第57話 1人前の護り人
ついに俺たちのことを話すことができて、肩の荷が下りた気がする。そのおかげかぐっすりと眠ることができた。モカも同じみたいだ。次の朝、すごくすっきりした顔をしていた。
「さあ、鍛えに行きましょうか!」
「そうだな」
「「行くプイ(ノ)」」
洞窟にさっそく向かうことに。これまでと違って新しいコネクトは増えていない。そのため、何か新しいことを試すという必要はなかった。
新しいものはないのだが、全員の反射神経が5以上になっていることもあり、キメラの攻撃をすごくかわしやすくなった。
またイノウシに遭遇し戦い始めたときに、ふとモカが言う。
「キメラってスミロ人に対抗するために作られたのに、なんで人間やその他の亜人にも攻撃的なのかしらね」
(サッ)
(サッ)
「たしかにな。クマはともかく、イノシシとかウシって、人間にとって安全ではないけど、ここまで攻撃的じゃないよな」
俺たちはイノウシの攻撃をよけながら会話している。
「あとで機械に聞いてみようかしら。AI細胞に何か学習させたのかもしれないわ」
「学習させるなら、普通はスミロ人に特化させないかな?」
(サッ)
「しかもキメラ同士も戦うプイよ」
(サッ)
「そうだったわ。純粋に同族以外の生き物に対する敵対心が強いのかしら」
「そうかもナノ」
(サッ)
「ところで、そろそろ倒さないノ? なんかイノウシ疲れてきてるノ」
「あっ、それはかわいそうなことした。プリンよろしく」
(ヒュッ!)
(……ドサッ)
キメラが攻撃的すぎる理由は謎だった。
モカの言う敵対心をAI細胞に学習させたというのが1番納得が行くが、それだけだと少し違和感がある。
「なあ、敵対心がスミロ人に対抗するためとしても、この洞窟に引き寄せられる理由にはならないよな?」
「そうね。それも謎だったわ。でも、どうやって引き寄せているかは分からないけど、引き寄せたい理由は、キメラを強くしたいからよ」
「人間に狩られて絶滅しないためだよな?」
「そう。でも順序が逆なのよね」
「逆?」
「キメラを育てるために、互いに敵対心を持たせ、この洞窟で競わせる、なら分かるわ」
「そうだな」
「でも、ここの施設ができたのは、この地域にたどり着いてからのはずよ。つまり、スミロ人に対抗するために敵対心を植え付けたとしたら、ここで育てるのはそれを利用しただけよ」
「なるほど。わざわざここまで攻撃的にする必要がないということか」
「そうなの。単に攻撃的にする方法しか分からなかったのかもしれないわ。後々、攻撃的にしない方法を見つけたのかもしれないわね」
話しながら歩いていたら今度はクマガメと遭遇した。こいつはさすがにちゃんと見て戦わないと危険だ。
「プリン。岩をよろしく」
「もちろんプイ」
(ドン)
(ピカッ!)
(ブガッ!)
(ドォーン!)
(ヒュッ!)
(……ボトッ)
流れ作業のようにクルルの岩、モカの光、俺が岩を飛ばし、プリンが居合抜きで倒した。洞窟に入って最初に遭遇した個体より明らかに弱い気がする。水を放ってくる余裕すら与えずにすんだようだ。
「そういえば、クマガメみたいに火に有効なコネクトを使うキメラが多い理由は納得だったな」
「そうよね。そういう意味では、私が持ってる光と水晶が例外的なのかしら」
「そうかもしれないけど、光とかがないと、水とかを有効に使えないんじゃないかな?」
「そうね。支援用ね。私にぴったりだわ」
「水晶って、光を集める以外に使い道ないのかな?」
「きれいだからみんなで眺めるとかプイか?」
「たしかにきれいナノ」
「うーん。まさかヤマの放電と合わせて水晶振動子を作るわけじゃないだろうし……」
「「「?」」」
なんか難しいことをモカが言い出した……
「あとはアクセサリーか、ガラスとして窓に使うくらいかしら?」
「まあ、戦いという意味では岩や氷の代わりか光を集めるのが主な役割かな? 透明な壁を作ったりとか。あとは眼鏡みたいにして目を護るとか」
「そうか! あとは望遠機ね!」
「たしかにね。でも、まあ、あまり使う機会はないかな……」
いろいろとこの世界のことが分かってきたが、その分、テンのすごさや、残りの謎の不思議さを改めて感じる。
鍛えるために洞窟に潜っているはずなのだが、結局みんなであれこれ考えている時間のほうが長いのが実態だ。
◇
数日経ち、そろそろいいだろうと思い、再び第5施設を訪れた。
まずは、どこまで能力を上げられるか確認した。結果、以下のように、無事に全員上限まで上げられた。
◆◆◆
(ヤマ)
現在スロット数30
スロット数は現時点の最大
スロット登録内容
解析不能1
放電1
思考速度6
動体視力6
反射神経6
形状生成能力5
放出能力5
護りのアクセサリーコネクト登録(最大2)
土
水
◆◆◆
◆◆◆
(モカ)
現在スロット数30
スロット数は現時点の最大
スロット登録内容
水晶1
思考速度10
動体視力4
反射神経5
形状生成能力5
放出能力5
護りのアクセサリーコネクト登録(最大2)
光
風
◆◆◆
◆◆◆
(クルル)
現在スロット数30
スロット数は現時点の最大
スロット登録内容
水1
思考速度4
動体視力10
反射神経5
形状生成能力5
放出能力5
護りのアクセサリーコネクト登録(最大1)
岩
◆◆◆
◆◆◆
(プリン)
現在スロット数30
スロット数は現時点の最大
スロット登録内容
風1
思考速度4
動体視力5
反射神経10
形状生成能力5
放出能力5
護りのアクセサリーコネクト登録(最大1)
氷
◆◆◆
俺は平均的に高めた。モカとクルルとプリンはそれぞれ思考速度、動体視力、反射神経を最大まで上げるという、それぞれに合った上げ方をした。
これで俺たちは護り人として、ようやく1人前の状態になったと言えるだろう。特にプリンにとっては、感慨深いものがあったようだ。
「これでようやく師匠に追いついたノね」
「そうよ。よく頑張ったわね」
「そうだな。これからもよろしくな」
「もちろんナノ」
「クルルもな」
「もちろんプイ!」
「私たちだけで5つの施設を巡るのは大変だったわね」
「そうナノ。ヤマ魔法があったからできたノ」
「特殊チップか…… 特殊と言われるだけあって、本当に特別だったんだな」
「……ねえ、ヤマ。そういえば、ヤマ魔法を使ってインベントリ用にプリンの家の蔵を登録しているけど、登録場所を増やせないの?」
「さあ、やってみないと分かんないな。でも、増やせる気はするよ」
「うーん。ラパンに寄って、インベントリの中身を1回全部出してから試してみましょうか。今インベントリがなくなると困るし」
「それがいいと思うノ!」
「どうしてモカはそのことが気になったプイ?」
「もし、2カ所覚えられるなら、私たちの世界への道と、こっちの世界への道の両方が開けられるんじゃないかって思ったのよ」
「なるほどな!」
「すごいプイ! ヤマ、頑張るプイ!」
「そうか。それなら頑張るよ! なんか希望が見えてきたな。護り人としてはインベントリもほしいから、全部で3カ所覚えられるといいな」
これまで全く手がかりがなかった世界間を行き来する方法に対して希望が持てるアイデアだった。さすがモカだ。
あっ、モカで思い出した。まだ聞きたいことがあったはずだ。
「そう言えばモカ、ここで聞きたいことがあったよな?」
「あっ、忘れてたわ……」
モカも思い付いたアイデアに魅了されていたのだろう。聞きたいことを思い出し、機械に話しかける。
「すみません。もう少し聞きたいことがあるのですが、教えていただけますか?」
「私に登録されていることであればもちろん喜んで」
「キメラはスミロ人に対抗するために作られたのに、なぜ人間やその他の亜人にも攻撃的なのでしょうか」
「それはスミロ人がとても凶暴だったことが影響しています。普通の動物の精神状態では恐れをなして逃げ出してしまうからです。もともとスミロは凶暴な肉食動物でした。ですので、人間と混ざってスミロ人になったあとも、他の動物にとってはとても恐ろしい存在だったのです」
「なるほど。それで、逃げることを意識しないほど、自分と違う種族全てに対する敵対心をAI細胞に学習させたのですね。そう言えば、小さいのに大きな動物にも向かっていく凶暴な動物とかも聞いたことあるわね」
「詳しい情報までは登録されていませんが、スミロ人に対抗するためにAI細胞に工夫を凝らしたとされています」
「その敵対心を消すことはできますか?」
「AI細胞の初期化はできますが、初期状態で埋め込まれたものを消すのは難しいと思います。少なくとも、消せたという話を聞いたことがないからです」
「そうですか…… キメラの敵対心を消すのがキメラと人を共存させるのに1番良いと思ったのですが、難しそうですね」
「はい。残念ながら」
「恐怖心を抑えるために敵対心を埋め込むのは分かりますけど、スミロ人に特化させなかった理由は分かりますか?」
「その情報は登録されていないから分かりません」
「特定の種族への敵対心を持たせるのが難しかったのかしらね」
「その可能性はあります。実際、あとで生み出されたモル人やウサ人たちにはそういう敵対心はありません」
「そうよね。あと、この洞窟にキメラが引き寄せられるのはなぜですか? この施設が原因なのですか?」
「その情報も登録されていないから分かりません。ただし、この施設が原因でないことはたしかだと思います。なせなら、これまで1度もこの部屋の扉をキメラに攻撃されたことがないからです」
「なるほど。たしかにそうですね……」
やはりキラキラの鉱石に引き寄せられているのだろう。理由は分からないが。
「最後にもう1つ。テンの妻のマリはどんな人だったのでしょうか?」
「詳しい記録は私には残っていません。ですが、大変優秀な研究者だったはずです。ユリよりも優秀だった可能性が高いです」
「そうなのですね…… そうか。特殊チップの危険性をテンよりも先に見抜いたんですよね」
「はい、そうです」
「……ひょっとしてこの施設を作ったのはマリですか?」
「その情報は登録されていないから分かりません。ただし、マリたちが生きていた時代にここは作られました。今のように文字が登録されたのはかなり後になってからで、ユリの子孫が教えてくれましたが」
「あなたはテンやマリ、ユリに会ったことはありますか?」
「はい、3人とも会ったことがあります」
「つまり、この第5施設に来たことがあるということですね?」
「はい、そうです」
「テンとマリの仲は良さそうでしたか?」
「はい、大変仲が良さそうでした」
(仲が良いのに特殊チップを隠した上にユリに託したんだ。謎だ……)
モカも腑に落ちないようだ。
「そうなんですね…… ん? ところで、ここは最終施設とは呼ばれないのですね」
「そうですね。第5施設です」
「第6施設は存在するのですか?」
「私に登録されている情報では第1から第5までの5つの施設のみです」
「そうですか。ありがとうございました」
「どういたしまして」
最後の質問の意味はなんだろうか。あとで聞いてみよう。
目的を果たした俺たちは施設をあとにした。




