第43話 リコ隊長
無事にシカワニを倒した俺たちは、北門まで回って、フューラスタードに戻った。そのまま、衛兵施設に向かった。
衛兵施設の入り口の守衛に声をかけようとしたところで、逆に声をかけられた。
「ワン! ヤマさんたち、おかえりなさいワン! リコ隊長のところへ行かれますかワン?」
「そうなんです。入ってもいいですか?」
「もちろんワン。リコ隊長は、この時間なら隊長室にいらっしゃると思いますワン」
「ありがとうございます」
2階に上がり、隊長室まで行った。
ノックする前に周囲を見て誰もいないことを確認すると角を出してプリンに託しておいた。
(トントン)
「どうぞワン」
「ただいま戻りました」
「お疲れ様ワン。おかえりなさいワン。まずは座ってくださいワン」
「ありがとうございます」
例によってソファに案内された。
「それで、どうでしたワン」
「はい、倒してきました。プリン」
「これがキメラの角の一部ナノ」
「すごいワン! これで一部なのですかワン?」
「この5倍くらいの大きさの角が2本ありました」
「……4人でよくそんなキメラ倒せましたワン。しかも、みなさん無傷ですし、疲れている様子もほとんどないですワン」
「まあ、無傷なのはいつもです。というより、傷を負うと大変なので、攻撃をかわすことを大事にしているのです」
「そうでしたかワン。そういえば、倒したキメラはどうしたワン?」
「埋めてきました。置いておくのも良くないかなと思いまして」
「う、埋めたワン?」
「えっ? ダメでした?」
「い、いや、大丈夫ですワン。でも、この短時間に倒して埋めてくるって、そんなことできるのですかワン?」
「まあ、ヤマがいればできるプイ」
「そうナノ。みんなで力を合わせればできるノ」
「一応、洞窟に向かっていったのを観察してたってことにしてもらえるとうれしいわ。あまり、私たちが強いと思われるのもフューラスタードの衛兵にとって良くないことですから」
「わ、分かりましたワン。あまりのすごさに圧倒されたワン。そうだワン! これを受け取ってほしいワン」
「特別証ですね」
「そうワン」
銀色の犬の肉球マークの特別証だ。
「こっちもかわいいわね」
「そうプイね」
「集めたくなるノ」
「おいおい……」
俺たちが肉球に夢中、じゃなくて、特別証を眺めていたらリコ隊長が聞いてきた。
「みなさんはこのあとどうされるのですかワン?」
「うーん。行きたいところはありますけど、明日以降でいいかなと」
「そうですかワン。では、用事が終わったら手合わせさせていただきたいワン」
「あっ、それなら今からやる? どうプリン。やっぱりここはプリンでしょ。ボコ隊長と手合わせしたのもプリンなんだから」
「いいと思うノ」
「ワン!? 今からでも大丈夫なんですかワン?」
「ん? 全然大丈夫だよな?」
「大丈夫ナノ」
「そ、そうですかワン。では、訓練場に行きますワン」
◇
みんなで1階の訓練場に行った。今は訓練をしていない時間のようで、誰もいなかった。
「では、この木刀をどうぞワン」
「ありがとうナノ。リコ隊長はコネクトを使って全力で来ていいノ。ボコ隊長もそうしたノ」
「分かりましたワン」
「それと、私が勝ったら、敬語はやめてもらうノ。ボコ隊長みたいに仲良しになるノ!」
「ワン? お兄様ともそうなのですかワン?」
「ボコ隊長とも仲良しナノ!」
「そうプイ」
「そうだな。プリンに忠誠誓ってたし、モカにも懐いてたな」
「もう、私は単にプルンをあげただけよ」
「では、頑張るワン!」
2人が向かい合う。リコ隊長の目が真剣になった。
(……タタタタッ!)
リコ隊長がプリンに突っ込んできた。やはり、プリンは微動だにしない。リコ隊長が木刀で勢いよく斬りつけてきた。
(カンカン!)
プリンは最小限の動きで受け流した。
デジャヴだ。ボコ隊長と同じ動きだ。プリンの動きを見たリコ隊長はコネクトを使い、下がりながら土の塊をぶつけてきた。プリンはそれを木刀で斬ったり、かわしたりしてやり過ごすのも同じだ。
ボコ隊長はその隙に勢いよく斬りかかって来て負けたが、リコ隊長は斬りかかろうとはしてこなかった。代わりに土壁を作って視界を防いできた。
(ドン!)
(ピクッ)
プリンは音でリコ隊長の動きを把握できているようだ。リコ隊長が回ってくる方向に気を付けつつ、周りへの警戒も怠らない。
(ドドドッ!)
(ズバババッ)
リコ隊長は自分がいる位置と反対の壁の端から土の弾丸を飛ばす。それをプリンは木刀で斬り伏せた。
そのタイミングをリコ隊長は狙っていたようだ。プリンに音もなく斬りかかる。
(ササ……)
(ピョン!)
プリンに木刀が届くかというときに、プリンはそれを軽く飛び越え、体勢を入れ替えた。
かわされたことに驚きつつ、振り返ったリコ隊長。
そのとき――
(ヒュッ!)
「ワ……ン……」
勝負ありだ。木刀の先がリコ隊長の喉元に突き付けられていた。
「参りましたワン。これほどとはすごいワン……」
「でも、ボコ隊長よりは長く続いたノ。土の使い方が上手ナノ」
「うれしいワン。私はお兄様みたいに強くなるのが目標なのワン」
「それはいいことナノ。じゃあ、約束どおり、敬語は無しにして、私たちと仲良しになってほしいノ」
「分か……ったワン」
「ふふっ、さすがプリンね。兄妹ともに仲良しになれちゃうなんて」
「仲良しの人の妹なんだから、普通仲良しになれると思うよ」
「そうプイ。最初から仲良くなれる雰囲気しかなかったプイ」
「そうだ、約束どおり、明日、プルンを作るから一緒に食べましょうね」
「そうだな。出かけるのは午後からでも全然大丈夫だと思うしな」
「うれしいワン」
「あっ、そうだ。東門のほうは安全になったと思うから、開けておいてもらえると助かるかな。明日は東門から少し出てみたいし」
「分かったワン」
そのあと、モカはプルンの材料とレシピを書くためのものを買出しに行き、インベントリの冷蔵庫に入れて、宿屋でレシピを書きつつ休んだ。
◇
次の日、衛兵施設に行くと、リコ隊長が待ち構えていた。
「おはようワン。今日はモカプルンを一緒に作る日ワン」
「ん? 一緒に?」
「え…… ダメかワン?」
「いや、全然そんなことないわよ。忙しいかなって思っただけなの」
「衛兵のみんなのために、私が作り方を覚えようと思ったワン」
「えらいわ。じゃあ、これ先に渡すね。作り方を書いておいたの」
「すごいワン! これがあれば作れそうワン!」
「じゃあ、調理場に行きましょう」
そのあと、リコ隊長も一緒にモカプルンを作り、食堂に移動して、みんなで食べた。久しぶりに食べるモカプルンはやはりおいしかった。
初めて食べるリコ隊長には衝撃的だったようだ。
「こんなおいしいものが世の中にあるなんて驚きワン」
「他の都市でも既に流行っているノ」
「フューラスタードでも広めてもらっていいわよ。お店の人にも作り方を教えてあげてね」
「いいのかワン」
「もちろんよ。みんなが幸せになるために私たちは頑張っているんだから」
「「そうプイ(ナノ)」」
「お兄様がモカさんに懐いたと言うのが良く分かったワン。私も懐いちゃうワン!」
「ふふっ」
リコ隊長と俺たちがすごく仲良さそうにモカプルンを食べていたことはすぐに衛兵施設内で広まった。
それと同時にモカプルンの作り方も広まり、ここフューラスタードでもモカの名は轟くこととなった。
◇
フューラスタードを護っていたため遅くなったが、これで、洞窟に行く準備がようやく整った。
昨日のうちに東門は開門されたようだ。俺たちが東門に到着すると衛兵たちがあいさつしてくれた。
「ありがとうございましたワン。これでまた東門が開けられましたワン」
「良かったわ。せっかくだから私たちはここから出かけてくるわ」
「いってらっしゃいワン」
東門を出て、湖沿いを北東に向かった。
「またシカワニが出てくるかもしれないから一応警戒して進もう」
「そうね。今日は洞窟に明るいうちに着けば十分よね」
この湖は南北に細長い形をしてそうだ。ちょうど南の端のところにフューラスタードがあるような印象を受けた。
湖の東側をやや北に向かって進んだ。西側に広がる湖を気にいていた俺とは違い、モカは別のところに気付いたようだ。東側を指差している。
「ねえ、あっちの遠くにあるのって、海よね。湖にしては大きいわよね」
「ん? たしかに海っぽいのがあるね。少しここは小高いから見えるのか」
「海には行ったことがないプイ。でも、東に行けばあるって聞いたことはあるプイ。エーンスタットからも海に行けると思うプイ」
「海にキメラはいるのかしら?」
「分からないプイ」
「私も分からないノ」
「湖にいないなら、海にもいないのかしらね」
水の中の生態系だけ普通なのだろうか。でも、ワニ系のキメラの影響で、湖の中はだいぶ違いそうだ。もし、クジラ系やアザラシ系のキメラがいたら影響大だろう。
「とりあえず行く用事もないし、今はいっか。安全なら海水浴とか楽しみたいけどな」
「そうね。いつかそういう日がくるといいわね」
東に海、西に湖があるということは、このあたりは海と湖に挟まれたエリアということのようだ。それに、道らしい道は無いから、普段はこちらに来る人はほぼいないのだろう。
そのまま湖に沿って北上していくと、洞窟が見えてきた。湖と海に挟まれているのに、他の洞窟と見た感じはあまり変わらずこの辺だけ岩山になっているから、かなり違和感がある。
「なあ、こんな場所にあるのに、他の洞窟と似ているよな」
「そうよね。偶然できたとすると違和感ありすぎよね」
「だよな。作ったって言われたほうがしっくりくるな」
「そうね。もう夕方だし、探索は明日にしましょうか」
「そうだな」
いつものように洞窟のそばでキャンプすることにした。
◇
次の日、いよいよ洞窟に入ることにした。
この洞窟も明るいパターンのようだ。しかも広い。
「これだけ広いということは、大きなキメラがたくさんいてもおかしくないよな」
「そうだと思うわ。これまでも徐々にキメラが強くなってるから、ここはこれまでより強いはずよ」
「何かいるプイ!」
最初にクルルが気付いた。俺たちもその後、すぐ気付いた。
「あれは…… サイ……トラ?」
「たぶんそんなところね。武器が通用しそうなだけマシだわ」
「そうだな。居合抜きができるように俺たちで抑えるから、トドメはプリンよろしくな」
「分かったノ」
だが、こちらから攻撃する前に、向こうが突進してきた。
(ダダダダッ!)
(ズザーッ!)
(ドォン!)
モカに突進するサイトラを止めるべく、クルルが水鉄砲を放ったが、サイトラは大きな土壁を出して対抗してきた。
「なるほどな。これ使えるな」
「そうね。土壁を出させたあと、水鉄砲が通る直前に消せばいいわ」
「ああ、驚いた隙に光と居合抜きのコラボだな。理想的にはプリンに突っ込ませればいいんだよな」
(ヒューッ)
「そうなるわね」
「分かったノ。氷で挑発するノ」
モカは風で大きくかわしつつ、作戦会議に参加している。
(ドドドドド!)
(バリバリバリン!)
プリンが放つ氷の弾丸をサイトラは角と強靭な前足ではじき飛ばした。大きな弾丸ではないことからイライラしたのだろう。怒ってプリンに突進し始めた。
(ガゥ! ダダダダッ!)
(ズザーッ!)
(ドォン!)
(スッ)
(ガ、ガウ!?)
急に土壁が消え、水鉄砲が腰のあたりに当たったサイトラは驚いて吠える。
次の瞬間――
(ピカッ!)
(!?)
(ヒュッ!)
(……ドサッ)
光でのけぞったサイトラの首をプリンの居合抜きが的確にとらえ、勝負あった。
この洞窟でも、入り口に近ければ危険はそこまではなさそうだ。
ただ、これまでの洞窟よりはキメラが強いのは間違いなさそうだ。
「クルルが吸収するのがいいんじゃないかな?」
「私もそう思うわ」
「いいけど、どうしてプイ?」
「ここのキメラは強いわ。この先、岩とヤマ魔法の組み合わせでしか勝てないキメラがいてもおかしくないの。そのとき、クルルの岩の大きさが大事になるわ。ヤマもそう思ったんでしょ?」
「ああ、そうなんだ」
「なるほど、納得プイ」
「それに、第4施設に早く到達して、そこでもう少し強くなってから、ここで鍛えてもいいしね」
「そうだな。これまでみたいに施設に着いた時点で最大まで上げられなくてもいいかもな。あんまりギリギリの戦いを続けるのもあぶないしな」
「そうなのよ。警戒しつつ、進みましょう」
俺たちは先を目指して奥に進むことにした。




