第53話 迷路
さらに奥に進むと、やはりドーム状の場所に出た。
今度はキメラがいない。出口は2つ。正面と、右手前だ。正面はともかく、右手前は戻る方向だ。
これは完全に迷わせるための作りだ。
ここまでずっと左に来ているので、迷わず真っすぐ進むことに。
すると、やはりドーム状のところに出たが行き止まりのようだ。
道の候補が減って半分うれしい気持ちでいると――
「久しぶりのイノウシね。今日の晩御飯よ!」
「そうだな」
イノウシもイノトラ同様、これまでで1番強いだろう。ご飯にしたいから、岩と俺のコネクトという組み合わせはやめて、イノトラと同じように斬る作戦にしよう。
イノウシは基本は突進というのは変わらない。だが、風の威力が上がっていて、速い!
(ダダダダッ ヒューッ)
「ヤマ、危ない!」
(ビューッ!)
モカが俺の回避を助けてくれた。危ないところだった。
だが、猪突猛進で、すぐには折り返してこない分、まだ戦いやすい相手だ。
「あの速度で居合抜きを当てるのは難しいかもな」
「こうなったら光で焼くわ。光なら速いから」
「なるほど。ひるんだところで、プリンか俺が斬るよ」
「それまでは何とか気をそらして」
「まかせてナノ」
プリンが前に出た。かわし続けるつもりだ。
いざというときのために俺とクルルはいつでもコネクト発動できるように俺は待機する。
(ダダダダッ ヒューッ)
(サッ)
イノウシはプリンの挑戦に気付いたようで突っ込んできた。まるで闘牛だ。何度も繰り返されたが、見事にプリンが毎回ぎりぎりでかわしている。
その隙にモカはイノウシの首元に集中させた光を当てていた。
プリンが3、4回かわしたところで、ついに煙が出始めた。
(もくもく……)
(ブヒッ!?)
(ヒュッ!)
(……ドサッ)
ひるんだイノウシの隙をプリンは逃さず、無事に倒すことができた。
洞窟内で燃やしたままはマズいので、水で消火しておこう。
(ジョボボボ)
(シュワ……)
「思ったより強かったけど、いい晩御飯になりそうだな」
「そうね。だいぶ探索したし、一旦戻る方向に行きましょうか」
◇
1つ手前のドームに戻り、今度は左奥、つまり行きに進む方向に対しては右手前の戻る側の道に入った。
その先もやはりドームの部屋で今度は正面と左手前に道が見える。左手前は行きの視点で見ると右奥のはずだ。
ここにもキメラがいないから先に進もうとしたところで、モカが言ってきた。
「不思議ね。さっき、左側を進んだときに右奥に進む道があったでしょ。でも、今右側を帰ってきているはずなのに、そっちからの道はずっとないわよ」
「まさか、立体交差?」
「そのようね。何か紙にでも書かないと迷いそうだわ」
「紙ならあるよ」
インベントリから余っていた紙を出した。
モカはここまでの道を図にしてくれた。
図にするとそんなに複雑ではないことが分かる。だが、途中でキメラと戦ったりもするわけだから、人形を置いていかなかったら分からなくなっていただろう。
距離的には、このまま真っすぐ行くと、最初の3つの通路があったところに戻りそうだ。
そのまま進むと、予想通り、元のところに戻れた。さすがモカだ。
「なんとか元のところに戻れたわね。ここから洞窟の入り口までも結構あったから、1度戻りましょう」
「そうしよう。イノウシの焼き肉を食べよう」
「いいわね」
洞窟の外まで出ると、夕方に近くなっていた。
1個1個のドームが広いのに、迷路になっていてなかなか大変な洞窟だ。
そう思いながらも、キャンプでは久しぶりのイノウシの肉を堪能した。
そのあと、寝るときになって、寝袋を買ってくるのを忘れたことに気付いた。
「あっ、寝袋探すの忘れたね」
「まあ、いいんじゃない?」
「そうプイ。くっついて寝るプイ」
「そうナノ」
そう言うよりも早く密着モードの3人。
クルル、プリンはともかく、モカまで密着モードだ。
実はモカはモル人なのではないか、とちょっと思ってしまった。
そういえばクルルと出会った頃に野菜談義してた姿が大きなモルモット同士みたいだったな、と懐かしく思う。
結局、しっかり密着して夜を過ごした。もふもふのあったか毛布にくるまれているようで幸せだった。
◇
翌朝、今日は迷路を攻略しようと、まずは足早に3つの通路の部屋に向かった。
昨日、倒したおかげか、今日はキメラはいなかった。
「昨日は左側から行って、真ん中に帰ってきたわ。残る可能性は左側から右側に行く道に行くか、真ん中から右側に行く道か、ここから右側に行くかね」
「なんとなくだけど、左側か真ん中のどっちかは右側から行くところにつながってないかな? どっちも右に行くんでしょ?」
「そうね。右側に行って、左側に行く道があればそうかもしれないわね」
「じゃあ、右側に行くプイね?」
「そうしましょうか」
今日は右側の道に進むことにした。
やはりこちらの道もドーム状の部屋につながっているようだ。1つ1つが小さめの競技場くらい広いし、ドームとドームをつなぐ道も長いから、道を確かめるのは大変だ。
着いた先の部屋は出口は1つしかなく、キメラもいなかった。
安心して次の部屋に向かった。
さらに次のドーム状の部屋にもキメラはいなかった。だが、道が正面と左奥に分かれていた。
左手前ではなく、左奥だ。
「うーん。左奥だと、昨日行った道とはつながらないか、途中で曲がっているかどちらかね」
「ややこしいな……」
「大丈夫よ。紙に書いているから」
ドーム状の部屋に着くたびにモカは紙に書いていた。
「ひょっとすると、左側の通路からの道と合流する部屋があるのかしら」
「そこが目的地かな?」
「いや、湖までの距離から考えると、もっと奥よ」
「そっか……」
「どっち進もうかしら?」
「とりあえず左行く? これまでも左側から行ってたから」
「そうね。そうしましょう」
行き先を決めるとクルル人形を入り口側に置いた。
左奥の通路を進むとやはりドーム状の部屋に着き、今度は向かって左奥と、右手前寄りに通路があった。
「あっ、あの左奥の通路はきっと左側の通路につながっているわ。それにここにくるまでにだいぶ道が上っていたから、やっぱり立体交差なんだわ」
モカなら紙に書かなくても道が頭の中でできあがってそうだ。俺とクルルとプリンはモカ作成の地図を見て納得した。
「なるほどな。じゃあ、右手前のところ行くか。あっちが最初のところから見て右奥だよな」
「そうね。行ってみましょう」
1番奥につながっているといいな、という期待を持って進んだが、その期待はもろくも崩れ去ることになった。ドーム状の部屋に着いたが、行き止まりだった。
しかも、キメラがいて、こちらをにらんでいた……
「あれは、どう見てもクマトラよね。絶対強いわよ……」
「背中見せたらダメなキメラだよな」
「そうよ」
「あの爪と牙を見ると居合抜きは危険かもしれないな。反撃されたらきついよな」
「気絶させられるかどうかね。それが難しければ岩とヤマ魔法しかないわ」
「そうだな。これだけ広い中でどうやって当てるかだな」
「2人とも、くるプイ!」
(ダダダダッ!)
クマトラが突進してきた。広がって体勢を整えつつ、プリンが氷の弾丸を放つ。
(ドドドッ!)
軽く打つところを見ると、半分様子見だろう。クマトラは氷を腕ではねのけつつ、巨大な岩をプリンの上に出してきた。
(ヒューッ!)
(ドン!)
プリンはあっさりと横にかわした。プリンのおかげで岩を使うことが確定した。
(ん?)
クマトラの目の色が変わった気がする。そうか、2種類のコネクトを使ったからだ。
こいつ賢いぞ!
「気を付けて。こっちの強さに気付いたみたいよ」
「そうみたいだな」
(ビュン! ビュン! ビュン! ビュン!)
(サッ…… ヒューッ! ヒューッ! サッ)
「うぉっ! 一気に4人に岩攻撃かよ」
プリンとモカは風で、俺とクルルは動体視力の良さで回避する。だが、回避されることは想定済みのようだ。
風を使うかのあぶり出しだったようで、風を使わなかった俺とクルル狙いにするようだ。
「ヤマ、クルル、上よ!」
(サッ! サッ!)
(スパン! スパン!)
(!?)
必死で回避する俺たちを水の刃が支援してくれた。
水の刃は予想外だったようだ。モカが即座に見抜き俺たちに伝えてきた。
「合わせ技が有効よ!」
水と風の合わせ技はもう使った。やはり、岩と俺のコネクト、光と居合抜きか。
いや、もう1つある!
俺はブーメランを取れる位置に手を伸ばしつつ、プリンに目で合図した。
プリンはハッとしつつ、意図に気付いたようだ。やりとりを見ていたモカも気付いたようだ。
「クルル、水でできるだけ動きを防いで、ヤマ、プリン、行くわよ!」
「分かったプイ」
(ズバババン! ズザーッ!)
(サッ! サッ!)
クルルの水がさく裂するが、クマトラが巧みにかわしている。ただし、かわす方向を誘導しているようだ。モカがそれを予測して、光を使う準備をしているようだ。
俺も今がチャンスだ。
「クルル、モカが動いたら大きな岩だ!」
そう言うのとほぼ同タイミングで、連携技が始まった。
(ピカッ!)
(よし、今だ! 行け、ブーメラン!)
(ガゥ!)
光は効いたか効いてないか分からないが、プリンが突っ込んだ。普通なら危険な賭けだ。クマトラはそれを予想しているような雰囲気がある。
(ヒュッ!)
居合抜きがクマトラに迫る。だが、クマトラは強力な腕と爪でプリンを返り討ちにしようと動く。
そのとき――
(クルクルクル!)
(ガゥ!?)
(ヒュッ!)
(ガ……)
ブーメランが突如クマトラの視界に入り、驚き、ひるんだ。その瞬間を逃さず、プリンの居合抜きがさく裂した。首元に大きなダメージを与えることができた。
まだだ!
(サッ……)
(ドン!)
(ドゴォーン!)
クルルが巨大な岩を出した。それをダメージを受けた身体なのに軽々とかわしたクマトラだが、そこに俺のコネクトの追い打ちが来るとは予想していなかったのだろう。これがトドメの一撃となった。
「ふぅ、強かったわね……」
「そうだな。いつもここの洞窟はこんなに強いのかな」
「いや、いつもより強いのだと思うわ。いつもはここまで強くなる前に護り人が来るのよ」
「なるほどな。ということは俺たちも全力じゃないと危ないってことだよな」
「そうね」
「ヤマ魔法があってよかったノ」
「そうプイ」
「たしかにそうかもな。これ無しはきついよな」
「たぶん、第5施設まで行ってもヤマ魔法無しだとこの強さはきついわよ。今以上のコネクトって、もはや火とかマグマとかしか思い付かないもの」
「火はともかくマグマは危険過ぎて使えないよ。雷と同じでコントロールできないんじゃない? 万一岩とかで飛び散って自分たちにかかったら大やけどだし、そもそもつなげた瞬間に噴火に巻き込まれるようなもんだよな」
「そうね。マグマはないかしらね。火のコネクトだと、こういうキメラでもいきなり焼き払う感じになるのね。ぬれていないかぎり、ほぼ一瞬で勝負がつくわ。怖いわね……」
「強力な火だったら熱も含めたらほとんど回避できなくないか? 水をかぶって、風を使って道を開きつつ逃げるしかないよな」
「そうね。4人とも水と風の両方が使えなきゃ犠牲が出るわ」
「そうだな……」
「第5施設にはコネクトあるかしら?」
「どうして?」
「大体の種類はもう持ってるんじゃないかしら。それに火を使うのを見たことはみんな無いなら火はないわよね。でも、昔はあったのよ、きっと」
「危なすぎるから、無くしたということかな?」
「その可能性はあるかもしれないと思ったのよ」
「まあ、行けば分かるさ」
「そうね、まだキラキラに到達してないから、さらにもう1段階強いキメラがいるわよ」
「「がんばるプイ(ノ)!」」
この先に出てくるキメラを警戒しつつ、このドームの部屋をあとにした。




