第51話 フィナルメンシウタット
ようやくモカがお風呂から出てきた。
モカが出てきたところで、いつものように情報整理を行うことにした。
「衛兵たちが、フィナルメンシウタットの南の洞窟からキメラが出てきたって言ってたよな。だからたぶん、ここの南側には洞窟と湖があるってことだよな」
「きっとそうね。実はそのことで気になったんだけど。ねえ、プリン。洞窟からキメラが出てくるって、そんな頻繁に起きることなの?」
「うーん、あんまりないと思うノ」
「でも、ドスシウダでも、フューラスタードでも、フィナルメンシウタットでも起きているわ。偶然にしてはあまりに頻度が多いわよね?」
「そうだよな……」
何か大きなことが起きているということなのか……
「ひょっとして、師匠たちが亡くなったことと関係しているかもしれないノね……」
「……プリンの言うとおりかもしれないわね」
「どういうことプイ?」
「つまり、護り人であるプリンの師匠やユイさんたちが、洞窟のキメラがあふれ出さないように抑えていたかもしれないということよ」
「なるほど。定期的に洞窟を見回っていたとか?」
「そう。強くなった護り人なら1カ月半もあれば全部行けるんじゃないかしら? 洞窟のキメラは放っておくと強くなるから、強くなりすぎたキメラを倒しておくとかしてたんじゃないかしら」
「なるほどプイ。それって、結果的に私たちがしてきたことと同じプイ」
「そうなのよ。私たちが洞窟の奥のキメラを倒したあと、近くの都市は安定してたと思うの」
「なるほど。それも護り人の役割なのかもしれないな」
「そうね…… もうじきいろいろ分かるわ、きっと」
「そうだな」
「それと、キメラは洞窟に戻ったって言ってたじゃない。都市を襲うために出てきているわけじゃないってことよね」
「そうだよな。基本的には洞窟に引き寄せられるんだろうな」
「洞窟の中の戦いが熾烈になってくると、生きていけないキメラたちがあふれてくるとかならありそうだわ」
「なるほど……」
「……」
洞窟も無限に広いわけじゃないし、奥のボスキメラが強くなりすぎるとキメラも恐れをなすんだろう。そこまでなってしまう前に護り人がボスキメラを倒して安定化させるのか。あり得る話だな。
そんなことを考えていると、クルルが全然違うことを言い出し場を和ましてくれた。
「そう言えば、最近フューラスタードからも人が来ていないって言ってたから、『モカプルン』はまだ伝わっていないと思うプイ。第5施設に行ってキメラが落ち着いたら、ここの人にも教えてあげるのはどうプイ?」
「クルル、いいこと言うわね。決まりね」
「そうだな。ここの人たちは特に他の都市との交流が少なそうだから、楽しみは共有してあげないとな」
「とりあえず明日衛兵施設に行って、それから少し買出ししてから洞窟に出発って感じだな。明日のうちに洞窟の入り口まで行けるといいけど、衛兵施設次第かな」
「そうね。朝風呂に入ってから行きたいわ」
「うん。それくらいは全然大丈夫だよ」
「ふふっ」
ひと通り議論した俺たちは久しぶりの布団でゆっくりと休んだ。
◇
翌朝、モカの長風呂を待って出発した。
宿屋の受付のところで、いつものようにこの都市のことを軽く聞いておこう。今日の受付の担当はウサ人のようだ。
「すみません、少し教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろんですノ。どうされましたノ?」
「衛兵施設は南のほうにあるのでしょうか?」
「そうですノ。この前もキメラが迫ってきて一時騒然としましたノ」
「そうでしたか。それは大変でしたね」
モカが話をつなぐ。
「キメラって怖いですよね。前に訪れたトライオラシにはキメラ研究所っていうのがあったのですが、フィナルメンシウタットにはそういう研究所はあるのですか?」
「ここには研究所はないですノ。研究所の人もめったに来ないですノ。もう何年も見てないですノ」
「そうなんですね」
もう少し俺も確認しておくか。
「そう言えば最近フューラスタードから来る人が減ったと衛兵の方から聞いたのですが、物が入ってこなくて困ったりしていませんか?」
「フィナルメンシウタットはもともと他の都市から離れていますし、そのために畑も広く確保してあるので、そこまで大きな問題は起きてないですノ」
「畑があるプイね!」
「そうなんですノ。特に東側に広い畑がありまして、モル人とウサ人の憩いの場になっていますので、ぜひ行ってみてくださいノ!」
「「落ち着いたら行ってみますプイ(ノ)!」」
最後はウサ人、モル人共通の楽しみで盛り上がっていたが、おかげでなんとなく都市の構造が予想できた。
北東側に広い畑があり、あの言い方だとおそらく北西側にもあるのだろう。そして、洞窟に接している南側一面は衛兵施設のはずだ。それにここには研究所は無く、俺たちの追っ手は来ていないようだ。
大体イメージできたところで、宿屋から出て、大通りを南下することにした。
大通りを歩いてすぐに分かったこととして、フィナルメンシウタットにもやっぱりスイーツ屋はあった。ここはあとできっと来ることになるだろう。
他にもカフェや食堂のようなところ、服屋や道具屋などがひと通り大通りにあった。
途中で道が東側と南側に分岐したが、そこから見ると予想通り北東側に畑が広がっていた。
ウサ人やモル人がたくさんいて、休憩所もあちこちに完備されていた。クルルとプリンの目が輝いていたが、今は気持ちを抑えておいてもらおう。
俺たちは畑のある東側には行かずに、そのまま南側に向かった。
途中から酒場が並び出し、衛兵施設に近づいたことがよく分かった。酒場の列を越えると、思った通り、大きな衛兵施設があった。
他の都市と同様に両サイドに衛兵施設があるが、東側のほうが大きそうだったため、東側の建物にとりあえず向かった。
◇
入り口にはいつもどおり守衛がいたので、声をかけることにした。
「こんにちは。昨日、衛兵の方とお話させていただいたヤマと言います」
「あっ、仲間を助けていただいた方ですワン! 隊長がぜひお会いしたいと申しておりましたワン。ご案内しますワン」
「ありがとうございます」
守衛室から衛兵が1人出てきて案内してくれた。
案内され始めてすぐ気付いたのだが、衛兵施設の作り自体はこれまで見てきた衛兵施設とほぼ同じで、縦横比が違う程度の差だ。これなら迷わずにどこにでもたどり着けそうだ。
2階に上がり、隊長室のところで衛兵がノックした。
(トントン)
「どうぞワン」
「隊長、ヤマ様がいらっしゃいましたのでお連れしましたワン」
「おお、よく来てくださったワン。こちらへどうぞワン」
「では、私はこれでワン」
「案内ありがとうございました」
案内された隊長室もボコ隊長、リコ隊長の部屋とほぼ同じだ。
隊長はというと、やっぱりボコ隊長たちと雰囲気が似ていた。元となるイヌの種類は同じだな。
「はじめましてワン。どうぞお座りくださいワン」
ここでもやっぱりソファみたいな椅子に案内された。
「衛兵隊長のダンですワン。ドスシウダのボコは私の甥、フューラスタードのリコは姪ですワン」
「2人の叔父様だったのですね。雰囲気が似てらっしゃいます。改めまして、俺はヤマと言います。こちらはモカ、クルル、プリンです。ボコ隊長、リコ隊長とは親しくさせていただいています」
「ええ、そのようですワン。あの2人が信頼した方なら大丈夫ワン。あの2人は我々の家系の中でも特に周りに信頼されている若き隊長ですワン」
「たしかに、周りの衛兵からの信頼は厚かったと思いますし、特別証を見せたときにどの衛兵の方もよくしてくださいましたので。衛兵隊長はみなさんダン隊長たちの家系の方が務められているのですね」
「いえ、たまたま今はドスシウダとフューラスタードとここの3つがそうなだけワン」
「あっ、そうだったのですね」
運良く繋がりが強い3つを訪問したということか。まあ、賢くて強そうな隊長たちだから、偶然というよりは実力的に自然とそうなる確率が高いのだろう。
そんなことを考えていると、ダン隊長が背筋を伸ばしてかしこまって、お礼をしてきた。
「お礼が遅れましたが、衛兵たちを助けていただきありがとうございましたワン」
「いえいえ、たまたま通りかかっただけですから」
「でも、相当な腕前をお持ちと聞きましたワン。クマシカをものともせずにあっという間に倒したそうですワン?」
「そうですね。このプリンは良い師匠に恵まれまして、腕はたしかですので」
「なるほどワン。 ……もしかして、プリンさんの師匠はボコを助けた真っ白な髪のウサ人ですかワン?」
「その通りです。すごいですね! リコ隊長もすぐに気付きました。隊長のみなさんの人を見る目のすごさを感じます」
「いやいや、私はその方に何度もお会いしたことがあるからかもしれませんワン」
「えっ、師匠、ノエ様もここに来ていらっしゃったノ?」
師匠の話になり、プリンが思わず反応した。
「ええ、定期的にフィナルメンシウタットにも来てらっしゃいましたワン。いつも2人の人間の方とご一緒でしたワン」
「その方たちはノエ様の親友ナノ」
「そうでしたかワン。たしかにそんな雰囲気でしたワン。あの方たちにはこれまで何人もの衛兵が助けられていますワン。強くて心優しい方たちだったワン。ですが、もう1年以上、お見かけしていないですワン。これまでは定期的に来られていたはずだったのに何かあったのか心配ですワン」
「師匠は…… 亡くなりましたノ。たぶん、キメラに殺されましたノ」
「ワン!? あの方が亡くなるなんて、そんなキメラがいるとは思えないワン……」
「ええ、私たちもそう思います。ですので、私たちはプリンの師匠たちの遺志を継ぐつもりで、いろんなところをまわっているのです。プリンの師匠なら、今、困っているフィナルメンシウタットを見捨てたりはしないと思うのです」
モカが話を繋げてくれた。
「そうでしたかワン。分かりましたワン。あの方たちならきっと、洞窟の様子を見に行ってくださったと思いますワン。ですので、中には入らなくとも、周囲に異常がないかだけでも見て来ていただけないでしょうかワン」
「はい、そのつもりでいます。大丈夫です。無理はしませんから。俺たちはまだプリンの師匠ほどは強くはないので……」
少ししんみりしてしまったところで、話題を変えようと、モカが切り出す。
「あの、この特別証を見せたら調理場とかも使わせていただけますか?」
「もちろんですワン。食料が必要ですかワン? 用意させましょうかワン?」
「あ、いや、そういうわけではなくて。みなさんに食べていただきたいものがあったので、落ち着いたら作りたいなと思っているのです」
「ドスシウダや他の都市でも流行っているプイ」
「モカは『本家』ですノ」
「『本家』ですかワン?」
「もう、クルルたち、それじゃ分からないでしょ。実はドスシウダのお菓子作り大会で私が作ったお菓子なんです。一応、創作部門で優勝したお菓子です」
「おお、それはすごいですワン。他の都市の情報はなかなか入って来ないので、みんな喜ぶワン」
「あとで、作り方もお教えしますので」
「ワン? それは驚きワン…… なるほど。あの2人が特別証を渡した理由がよく分かりましたワン。あなたたちはただ強いだけじゃないですワン」
「いやいや、俺たちはただみんなの幸せを護りたいだけですよ」
「ワン……」
なぜかダン隊長は言葉に詰まっている。
「ヤマは自分のすごさが分かっていないので許してあげてほしいプイ」
「そうナノ……」
「そうね…… でも、そこがヤマのいいところよ」
「「そうプイ(ナノ)」」
「へ?」
「ワハハッ! あなたたちには圧倒されますワン。きっとあなたたちなら大丈夫ワン。気を付けて行ってきてくださいワン」
「そ、そうですね。様子を見てきたら報告しに来ます」
「よろしくお願いしますワン」
ダン隊長にもどうやら気に入られたみたいだ。最後のところはよく分からなかったが、まあいいか。




