第56話 元の世界
いろいろと話を聞けたため、第5施設で休むこととした。
施設内では機械に話を聞かれていることも踏まえ、あまり込み入ったことを話すのを避け、静かに休んだ。
夜が明け、周りが明るくなったあと、施設を出て、外に向かうことにした。
「とりあえず鍛えながら、洞窟の外に出よう。今日は洞窟の外でキャンプして、いろいろと話をしよう」
「そうね」
強くなりすぎたキメラを昨日までに全部倒すことができたのか、単純に俺たちが強くなったのか正確には分からないが、ここにたどり着くまでに比べればずっと楽に洞窟内を歩くことができた。
途中、数匹のキメラに襲われた。
再び出会ったイノトラも第1施設よりは強いと思うが、一昨日よりは弱く感じた。
もちろん、プリンの反射神経がすごく上がっており、全部攻撃を回避できるようになったのが影響していそうだったが。プリンの反射神経は一気に4段階も上がったのだからそう感じても不思議はなさそうだ。
とにかく今日は外に出て、話がしたかったため、迷路を隅々まわるなどの鍛え方はせずに、比較的真っすぐ洞窟の外に向かった。
そのおかげか、昼過ぎには外に出ることができた。
「意外と早く外に出られたな。プリンの反射神経がすさまじく上がっていて、余裕だったからかな」
「えへへ、ナノ」
「あと何日か鍛えて、最大まであげたらキメラは怖くなくなりそうだな」
「そうね。ところで、今日はもうキャンプにしない? いろいろ話したいことがあるわ」
「そうだな。俺もそう思ってたところだよ」
◇
キャンプでくつろぎながら、モカが話を始めた。
「いろいろと新しいことが分かって頭の中を整理するのが大変ね」
「モカですらそうか……」
「そうね。全部教えてもらえたわけじゃないところがまたそうさせているのだと思うわ。たぶん本当にたどり着きたい結論にはまだ届いていない気がするの。整理できたあと、聞きたいことがあればまた聞くことにするわ」
「まだ分からないところも多いんだね」
「そうよ……」
「スミロ人か……」
「私もスミロ人の存在は予想外だったわ。おそらくだけど、メノヴィーアを滅ぼしたのも、プリンの師匠を殺したのもスミロ人の生き残りだと思うの」
「それが1番筋が通るよな」
「うん。ここのキメラを倒せるプリンの師匠たちが、恐れをなすほどの強さ。火のコネクトを使える未知の亜人なら納得だわ」
「それにあの傷だよな」
「スミロドン、いえ、スミロかしら。動物だけの傷にしてはいろいろなところに付いていて少し不思議なところがあったけど、人間が混ざって賢くなり、戦い方も変わっていたのね」
「……今もまだスミロ人は生きているんだよな?」
「そうでしょうね。何人生き残っているかは分からないけど、1人ということは普通はないわよ」
「たまたま最後の1人とかでもない限りな」
「まあ、可能性としてはゼロではないわ」
スミロ人の集団に襲われたら俺たちでも厳しそうだな。
「それに、亜人もキメラもテンが生み出したというのが分かったわね」
「そうなんだよな。キメラを生み出した理由もなんか納得しちゃったよ」
「ただ、テンも未熟だったのか、生み出し方が難しかったのか、結果的に大変なことになったのよね」
「あの遺跡は自らの罪を伝え、懺悔するためだったんだな」
「そうみたいね。自分のせいで、という思いでいっぱいだったんでしょうね」
「でもなんで遺跡を選んだんだろうな?」
「あの状況を見たら、多くの人は同情するわ。でも、テンは、例え、あの状況になったとしてもスミロを恨んではいけない、と言いたかったんだと思うわ」
「なるほどな」
「当時、文字があれば正確に伝わったんでしょうけどね。結局、テンの功績だけが伝わっちゃったのね」
「そういえば、テンは晩年まで研究してたんだよな」
「きっと、みんなで共に生きられる世界を作りたかったんだわ」
「俺たちと同じだな!」
「「そうプイ(ナノ)!」」
◇
そろそろ大事な話をしなくては。モカとうなずき合う。
「で、テンは特殊チップを生み出したわけだ。偶然だけど」
「そうね。マリがいなければ、今の世界はなかったでしょうね」
「テンが支配者になったかはともかく、みんなで共に生きる世界からは逃げることになっただろうな」
「そうなのよね。テンなら支配者にはならなかったようにも思うわ」
「それに、理由は分からないけど、ユリに特殊チップは託された……」
「そこが残った謎の中では1番気になるところかしらね」
「ユリに託されたとき、いざというときは遠い並行世界へ移送すること、遠い世界で託す相手は未来を支配する欲のない人、って決められたんだよな。よく分からないけど、それに当てはまったのが俺ということかな?」
「そうね」
「「プ(ナ)?」」
俺たちはクルルとプリンのほうを向いて、話し始めた。
「たぶん気付いていたと思うけど、俺とモカは遠い別の世界から来たんだ。ダブル爺も俺たちと同じ世界の人間だと思う」
「……やっぱりそうだったプイね」
「なんとなくそうなんじゃないかと思ってたノ。あまりにこのあたりの常識を知らないからナノ」
「今までだまっててごめんね。ダブル爺からのお願いでもあったの」
「プイ?」
「ダブル爺の手紙にはね、最後に『元の世界に帰りたがっていると知ってしまうと、君が大事に思う人ほど、自分の気持ちを隠し、葛藤してしまうだろう。もう帰らないと決意したときか、本当に帰れることが分かったときに初めて伝えても遅くはないだろう。心が通じ合っていれば、きっとその時を待ってくれていることだろう。そう、ブイのように』って書かれていたのよ」
「話してしまったらクルルとプリンに辛い思いをさせることになると思ってな。でも、ダブル爺がブイ婆ちゃんに話したように、俺たちもクルルとプリンに話すときが来たんだよ」
「「?」」
「ダブル爺は年を取って、もう元の世界には帰らないと決めたときに話したのよ。でも、私たちはちょっと違うかしらね。そもそもまだ帰る方法は見つかってないけどね」
「ああ、お互いの世界を行き来する方法を探すんだ。帰るためなんかじゃない」
「そうね。私たちにとってこの世界はとっても大事な場所なの」
「「……」」
「プ……」
クルルが涙を流し始めた。これまでこらえていたようだが、我慢できなくなったようだ。
クルルを抱きしめながら、モカが続ける。
「前から気付いていたのね。ブイ婆ちゃんと同じで本当優しいわね。私たちが話すのを待っててくれたのね」
(コクリ)
「ブイ婆ちゃんに対するダブル爺の気持ちがよく分かるよ」
「プイッ!?」
クルルが泣き声なのか驚きの声なのか分からない声を出した。
一方のプリンも気になっていたのだろう。俺たちに質問してきた。
「……ヤマたちの世界ってどんな世界ナノ?」
「私も知りたいプイ!」
そうだよな。知りたいよな。モカとうなずきあって話し始めた。
◇
「俺たちが生まれた世界では、テンはたぶん幼い頃にスミロに殺されたんだと思う。奇跡が起きなくてさ。だから、発展するまでにすごく時間がかかったんだ。その代わり、今の人間の数はものすごく多いよ」
「どのくらいナノ?」
「80億人くらいかしら」
「オクって何プイ?」
「1万の1万倍ね」
「プ!?」
「つまり、レイシュトが80万個くらいある感じかな?」
「すごすぎナノ……」
「びっくりプイ……」
「私たちの世界にはキメラも亜人もいないのよ。テンが幼くして死んだからだと思うわ」
「テンは本当すごい天才だよな」
「ええ、私たちの世界では1万年も遅れて、AI、つまり人工知能がようやく作られ始めたところよ」
「エーアイって人工知能っていう意味ナノ?」
「私たちの世界のある地域の言葉ではね。でもこちらでもそうだと思うわ。テンが生きてたころはまだ人が多くて、いろいろな地域の言葉が残ってたみたいだから。それが実は都市名にも残ってるのよ」
「そうだったプイか」
そうだったのか。都市名が何語なのかは俺には分からないけど、モカが言うならそうなのだろう。それで都市や施設の順番をモカは予想できたのか。
「それに、人も多くいるけど、食べ物もいろんな種類があるんだ」
「そうよ。実はプルンは私たちは昔から食べていたお菓子なの。本当の名前は『プリン』とか『プディング』って言うのよ」
「ナ!」
「だから、最初にプリンの名前を聞いたときに、プリンに似ている耳の色だから、そう名付けられたのかと思ったくらいだよ」
「そうだったノね」
「それに、ブイ婆ちゃんの名前もな」
そう言いつつ、Vの字を地面に書いた。
「ブイ婆ちゃんって、こんな模様が髪にあったんじゃない?」
「そうプイ! なんでヤマが知ってるプイ?」
「俺たちの世界ではこの文字はブイとかヴィって読むんだよ。当然、ダブル爺もそれを知ってたはずさ。ブイ婆ちゃん、というか当時はまだ若くてかわいいブイさんを見て、真似してダブルと名乗ったのさ」
「プ? えっ、じゃあダブルっていうも、もしかして文字の読み方プイ?」
地面のVの字にもう1つVをくっつけてWにした。
「これがダブルさ」
「プ!」
「すてきな話ナノ!」
「名前を聞かれて思わずダブルって名乗っちゃったそうだよ。本当の名前は手紙にも書いてなかったよ。だから、ダブルとして生きるって決めたってことだな。ブイ婆ちゃんの名前の由来が文字じゃないことを知ったのは名乗ったより後のことみたいだよ」
それにしても不思議なつながりがあるものだ。
「不思議なことに俺たちがいた世界と、この世界はいろいろつながっているみたいなんだよ」
「たぶん生体AIチップの影響だわ」
「どういうこと?」
「エネルギー変換細胞を通じて感じた並行世界のことを、AI細胞が無意識のうちに感じさせたのよ。だから、文字の読み方やプリンを知らないのに、なぜかそういう名前にしたくなったのよ」
「そう言えば、生まれた私を見てプリンという名前がすぐに浮かんだって聞いたノ」
「なるほどな。それなら不思議なつながりが理解できるな」
「他には何かこっちの世界と違うところはあるプイ?」
「そうだな…… あまりに違いが多すぎて……」
「そうね。いつか招待したいわね。町中を歩くときはコスプレってことにすればいいわ」
「思い切ったこと言うね、モカは。でも、それが早いかな」
「「楽しみプイ(ナノ)!」」
「あとは、例えばだけど、電気を使って明かりを照らすから夜でも明るいし、大きな乗り物で空を飛んだりできるんだ」
「そうそう、月に人間が行ったこともあるのよ」
「プ?」
「月って、空にある月のことナノ?」
「そうだよ」
「すごいノ……」
「そう言えば研究所でも明かりがあったけど、あれはどんな仕組みなんだろうな?」
「たぶん光のコネクトみたいなものよ。そういう機械があるんじゃないかしら」
「なるほどな」
「こっちではテンの発明が長く使われているけど、テンがいなかった世界では長い時間をかけて別の方法で実現したのよ」
「そう言えば研究所に連れて行かれたって前言ってたプイけど……」
「それは本当の話よ。私たちが別の世界でいろいろ試してたら、急にこっちの世界にある研究所の部屋に吸い込まれたの」
「しかも、偶然じゃなくて、研究所の人が俺を狙って、引きずり込んだみたいなんだ」
「まあ、向こうはヤマを侵略者と勘違いしたみたいなんだけどね」
「そうなんだよな」
「「?」」
「土を消したり俺はできるでしょ? あれで間違って小さな昆虫とかをこっちの世界に送り込んじゃったんだよ…… そのせいで、ね……」
「ふふっ…… ふふふふっ」
思い出したのかモカが笑い出した。
「ヤマがドジなことしちゃったのよ。昆虫が怖かったんだよね。ふふふっ」
「「プ(ナ)!」」
「もう、恥ずかしいから言わないでよ!」
「どうせこのあと研究所に行けば分かる話よ」
「あっ、そうか……」
「このあと研究所に行くノ?」
「さすがに勘違いされたままじゃ困ると思うの」
「モルジクの近くプイ?」
「そうだな。いきなり研究所行かなくても、モルジクとかに寄りながらでもいいんじゃないかな?」
「そうね。他の都市が安定しているかも気になるしね」
「そうプイね」
「まあ、次の最後の目的地を北のほうにある研究所にして、間にある都市と町に寄りつつって感じで行こうか」
「そうしましょう」
「「分かったプイ(ノ)」」
「あっ、その前に鍛えて最大まで能力向上するのが先ね。ついでに何か聞いておきたいことを考えておこうかしら。そのあとは、フィナルメンシウタットに戻って、ダン隊長に報告しなきゃね」
「モカプルンも作るプイ」
「そうよ! それ大事なことよね!」
「畑にも行きたいノ」
「行きたいプイ」
「そうだな。次の目標に向けて動くのはフィナルメンシウタットでゆっくり過ごしてからにしよう」
次の大きな目標と今やるべきことが決まった。




