第47話 次の目的地
第4施設をあとにした俺たちはフューラスタードに向かうことにした。
第4施設で最大限能力向上したことで、この洞窟のキメラも余裕をもって倒せるようになった。
これで第5施設まで行けばかなり強くなるだろう。今思えば、この強さがあれば第1施設はかなり余裕だろう。
洞窟の入り口に向かいながら、モカに意見を求めてみた。
「なあ、自分で言うのもなんだが、かなり強くなったよな。この強さなら第1施設は余裕だよな?」
「そうよね。第5施設まで行けばもっと強くなるわけだし、そこまで強ければ、安全に各施設に次世代を連れていけるわ」
「だよな。もともとはそういう想定なんだよな。なのに、今の俺たちより強いはずのユイさんたちが負けるキメラって何なんだろうな?」
「そうなのよ。私もそれを思っていて。前、トライオラシで話したじゃない? キメラ以上の強大な敵のこと」
「ん? えっと…… そうか、火のコネクトを使う種族のこと?」
「そうよ。ここまで強くなっても逃げたくなる強さよ。正確には、逃げたくなる気持ちにさせる敵よ。他にいないんじゃないかしら」
「そういえば、クルルもプリンも最初は俺のコネクトもすごく怖がってたもんな」
「こわいプイ」
「こわいノ。むしろ、なんでヤマたちが平気なのか不思議ナノ」
「私たちが特別なのかもしれないわね。たぶん第5施設に行けば分かるわ」
「ん?」
(第5施設まで行っていろいろ分かったら話すつもりなんだな。そうだよな、研究所といつかは向き合う必要があるからな。その前にはクルルとプリンに話さないとな……)
「ああ、そうかもな。第5施設で話を聞けたら、いろいろ謎が解けるさ」
「うん」
俺はモカの意図が分かったと目で告げた。モカは軽くうなずいた。
「そういえば第5施設の場所とか分からないから、フューラスタードに戻ったらリコ隊長に聞こうか」
「そうね。メノヴィーアのことも気になるし」
「衛兵隊長だから知っているかもプイ」
「そうだよな」
「ついでに畑で少し休んでいきたいノ」
「そうよね。戦ってばかりじゃ辛いわよね……」
「ナ? 戦うこと自体は全然平気ナノ。ただ野菜に囲まれたいだけナノ」
「そうプイ」
「あ、そういうことなのね……」
クルルたちの変わらぬマイペースさに癒された。
そんな会話をしつつ、たまにキメラを倒しながら、洞窟を出た。
「まだ、明るいわね。どうする? このままフューラスタードまで一気に行くと夜になるかしら?」
「ここでキャンプしてからでもいいんじゃない? 俺も早く戻りたいけど、暗い中、外を歩きたくないよな」
「そうね、そうしましょう」
◇
少し早い時間からキャンプをし、ゆっくりと休めたので、次の日の朝早くに出発した。
キメラにあまり会わずに行けたこともあり、昼過ぎにはフューラスタードに着くことができた。
東門は開いていた。
「良かったわ。東門が開いているということはあのあと特に問題無かったということよね」
「そうだな。とりあえず、今日は宿屋に行って、お風呂にゆっくり入って、明日リコ隊長のところに行こう」
「そうね。お風呂入りたいわ」
「モカはお風呂好きプイね」
「ヤマはそんなモカが大好きナノね。だから私も入るノ」
「ん? 人間はお風呂好きな人が多いんだよ」
「そうナノね」
不思議そうにこちらを見るクルルとプリンを尻目に、宿屋に向かった。
「あっ、そういえば、研究所の人がまだいるか聞いておいたほうがいいかしらね」
「そうだな。忘れてたよ」
「いらっしゃいませナノ」
「こんにちは。また泊まりたいんですけど、空いている部屋はありますか?」
「ありがとうございますノ。前、いらっしゃったときと同じ部屋が空いていますノ」
「じゃあ、そこでお願いします」
「かしこまりましたノ」
ここからモカが話を引き継いでくれた。
「あの、前来たときに研究所の方が休んでいると伺ったのですが、あのあとどうなりましたか?」
「元気になられて出発されましたノ」
「それは良かったです。このあたりのキメラは強いので、私たちも心配してました」
「そうですノ。もっと休んでいっていただいても良かったのですが、行くところがあるとのことで、出発なさいましたノ」
「トライオラシとかレイシュトに戻られたんですね」
「いや、どうも違うみたいですノ」
「え? 他にも研究所がありましたっけ?」
「分かりませんノ。でも、北門のほうに向かわれましたし、随分と荷物を持ってらっしゃったノ」
「そうなんですか。またケガされないといいですね」
「そうですノ。みなさんは旅慣れてそうですノ。もし、途中で見かけたら助けていただけるとよいですノ」
「そうですね。私たちはこれを持っているくらいですから」
そう行ってリコ隊長の特別証を見せた。
「すごいノ! リコ隊長のですノ。やはりあなた方はすごい方たちだったのですノ。この前いらっしゃったときにあったキメラ騒動のときにも力を貸してくださったと衛兵から聞きましたノ」
「私たちは様子を見に行ったくらいですけどね」
「それでも、フューラスタードのために行動されたのですから、十分なことですノ」
「そう言っていただけるとうれしいです。じゃあ、部屋に行きましょうか」
「ごゆっくりとおくつろぎくださいノ」
◇
部屋に行き、モカの長いお風呂を待ったあと、少し話を整理することに。
「研究所の護衛だっけ? その人たちは北に行ったんだよな」
「そうね。北のほうだと、エーンスタットでなければ、私たちが捕まった研究所しかないわよね」
「だよな。つまり、探していたのは俺たちだよな」
「それは間違いないわよね」
「でもなんで悪さをするはずって言ってたプイ?」
「分からないわ。たぶん勘違いなんだと思うわ」
「そうナノ。それしかないと思うノ」
「俺も勘違いだと思うんだ。俺たちがしていたことがたまたま何か別のことに見えたとかかな?」
「そんな感じよね。ちゃんと説明したら分かってくれたかもね」
「第5施設まで行けたら、行ってみるか」
「そうね。そこまで行けたら、たぶん私たちは捕まるような強さじゃなくなるわ」
「まあ、別に攻めに行くわけじゃないしな」
「それ大事なところね」
「「そうプイ(ナノ)」」
この施設巡りというか旅というか、これを通じて俺たちの気持ちはしっかりと同じ方向を向いたな。そういう効果も狙っているんだろう。
その後、久しぶりの布団に入ったら気持ち良くて、あっという間に寝てしまった俺たちだった。
◇
翌朝、まずは衛兵施設に向かった。
「おはようございます。今日はリコ隊長いますか?」
「おはようございますワン! 隊長室にいらっしゃると思いますワン。どうぞワン」
「ありがとうございます」
衛兵にお礼を言って、2階の隊長室に向かった。
(トントン)
「どうぞワン」
「おはよう! リコ隊長」
「ワン! みんな来てくれたのワン。うれしいワン。こっち座るワン」
ソファに座るとなんとモカプルンが出てきた。
「ちょうど、これを昨日作って冷やしていたワン。一緒に食べるワン」
「ありがとう! おいしそう」
食べてみると、ちゃんとしたモカプルンだ。完全にマスターしたようだ。
「おいしいわ。作り方はバッチリよ」
「ありがとうワン。衛兵たちの間でも人気ワン」
あっという間に食べてしまった。
食べ終わったあとにリコ隊長がふと気付いた。
「そういえば、モカプルンを食べに来てくれたわけじゃないと思うワン。どうしたワン?」
「あっ、そうだったわ……」
「モカでも忘れることあるノね」
「珍しいプイ」
「それだけプルンがおいしかったんだな」
「そうね。おいしかったからね。 ……で、私たちが来たのは、このあと、メノヴィーアの方に向かおうと思っているからなの。あいさつがてら知っていることがあれば聞こうと思って。メノヴィーアってキメラに襲われて滅びたって聞いたけど本当なの?」
「本当ワン。私は直接見てないけど、衛兵が何人かで確認に行ったワン。町の中にもキメラがいて、危なくて入れなかったそうだワン」
「そうなのね…… メノヴィーアってどんなところ?」
「かの『奇跡の超天才』の生まれ故郷って言われてたワン。大昔に1度滅びたけど、復興させたって聞いたことがあるワン」
「なるほど…… 『奇跡の超天才』が関わっているのね」
「このあたりで『奇跡の超天才』が関わっていないところはないと思うワン」
「それもそうね。そういえばメノヴィーアの先にも都市があるのよね?」
「フィナルメンシウタットのことかワン?」
「フィナルメンシウタット…… フィナルメンか…… 実は名前までは知らなかったの。でも、湖のそばにあると思うの」
「そうワン。山を越えた先だけど、湖のそばにある都市だワン。メノヴィーアのあたりからさらに4、5日はかかるワン。みんななら強いから4日くらいでいけるかもワン」
「メノヴィーアはここから行った分かれ道からどのくらい?」
「みんななら1日くらいだと思うワン」
「じゃあ、全部で行くだけで8日くらいはかかるわね。結構遠いわね」
「しかも山越えのところでキメラが出やすいから、なかなか行きにくいワン」
「そんな場所に都市があるということは、そばに強いキメラが出る洞窟があるのね?」
「そのとおりワン。フィナルメンシウタットがなければ、そこから出たキメラが広がってしまうワン」
「衛兵施設が大事な役割を果たしているのね」
「そうワン。特別証を持っていれば中に入れるはずだワン。困っていたら助けてあげてほしいワン」
「もちろんよ……」
「?」
「……」
ん? どうやらモカが少し考えているようだ。
「ねえ…… メノヴィーアを襲ったキメラのことって分かる?」
「全然なのワン。中に入るのも危険なので、全然調べられていないワン」
「そう…… 襲われたのはいつくらい?」
「正確には分からないワン。少なくとも1年以上前だと思うワン。私たちが知ったのが1年少し前だワン」
「そう…… 分かったわ。ありがとう」
リコ隊長から話を聞けた俺たちは衛兵施設をあとにした。
◇
そのあと、約束どおり、畑に行くことにした。
休憩所で俺とモカはまったりとし、クルルとプリンは野菜に囲まれてうっとりとしつつ、モル人、ウサ人と交流していた。
「時期的にはいろいろ整合するわよね」
「ん? 何が?」
「キメラのことよ。メノヴィーアを滅ぼしたのが1年以上前、そのあとどうしたか分からないけど、しばらくして第1施設の洞窟でユイさんたちを殺害。ノエさんが逃げ出し亡くなったところでダブル爺が発見。このときが1年前か、少しあとくらいかしら」
「その情報がプリンやユキさんたちに伝わるまでに1、2カ月は少なくともかかりそうよね。プリンがノエさんたちが亡くなったって聞いたのは私たちと会う数カ月前だから今年の始め頃よ」
「私たちがプリンと会ってから3カ月くらいは経っているから、逆算するとちょうど1年前くらいにノエさんが亡くなっててもおかしくないわ」
「そうだな」
「それにユキさんたちがそのことを知って、きっと困ったのだわ。それで研究を始めたりして、ユキさんが不安に思い、ネックレスを隠したわけ。いろいろ悩み抜いた頃じゃない? ヤマにユキさんがチップを寄生させたのは」
「たしかに。あれは4月の後半くらいだっけな」
「でしょ。となると、たぶん、この世界のバランスを崩した原因は1年以上前にメノヴィーアを滅ぼしたキメラよ。キメラと決めつけちゃいけないのかもしれないけど」
「……今、そのキメラはどこにいるんだろうな」
「そうね。最後の痕跡から時間が経っているからどこにいてもおかしくないわよね」
「『奇跡の超天才』の生まれ故郷を狙った可能性はあると思う?」
「分からないわ。たまたまかもだし、そうだとしたらレイシュトに行かなかった理由も分からないし」
「そうだよな」
「いずれにしろメノヴィーアを見てみたいわ」
「そうだな」
クルルたちをみると、モル人仲間と野菜をつまみ食いしている…… まあ、フューラスタードの人とやるならいいか……
「なあ、第5施設に行っていろいろ分かったら、俺たちのことをクルルたちに話すんだよな」
「うん、それしかないわ」
「研究所に行く前にな」
「ええ。結局、研究所に行くことにはなるはずよ。ずっと逃げてはいられないし、そもそも敵対していてはいけないような気がするの」
「だよな。きっと、第5施設で確信が得られるよな」
「私もそう思うの」
「……思い返せば、元の世界に帰る方法を探すはずが、すごい大冒険になっちゃったな」
「いいじゃない。クルルやプリンたちと出会えたんだから」
「本当そうだよな。大学にいたら得られない大切なものを得たよな」
「あ…… 大学…… 私たち留年ね……」
「まあ、そうだよな…… しかたないよ」
「そうね。でも、ヤマと暮らせるならもういいわ」
「えっ?」
「ふふっ」
思い出してはいけないことを思い出してしまった…… それとともに、モカの覚悟に圧倒された。




