第40話 この世界の偉い人
トライオラシの北門から入り、前回と同じようにまずは宿屋に入った。
宿屋の部屋で落ち着いたあと、これまで聞きたかったけど、なかなか聞けていないことを思い出した。
この辺の政治制度とかだ。
ただ、変な聞き方をするとあまりに無知すぎてマズいから、これまで聞けていなかったのだ。このあたりのことで分かってきたことや護り人との関係を踏まえ、鬼門となりそうな質問への答えを用意した上で聞いてみることにした。
「なあ、クルル、プリン。もし分かったらだけど、このあたりに王様みたいな1番偉い人っているの?」
「オウサマ? 分からないプイ」
「私も分からないノ。村長とか町長のことナノ?」
「そうそう、王様はそんな感じだけど、ラパンやレイシュトやトライオラシ、ドスシウダとかエーンスタットも含めた全体で1番偉い人だから、村長とか町長って言わないと思うんだ。町とか都市をどうするか決めたり、人の役割を決めたりとかする人というか」
「プイ? 町ごとしかいないと思うプイよ?」
「そうナノ。ラパンにも町長はいるノ。この前ヤマたちも会ったじゃないノ」
「えっ? あっ、まさか道場にいたあの人?」
「そうナノ」
「なるほど……」
「どうしてそんなこと気になったプイ?」
そうだよな。この質問の答えが重要だ。事前に考えておいて良かった。
「護り人は代々引き継ぐとは言え、いつも子どもが1人ってわけでもないだろう? だから、誰か偉い人が『次はあなたたちが護り人をやりなさい』とか任命する可能性があってもいいかもなって、衛兵を見てて思ってのさ。衛兵だったら、『あなたはこのあたりを護りなさい』って隊長が言うんじゃない?」
「なるほどプイ。そういう人がいれば、その人に聞けば護り人の使命が分かるかもって思ったプイね」
「そうなんだよ」
モカも興味を持ったのか、目配せをしつつ質問を引き継ぐ。
「ねえねえ、トライオラシとかだと町じゃなくて都市だから町長じゃないわよね。市長って呼ぶのかしら?」
「シチョウという呼び名は聞いたことないノ。普通は衛兵隊長って呼ぶノ」
「えっ、ボコ隊長がドスシウダの1番偉い人?」
「もちろんそうプイ」
「じゃあ、レイシュトは?」
「あそこは特殊だから分からないプイ」
「私も分からないノ。衛兵隊長か、研究所長かどちらかが1番偉いと思うけど、意識したことないノ」
少しだけ意外な政治制度だ。そもそも国の概念や政治自体がなさそうだ。
まだ理解しきれていない俺とは違って、モカは思考はさらに先に進んでいるようだ。
「そうか。人間は少ないし、亜人もそれぞれ町や村があるし、都市はそれぞれ洞窟からみんなを護らないといけないし、って感じで、それぞれ頑張って生きてる感じね。全体をまとめるとかそういう感じは難しいわね。でも、それだとなかなか発展しないわね。今を維持するのが精一杯よ。だから、きっと護り人は全てにおいて例外的な存在なんだわ。たぶん護り人一族でどうするか決めているのよ」
「そんな感じだと思うプイ」
「そうナノ。みんな今を維持するのに精一杯だからこそ、あの『モカプルン』は衝撃的だったノ」
「そうだったのね。たまたまプリンを見て作りたくなっただけなんだけどね。でも、それだけ人口が少ないのね…… 人口が多ければ同じやり方だととても維持できないわ」
「よく分からないけど、人が多いなら王様とかはいたほうがいいノ?」
「そうでもないわよ。みんなが幸せでいられることが1番大事よ。ただ、人の数が多くなると、何を大事にするかで意見が割れたりしそうじゃない? だから、決めてくれる人がほしくならない? でも、今はキメラの脅威に対抗しつつ生きるのが全員の優先事項だから、揉めることはないわね」
「そうプイね」
「そうだと思うノ」
「なるほど…… それで均衡が取れているのか。キメラがいなくなるときっとおかしくなるだろうな」
「ええ、私も同じことを思ったわ」
「たしかにキメラがいなくなったら、何を1番大事にするかで意見が割れるかもナノ」
「でも、みんなで仲良くすることを1番にしたいプイ」
「そうだな。それが俺たちの目標だな」
「そうね」
キメラがその目的で作られたとはさすがに思えないけど、長い年月を経て、今の状態に収束したということだろう。変にキメラを減らしてバランスを崩すと大変なことになるのは間違いなさそうだ。
時間をかけて変える以外、キメラとの平和な共存は難しいのだろう。モカも似たことを感じたようだ。
「護り人って難しい役割なのね。キメラを倒すことだけが護り人の役割っていうわけじゃないことはたしかね」
「だよな。これまでの護り人も俺たちと同じく強かった、というか俺たちよりずっと強かったはずだから、キメラを減らそうと思えばできたはずだしな」
「そうナノ。でも師匠たちもキメラを滅ぼしたいなんて言ってなかったノ」
「だよな。じゃなきゃ、護るって言わないよ。そういうのは攻めるっていうからな」
「たしかに! ヤマ、いいこと言うわね」
「?」
「護り人は攻め人じゃないのよ」
「そうだと思うプイ」
「師匠も攻め人って感じじゃなかったノ」
「なるほどな。それが大事だったのか。俺たちも攻め人にならないようにしないとな」
「うん。無駄にキメラを狩るようなことはしてはいけないわ。食べるためと強くなるために必要な分だけにしたほうがいいわ。つまり、襲われたときと、食料確保のときと、あとは鍛えるのは洞窟の中だけにしたほうがいいわ」
「そうしよう」
護り人のことと権力者の構造が少しだけ分かった気がする。
そういえば、トライオラシにはキメラ研究所があるから、研究所長と衛兵隊長が同じくらい影響力を持っているかもしれない。
研究所長が力を持っているなら、俺たちはトライオラシでの行動に気を付けないといけないということだ。研究所より衛兵施設のほうが安全なんだろうな。
「なあ、この特別衛兵隊員証って、トライオラシでも意味あるのかな? 衛兵施設使わせてもらえたりするかな?」
「たぶん大丈夫ナノ。ドスシウダの衛兵って思われるとは思うけど、敵対なんかしてないし、助けに来てくれたって思われてもいいくらいだと思うノ」
「ヤマは衛兵施設に行きたいの?」
「いや、そういうわけじゃないけど、研究所よりはずっと安全かなって。それに研究所と衛兵施設は独立してそうじゃない? ここの研究所長と衛兵隊長のどちらが偉いかなんて分からないんじゃないかな?」
「なるほどね。いざというときは助けを求める感じね」
「でも、それよりも、たぶん『モカプルン』が最強の味方プイ」
「あとはネコ人相手ならヤマが持っているお守りが最強の味方ナノ」
「たしかにそうかもな。つまり、モル人相手ならクルルが、ウサ人相手ならプリンが、イヌ人相手なら特別衛兵隊員証が、ネコ人相手ならお守りが、人間含め全種族にモカプルンが友好の証になるわけだな。モカプルン最強だな」
「ふふっ、そうなるわね。これで、キメラの仲間がいたら最高かしら」
「そうだな。仲間になってくれそうなキメラにまだ会えてないのが残念だな」
自分で言っておいてなんだが、仲間になってくれそうなキメラってどういうキメラだろうか。
「……攻撃してこないキメラって私は会ったことないけど、クルルやプリンも聞いたことない?」
「さすがにないプイ」
「私も聞いたことないノ」
「キメラが俺たちを襲ってくる理由を知りたいよな。単に凶暴だから、だとなんか納得できないよな」
「そうね。そのためにもフューラスタードに行きましょう」
キメラの謎が深すぎて、今すぐに解決できる感じは全くしないが、それはしかたがない。とりあえず今は研究所に気を付けて、フューラスタードに向かいたいところだ。
「あっ、そうだ。フューラスタードへは南門から出るから、研究所の前を通るんだよな……」
「そうね。どうしても気になるなら西門か東門から出て、都市の外をまわって南側に行くのはありかしら? 東門のほうが近いかしら?」
「そうナノ」
「まあ、そこまで気にしなくていいか…… 都市の中にも普通に研究者はいるだろうし、これまで普通に過ごしてきたもんな」
「そうね。今のところ、追われているという情報もないし」
「じゃあ、今日は買出しをして、明日はいよいよフューラスタードに向かうか。ここでやることは他にないしな」
「そうしましょう」
「「賛成プイ(ナノ)」」
◇
フューラスタードは遠そうだからいろいろ買ってインベントリに入れておきたい。とりあえず食べ物優先だ。
宿屋のそばにはスイーツ屋やカフェ、食べ物を売っている店が並んでいる。
食べ物屋に行くのが普通なのだが、俺の前を歩く3人は自動的にスイーツ屋に吸い込まれる…… まるでブラックホールだ。
「見てほしいノ。モカプルンが売っているノ」
「本当だわ。なかなかおいしそうなでき上がりね」
「モカプルンってどのくらい日持ちするプイ?」
「そんなには持たないわよ。卵とヤギ乳でできているから。冷やしても数日以内に食べないとお腹壊すわよ」
「……とすると、フューラスタードまでお土産として持っていくのは難しいプイね」
「そうね。私たちが途中で食べきるしかないわね。フューラスタードまで伝わってなければ、また作り方を教えてあげればいいんだから」
「モカがいればそういうこともできるノね」
「随分経つから、作り方を買いた紙はもう先にたぶん伝わってるとは思うけどね」
「じゃあ、途中で食べる分だけを買っていくプイ」
「あとは日持ちしそうなお菓子もほしいノ」
「ならきっとこれね」
なんかどこかにピクニックに行く感じで選んでいる。モカが選んだのは落雁だろうか。たしかに日持ちしそうだ。ただ、水がほしくなりそうだ。
「なあ、それ水ほしくならないか?」
「水ならいくらでも出せるから大丈夫プイ」
「あっ、そうか。俺も出せたわ……」
その他にも何やら買い込んでいたが、まあいいだろう。
次に普通の食料確保だ。と言っても、肉は道中でなんとかできるかもしれない。でも、食べられるキメラが出るとも限らない。
「肉もある程度買っておくか。冷やせば少しは持つかな」
「そうね。あとは豆とか日持ちするものを買いたいわ」
「乾燥した野菜とかもいけそうだな」
「いいわね」
なんかまるで家族でお買い物に来ている感じだ。なんとも和やかで良い。
と、のんきに構えていたらどんどん買うものが増えて行った……
その結果、宿屋との間を2往復もするはめになった。もちろん、宿屋に戻るのはインベントリにしまうためだ。
◇
結局、トライオラシでは楽しむというより、長期の旅の準備に徹する感じとなった。
布団で休めるのも次はいつになるか分からないから、ゆっくり休もう。
さすがに布団をインベントリに入れるわけにはいかないから。……いや、入れてもいいけど、外で布団を出したくない。
そんなことを考えながら、眠りについた。




