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第49話 テンの痕跡

 中に入ると、単なる教会というよりは、教会付きの大きな建物という感じだった。


 まず、入り口からすぐのところには大きな部屋があった。


 その部屋の奥まで行くと、石碑があった。そこにはひらがなとカタカナで書かれていた。つまり、たぶん1万年前ではなく、比較的最近作られたようだ。


 書いてあった内容は要約すると以下だ。



◆◆◆

 ここ、メノヴィーアは、『奇跡の超天才』と呼ばれたテン キドナの生まれ故郷である。


 テンは多くのものを生み出し、今の私たち――人間、イヌ人、ネコ人、ウサ人、モル人――の暮らしを作り上げた偉大な人物だ。


 メノヴィーアは、テンがまだ幼い頃に襲われた。テンはその際、100を超える偶然に味方され生き残ったと言われる奇跡の人である。


 長年、廃墟となっていたメノヴィーアであるが、多くの功績を誇るテンのことを後世に伝えるために我々は復興させた。


 そして、ここにテンを祀ることとした。



 テンが晩年をどこでどのように過ごしたかは伝わっていない。また、子孫がその後どうなったかも伝わっていない。


 だが、いつの日か、テンの子孫がここに訪れることを願って、この地を残していこう。

◆◆◆



 あまり新しい情報は無かった。一般向けに書かれていることもあって、当たり障りのないことのみが書いてある。


 と、俺は思ったのだが、モカは何か気になったようだ。


「ねえ、奇跡の超天才ほどの有名人が晩年どこでどう過ごしたか知られていないって、いくら古いとは言え、ちょっと違和感ないかしら?」


「そう? 1万年も前のことが伝わっているほうがすごいと思うけど……」


「たしかにそうだけど、なんか、あえてテンが隠れたというか、みんなの目が届かないところにでも行ったんじゃないかって」

「うーん……」


(目が届かないって、まさか……)


「あ、ヤマが思っているのと私が思っているのはたぶん違うわ。施設で聞いた話だと、奇跡の超天才テンには妻マリがいたはずよ。マリの妹のユリの子孫にいろいろ託されたのはなんでかしらね」


「……だから、テンとマリがどこか遠くに行ったんじゃない?」


「遠くか近くかは分からないけど、どうして行く必要があったのかしら?」

「それは…… ん? たしかにな。なんでだろう?」


「どうしてユリに託したのかしら。テンがやったほうがよさそうなのに」

「それも分からないな……」


「テンには他にやりたいことあったんじゃないプイ?」

「そうだと思うノ。たまに違う野菜を食べたくなるようなものだと思うノ」


「なるほどね…… それはあるかもしれないわね。テンほどの人が何をやろうとしたのかしらね」


 なんかちょっと変な例えが混じったけど、よしとしよう。



「あと、子孫がどうなったか分からないっていうことは、テンとマリには子どもがいたんだな」


「そうなのでしょうね。テンとマリが一緒に連れて行ったと考えるのが普通よね」

「だな」


「普通はそうよね…… でも、もし、テンたちがやろうとしていることが危険なことだったら子どもをユリに託すこともあるかもしれないわね」


「えっ、まさか、テンの子孫を護るのが護り人の役目ってこと?」


「さすがにそれは考えすぎじゃないかしら…… 子孫を護っても別に何か得られるわけじゃないし、狙われているならともかく。ん? ここを襲った理由は、テンの子孫狙いかしら?」


「どうかな? テンの子孫を狙う理由なんてないんじゃない?」

「そうね。これだけの文じゃ、想像しかできないわ」


「他に何かないか探してみよう」

「そうね」



◇


 他の部屋も見て回った。


 真ん中にあった大きな部屋以外は、ここを管理する人たちが使っていた部屋のようだ。どこの部屋も激しく散らかり、廃墟になっていた。何か本や書類のようなものがあれば良かったが、何もなかった。


「石碑以外には何も文字が書かれたものがないわね。伝えていくという言葉と合わないわね」


「もしかして、持ち去った?」

「え? キメラが?」


「もしそうならキメラじゃなくて亜人プイ」

「そうナノ。亜人なら文字を読めるノ」


「でも、こんな傷をつけられる亜人にあったことないわよ」

「そうプイね」

「たしかにモカの言うとおりナノ」



 その後も探してまわるがめぼしいものはなかった。


 諦めて出ようとしたとき、クルルが気付いた。


「プイ? モカ、見てほしいプイ!」


「ん? どうしたの? え…… まさか……」


「どうした? え…… ユリの模様じゃん」

「でも、ここ床ナノ。しかも金属ナノ」


 小柄で目が良いクルルじゃないととても見つけられないだろう。それに、普通の人なら見つけてもなんとも思わないだろう。こんなところにあるなんて……


「一体何があるのかしら。この床のあたり、この建物の他のところよりも古いわよね」

「たしかに。よし、行ってみるか」


「暗い可能性が高いから光を使うわね。あと、何かが飛び出してくるかもしれないから、みんないつでも回避できるようにしましょうね」



 こんなに緊張するのは久しぶりだ。


 そっとユリ模様に腕輪のユリ模様を合わせた。いつものように、腕輪が反応し、床が開いた。



 何か飛び出してくることはなかった。代わりにそこには階段があった。


 モカが光を当てた。



「意外と深いな。3階分ぐらいはあるかな?」


「そうね。他と同じならたぶんここを通ると閉まるわ。もし出られなくなったら、ヤマ魔法で床を消し飛ばすしかないわね」


「じゃあ、俺が先頭で入るから、順番に付いてきて」


「えっ、同時に下りましょうよ。バラバラになるのは嫌よ」

「「そうプイ(ナノ)」」


「そうか。まあ、階段はそれなりに幅があるからみんなで行けるかもな」


 みんなで恐る恐る下りていく。モカの光で先を照らしている。


 しばらく下りるとやはり、床が閉まった。閉まった側を見るとユリの模様があった。


 とりあえずひと安心だ。俺たちは階段をそのまま下りていった。



 3階か4階分くらいは下りただろう。平らになった先にまた扉があった。こちらは普通の鍵がかかった扉だ。


「ヤマ、お願い」

「そうだな」


 研究所から逃亡したとき以来の鍵開けというか、鍵抜けだ。


「プイ? そんなこともできるプイね」

「さすがヤマナノ」



 クルルとプリンが驚く中、少し重い扉を開けると、その先は広い空間になっているようだ。ちょうど町の下に位置する空間だろう。


 真っ暗だったため、モカが頑張って明るくしてくれた。



「こ、これは……」



「遺跡だわ……」



「あれが家プイ? なんか木か藁で作っているプイ?」

「なんか石器とかが転がっているノ」


「見て、あそこ。傷がついているわ」


 たしかに、上にあった町についていた傷と似ている。が、かなり古くないだろうか。


「なあ、モカ、ここってものすごく古いよな」

「ええ、たぶん、1万年前の遺跡よ」


「ってことは……」


「たぶん、テンたちが襲われて1度滅んだ、元々のメノヴィーアよ」

「すごいノ……」


「あっちに何かあるプイ!」


 クルルが指差した方向には、たぶんだがお墓らしきものがあった。


 近くまで行き、観察することにした。



「これはたぶんお墓だよな?」

「そうだと思うわ。もちろん、掘り起こすなんてしないわよ」



「ナ! 何ナノ、あれ!」


 プリンが指差す先には、動物の骨があった。



 近くまで行くと特徴的な牙を確認できた。


「え…… これって…… あれだよな……」


「ええ、サーベルタイガーというか、たぶんスミロドンよ。そうか、1万年前だからまだギリギリ絶滅してなかったのね」


 クルルとプリンが近寄って不思議そうに骨を見ている。


 俺は小声でモカに言う。


「なあ、スミロドンって日本にいなかったと思うんだけど合ってる?」

「ええ、アメリカだったと思うわ」


「なんでここに? ここアメリカなのか?」

「分からないわ…… でも、こんなに和食文化があるのにアメリカじゃないと思うわ」



 クルルたちが戻ってきて話し始めた。


「あの牙ならあの傷がつけられそうプイ」


「そうね。きっとスミロドンの群れに襲われたのよ、この町は。町というより集落という方が正しそうね」


「スミロドンの群れに襲われて、幼い子どもが生き残るって難しくないか?」


「そうよ。だから奇跡なのよ」

「そうか。こんなすごい中で生き残るなら納得かも」


「……」



 モカは考え込んでいる。


「……スミロドンはもう絶滅しているはずなのに」


「人類が増えなかったからかな…… それに、この上の町にある傷が証拠じゃない?」


「そうなのよね。でも、そもそもスミロドンの牙ってそんなに硬かったのかしら」


「え? 硬そうだけど」

「まあ、こうやって見ればね。でも牙でも骨を噛み砕けない強度の時もあるのよ」


「じゃあ、スミロドンともっと丈夫な牙を持つ動物とのキメラなら?」

「生き残っていればね……」


「私は見たことないプイ」

「私もないノ」


 それにしても、大きい肉食動物だ。こんなのに飛びかかられたらひとたまりもない。そういえばマンモスとかも狩っていたんじゃなかったっけ?



「分からないことだらけだけど、1つ言えそうなのは、『奇跡の超天才』テンは幼い頃にスミロドンに襲われて、町ごと壊滅した可能性が高いってことかしら。上にあった石碑とも合うわ」


「で、ユリかユリの子孫がここを封印したんだな」


「残しておきたかったのかしらね。わざわざ2段階の鍵で」

「ん? そうだよな。そこの鍵付きのが元々じゃないかな。ユリの模様のがあとだよな、普通」


「そうね。昔は入れたけど、ある時に完全に封印したのね。そこからしばらくして、この町が復興されたというわけね。たぶんそのときにこのあたりには何か建物があったのよ。それを昔のメノヴィーアの町のものと思って残したのよ」



 考古学的にはすごい発見なのだろうが、これと今のメノヴィーアが滅ぼされた理由がいまいち紐づかない。


「なあ、モカ。ここの遺跡が理由で、上のメノヴィーアが滅ぼされたのかな?」


「いや、さすがに遺跡は関係ないんじゃない? ここ自体は貴重な遺跡だとは思うけど」


「ん? まさか、遺跡を探していた人間がメノヴィーアを攻めたとかはないよな」


「ありそうな話だけど、そんなに人間の数がいないわ」

「そうだった……」



 俺たちが考えていると、クルルが何かに気付いたようだ。


「ねえ、あそこの家のそばに置いてある石、施設のそばの鉱石に似てるプイ」


「ん? ほんとだな」

「小さめだけど、同じ鉱石に思えるわね」

「キラキラしてるノ」


「ひょっとして、1万年前のメノヴィーアではあの鉱石が何かに使われていたのかもしれないわね。私たちとは違う目的かもしれないけど。それを幼いながらに見ていたテンが活用した可能性はあるわよね。超天才なわけだし」


「ありそうだな。元々存在を知っていた鉱石に意外な効果があることが分かったんだろうな」



 いろいろなことが分かったけど、謎も多い場所だ。


 そろそろ出ようかと思ったとき、モカがつぶやいた。



「どうやってこの空間を作ったのかしら……」


「ん? どういうこと? 単なる遺跡じゃないの?」


「遺跡なら土に埋まってるのが普通よ。ましてやここは地下よ。見たところ柱すらないのに、この上に人が生活できるほど丈夫なのよ。自然に天井なんかできないし、もともと地下に住むって感じの集落じゃないわよ」


「ここは深かったけど、柱無しで支えると思うと、不安に感じるかもな」


「確かめたいことがあるんだけど、ちょっと暗くなってもいい?」

「いいよ。俺たちは手をつないで待ってるよ」


(ギュッ、ギュッ)

(ヒューッ)


 点滅する光とともに、モカが飛び上がった。



 少しして戻ってきた。


(スタッ)


「次は壁まで一緒に行きましょう」


 今度はみんなで行くことに。なぜかクルルとプリンは俺から手を離そうとしない。まあいいか。



「やっぱりそうね。この壁、見て」


「ん? 土じゃないよな。岩というか石垣?」


「天井はアーチ状になっていたの。これは単に私の予想だけど、この空間が先に作られて、そのあと、長い時間をかけて周りが土で埋まったのよ。さらにその上に町ができたのよ」


「空間が先か遺跡が先かは分からないけど。遺跡の上に丈夫な箱型の建物を作ったか、箱型の建物の中に遺跡を移すか再現したか。でも、先に遺跡があるとすると中身も作り方も、かなり違和感あるのよね……」


「移すなんてできるの?」

「ヤマならできるでしょ?」


「え…… ああ、完璧じゃないけど、近いことなら、できるかな?」


「たぶん、そんなことができたのは、テン本人くらいじゃないかしら。施設にあるような機械とか、いろいろ駆使したんじゃないかしら」


「なるほどな、それでスミロドンの骨がここにあるわけか」


「そう、ここに昔からスミロドンが住んでいたか、遺跡を用意するかしか説明できないと思うの。でも、1万年前にスミロドンが住んでいた場所はここからひたすら歩いても1年以上かかるところのはずだから、後者かなと思うのよ」


「テンが遠いところの出身だとして、ここまでは普通は何世代もかけて移動する距離のはずなんだけど、何かに追われて、数年や10数年で移動したのかもしれないわ。物理的に不可能ではないわ」


「まあ、俺のコネクトみたいなので遺跡ごと移動しなくても、さっき言っていたようにここに遺跡として再現すればいいわけだしな」


「そっちの可能性も高いわね。スミロドンの骨だけ何とかすればいけるわ。ただ、本物じゃないなら、わざわざここまでする必要があるのかが分からないけど」


「そうだな…… 再現するなら何かを伝えるためだよな。仮にテンの生まれた集落が襲われた様子だとして、再現する意味はなんだろう? 奇跡的だと伝えるためだけにしては大がかりだよな。それに、遺跡を建物で覆うのは研究者ならやりそうだし、そっちもあり得そうだな…… これ以上は第5施設で聞いてみるしかないかな」


「そうね。お墓を掘り起こせば分かるかもしれないけど、それをする気は起きないわ」



 この場所で確認できそうなことが終わった俺たちは遺跡をあとにすることにした。


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