第58話 ダン隊長
施設を出て、洞窟の出口に向かった。
歩きながら、先ほどのモカの質問について聞いてみた。
「なあ、モカ。なんでさっき第6施設について聞いたの?」
「なんか違和感があったのよ。フィナルメンシウタットは最後の都市という意味なのに施設は第5なの。なんでかしらって思ったの」
「なるほど。第5の都市という意味じゃないからか……」
「大昔の護り人なら都市の名前の意味は分かったはずだわ。だから、ここが最後なんだと意識できたはずなの」
「そうだよな。長い間に言葉の意味は失われただけだもんな」
「だから、施設名が最後っぽくないなら他にもあるのかなって思ったのよ」
「なるほどな。まあ、でも、第6施設はなさそうなんだよな?」
「そうみたいね。施設が先で後から都市ができたのかもしれないわね」
「そうかもな」
そこまで気にする必要もなさそうだ。
これ以上、この洞窟でキメラを倒す必要もないし、無駄な戦いを避け、足早に洞窟を抜けることにした。
◇
キメラも減っていたため、そのあとは洞窟をすぐに出られた。
まだ昼過ぎくらいだ。このままフィナルメンシウタットに戻れるだろうか。さすがに難しそうだ。
「夜までにフィナルメンシウタットに着けるかな?」
「ちょっと難しいんじゃないかしら? 日も短くなったし」
「そうだよな。暑い季節なら帰れたけど、この季節だと無理か……」
諦めて、洞窟そばでキャンプしてからフィナルメンシウタットに戻ることにした。
強くなっても時間がかかったのは、この洞窟が広すぎるためだ。これだけ広い洞窟を作るのは大変だっただろう。
キャンプしながら、モカに聞く。
「この洞窟って、テンたちがいた時代に作られたんだよな」
「そうでしょうね」
「すごい広いよな。その当時、すごく大変な工事だったんじゃないかな」
「そうよね。ヤマ魔法があっても大変よ」
「なんか機械でも使ったのかな?」
「……なるほど。ヤマ、いいとこに気付いたわね」
「?」
「コネクトって、生物じゃなくても原理的には使えるはずよ。機械に仕込めばいろいろ使えるんじゃないかしら」
「例えば、俺たちをこっちの世界に吸い込んだりとか?」
「そう。あれは私たちのコネクトでも難しいわ。唯一、ヤマ魔法ならできるかもだけど、遠く離れた並行世界を狙ってつなげるのは難しいんじゃないかしら。ヤマが消しゴムを飛ばしたのも狙ったわけじゃないでしょ?」
「たしかに。テンがすごい機械を作って遺した可能性はあるな」
「ええ、そうよ。研究所にいけば分かるわ、きっと」
研究所か…… あの2人とは戦う必要はないはずだけど、最初はどうしても戦いになりそうだな。
「そうだな。そのうち分かりそうだな」
◇
翌朝、洞窟を出発し、昼過ぎにフィナルメンシウタットに戻ってきた。
例によって、今日はモカの長風呂の日だ。聞かなくても分かるから、みんなまっすぐに宿屋に向かうつもりだ。
南門のところで衛兵に声をかけられた。
「おかえりなさいワン! 長い間帰ってこられないから心配してましたワン。でも、隊長がヤマさんたちなら絶対大丈夫だからと仰っていたワン」
「そうでしたか。心配をおかけしてしまったようですみません。いろいろと確認していたもので。明日、隊長のところに報告に行きますね」
「分かりましたワン。隊長にお伝えします」
「ありがとうございます」
そのまま、俺たちは宿屋に向かった。
ちょうどフィナルメンシウタットを南北に縦断するような感じだ。途中でプルンの材料だけ買っていく。モカはプルンとお風呂のことしか頭にないようだった。久しぶりだからしょうがない。
宿屋の部屋に入ると、さっそくモカがお風呂に消えていった。
俺たちも数日ぶりの宿屋でゆっくりとくつろいだ。
モカがようやく戻ってきたところで、明日の話をすることにした。
「明日はとりあえずダン隊長のところに行くけど、そのあとどうする?」
「そうね。たぶんだけど、手合わせ願いますって言われるわよ」
「ありそうだ…… あの2人の叔父さんだもんな」
「やっぱりここはプリンの出番よね。2人と手合わせしたのはプリンだから」
「分かったノ」
「それが終わったら、畑かプルンか」
「畑も行きたいけど、プルンも食べたいプイ!」
「じゃあ、明日はプルンを作って、明後日は1日畑でゆっくりするか」
「いいプイね!」
「最高ナノ!」
「いいわね。私たち、ここに来るまであまりゆったり過ごさなかったから、これからはそういう日も必要よね」
「俺もそう思うんだ。たぶん5つの都市ともしばらくは安全なんだろうしな」
「そうだと思うわ」
ゆっくり寝ようと横になって、思い出した。
「あっ、寝袋も探そうな」
「そうね!」
「「楽しみプイ(ナノ)」」
明日以降を待ち遠しく思いながら、俺たちはゆっくりと休むことにした。
◇
翌日、衛兵施設に向かう。守衛のところで特別証を出そうとしたら、声をかけられた。
「おかえりなさいワン。隊長がお待ちですのでどうぞワン」
「あ…… ありがとうございます」
まさかの顔パスだった。そのまま俺たちは2階にある隊長室に向かった。
(トントン)
「どうぞワン」
「おはようございます。戻って来ましたので報告に来ました」
「お疲れ様でしたワン。こちらへどうぞワン」
例によってソファに案内された。
「思っていたより長く出られていたので、衛兵たちが心配してましたワン。でも、私は大丈夫だと確信していましたワン」
「ご心配おかけしました。洞窟の中が思っていたより広くて、時間かかりました」
「洞窟の中にまで入られるとは、さすがだワン」
「外に出てきたキメラの話をちゃんと聞いてなかったので、一応入念に調べたんです。たぶん出てきたキメラは入り口そばにいたクマガメだと思いますが」
「実は私たちもちゃんとは確認できていなかったのですワン。遠くで眺めただけなのですワン。ですが、クマガメで間違いはないとは思いますワン」
「そうだったのですね。それならよかったです。たぶんこれでしばらくはキメラがあふれてくることはないと思いますよ」
「よかったワン。みなさんはやはりあの方たちを継ぐ方たちですワン」
「そうですね。そうなれたらうれしいです」
「力も精神も既に継がれていると言って良いと思いますワン」
「そう言っていただけるとありがたいです」
「……」
あっ、この沈黙はあれだな。
「……あ、あの、もしよろしければ、私と手合わせいただけないかワン?」
「もちろんです。実はそう言われると思ってました。ボコ隊長やリコ隊長とも手合わせをしたプリンとぜひ」
「楽しみナノ」
「あの2人も手合わせいただいたのでしたかワン。それなら遠慮なくお願いできるワン。では訓練場に行きましょうワン!」
ダン隊長はうれしそうだ。
やはり、フィナルメンシウタットでも隊長が1番強いのだろう。つまり、自分より強い相手と訓練する機会は少ないはずだから、この機会を逃したくないだろうし、そもそも俺たちの力を知りたいのだろう。
今回は俺たちの模擬戦まで見せなくてもいいと思うが、いつかそういうのもありかもしれない。
1階に下りて、訓練場に向かった。
そして、訓練場に着くと、いつものように木刀を渡された。
プリンとダン隊長が訓練場の真ん中で向かい合う。さすがにプリンが負けることはないだろうが、ダン隊長はボコ隊長やリコ隊長より強い気がなんとなくする。
「プリン。ケガはさせちゃダメだけど、油断もしちゃダメよ。ダン隊長はボコ隊長やリコ隊長より絶対強いわよ」
「私もそう思うノ。ダン隊長、コネクトも使った全力で来ていいノ」
「もちろんそのつもりワン。昔、ノエ殿に手合わせいただいたときを思い出すワン」
「師匠と手合わせしたことがあるノ?」
「ありますワン。手も足も出ませんでしたが、いい経験になりましたワン。その時のことを参考に戦わせていただきますワン」
「なるほど。それは強敵で戦い甲斐があるな、プリン」
「そうナノ! 楽しみナノ!」
「では、行きますワン!」
2人が木刀を構え、模擬戦が始まった。
始まったはずだか、ダン隊長は動かない。
この点はボコ隊長とリコ隊長と一味違うようだ。ダン隊長はプリンの動きを観察しているように見える。だが、プリンも微動だにしない。
(ドン! パラパラ……)
しばらく見合ったあと、ダン隊長が土のコネクトを使った。2人の間に居合抜きを防ぐように壁となるものを作るとほぼ同時にプリンの上から砂のようにまき散らしたのだ。
おそらくプリンの視界を防ごうとしたのだろう。護りのコートを着ているプリンには効かないのだが、それはさすがに気付かないだろう。
そうとは知らずにダン隊長は突っ込む。
(サッサッサッサッ)
なるほど。目標を絞らせないようにギザギザに走っている。
だが、当然プリンはちゃんと追えているようだ。まだ微動だにしない。ダン隊長の木刀が振り下ろされるまで待つつもりだ。
ダン隊長もそれが分かってるのか、そのまま突っ込む。
(カン! カカン! カカカン!)
おっ、さすがにダン隊長のほうがボコ隊長たちより剣の動きが速い。だが、プリンは余裕を持って受け流している。
そこに徐々に土の弾丸が混じり始めた。
(カン! ドドッ!)
(サッ)
(カン! カカン! ドドッ!)
(サッ)
プリンは風すら使わず回避している。
ダン隊長は攻撃が効かないと思ったのか突きを放ってきた。
(スッ)
(ヒュッ!)
(バラバラッ!)
なるほど。かわすときに風を使うのが分かっていて、そこに砂をまいたのだ。プリンに砂がかかった。普通なら目をつぶりたくなるはずだが、プリンには効かない。
だが、チャンスと思ったダン隊長は斬りかかる。
(カン!)
「ワン!?」
(ドン! ドン!)
軽く防がれたダン隊長は驚いて後ろに下がりつつ、土壁を前に出して防御した。
プリンはダン隊長の位置をちゃんと把握しているのだろう。氷の弾丸で土壁を破壊するようだ。
(ダダダダッ!)
「ワン!」
さすがにもう動けないダン隊長。
(ヒュッ! ヒュッ!)
「ワ、ワン!?」
次の瞬間には、複数回の居合抜きのような動きで残った壁を回避しつつ、ダン隊長のもとへたどり着いたプリンの木刀が、ダン隊長ののど元に寸止めされていた。
「す、すごいワン…… 完敗だワン」
「でも、ダン隊長も強かったノ。ボコ隊長、リコ隊長よりずっと強いノ」
俺たちも同感だ。
モカは何か気付いたようだ。
「ダン隊長は、ボコ隊長とリコ隊長の師匠なのではないですか?」
「私もそう思うノ。剣さばきや土の使い方が似ているし、全てにおいてダン隊長が上ナノ」
「さすがですワン。そこまで見抜かれるとは思わなかったワン。それにしても風を使う瞬間に土をまいたり、いろいろ工夫したつもりだったのに全く効かなかったワン」
「まあ、それはしょうがないですね。プリンだし」
「そうね。プリンだもんね」
「そうプイね」
「師匠でも同じだったと思うノ」
「なるほどワン。みなさんはお互いの特徴をよく理解されているのですワン」
「そうですね。私たちはお互いの特徴を理解して協力することで、1人では勝てない相手にも勝ってきたんです。衛兵のみなさんも意識すればできますよ」
「助言ありがたいワン。衛兵たちにも伝えますワン」
ダン隊長との手合わせが終わり、戻ろうとするとダン隊長が言う。
「お待ちくださいワン。私の特別証も受け取ってくださいワン。あなたたちはただ強いだけじゃないワン。その絆の強さは衛兵が見習うべき存在ワン。十分に特別証に値する人たちワン」
そう言うと、懐から特別証を俺たちに渡してきた。
なんと、最初から渡すつもりで準備してたとは。黒色の肉球マークだ。かわいいけどかっこいい、ダン隊長らしいマークだった。
「ありがとうございます。大切にします!」
「またいつでも来てくださいワン。我々も鍛えて強くなりますワン」
「分かりました」
そのあと訓練場をあとにした俺たち。
「そう言えばこのあとどうされるのかワン?」
「あっ、プルンを作りたいので、調理場を借りたいです」
「分かりました。どうぞ自由に使ってくださいワン」
「ありがとうございます」
俺たちは調理場に向かうことにした。




