第48話 メノヴィーア
畑を満喫した俺たちは、メノヴィーア経由でフィナルメンシウタットまで行くための買出しに行き、準備を行った。
次の移動も長くなりそうだ。しかも途中のメノヴィーアは町の中にもキメラがいる。
1週間以上はお風呂にも入れない中で進む必要があるためか、モカは朝風呂にしっかりと入っていた。
お湯が出せるならキャンプ中でもお風呂に入れるだろうが、さすがに危険すぎる。それで、いつもは軽く拭く程度ですましている。
準備ができた俺たちは西門に向かった。西門の衛兵が俺たちに気付いて声をかけてくれた。
「ワン! ヤマさんたちワン。いってらっしゃいワン!」
「行ってきます!」
分かれ道までは通ったことのある道だ。そこまで危険なキメラはいなかったはずだ。例のキメラ以上に危険なものがいなければ大丈夫だろう。
警戒しつつも足早に分かれ道に向かった。
◇
フューラスタードに来たときと同じく、3日ほど進むと分かれ道に来た。
「今度はここをあっち、メノヴィーア方面に行こう」
「そうね。ここまでは強いキメラもいなかったけど、ここからは見たことのないキメラがいるかもしれないから気を付けましょう」
分かれ道から先はほぼ真南に向かっているようだ。
遠くには山々が見える。あれを越えた先にフィナルメンシウタットがあるのだろう。遠そうだ……
ただ、西のほうはもっと北側まで山が迫っている。ちょうど、山の幅が狭いところに道があるのだろう。
「フィナルメンシウタットは遠そうね。まずはメノヴィーアがどうなっているか気になるけど、あの山のところにどんなキメラがいるのかも少し気になるわね」
「そうだよな。でも、まあ、洞窟にいないキメラは大丈夫なんじゃない?」
「それもそうね」
警戒しつつ分かれ道を南に進むが、特に目立った違いはない。
特段キメラが強くなるとかもなく、これまでの道と危険度は変わらない感じだ。これが通常だとすると、メノヴィーアが滅びるのはかなり違和感がある。
しばらく進んだところでモカが言ってきた。
「やっぱり特に何も変わらないわね。メノヴィーアが滅びるほどの理由は無さそうよね」
「そうなんだよ。このあたりのキメラによって滅びたんじゃないことはたしかだ」
「そうプイね」
(ヒュッ!)
(……ドサッ)
「そうナノ。このあたりのキメラは強くないノ」
プリンに至っては普通に斬り倒しながら話をしているくらいだ。
そのまま1日ほど歩くと、道の左側、つまり東側に町らしきものが見えてきた。まだ遠くのこのあたりから見た限りは普通の町だ。
「見えてきたけど、まだ距離があるうちにキャンプしないか?」
「そうよね。メノヴィーアには何がいるか分からないわ」
警戒しつつ、キャンプし、身体を休めた。
◇
翌朝、メノヴィーアの西門に通ずる道のところに来た。
ここには立て札があり、直進側が『このさきフィナルメンシウタット』、俺たちが来たほうに『このさきフューラスタードほうめん』と書いてあった。
そこを左に曲がるとすぐにメノヴィーアの西門にたどり着いた。
「これはひどいわ……」
「人はいなさそうプイ」
「建物もいくつか壊れているノ」
「なあ、モカ、あの建物にある傷見た?」
「ええ」
そこには第1施設のそばで見た爪か牙でつけられたような傷だった。
「第1施設のそばで見た傷とたぶん同じね」
「つまり、メノヴィーアを滅ぼした何かが、第1施設のある洞窟でも暴れたということだな」
「そうなるわね。しかも見て、あの建物」
そう言ってモカがある建物を指差す。
「ん? 少し焦げてるか?」
「そうなの。戦いのときについたか、火事が起きたかは分からないけど、このあたりで家が焦げるような火が出たことはたしかよ……」
(ピクッ!)
「何かいるノ!」
「でも、たぶん普通のキメラだと思うプイ」
「そうね。見た目は普通のトカワシね。強いかもしれないから気を付けましょう」
「とりあえず羽根を麻痺させるか」
「少し待って。クルル、水の弾丸を少し放って。よけられるか見たいの」
「分かったプイ」
(ズババン)
(キィーッ!)
「普通に当たったな。特に強くはないか。じゃあ、麻痺させて終わらせるか」
「そうね」
(ビリビリ!)
(ビクビクッ!)
(ヒュッ!)
(……ドサッ)
「ここを滅ぼしたキメラじゃなくて、あとから住み着いたキメラって感じだな」
「油断はできないけど、無駄に倒す必要はないわね」
「そうだな。襲ってきたやつだけ倒そう」
「そうね」
((コクリ))
クルルとプリンも同感なようだ。モカが違う建物を見ながらつぶやいた。
「とりあえず建物に入ってみたいわ……」
「あれは宿屋かな。でも大丈夫かな? 崩れないかな」
「そうね……」
(トントン)
叩いた感じは丈夫そうだ。
「とりあえず壁は大丈夫かしら。まずは上から見てみようかしら。キメラが来ないか見ててくれない?」
「分かった」
(ヒューッ)
モカは壁沿いに風を使って飛び上がった。
2階建ての宿屋風の建物のベランダに降り立ち、様子を探っているようだ。
「少し中に入るわ」
「気を付けて」
「うん」
しばらくすると、1階からモカが出てきた。
「この建物は大丈夫そうよ」
「じゃあ、俺たちも入るか」
中に入ってみると、ほぼ昔のままという感じだ。ここに住んでいた人たちは逃げ出したように見える。
「中には傷はないわ。逃げ出したのかしらね」
「遺体もないからそうかもな」
「遺体がないのは、あとからキメラに食べられただけかもしれないプイ」
「ああ、そうか…… 1年以上も前だからしかたがないよな」
宿屋跡から出て、周りを見渡す。そんなに大きな町ではないが、いろいろな建物はある。
「どこかに損傷が激しい建物があるかもしれないわ」
「狙いということ?」
「そうよ」
「ここって、超天才の生まれ故郷なんだよな。じゃあ、研究所みたいなところがあるんじゃないかな」
「探してみましょう。建物としては無くても、地下に隠れているかもしれないわ」
◇
そのあと、順番に見ていった。
もぬけの殻になった民家や道具屋のようなお店がある一方で、傷が多くついている食堂のようなところもあった。
モカは傷を入念に見ている。持っているグラディウスと比べたりしている。
「やっぱり剣じゃないわよね。でも、たまに剣の跡もあるの」
「たしかに細い傷もあるな。ここで戦ったということかな」
「そうね。でも牙だとすると壁に当たるってどういうものなのかしら」
「ゾウの牙とかはどう?」
「私もそう思ったわ。でも、床にも傷はあるの。ゾウだと難しくないかしら?」
「たしかにな。まるで、トラに噛みつかれたみたいだな」
「そうね。しかも多くのものが2個ずつの傷よ。だから爪というより牙よ。大きさとしては大きな人間くらいの横幅ですごい牙があればこんな傷になるかしら」
「トラとかチーターとかライオン系かな」
「そうね。そんな感じだわ」
「食堂ということは食べ物を狙ったプイ?」
「うーん、奥の調理場に行ってみましょうか」
調理場に行くと、そこは乱雑になってはいるが、ここが主戦場という感じはしなかった。
「食べ物狙いじゃないのかしらね。このあたりの焦げは、調理場で起きた火事のせいね」
「そうだろうな。それでみんな逃げ出したところで、やられた感じだな」
「食堂は他よりも人が多く集まるからじゃないかしら。そうだとすると狙いは人かしら」
「人間か亜人か、その両方か」
俺は建物を見ながらつぶやく。
「建物を壊すことが目的ならこんなに建物残らないからな。何か隠されたものを探すとかじゃないんだろうな」
「いい視点だと思うわ。普通、人間が町を攻めるときって、何か目的があるわ。土地や宝物を奪ったり、敵対する陣営の大事な拠点を潰したり……」
「なるほどな」
「ねえ、プリン。このメノヴィーアが滅ぼされてから、何かドスシウダの生活に影響あった?」
「特にはないノ。離れているし、普段から交流はあまりないノ。移動自体が大変だから」
「そうよね。となると、さっき私が言ったものが全然当てはまらないの」
たしかに…… でも俺たちの常識に当てはめるのは良くないかもしれない。
「……ただ単に、ここの人を殺すためとかは?」
「だったらなぜ建物の中に傷がないのかしら。中に人がいた可能性が高いわよ」
「そうだな。もう少し見てみよう。傾向が見えるんじゃないかな?」
「そうね。ヤマの言うとおりだわ」
◇
そのあと、メノヴィーアの中をとにかく調べてまわった。
ほとんどはどこの町にもあるような建物や民家だった。畑もあったが、1年以上経って草だらけになっていた。畑が荒らされた形跡はほとんどない。
ただ、1番奥にあった大きめの建物の損傷が他より激しかった。
ここが目的地なのか?
「なあ、この建物だけ損傷激しいよな。この建物、何の建物だろう?」
「今まで見てきたものに似てるものはないわね」
建物を見てよぎったもの、それは『教会』だ。
だが、この世界に来て、1度も宗教施設を見たことがない。モカも同じことを思ったのだろう。どうプリンたちに聞こうか考えているようだ。
「ねえ、クルル、プリン。宗教って言葉知ってる?」
「シュウキョウ、プイか? 聞いたことないプイ」
「私も聞いたことないノ」
「何かを信仰するということよ。誰かを信じるというより、神様を信じるとか」
「ヤマはネコ人の神様だけど、それとは違うプイ?」
「そうね。そういう目に見えるものじゃなくて、万能な神様がいることを信じたりすることよ」
「……私たちウサ人にはそういうのはないノ」
「そういえばダブル爺も似たこと言ってたプイ。モル人は野菜を信仰してるんだなって」
「そうか…… 誰か偉大な人を崇めたりすることってある?」
「それはあると思うプイ」
「研究所の人とかは奇跡の超天才を崇めていると思うノ」
「なるほどね」
「となると、ここに奇跡の超天才が祀られていた可能性はありそうだな」
「仮に奇跡の超天才が祀られていたとして、ここが1番傷が多いということは、奇跡の超天才に恨みがあったか、ここに何か隠されていたのかしら」
「でも、1万年も前の人に恨みを持つって、あり得なくないか?」
「そうね。聞いたことないわ」
「……この建物を調べましょう」
「ただ、どうやって調べる? 崩れそうじゃない?」
「補強しながらじゃないと進めないかもしれないわね」
「上から見てみないノ?」
「そうね、まずはそこからね」
(ヒューッ)
モカが飛び上がって確認している。さすがに目立ったのか、キメラが寄ってきた。プリンを制止し、クルルと俺で対応することに。
「飛び上がれるプリンはモカを見ててくれ」
「分かったノ」
「クルル行こうか」
「プイ!」
(ズザーッ!)
(ビリビリ!)
水と放電で気絶したようだ。俺が近づいてトドメを刺す。その間にプリンは周りを警戒していた。
(ズザーッ!)
(ビリビリ!)
もう1匹いた。これで見えるところにはいなくなったか。
(スタッ)
モカが降りてきた。
「ヤマたちありがとう。おかげで上から一通り見えたわ」
「どうだった?」
「とりあえず天井はほとんどの場所は大丈夫よ。空から攻撃するキメラじゃないということね」
「なるほどな」
「あとは、見た目以上に丈夫そうだから、中に入れそうってことかしら」
「崩れてきたときはどうする?」
「それなんだけど、クルルの岩って柱みたいな形で出せない?」
「プ? こうプイ?」
(ドン)
立派な柱が出てきた。なるほど、こうすればいいのか。
「崩れそうなところは、岩の柱で支えればいいのよ。あとは本当に崩れて来たらヤマ魔法で消してもらうのが安全ね」
「なるほどな。じゃあ、クルルは補強役、俺が監視兼防護役、モカとプリンで探索だな」
「そんな感じね。行きましょう」
警戒しつつ、謎の建物に入ることにした。




