第42話 フューラスタード防衛戦
畑を改めてよく見るとつまみ食いしているモル人もいた。クルルも行きたそうにしている。
「クルル、行きたいのは分かるけど、ここの野菜はフューラスタードの人たちのご飯になるから、あんまり俺たちが食べちゃわないほうが良くないか?」
「そうプイね。私は野菜に囲まれているだけで落ち着くから幸せプイよ」
「私も畑は落ち着くノ」
(ピクッ)
相変わらずのんきな会話をしていたとき、プリンの耳が動いた。
「ん? どうした?」
「気のせいか分からないけど、どこかで大きな扉が閉まったような音が聞こえたの」
「どっち方向かしら?」
「あっちナノ」
そういうとプリンは東のほうを指差す。
「ひょっとすると、キメラが出てきて、東門が閉じられたかな」
「可能性はあるわね。見に行きましょうか」
「そうプイね」
「名残惜しいけど、行くノ」
◇
大通りに戻り、東に向かった。
最初の印象通り、ドスシウダを南北反対にしたような大通りの構造だ。フューラスタードの真ん中あたりに大きな円形の道があり、それを回ると東側に出た。
東側には他の都市と同じように大きな衛兵施設があった。
施設の前には何人かの衛兵がいて、遠くにある東門は閉まっていた。やはりさっきのは東門が閉まった音だったようだ。
ただ、ドスシウダのときとは違って、キメラはいないようだ。
衛兵施設前にいる衛兵に聞いてみることにした。
「東門をさっき閉めたのですか?」
「そうなんだワン。近くにキメラが見えたからワン。門の中に入ってきたら大変だから、あなたたちは逃げたほうがいいワン」
モカのほうを見て、目で会話したあと、特別衛兵隊員証を見せた。
「俺たちはドスシウダの衛兵なんだ。一緒にフューラスタードを護るよ」
「ワン? それはドスシウダの隊長の印ではないかワン! 施設にご案内するワン!」
「ありがとうございます」
衛兵に案内されて、衛兵施設に入った。基本はドスシウダの衛兵施設と同じ構造のようだ。
2階に上がり、中央の作戦本部に入れてもらった。
「隊長、ドスシウダの特別衛兵の方々がフューラスタードにいらっしゃっていたワン。一緒に戦ってくださるそうですワン」
その報告を聞いた1人の女性のイヌ人が立ち上がってこちらに来た。
ボコ隊長に良く似た雰囲気だ。隊長はみんなこういう雰囲気なのだろうか。
「はじめまして。ヤマと申します。こちらはモカ、クルル、プリンです」
そう言って特別衛兵隊員証を見せた。隊員証を見たイヌ人が自己紹介してくれた。
「私は隊長を務めていますリコですワン。ドスシウダのボコ隊長は私の兄ですワン。兄が認めた方なら信頼できますワン」
「えっ? ボコ隊長の妹さん?」
「はいですワン」
「雰囲気が似ているなと思ったのですが、そういうことだったのですね」
「はい、似ていると良く言われますワン」
「キメラが門の近くに来たと聞いたものですから、何かお力になれればと思いまして」
「ありがとうございますワン。ところで…… その話の前に隊長室で少しお話させていただいても良いでしょうかワン?」
「もちろん構いませんが……」
「時間はそれほどかかりませんワン。みんな、少し休憩にするワン」
「ワン!」
「では、こちらにどうぞワン」
リコ隊長に案内されて隊長室に向かった。
◇
隊長室の場所もドスシウダと同じだ。ソファに案内され、みんな座った。
「わざわざこちらまで来ていただきありがとうございますワン。兄が特別衛兵隊員証を託すということは、相当特別な方々だと思ったからワン。どういう経緯があったか教えていただけませんかワン」
「なるほど、そういうことでしたか。モカ、説明をお願いしてもいい?」
「もちろんよ」
モカはドスシウダがキメラに襲われたこと、そのとき俺たちがキメラを倒したことを伝えた。
「なるほど…… そのキメラはどの程度強かったのでしょうかワン?」
「どうかしら…… ウシガメだったと思いますけど、プリンが横を走り抜けるついでに斬り倒しただけですので……」
「ワン? ウシガメをワン?」
「甲羅が硬いだけだからそんなに大したことなかったノ」
「……」
リコ隊長はプリンをじっと見ながら何やら考えているようだ。正直に話しすぎたか……
「……もしかして、あなたたちは真っ白な髪のウサ人の方をご存知ですかワン? 私の兄を助けた恩人なのですワン」
「その人はプリンの師匠です。ボコ隊長にも話しました」
「なるほどワン。すべて納得したワン。おそらく、あなたたち4人はここにいる衛兵の誰よりも強いですワン」
「さすが隊長ですね。人を見る目がすばらしいです」
「あ、あの…… キメラを追い払ったら、私と手合わせいただけないかワン」
「いいですよ、ボコ隊長ともやりましたから」
「ワン! お兄様、ずるいですワン!」
「ところで今迫っているキメラはどんなキメラですか?」
「その話はみんながいるところでしましょうワン。これからちょうどその話をするところだったワン」
「そうでしたか。ぜひご一緒させてください」
「キメラを追い払ったら、私の印入りの特別証も受け取ってくださいワン。隊員証を2つの都市分持つのは少し変なので、隊員証ではなく、あくまで私の認めた人という意味の証を用意しておくワン」
「え…… もちろん光栄ですが、よろしいのですか?」
「はいワン。キメラの話を聞けば納得いただけると思うワン」
「分かりました」
要するに通常の強さじゃないキメラということか。それならしかたあるまい。
「では、作戦本部に戻りましょうワン」
◇
作戦本部に戻ると、俺たちにも席に座るようリコ隊長が促した。俺たちが座るとリコ隊長が話を始めた。
「待たせたワン。では、見つかったキメラについて話したいワン。見張りからの報告によると、どうやら巨大なシカワニだと聞いているが、その他何か情報はないかワン?」
「はいワン。詳しい情報はないですが、とにかく大きく、角も非常に大きいとの報告があるワン」
「コネクトの情報はないかワン?」
「確証はありませんが、周囲が濡れていたことから水と推測されますワン」
「水だと我らの土壁は簡単に削られるということかワン?」
「可能性は高いワン」
なるほど。角が大きくて、しかもとにかく大きいということは、単なるシカじゃなくて、ヘラジカ級ということだろう。
報告を聞いたリコ隊長が俺たちのほうを向いて話を始めた。
「ご存知と思うが、我らイヌ人は土のコネクトを使うワン。普通の強さの水なら防げるが、強い水だと破られるワン。風や水の使い手であるウサ人、モル人もいるが、力は強くなく、攻撃を受けたら最後ワン」
「良く分析されてますね」
「そこで、我らは東門を閉めたワン。だが、東門を突破されたら防ぎようがないワン」
「衛兵で勝てなければそうなりますね」
「そこでワン。あなたたちにキメラの様子を見てきてほしいワン。ドスシウダの特別衛兵隊員証を持ち、ここにたどり着けるほどの強さを持つあなたたちなら様子を見てこれると思うワン。無理しなくていいけど、もしうまく行きそうなら洞窟に追い返してほしいワン」
「分かりました。見てきましょう。ただ、フューラスタードの人に危険があるといけないので、俺たちが出たら東門は閉めて、防護を固めてください」
「でも、どうやって戻ってくるのですかワン?」
「……北門に回れば入れませんか?」
「少し距離はありますが、行けないことはありませんワン」
「じゃあ、そうしましょう」
「それなら、行きも北門から行ったほうがいいわ。帰り道を覚えた状態で東に行くほうが安全よ」
「なるほどな。そうしよう」
「……では、くれぐれも気を付けてほしいワン。今日の作戦会議は以上にするワン」
みんな作戦本部を出て行った。
最後に俺たちとリコ隊長が残ったので、小声で聞く。
「もちろん、倒してもいいですよね?」
「可能ならお願いしたいワン」
「大丈夫ナノ」
「安心して待っててプイ」
「戻って来たらプルンを作ってごちそうするわ」
「ワン? プルンって、もしかして噂に聞くあの『モカプルン』のことワン? まだ本物を見たことがないワン」
「そうでしたならちょうどよかったわ」
「本家だから楽しみにしててほしいノ」
「ワン? 本家…… まさか、モカプルンを作ったというあのモカさんワン?」
「そうよ。さん付けは要らないけどね」
「衝撃的ワン……」
最後にしっかり衝撃を残してから作戦本部を出ることになった俺たち。特に準備をする必要もないから、そのまま北門に向かうことにした。
◇
北門から出た俺たちは、フューラスタードを囲う丈夫な塀に沿って東に進んだ。
左奥のほう、つまり北東側には湖が見える。やはりここも同じようだ。
「シカワニということは湖に隠れているときもあるでしょうから気を付けましょう。おそらくは東門よりも北東の洞窟のほうにいるでしょうけど」
「そうだな。洞窟とフューラスタードの間にいるんだろうな」
「大きなシカワニと言ってたけど、どんなキメラなのかしらね」
「俺は勝手にヘラジカのイメージを持ったけど……」
「同じだわ。立派な角と大きな体で、弱点はあるとしてもお腹くらいなのかしら? でもワニと合わさるとお腹もそれなりに硬そうね」
「突進もしてくるし、足も強くて、あごもつよくて、皮膚も硬いということか。それで、さらに水を使うか」
「……うーん。なんとなく、居合抜きは厳しそうね。というより、普通の武器だと苦しいわね」
「大きな岩か氷をヤマ魔法で飛ばしてもらうのが1番プイ」
「やっぱりそうなるよな」
「問題はどうやって確実に当てるかなのよ。それに、挟む壁はないかもしれないから威力をどう確保するかも大事だわ」
「壁に当てなくても、勢いがあればかなりの威力だと思うプイ」
「前、氷でやったみたいに挟むのもいいノ」
「うーん、つまり大きな岩を2つ出して、1つのそばに誘導して、そこにもう1つをぶつけるんだな」
「そうね。クルルはとにかく大きな岩を2個出すのが優先ね。私とプリンで、岩の間の片側に誘導して、私が目をくらませた隙にヤマ魔法で倒しましょう」
「空は飛ばないだろうから、それでいけそうだな。水で流されない岩の大きさが1番大事だな」
「そうね。本当に大きいのが出せるなら、私かプリンが岩を背にして立って、突っ込ませたときに空に逃げるのもありよ」
「……うーん。それはやめよう。俺の岩に挟まれたらモカやプリンでも危ないから」
「分かったわ。コネクトでなんとかしましょう」
作戦が大体決まった頃には、東門をだいぶ越えた先まで来ていた。ここから見えるあたりにいるかもしれない。
「見た感じどこにいるか分かんないな。とりあえず湖沿いを少し離れながらもっと北東に行くか」
「そうプイね。大きいのに隠れられるなら水の中プイ」
「みんな、静かにしてほしいノ。何か聞こえるノ」
「「「……」」」
(ピクッ、ピクッ)
「……たぶんあそこナノ。何か硬いもので水をかくような音がしたノ」
プリンが湖の中を指差している。たしかに波立っているような気がしなくもない。
「あそこか…… もう少し近づいたらキメラの肉を風であそこまで運べるか?」
「できるわよ」
「じゃあ、これを」
モカにインベントリから出したキメラ肉を渡した。少し歩いたところで、モカはそれを風で飛ばした。
(ヒューッ)
(バシャッ!)
「大きい……」
ついにシカワニが姿を現した。一瞬でキメラ肉は平らげたようだ。立派な角がある。やはりヘラジカだろう。
「クルル、こっちの広い場所に大きな岩を2つ用意しておいてちょうだい。ヤマはチャンスを狙ってね。じゃあ、プリン、行きましょうか」
「分かったプイ」
「行くノ」
(ドォーン! ドォーン!)
「でかっ!」
随分と大きな岩だ。これなら挟めばほぼ間違いなく勝てるだろう。向こうもこちらを敵と認識して突っ込んでくるようだ。それに対抗して、まずはプリンが氷をぶつけにいく。
(ダダダダッ!)
(ドドン!)
(バリバリン!)
だが、いとも簡単に角で砕かれた。
それを見た2人は風を使って、横に広がった。それと同時にクルルが水の弾幕で邪魔しにかかるが、シカワニも水で対抗してきた。
(ズバババン)
(ズザーッ!)
「あぶないノ!」
(ヒューッ!)
「ありがとうプイ」
プリンがクルルを横に飛ばした。
それを見たシカワニの意識がプリンのほうに向いている間に、モカは岩のそばにひそかに移動している。モカに突っ込めば、ちょうど岩の間の岩寄りを通る場所だ。ただし、飛び越えられる可能性は考えておかないといけない。
「クルル、シカワニがモカに突っ込むときに空中に大きな水鉄砲を打つんだ。あいつを跳び上がらせないように」
「そうよ、それがいいわ!」
「分かったプイ」
それと同時にプリンがシカワニの上から氷を出して、顔がモカのほうに向くように工夫する。
(バリン!)
氷を割ると同時にモカに気付いたシカワニが突っ込む。すかさずクルルが道を封じる。
(ダダダダッ!)
(ズザーッ!)
上空をふさがれたシカワニが岩の間に入る瞬間に、モカが光を使う。ひるまなくても、こちらへの意識が無くなれば十分だ。俺も準備に入る。
(ピカッ!)
「いけっ!」
(ドゴォーン!)
◇
「……やったか」
「……そうみたいね。慎重に近づいて、細胞が吸収できるか確認してみるしかないわね」
「プリン頼めるか? もしものときに1番かわせる可能性が高いから」
「やってみるノ」
プリンが恐る恐る近づくと、無事に細胞を吸収できた。無事に倒せたようだ。ようやくこれで安心できる。
「ふう、倒せたようだな」
「よかったわ。作戦勝ちね」
「奥の手がある私たちならではプイ」
「そうナノ。普通ならたぶん首元にロングソードをなんとか突き立てて倒すしかないノ」
「そうだよな。でも角に刺される危険があるよな」
「だから、厄介なキメラだったのよ。安全に倒すのが難しいキメラよ。洞窟のキメラかはちょっと分からなかったわね。水の威力はかなり強かったけど」
「まあ、とにかく無事に倒せたし、フューラスタードに戻るか。でも、この岩どうする? 岩だけでも消しておくか」
「うーん。岩を消して、死体を落とし穴に落として、その上から土で埋められない?」
「おお、それいいね。埋葬だな。一応、証拠として角の一部を斬って持っていくか」
角を斬ったあと、モカの言うとおりにキメラを埋葬した。
これでいろいろな意味で安心だ。
フューラスタードに戻ってリコ隊長に報告しよう。




