそっくりの見た目で、も、もしかして、あなたたちが、そ、そうなのですノ?」
「あ、バレちゃったね。モカ」
「隠してないし、いいわよ。はじめまして、モカと言います。こっちのウサ人がプリンですよ」
「『本家』プイ」
「ナ!」
「違うよ、クルル。『モカあんプルン』はモカが作ったものじゃないから、この店が本家だよ」
「そうよ。これを4つください」
「は、はいナノ! ありがとうございますナノ!」
「あっ、そうそう。今、レイシュトのお菓子屋さんにクリームっていう新しいものの作り方を教えて研究してもらっているの。それができたら、一緒に乗せるとさらにおいしくなるわよ」
「あっ、それも絶対おいしいやつだ!」
「クリームって、レイシュトで味見したあれプイね。あれを乗せたら最高プイね」
「モカが『お菓子の神様』って言われた時のあれナノね。絶対おいしいと思うノ」
「こんなことも教えてくださるなんて、本当に『お菓子の神様』ですノ!」
「ふふっ、これからもみんなで楽しくお菓子を作っておいしく食べましょうね」
「はいナノ! ありがとうございますナノ!」
まさに、モカはお菓子の神様だな。
◇
そのまま畑の休憩所に向かった。
休憩所で『モカあんプルン』を食べてみた。
「これはおいしいね!」
「まぎれもなく小倉プルンね。最高よ」
「おいしすぎるプイ」
「すごいノ」
「やっぱりみんなでどんどん新しいものを作るほうがいいわね。1人じゃ限界があるもの」
「そうだよな。1人じゃできなくても、4人ならできるもんな」
「そうよ」
あっという間に『モカあんプルン』を完食した。
俺とモカはそのまま休憩所でまったりとし、クルルとプリンは畑に出かけて行った。
「この世界って、本当にこのあたりにしか人間いないのかな? 洋菓子がないのは交流がないだけなのかな?」
「遠くにも人がいる可能性はあるけど、交流がないのは確実ね。でも、やっぱりみんな新しいものを求めているわよね」
「すごいよな。あっという間に小倉プルンにたどり着くんだもんな」
「私も驚いたわ。でも、しっかり和洋折衷の方向に行くのがこの世界らしいわよね」
「そうだな。さくらんぼが乗るより先にあんこだったもんな」
「あっ、それいいわね。今度果物も乗せてみるわ!」
「プルンアラモードだな」
「そうそう、それよ! うふふっ」
モカの笑顔が昔から俺にとっては最高の癒しだ。
いつまでも護りたいものだ。
そんなことを思いながら、畑でつまみ食いをしているクルルを見ると、なんと頭の上に小さな蝶が止まっていた。こっちも微笑ましい光景だ。
「クルルの頭に蝶が止まってるね」
「うふふっ、そうね。夢中で気付いてないわね。そういえば、昆虫は普通にいるのね。寒くなる直前か寒くなり始めた頃に飛ぶ蝶はそんなに多くないわよ。だから、もともと昆虫の種類はそれなりにいるんじゃないかしら」
「そうだよな。俺たちも少し畑の中を歩いて他に昆虫がいないか探してみない?」
「万一Gが出たときに退治してくれる私がそばにいたほうがいいんでしょ?」
「いや、別にGくらいなんとでもできるさ。でも…… Gとは関係なく、一緒にいてほしい……かな……」
「大丈夫よ。ずっと一緒だから」
「ありがとう」
「うふふっ」
畑を歩いてみると、この季節だからか、そんなには多くないけど昆虫がいた。もうじき越冬モードになるのだろうが、ちょうどその手前といったところか。キャベツにはアオムシもついていた。この様子だとGもいても良さそうなんだけどな。
「やっぱり昆虫はいるんだな」
「そうよね。Gは見てないけどね」
「まさか、テンがG嫌いで、ってことあるかな?」
「ヤマじゃないんだから、それはないと思うわよ。それに前も言ったけどGは簡単に絶滅しないと思うし、万一絶滅したら生態系への影響が大きすぎるわよ。たまたまこの辺に私たちの良く知っているあの種類がいないだけだと思うわ」
「そうか……」
「ただ、生き物の種類自体は私たちの世界よりずっと少ない気がするわよね。だから、気付かないところで絶滅した生き物は多いと思うわ」
「そうだよな。たしかテンのおかげで1度発展しているんだよな? そのあとキメラとかでいろいろあったけど、そこから1万年も経っているわけか。俺たちの世界もあと数千年したらどうなるか分かんないっていうのと同じかな?」
「そうなのよ。まさにそういう感じなんじゃないかしら。大きく環境が変わってから1万年も経っているのよ」
畑に入ってきた俺たちにクルルとプリンが気付いた。
「あっ、ヤマとモカも来たノね」
「いいプイでしょ?」
「そうだな。たまにはこういうのもいいな」
「何か探してたプイ?」
「うん、ヤマの苦手な昆虫がいないかってね」
「なんて言う虫ナノ?」
「『黒光りする生命体G』だな」
「「?」」
「もう、ヤマったら。私たちの知ってる名前はこっちの世界での名前と違う可能性もあるわ。とにかく、黒光りしてて、平べったくて、カサカサ速く走るの。たまに飛ぶこともあるわ」
「飛んで襲ってくるんだよ!」
「怖いプイ!」
「そんな虫知らないノ!」
「もう…… 襲ってはこないわよ、たぶんね。ただ、こっちに向かって飛んでくることはあるけどね……」
「……どのくらいの大きさプイ?」
「このくらいかな? 長い触覚があるんだよ。食べ残しとかがあると寄ってくるのよ」
指を使って大きさを伝え、地面に簡単なイメージ図を描く。
「……意外と大きいノね。本当に知らないかもナノ」
「私も見たことないと思うプイ。そもそも食べ残しってほとんどないプイ」
「そうか。そういうことか」
「なるほどね。1万年前からあまり発展してないとなると、あれの生息域も広がってないわけね。たぶんもう少し温かい地域にしかいないのよ」
「じゃあ、送り込まれた研究者が驚いても不思議はないわけか」
「たぶんね。だって、クルルやプリンが知らないのよ。人間だって知らないわよ」
俺にとっての理想郷がここにあることが判明した!




