第59話 休日
調理場に入ると先客がいた。
どうやら衛兵施設の料理を担当している人のようだ。調理場は広いので、お互い邪魔になることはなさそうだ。
特に気にすることなく、端のほうの調理台でモカがプルンを作り始めた。すると、先客だった料理人が俺たちの方にやってきた。
「もしかして、ダン隊長が仰っていた方ですかワン? ドスシウダでのお菓子作り大会で優勝された方ですかワン?」
「はい、そうなんです。みなさんに食べていただきたくて。みなさんに渡すために作り方も用意してあります」
そう言いながら、1つ星のバッジと作り方を買いた紙を見せた。
「ワン!? 作り方を教えていただけるのですかワン?」
「もちろんです。ドスシウダとかでは、もう売られていますよ」
「すごいですワン! み、見せていただいてもいいですかワン?」
「もちろんです。せっかくだから、作ってみますか? 材料はありますよ」
「ワン!」
驚き過ぎてワンしか言えなくなっている。まあ、俺たちには見慣れた光景だから驚きはないが。
しばらく、モカと料理人がそれぞれプルン作りに没頭した。どちらも手際がよく、おいしそうなプルンができあがった。
「これが本家の『モカプルン』プイ」
「いつ見てもおいしそうナノ」
「料理人の方のもおいしそうね」
「そうだ。ダン隊長も呼んでみんなで食べましょう」
「私呼んでくるノ」
「ありがとう。食堂に行っているわ」
みんなで食堂に行き、少し待っているとプリンとダン隊長がやってきた。
「こちらへどうぞ」
「ワン? 料理長じゃないかワン。どうしたワン?」
「モカさんから『モカプルン』の作り方を教わったのですワン」
「えっ? 料理長だったんですか?」
「どうりでものすごく手際がよかったわけだ……」
俺たちの前には2人が作ったモカプルンがたくさん並んでいる。
「隊長には2つ食べてもらいましょうよ。料理長には私のもどうぞ。私は料理長の作ったものが食べたいです!」
「どうぞ、初めて作ったものだからおいしいか分かりませんけどワン」
俺たちもプルンを食べた。料理長が作ったものもすごくおいしい。
「これはおいしいな。さすが料理長ですね!」
「そうね! いきなりここまでおいしく作れるなんてすごいわ」
「作り方を書いていただいたからですワン」
「隊長、どうです?」
「ものすごくおいしいワン。こんなお菓子初めてワン」
「『本家』も料理長のもどっちもおいしいプイ!」
「そうナノ!」
それから少しの間、みんなで幸せなプルンタイムを過ごした。
「おいしかった!」
「これからは衛兵のみなさんにも作ってあげてくださいね」
「はいですワン。あ、あの…… お菓子屋にも伝えて良いですかワン?」
「もちろんです。作って町の人にもどんどん売ってください」
「ありがとうございますワン!」
「お菓子屋は料理長の妹がやっているワン。腕はたしかだから大丈夫ワン」
「そうだったのですね。次にフィナルメンシウタットに来たときにはお菓子屋さんで買って食べてみたいです」
「ありがとうございますワン。妹にも伝えておきますワン」
このあと、衛兵施設の中でモカプルンが大流行するだろうということは想像にかたくない。
ここフィナルメンシウタットでもモカが有名人となるのは間違いなさそうだ。
◇
モカプルンを広めた俺たちは衛兵施設をあとにした。
このあとは、お買い物だ。その前に、久しぶりにイノウシの肉をたくさん手に入れたから売っておこう。
雑貨なども扱っている道具屋に行くことにした。大体こういうところで買い取ってくれる。
「こんにちは。キメラの肉を買い取っていただけますか?」
「ニャ? 本当ですかニャ! 見せてほしいニャ!」
「これとかですけど?」
「すごいニャ!」
「そんなに珍しいですか?」
「最近、このあたりのキメラが強くて、肉がなかなか手に入らなかったニャ。本当に助かるニャ。40000エンくらいでどうニャ?」
「えっ? 普段そんなに高いのですか?」
「ニャ? 今は肉が希少だから高いニャ」
「それならいつもの値段にしてください。このあたりのキメラは落ち着いたので、このあとは普通にキメラの肉が手に入りますよ。今、高い値段で買い取ったら困っちゃうと思いますよ」
「本当ですかニャ! なんと欲のない人たちニャ。神様みたいな人ニャ」
「ヤマは『ネコ人の神様』だから、いつもこんな感じプイ」
「そうナノ」
「そうよね。ヤマはこんな感じよね」
「ニャ? ニャ! 『ネコ人の神様』? も、もしかして、あれ持ってるのですかニャ?」
みんなすぐにバラすんだから…… 別に隠してないからいいけど。
「これですか?」
「ニャー! 本当に神様ニャ!」
「ま、まあ、それはいいから、いつも通りの値段で買ってくださいな」
「分かりましたニャ! ありがとうございますニャ!」
結局10000エンほどで買ってくれた。
それでも十分高いと思ったのは俺だけだろうか。でも、ここでこれ以上値切るのも変なので、ありがたくいただいておいた。
次は寝袋だ。
「あと、寝袋を買いたいんですが、売っていますか?」
「ありますニャ。あっちにいろんなものがありますニャ」
「ありがとうございます。見てみます」
「分からないことがありましたらいつでも呼んでくださいニャ」
寝袋が売っているところに行くと、1人用を中心にいろいろ置いてあった。2人用、4人用もあった。
「4人用なんてあるんだな」
「えっ、普通にあるわよ。特に小さい子どもがいる家族とかでは使いたくなるから、あっちでも普通に売ってたわよ」
「なるほどな」
「やっぱり4人用プイ」
「4人用しかあり得ないノ」
「そうね。他を買う気はないわ」
「そ、そう? ま、いいか。じゃあ、これと、あのテントとかどう?」
「いいわね! 雨降ったときとかに良さそうよ」
「そう言えば今まで雨に降られたことないな」
「たまたまプイ」
「そうナノ。運が良かっただけナノ」
「たしか、施設内でキャンプした日に雨が降ってたわよ」
「え? そうなの?」
「だって、次の日に外に出たら地面がところどころぬれてたわよ?」
「全然見てなかった……」
「さすがヤマ、プイ」
「そうナノ。でもこれからはテントでみんな一緒ナノ」
「楽しみね!」
「そうプイ!」
「じゃあ、テントと寝袋ください」
「ありがとうございますニャ。みなさん仲良しなんだニャ」
「そうね。私たちはいつもこんな感じよ」
「さすが神様ご一行ニャ」
な、なんかすごい扱いになってる……
「……じゃあ、そろそろ宿屋に戻るか。荷物しまわないとな」
「そうね」
店を出て歩き始めるとモカがすぐに言う。
「あっ、あとで服買っていい? さすがにそろそろこの格好はこの季節に合わないわ。動きやすさはいいんだけど、少しだけ分厚くしたいわ」
「そういえばそうだな」
「でも、寒くないプイ」
「私もナノ」
「そういえば俺も寒くないな……」
「別に私も寒くはないわよ。単に見た目の問題かしら」
「ひょっとして、護りのコートのおかげ?」
「でしょうね。まあ、モル人やウサ人は人間より暖かそうな毛並みしているから大丈夫なのでしょうけど」
「そうか。試しにコートを引っ込めてみるか…… えっ、さぶっ!」
「わざわざ外で試すからよ。そんなことしたら寒いに決まってるわよ」
よくよく見たら、周りにいる人で人間だけは分厚い服を来ていた。亜人たちはいつも薄着だ。
「そっか。じゃあ、俺はこのままでもいいかな。動きやすいし。モカはかわいい服を買うといいよ」
「ヤマはかわいい格好のモカが見たいだけなんだと思うプイ」
「愛情の深さが違いすぎるノ」
「あ、いや、まあ、見たいけど、でも、周りから変な目で見られるのも困るじゃん」
「見たいって素直に言ってるプイ」
「さすがヤマナノ」
「うふふっ」
焦って言い訳したつもりが言い訳にならなかったらしい。モカが上機嫌だからいいことにしよう……
すぐそばに服屋があったので、そのまま寄った。俺は荷物を持っていたので、外で待っていることにした。
外から見ていた限り、モカはブラウスの上に羽織ることのできるコートや、フリルブラウスもワインレッドなどの暖かみのある色のものをいくつか買っていた。
着たら絶対かわいいやつだ。
クルルたちには俺の心が完全に読まれているようだが、しかたがない。あと、よく見えなかったがクルルやプリンも何か買ったようだ。
俺もコートくらい買えば良かったかな……
よく考えたら、こんな普通の人間の格好であんな風に戦うのはちょっと変かもしれない。だが、逆にそれが俺たちらしいとも言えそうだ。戦いに明け暮れるのは俺たちらしくないからだ。
そのあと宿屋に戻り、買ったものをインベントリにしまっていると――
「はい。これヤマのコートね!」
「えっ? 買ってくれたの?」
「だって、私たちが買っているのを見たら欲しくなるんじゃないかなって。クルルとプリンと3人で選んだのよ」
「「そうプイ(ナノ)」」
「ありがとう! 実はコート買えば良かったな、って思ってたんだ」
「うふふっ」
「モカの愛情の深さもヤマに負けてないプイね」
「そうナノ」
なんかものすごくうれしい!
護りのコートの影響で着なくても全然平気だけど、都市の中とかでは着ていよう。
それにしても今日はいろいろできたな。明日は約束通り畑でゆっくりしよう。
◇
次の日、新しい服に着替えたモカのかわいさに目を奪われていると、クルルやプリンもかわいらしい服に変わっていた。
「みんなかわいいね!」
「モカに聞いて買ってみたノ。ヤマはこういうのが好きナノよね」
「そうプイね」
みんな動きやすさは維持したまま、少しフリルのある服になっていた。うん。たしかにこういうのは好きかもしれない。メイド服は好きじゃないけど、おしゃれな感じは好きだ。
さて、いつまでも見とれているわけにはいかないので、畑に出発しよう。
そもそも畑にかわいい格好で行くというのがいかにもモル人やウサ人の発想だなと思う。
大通りを南に行き、途中で東に曲がった。そのまま進むと北側が一面の畑となってきた。
俺とモカは休憩所を目指した。クルルとプリンは畑の中に楽しそうに入っていき、畑にいる他のモル人、ウサ人と交流していた。
野菜が採れる時期とかは全く分からないが、ここからだと、コマツナ、ニンジン、ブロッコリーなどが食べごろのように見えた。
例によって、クルルとプリンはつまみ食いもしながら、楽しんでいる。微笑ましい光景だ。
「こういう光景を護っていきたいよな」
「そうよね。幸せを絵に描いたような光景よね」
「そうなんだよ。テンがモル人、ウサ人を必要としたのは繁殖のためだけじゃないと思うんだよ。幸せを維持するために必要だったんだよ」
「そうかもね。種族の壁を越えて仲良く幸せになる世界を望んだんだわ。人間同士でいがみ合う私たちの世界の人に教えてあげたいくらいだわ」
「そうだな。まあ、人口が多すぎると問題が起きやすいのだろうけど、でも、壁を乗り越えるヒントにはなるよな」
畑を見ていて気になることがあった。
「あっ、そういえばさ、野菜があるということは、イモムシとかもいるのかな?」
「普通はいるんじゃないかしら? 農薬を使っているようには見えないわよ」
「そうだよな。Gはいないのかな?」
「たしかにね。あの生命力の割に絶滅してたらちょっと不思議よね。このエリアにいないだけなんじゃないかしら?」
「そんなエリアあるの?」
「昔は北海道にはいなかったって言われていたくらいだし、そういうこともあるんじゃないかしら」
「そうか。そういえばここは地球上のどの辺なんだろうな」
「太陽の位置を見る限りだと、日本あたりの緯度よ。経度は分からないけど」
「な、なるほど……(さすがモカ……)」
「スミロドンが生きてたところから遠く離れているというから、日本でも矛盾はないわ。それに、これ以上逃げ場がないというのは、海にたどり着いたということでしょうし、やっぱり日本なんじゃないかしら」
「そうだよな。なんとなくそう思うよな」
「日本の中のどこかかは分からないわ。本州なのかな、くらいでしかないわ」
「まあ、日本のどこでもいいか。あんまり関係なさそうだもんな」
「そうね」
買ってきておいたお昼ご飯を休憩所で食べ、1日まったりと過ごした。こんな休日みたいな日はこっちの世界に来て初めてな気がする。
やはり、施設を全てまわり、クルルたちに俺たちのことを話し、ようやく落ち着いた気持ちになれたのが大きそうだ。
明日からは、研究所の誤解を解くように頑張らないとな。




