第50話 暗闇で見えるもの
俺たちは遺跡の出口に向かった。
出口の扉は、内側から見ても普通の扉だった。やはりこの扉は単なる出入り口にしか見えない。
出口の先にある階段を上り、ユリの模様があるところまであと1階分くらいに近づいた。
そのとき――
(ピクッ)
「何かいるノ」
プリンが小声で言った。
俺たちは息を潜め、光も最小限にした。
(ミシッ、ミシッ)
何かがゆっくり歩く音がたしかにする。キメラか人か……
そのとき、声が聞こえた。
「メノヴィーアが滅びたって本当だったんだワン」
「どうりで最近フューラスタードとかからも人が来なくなったわけだワン」
「困ったことになったかもワン」
「フィナルメンシウタットに戻って隊長に報告するしかないワン」
「またキメラが出たらどうするワン」
「隠れながら行くしかないワン」
どうやらフィナルメンシウタットの衛兵のイヌ人たちのようだ。
さすがに今出ていくわけにはいかない。息を殺してしばらく待つことにした。
俺には声が聞こえなくなってしばらくしてもまだプリンの耳は動いていた。
(ピクッ、ピクッ)
◇
1時間くらいは待っただろうか。ようやくプリンが小声で言う。
「音が聞こえなくなったノ」
「どうする? 出る?」
「迷うわね。ここから出るところを見られなくても、メノヴィーアから急に出てきたらあやしいわよ。衛兵たちが町から完全にいなくなるまで待ちたいわね」
「えっ、まさか、この遺跡でキャンプするつもり?」
「それが1番安全よ。火は使わずに過ごす必要があるけど」
「しかたないか。真っ暗になるだろうから、みんなでくっついて過ごそう」
「それがいいわね」
「「そうプイ(ナノ)」」
ん? なんかみんなうれしそうなのは気のせいだろうか。
出ることを諦めてもう一度遺跡に戻った。
入り口の扉を開けたまま、そばの壁際でキャンプというか、休むことにした。
火を使うのは危ないし、酸素がどれくらいあるかも不安だし、二酸化炭素は下にたまるだろうが、床の入り口も完全密着というわけでもないだろうから、入り口付近なら大丈夫だろうと判断した。
あと、いつまでもモカに光を使わせるわけにはいかない。食事を済ませたら、みんな密着して、お互いの存在を確認できるようにし、光を止めてもらった。
あたりは暗闇に包まれた……
洞窟内でも暗闇で過ごしたことは無かったし、外でも月明かりなどはあるから、ここまでの暗闇は初めてだ。
ただ、目が慣れてきて分かったのは、どうも完全な暗闇ではなさそうだということ。
モカもそれに気付いたようだ。
「どこかから光が漏れてくるのかしらね?」
「うーん。なんだろうな。でも扉のほうじゃないよな」
「あれプイ」
「あの鉱石が光ってるノ」
「ほんとね。あれは、蛍光かしら。私たちが光をさっきまで使っていたからね」
「鉱石が光るということはひょっとして俺たちの腕輪とかも?」
「プ! 本当に薄っすらだけど腕輪もネックレスも光ってるような気がするプイ」
「普段服の中に隠れているし、これだけ弱いと気付かないわね。腕輪とかの光る部分はすごく細かい粒子だし、そもそも少ないわよ」
「これがあの鉱石の成分か……」
「家の横に置いていたのは目印だったのかしらね。夜中ずっと光るわけじゃないでしょうけど」
「洞窟内も光ってるんだろうな」
「その光にキメラが寄ってくるのかしらね」
「虫じゃあるまいし…… でも、そういえば、暗かった第2施設の洞窟もキラキラがあるところは明るかったよな」
「でしょ? 敢えて光を取り込んでいるのよ。蛍光に寄ってきているというより、光を受けたこの鉱石の何かに寄ってきているかしら。光触媒なのかしらね」
「なるほどな。光じゃないとしても、ここは鉱石が少ないからキメラが来ないんだな」
「たぶんそんな感じよ」
「たまたま暗闇で過ごすことになって分かることもあるんだな」
「そうね。運が良かったわ」
「そうプイ。密着して休めていい感じプイ」
「そうナノ」
なんか違う解釈しているクルルとプリンがいるが……
そうか! モル人とウサ人だから、密着してもふもふを感じたいんだ。モルモットもたくさん集まっているイメージがある。もっと早く気付いてあげれば良かった。
「みんなでくっつくと暖かいよな」
「そうね。だいぶ涼しくなってきたからね」
「そうだよな。クルルやプリンと出会ったころはまだ暑かったもんな」
「そうプイね」
「そのうちもっと寒くなるノ。そうしたらキャンプでは密着して寝ないと寒くて死んじゃうノ」
「そうだな。フィナルメンシウタットに着いたら寝袋とかも買うか」
「そうね。4人で入れる寝袋買いましょう」
ん? 4人で入る? ま、まあいいか。売っているものから選ぶしかないしな。
新たな発見をしつつ、遺跡でひと晩過ごした俺たちだった。
◇
ゆっくりと休んだつもりだが、時計がないから朝かどうかよく分からない。お腹の空き具合から朝にはなっているだろうと判断して、遺跡から出ることにした。
音がしないことを確認し、床の扉を開けてそっと階段から出た。
周りは既に明るくなっていた。朝にはなっているようだ。
周りには人のいる気配は全くしない。恐る恐る建物の出入り口から外を見たが、衛兵がいる様子もない。キメラもいない。
そうか。昨日、俺たちがキメラを倒しておいたから衛兵がここまで入れたのか。
「誰もいないな」
「キメラもいないわね。今はキメラがいないから衛兵も無事にここまで来れたのだわ」
「俺もそう思うよ。フューラスタードでもキメラがいて入れなかったって言ってたもんな」
「たまたま昨日私たちが倒しておいたのが、衛兵にとっては幸運だったのね」
「そうだな」
その後、メノヴィーアの様子を見つつ、西門まで行った。
昨日と特には変わりないようだ。そのまま西門を出て、分岐のところまで戻ってきた。
「じゃあ、フィナルメンシウタットに向かうか」
「そうしましょう。衛兵たちは隠れながら進んでいるでしょうから途中で出会うかもね」
「あるいは途中で助けることになるか」
「そうね。まあ、私たちはフューラスタードの特別証を持っているからそれを見せれば大丈夫よ」
「そうだった。なら安心して助けられるな」
周りを見渡したが、1日分の行程差があるからか、見えるような距離に人はいなかった。
◇
しばらく南に進むと山あいになり、そのままさらに何日か進んだ。
途中でトライオラシ南で遭遇したようなキメラに何回か遭遇した。俺たちにとっては大したことはないが、衛兵たちは大丈夫なのだろうか。うまく隠れながら進んでいるだろうか。
4日目。今日中にはフィナルメンシウタットに着くと良いなと思いながら進んでいると、プリンが声を出した。
(ピクッ!)
「誰か戦っているノ!」
「衛兵かしら」
「助けに行くぞ」
「急ぐプイ」
「プリン、モカ、先に行ってくれ!」
「「分かったわ(ノ)」」
(ヒューッ!)
2人は急加速して、飛んでいった。俺たちも急ぐ。
プリンとモカは既に到着し、どうやら衛兵を避難させることに注力するようだ。キメラの攻撃をプリンが引きつけつつ、モカがみんなを誘導している。
あれは――
「クマシカ、プイ」
「こんなとこにもいるんだな」
「でも、施設のよりは弱いはずプイ」
「だな、負ける心配はないだろう」
俺とクルルが到着するのと、モカが衛兵たちを避難させ終わるのはほぼ同時だった。
衛兵にどこまで見られて大丈夫なものか。まずはありきたりのもので行くべきか。モカと目で会話する。
「クルル、水で動きを止めてほしいわ。そうしたらプリンが斬れるから」
「「分かったプイ(ノ)」」
(ズバババン!)
(ドド――)
(ズザーッ!)
(ヒュッ! ヒュッ!)
(……ドサッ)
水の弾丸に対してクマシカは岩のコネクトを放ってきたが、クルルの巨大な水鉄砲で岩のコネクトごと動きを制限した。直後に、プリンの居合抜き2連発がさく裂し、あっさりと勝負が着いた。
洞窟のクマシカより弱いとは言え、強くなったものだ。
「うん、いい感じだな。水鉄砲、十分通用するな」
「そうプイね」
「プリンの居合抜きも2連発だと大きな相手にも有効ね。これならクマシカも簡単ね」
「ここのは全然大丈夫ナノ」
モカと目で会話し、話している間に衛兵たちから見えないように吸収しておいた。
しばらくして、木の陰に隠れていた衛兵たちが出てきた。
「あ、ありがとうございますワン。助かりましたワン。ものすごく強いのですワン。失礼ですが、あなたたちはどのような方たちなのですかワン」
「あっ、私たちはこういうものです」
そう言って、モカはなぜかドスシウダの特別衛兵隊員証のほうを見せた。
「ワン? それは、ドスシウダのボコ隊長の印ですワン! なるほど、それでそんなに強いのですかワン」
「え? あ…… 見せるのこっちだったわ…… えっと、実はフューラスタードのリコ隊長からフィナルメンシウタットの衛兵が困っていたら助けてあげてね、って頼まれているんです」
そう言うとリコ隊長からもらった特別証を恥ずかしそうに見せた。あのモカの顔は本当に出すほうを間違えたようだ……
「リコ隊長の特別証も持ってらっしゃるなんてすごい方たちだワン! 助けていただきありがとうございますワン!」
「みなさんフィナルメンシウタットの衛兵ですよね? どうしてこんなところに?」
メノヴィーアにいた衛兵たちだとは分かっているが、なぜあそこにいたかは分からないから聞いておきたい話だった。
「最近、フィナルメンシウタットの南の洞窟からキメラが出てきたワン。そのときはたまたますぐに戻ってくれたけど、次は分からないワン。だから、フューラスタードに助けを求めようか迷っていたワン」
「なるほどね」
「でも、ここ1年くらい、フューラスタードから人がほとんど来なくなったし、メノヴィーアが滅ぼされたとも聞いたワン。だからまず、それが本当かメノヴィーアまで確かめに行ったワン。だけど、本当に滅びていたワン…… だからそのことを報告するために戻るところワン」
「そうだったのですね。私たちもメノヴィーアは滅ぼされたと聞いていたので、フィナルメンシウタットに向かうところでした。ここに来る前にいたフューラスタードでもキメラが洞窟から出てきて騒ぎになったところです」
「フューラスタードは大丈夫だったかワン?」
「大丈夫ですよ。洞窟に戻ってくれたみたいですから」
「攻めてくるつもりじゃなかったのかもしれないプイ」
「そうナノ」
「姿を見られなければ怖くない感じだったな」
「そういうものなのですかワン……」
「ま、とにかく、フィナルメンシウタットに向かいましょうか」
「そうでしたワン。ここまでこれば今日中に着きますワン」
このあとはキメラに襲われることもなく、フィナルメンシウタットの北門に着いた。
◇
北門の衛兵が俺たちに気付いて声をかけてきた。
「おお、みんな無事だったかワン。その人たちはどうしたワン?」
「クマシカに襲われていたところを助けてくれた方たちワン。ドスシウダとフューラスタードの特別証を持つ方たちワン」
「なんと、それはありがとうございましたワン。宿屋で休まれたら、衛兵隊長のところにもぜひ顔を出していただけるとうれしいですワン」
「分かりました。俺はヤマと言います。リコ隊長からも困ってたら助けてあげてと言われていますから、明日にでも伺います」
「ありがとうございますワン。隊長に伝えておきますワン」
衛兵から丁寧にお礼を言われたあと、一緒に来た衛兵たちとは別れて、俺たちは宿屋を目指した。他の都市と同じで、門から比較的そばにあった。
宿屋に着くと、例によって、モカの長風呂をゆっくりと待つことにした。




