第39話 模擬戦
最初に動いたのはクルルだった。
(ドン! ゴロゴロ!)
いきなり巨大岩を放ったのだ。俺たちを分断させるつもりだな。
「ヤマ!」
俺は超高圧にした水を出しつつ、自分が水の刃に当たらないよう、岩に斜め横から向かう。
(スパン!)
岩の割れた正面にはクルルがいた。岩をかわす方向に行った場所にはプリンが待ち構えていて、そちらにわざと進んだモカと対峙し始めた。
(ズバババン!)
(ズバババン!)
(カカン! カン! カカカン!)
俺とクルルは水の弾幕合戦を開始した。モカとプリンは激しい剣技で戦っているようだ。音だけ聞こえてくる。
クルルの水の弾丸は何かいつもと違うようだ。
(ん? 行動制限の意味じゃないということは、あれか)
(ズババン! ドドッ! ズババン! ドドッ!)
(カカン! カカン!)
やはり、水の弾幕に紛れて岩の弾丸も飛んできた。
(ドン!)
木刀で受け流しつつ、分厚い土壁で追い打ちを防いだ。
この土壁は単なる時間稼ぎだ。その間に、プリンのほうに、水と土を混ぜた泥を足元にまく。
(ベチャッ……)
「ナ!」
(ヒューッ)
(ドドドッ!)
(カカカン!)
(ヒューッ スタッ)
一瞬、プリンがひるんだが、その隙をモカが攻めようとしたところで、モカとプリンの間に岩の弾丸が飛んできた。モカはそれを木刀で受け流しつつ、距離を取った。
最初の会合は互角だ。
(……)
周りの衛兵たちは息をするのを忘れていそうだ。
次は何をしてくるだろうか。氷を使わないのはやはり秘策か。となると、クロスして攻撃してくるだろう。
(ドドン!)
俺とモカを低い土壁を二重にして囲った。直進を防ぐためだ。土壁を取っ払うために、水と氷が飛んでくる。
(ズザーッ!)
(ドドドッ!)
「さすがに威力あるなあ」
「関心してる場合じゃないわよ。プリンがそっちに行くわよ」
「じゃあ、横に飛ばして」
(ヒュッ!)
(ヒューッ)
不意を打てていない居合抜きならなんとかかわせる、と思ったら飛んできたのはクルルだ。この技を使ったか。風でかわされて残念そうなクルルだが、つまりは、後ろからプリンが来るということだ。急いで土壁を作る。
(ドン!)
(キュッ!)
「これを読んでいるとは、さすがナノ!」
(カンカンカン!)
壁の向こうから声が聞こえた。同じく読んでいたモカとプリンの剣技が壁の向こうで始まった。
ただ、少しずつモカが押されているように聞こえる。
(ズバババン!)
(サッサッサッサッ!)
こちらにもクルルの水鉄砲が飛んできた。敢えてクルルと剣技を行うために、水をかわしつつ突っ込むことにした。
(シュシュシュッ!)
(サササッ)
だが、力は俺のほうが上でも、動体視力と反射神経はクルルが上だから、やっぱりかわされて、まともな剣技にならない。
これは長期戦は不利だな……
モカも同じことに気付いているようだ。位置取りを気にし始めた。
(そうか。プリンの居合抜きの相手をモカに絞らないといけないのか。となると……)
俺は、かわされ続ける剣技と、たまに水と土と岩の弾丸が混じる中、少しずつ位置取りを変えるようにした。俺の正面にクルル、その奥側にプリンの位置取りにだ。
これなら、プリンは間にクルルがいるからこちらには居合抜きをしにくいし、してきても対処する時間ができそうだ。
(ヒューッ)
モカもそのことに気付き、風を使って距離を取った。
次の瞬間――
(ピカッ!)
「ナ!」
きっとかかった振りだろう。
(ドン)
俺とクルルの間に土壁を作り、こちらの動きを見えなくした。
「プイ?」
その瞬間、居合抜きが発動する。
(ヒュッ!)
(ビューッ!)
「ナ!」
(シュッ!)
「ナッ!?」
「……どう? 俺たちの勝ちだな」
モカの風のコネクトで減速させられ戸惑うプリンの首元に向け、木刀を寸止めした俺たちの勝ちだった。
「プイィ、負けちゃったプイ」
「すごいノ。この作戦はやっぱりモカ、ナノ?」
「もちろんさ」
「せっかく光を氷で防いだのに、それも予想してたノ?」
「そうよ。だって、光か居合抜き、成功させたほうの勝ちだもん。じゃあ光も居合抜きも失敗させようって思ったの。そうなると失敗させたこのときが1番狙い目よ」
「いやあ、それにしても2人とも強いな。俺の剣じゃ、クルルにかすりもしない」
「モカもすごかったノ。刀を止められたの久しぶりナノ」
「そうそう、ヤマとモカでも水の刃使えたプイね!」
「そうなのよ。でも、予想してたでしょ?」
「えへへ、バレたプイ」
「ヤマ魔法がなければ、この組み合わせだと互角かしら。短期決戦の作戦勝負なら私たち有利で、長期戦ならプリンたちが有利かしら」
「そうだと思うノ。そう思うと、ヤマ魔法はずるいノ」
「そうプイ。ヤマ魔法があったら岩を使った時点で負けプイ」
「そうね。あれはかわせないわよね。というか模擬戦で使ったら絶対ダメよ。私たちでもあれは死んじゃうわよ」
「俺がそんなことするわけないでしょ……」
「そうナノ」
「ま、そうね。模擬戦、結構楽しかったわね」
「楽しかったプイ!」
「楽しかったノ!」
俺たちが楽しんで感想を言い合っていたら、唖然としていたボコ隊長がようやく気を取り直して、俺たちのところにやって来た。
「すごかったワン! 圧倒されたワン! 普段は4人で力を合わせているからもっと強いのかワン?」
「そうね。4人で本気で戦えば、さっきの10倍以上は強いわね」
「たしかに、モカとプリンがそろった上に、ヤマが本気を出したら木刀じゃ何人いても手に負えないプイ」
「あっ、でも、俺たちはまだ最強じゃないんだ。もっと強い人たちがいるんだよ。俺たちもその人たちを目指しているんだ」
「ワン? そうなのかワン」
「なっ、プリン」
「そうナノ! 師匠はもっと強かったの!」
「す、すごいワン……」
ボコ隊長が他の衛兵のほうを見て言う。
「本当にいい経験ができたワン。我らは1人1人は強くなくとも、協力すれば強くなれるということワン。頑張って訓練しようワン」
「「ワン!」」
「じゃあ、食事にしようワン。ヤマたちも一緒にどうぞワン」
「そうさせてもらおうかな」
衛兵たちが訓練場を出て、そのあと、俺たちも出ようとしたときふと気付く。このまま岩を置いて行ったら邪魔だな。モカに小声で言う。
「モカ、岩を消すから見られていないか見張ってて」
「分かったわ。今は大丈夫」
「よし」
(スッ)
これで完了だ。
訓練場を出て少し歩いたらボコ隊長がオノを持った何人かを連れて戻ってきた。
「何かあったの?」
「いや、岩を片付けさせようと思ったんだワン」
「ああ、もう片付けたから大丈夫だよ」
「ワン?」
信じられないという顔で訓練場をのぞき込んでいる。だが、たしかに岩は消えている。
「いつの間にワン」
「いやあ、残しておいたら邪魔かなって思ってさ。俺たちならどかすのも簡単だから」
「水は残ってるけど、そっちは大丈夫よね?」
「もちろん大丈夫ワン。そのうち乾くワン。本当何から何まで規格外だワン」
「まあ、モカプルンを生み出すくらいなんだから、これくらい大したことないかな」
「なるほど、納得だワン」
「えっ? それで納得してくれるの!?」
「「ププッ(くすくす)」」
クルルとプリンがこらえきれず横で笑っていた。
◇
その後、衛兵たちと一緒に食事を終え、あいさつをして衛兵施設から出た。
「このあとどうする? まだ昼だから今日のうちに出発してもいいし、まだやりたいことがあれば残ってもいいし」
「うーん。お菓子作り大会はクリーム研究が進んでからがいいから、まだいいかしら」
「私は特にないプイ」
「私も、出かける前にマポリンにあいさつができればいいノ」
ということで、催事場のそばのマポリンの家に向かうことに。
ちょうど催事場の前を通ったときに、マポリンと誰かが話しているところを見つけた。向こうもこちらに気付いたようで手を振っていた。
「プリンたち。ちょうどいいところに来てくれたのね!」
「?」
「この人が、演劇の演出家のドル先生よ」
「はじめましてナノ。マポリンの友だちのプリンと言いますノ。こちらはヤマとクルルとモカですノ」
「どうもワン。ワン? モカさんですかワン?」
プードルっぽいイヌ人のドルさんがモカを見て驚いている。
「そうなのよ、先生。ご本人です!」
「ワン! そうでしたかワン。今度『モカプルン』を題材にした演劇を作ろうと思っていますワン」
「で、さっきちょうど私がモカプルンで争うのはやめてください、ってお願いし始めたところなの」
「そうだったのですね。私がプルンを作ったのはみんなに幸せになってほしいからなの。だから、争いの種にはしないでいただきたいの。それで、マポリンにお願いしたんです」
「分かりましたワン! 『モカプルン』の生みの親から直に頼まれたら断るわけには参りませんワン」
「あっ、あと先生。ヤマたちから、今は無理でも、いつかキメラと仲良くなれるっていう演目ができたらいいんじゃないか、って」
「ワン! それはすごい発想ワン。モカプルンの演劇の次のネタはそれだワン。うまく作らないとみんな納得してくれないから、頑張るワン」
「楽しみにしています。ぜひ観に来たいと思います」
「さっそく台本考えないとワン。稽古もよろしくワン」
「はい、分かりました」
そうだ。俺たちはマポリンにあいさつに来たんだった。
「そうだ、マポリン。俺たちそろそろ出発しようかと思って」
「そうナノ。フューラスタードとかに行くから、次会えるのはしばらく先になるノ」
「そう…… 頑張ってね。私も頑張るから!」
(ギュッ)
そう言うとマポリンとプリンは抱き合う。
「演劇が始まるころに戻ってきたいプイ」
「そうよね。私も演劇観たいわ」
「そうだな」
「そうナノ」
「じゃ、またナノ!」
「うん、じゃあね。いってらっしゃい!」
マポリンと手を振って別れた。
実際問題として、演劇のタイミングぴったりに戻って来れる保証はないけど、演劇はそれなりの期間やっているだろうし、半年後くらいって言ってたからさすがに間に合うだろう。
そう思いつつ、ドスシウダの南門に向かった。
◇
南門で衛兵にあいさつし、外に出た。
以前この道を通ったのは1カ月近く前だろうか? 正確な日付は確認してないが、かなり久しぶりな気がする。モカも同じようだ。
「久しぶりね、この道。たしか湖沿いに曲がっているのよね」
「そうだよな。この辺はキメラもそんなにはいなかったような気がするな」
「そうナノ」
「……そうやって油断してるとまた出るプイよぉ」
「ふふっ、クルルの言うとおりよ。油断大敵ね」
「そういえばさ、2対2で戦ってみて、4人とはだいぶ違ったよな」
「そうなのよ。光と居合抜きの組み合わせがすごく便利なんだって思ったわ」
「あとは水の刃は水と風の組み合わせだから、俺とクルルとか、モカとプリンじゃ出せないんだよな」
「そうプイね。あと、岩と氷は私とプリンだから、硬いものを利用するならヤマとモカの組み合わせは不利プイ。やっぱりヤマ魔法と硬いものの組み合わせが最強プイ」
「そうなのよ。やっぱり4人が1番なのよ。私たち、いろんな組み合わせをうまく使って勝ってきたのよ。それがあらためてよく分かったわ」
「模擬戦のおかげナノ」
「そうだよな」
「あと、光を使うキメラがいたら怖いプイ」
「そうナノよ。あれを食らうとそれ自体は良くてもそのあとが危険ナノ」
「そうよね。光もだし、私たちがまだ知らないコネクトを使うキメラがいるかもしれないわ。少なくとも火のコネクトは存在してたはずよ」
「そうだったプイ」
「こわいノ」
「……火のコネクト使いが出ても大丈夫になるように、まずは第4施設、第5施設に行かないとな」
「そうしましょう」
「「そうプイ(ナノ)」」
あらためて4人の連携の重要さを確認した俺たちだった。
トライオラシまでの道は少しキメラは出たものの、4人での戦いやすさに気付いた俺たちの敵ではなかった。
数日後、トライオラシの北門が見えてきた。




