第41話 初めての道、不安な情報
次の日の朝、準備を整えた俺たちはトライオラシの南門に向かうことにした。
研究所の前には相変わらず警備員がいるが、俺たちには無関心のようだ。さすがに顔が知られているわけではなさそうだ。
南門まで行くといつも通り衛兵がいた。
そして『このさきフューラスタードほうめん』と書かれた立て札があった。
「『方面』ということは、きっと分かれ道があるんだな」
「そうだと思うノ。でも、行ったことがないから分からないノ」
「分かれ道まで行けば立て札があるんじゃないかしら?」
「とにかく行ってみようか」
門から出るときに衛兵から声をかけられた。
「フューラスタードまでは遠いので、気を付けてくださいワン」
「ありがとうございます。無理そうなら戻って来ます」
「そうするのが良いワン」
ここから先はまだ行ったことがない道だ。
門を出ると、道は南方向に続いているようだ。
南側の遠くには山々が連なっているのが見える。山にはキメラがたくさんいるのだろうか? もしたくさんいるとなると、山を越えるのは普通の人にはかなり難しいだろう。
ある意味、山のこちらに閉じ込められているような感じだ。
◇
南に2日ほど進んだところで、東側に道は曲がっていた。
少し前までは遭遇するキメラはあまり変わらなかったが、このあたりから飛ぶキメラが増えた気がする。山に近づいたせいかもしれない。
ワシイノ、ワシライ、ワシザルといったワシ系、トカワシ、ここにもいたトカコウといったトカゲ系などだ。
トカゲ系はパッと見がドラゴンなので、毎回ビビる。
見つからなければ攻撃されないため、たぶん普通の旅人は隠れながら進むのだろう。山が近いこともあり、北のほうに比べればこちらは木も多めで隠れる場所がそれなりにあるのが救いなのだろう。
普通の旅人とは違い、俺たちにとっては、このあたりにいるキメラは大した敵ではなかった。
クルルの水鉄砲や岩の弾丸だけで倒したり、モカの光や風とプリンの居合抜きの合わせ技で倒したり、という感じだ。落とし穴が必要なレベルのキメラには遭遇しなかった。
つまり、ほとんど俺の出番はなかった。もっぱら、俺はインベントリとキャンプ係だ。まあ、これが1番平和だ。
それにしても道のりは長そうだ。
終着であるフューラスタードはもちろん、分かれ道にもまだ到達しない。インベントリがなければ、相当な荷物が必要になるだろう。また、人数も揃えないと危険なため、なかなかこちらには来れないだろう。
実際、トライオラシを出発してからここまでに人間や亜人には会っていない。
「そういえばフューラスタードまでどのくらいかかるかちゃんと確認してなかったな」
「そうね。遠いってことくらいかしら。まだ何日もかかるのかしらね。高いところに上れば見えるのかもしれないけど、南に見える山に上る気はしないわね」
「そうプイね」
「しかたないノ」
「まあ、気にせず行くしかないか。道があるならそのうち着くよな」
「私たちは荷物とか気にせずに行けるから道が分からなくても楽なほうよ」
「たぶん、普通は道を知っている護衛を頼むと思うノ」
「そうだよな。護衛ってどこで頼むんだろう?」
「衛兵施設が普通だと思うノ。あとは個人的にお願いするくらいナノ」
「なるほどな。衛兵って大事なんだな」
「私たちは特別衛兵隊員証も持っているから護衛無しでも、そんなに変に思われずに済みそうということね」
「そうナノ。たぶん、護衛より私たちのほうが強いノ。道を知らない不安はあるけど、ヤマのおかげで、ほとんど気にならないノ」
「インベントリは便利だな。インベントリ機能だけでもみんな使えるようになれるといいんだけどな」
「機能はともかく、インベントリとして使える蔵みたいなものを持っている人はほとんどいないわよ。プリンがいたからできているんだから」
「そうだった……」
「インベントリはともかく、水のコネクトを使えるかは死活問題だな。これだけ長い距離だと、水筒だけじゃどうにもならないよな」
「そうね。モル人って護衛もするのかしら?」
「あまり聞かないプイ」
「そうなのね。となると、水を使えるようになった人間の護衛も必要ということね」
「そういえば、都市でモル人はあまり見ないもんな」
「小柄だからいろんな設備を使うときに不便というのもあるプイけど、私たちってなぜか前を歩くモル人に付いていきたくなるから、モルジクにみんな揃って行っちゃったみたいプイよ」
「すごく分かる気がするわ……」
モルモットってたしかに行列になって歩くイメージがあるな。モル人にもその名残があるんだな。
なんか並んで歩いている姿ってかわいらしいな。
◇
東にさらに3日くらい進んだところで、ようやく分かれ道に到達した。
立て札があり、直進側が『このさきフューラスタード』、右側は『このさきメノヴィーアほうめん』と書いてあった。
「メノヴィーアってどんなところ?」
「聞いたことがほとんどないプイ」
「……ナ? メノヴィーアって最近キメラに襲われた町のことかもしれないノ」
「えっ? 襲われたの?」
「詳しくは分からないノ。私も聞いただけだからナノ」
「メノヴィーアのそばにも洞窟はあるのかな?」
「ないんじゃないかしら?」
「どうしてプイ?」
「いや、その…… 名前から言ってそうかなって。それに方面って付いているから、その先にまだ都市はあるんでしょ?」
「何て名前だったかは覚えてないノ。でも、山の向こうまで行ったところに都市があるって聞いたことがある気がするノ」
「どちらにしろ、フューラスタードに行って、そばに第4施設があったとしても、第5施設のある洞窟も探さないといけないから、きっとここに戻ってくるんじゃないかな?」
「その可能性は高そうね。だって、エーンスタットから東に行って南に行くとフューラスタードに着くって、エーンスタットの道具屋さんが教えてくれたじゃない。だから、フューラスタードの北に別の都市はないわよ」
「えっ、よく覚えているね、そんな前のこと……」
「ヤマ、ちゃんと覚えていたほうがいいプイよ。モカに頼りすぎプイ」
「ま、まあ、そうかもな。モカが風邪ひいたときとかに困るもんな」
「もう、ヤマったら……」
「それにしてもキメラに襲われた場所もあるんだな…… そういえば、ドスシウダも最初に着いたときはキメラが押し寄せたところだったな」
「そうね。でも、ドスシウダは私たちがいなくてもなんとかなったかもしれないわよ。洞窟のそばにいた1匹だけが問題だったみたいだし、あのキメラが洞窟に戻ればそれで解決したでしょうから」
「メノヴィーアは襲われてどうなったのか知ってる?」
「正確には全然分からないノ。でも、私が聞いたのは滅びたっていう内容だったノ。それ以降、危ないからあっちにはあまり人は行ってないかもしれないノ」
「最近ってどのくらい前?」
「私が聞いてから1年くらいだと思うノ」
「……」
モカが何か考えている。少し待とう。
「……いずれ近くに行くでしょうから、そのとき寄ってみましょう。たぶん何か分かることもあると思うわ。それが何かはまだ想像できないわ。ただ、普通のキメラでは町を滅ぼせないと思うわ。よほどの大群か、異常な強さか、どちらかが必要よ」
「なるほどな。じゃあ、メノヴィーアを見に行く前に第4施設に行くべきだな」
「同感よ」
「よし、じゃあ、真っすぐ行こう」
新たな不安材料だな。町を滅ぼすレベルの何かがいるなんて、なかなか厳しいな……
◇
不安を抱えつつも、さらに3日ほど進むとようやく都市が見えてきた。
例によって門は衛兵が護っていた。宿屋も門から入って比較的すぐのところにあった。
既に夕方だったこともあり、すぐに宿屋に入り、長旅の疲れを癒すことにした。と言っても、お風呂と布団以外は言うほど変わらない生活を道中でも維持できていたが。
「お風呂に行ってきます!」
やっぱりモカが最初にお風呂に行く。おなじみの光景だ。
さて、フューラスタードは俺たちは来たことがない都市だから全然分からない。今日は休んで、明日受付の人にでも聞いてみよう。
◇
次の日の朝、宿屋の受付のウサ人に話を聞いてみた。
「あの、すみません。私たち、フューラスタードに初めて来たんです。なので、この都市についてよく知らないのですが、少し教えていただいてもよろしいですか?」
「はい、もちろんですノ。何をお知りになりたいノでしょう?」
「そうですね。まず、衛兵の施設はどちら側にありますか?」
「東側ですノ。東門の向こうにある洞窟にはものすごく強いキメラが住んでいますから、こちらに来ないように護っているノです」
「そうなんですね。あと、ここには研究所はあるのですか? レイシュトやトライオラシにはあったんです」
「ないですノ。あっ、でも、研究所の方はちょうど来ていますノ。トライオラシから来るときにキメラの襲撃でケガをされた方がいて、休んでいますノ」
「研究所がないのに来るなんて、珍しくないですか?」
「そうなんですノ。なんでも誰か探しているみたいですノ」
「えっ? どんな人を?」
「なんて言ったか忘れましたが、人間の男女2人だそうですノ。見た目は分からないし、女のほうは名前も分からないけど、悪さをするはずだから気を付けるようにって言われましたノ。お客さんも気を付けてくださいノ」
「見た目が分からないのに探すのは大変そうね」
「そうですノ。研究所の方もそうぼやいていましたノ」
「ん? 研究所の方って研究者じゃないのですか?」
「話した感じでは違いそうですノ。護衛の方だと思いますノ。ケガが治ったら北に行くって仰っていたノ」
「そうなんですね」
ここで聞いておいて良かった。おそらく俺たちの追っ手なのだろう。
ただ、見た目は分からないということはあの研究所の2人ではないのだろう。
モカの名前も分からないのは少し意外だ。たしか自己紹介してたと思うんだけど、聞いてなかったのかな。男のほうは聞いてなさそうではあったが。
いずれにしても不安材料であることには変わりない。
「あっ、そういえば、ここの名物ってありますか?」
「名物らしいものはあまりないですノ。歩いていただければ分かりますが、畑の多い、のどかな都市ですノ」
「畑見たいノ」
「私も見たいプイ」
「ウサ人やモル人にとっては憩いの場ですので、行かれてみると良いと思いますノ」
「ありがとうございます。行ってみます」
◇
宿屋から出て、周りを見てみる。なんとなくだが、ドスシウダを南北反対にしたような構造に見えた。
だが、西門の南にも北にも畑が広がって見えるのが大きな違いだ。畑にはウサ人やモル人がいて、働いているのかくつろいでいるかよく分からないが、のどかな雰囲気がある。
「他の都市から離れているから、畑がないと生きていけないんだわ」
「そうか。ラパンみたいな町がそばにないんだな」
南にある畑に向かった。
畑ではあるが、単なる畑ではなく、休める施設がところどころにあって、畑公園という感じだ。ウサ人やモル人の憩いの場というのは間違いなさそうた。
休める場所の1つに腰を下ろし、畑を眺めることにした。
やはり、ブロッコリーやニンジンなどのウサ人、モル人が好きそうな野菜が多く、その他にも三つ葉なども植えられているようだ。
「野菜たちって、もともとこの辺で採れたものばかりじゃないわよね。昔、持ってきた人がいたのかしら」
「そうナノ? 私たちにとっては昔からあるものナノ」
「昔と言っても、百年とかじゃなくて、もっと昔の話よ」
「そうなると私たちには分からないノ」
「大昔には超天才がいたくらいだから、外から持ち込んだじゃないかな?」
「やっぱりそうよね。都市の名前や育てている野菜はちょっとお菓子の雰囲気と違うものね」
「たしかにな」
「「?」」
まあ、長年ここで暮らしているクルルたちには分からないのだろう。
お菓子は和菓子しかないのに、都市の名前はどう聞いても洋風だ。それに野菜のことは詳しくないが、日本原産の野菜ってそんなには多くないはずだから、モカが気になるのも当然かもしれない。
「1万年前って、どのくらいの人がいたんだろうな」
「正確には覚えてないけど100万人とかそのくらいだったような気がするわ。1万年前って言ってもぴったり1万年前じゃないだろうし、1万5千年前だとしても私たちには確かめる方法はないわよ」
「ナ! そんなにいたノ?」
「このあたりだけじゃなくて、もっと全体でね。そう言われているだけで、実際どうだったかなんて分からないわ。今はいたとしてもこのあたりだけなら亜人含めてせいぜい数万人くらいかしらね」
「そうだな。レイシュトは大きかったから1万人以上いてもおかしくなさそうだったな」
「……1万年前に一体何があったのかしらね」
ずっと解けない謎にたびたび悩まされる俺たちだった。




