第38話 ボコ隊長の想い
マポリンと1日過ごし、想いを共有した俺たちは、次の日、衛兵施設に向かった。
「おはようございます! 今日はボコ隊長はいますか?」
「ワン! ヤマさん、来てくださったのですかワン。隊長なら今はまだ隊長室にいらっしゃると思いますワン」
「ん? 今は?」
「今日は、隊員たちの訓練を行う日ワン。なので、もう少ししたら訓練場に行かれると思いますワン」
「そっか。朝来て良かった」
「では、どうぞワン。もし、お時間あれば訓練も見ていってくださいワン」
「そうするよ」
まずはボコ隊長の部屋を訪れた。
(トントン)
「どうぞワン」
「お久しぶり。ボコ隊長」
「ワン? ワン! みんなドスシウダに来てたのかワン」
「そうナノ。フューラスタードに行く途中でちょっと寄り道中ナノ」
「あっ、これ私からのお土産」
「これはもしかして本家『モカプルン』ワン!」
「そうプイ。本家プイ。おいしいプイよ」
「ありがとうワン。そうだワン。今日は訓練日なんだけど、時間があれば参加して欲しいワン」
「入り口でも教えてもらったんだ。時間あるから行こうかなって」
「それは楽しみワン」
「あっ、でもプリンは前よりさらに強くなってるからね…… 手合わせするなら慎重に……」
「す、すごいワン……」
みんながいるところで隊長が圧倒されるのはあまりよくないだろうと思って、一応アドバイスしておいた。
「じゃあ、『モカプルン』をみんなで食べてから訓練場に行くプイ」
「そうしましょう」
気付けばモカたちは食べる準備万端だ。まあ、プルンくらいなら訓練に影響しないだろう。
「やっぱり何度食べてもおいしいワン」
「そう言ってもらえてうれしいわ」
「これだけおいしいものを作れるのに、しかも強いからすごいワン」
「まあ、私たちはみんなの幸せを護りたいのよ。人間も亜人も。できるならキメラもね」
「ワン? なんと、目指している高みが違いすぎるワン。なるほど、だから強くなれるワン」
「衛兵のみんなだって、ドスシウダを護りたいって想いで頑張っているわけだから、そんなには変わらないよな」
「私もヤマと同じ意見よ。みんな護りたいもののために頑張っているの」
プルンをあっという間に食べ終わると、みんなで訓練場に向かうことに。
訓練場では衛兵たちが準備運動をしていた。
「ボコ隊長! みんな準備できておりますワン。今日の訓練よろしくお願いしますワン」
「ワン。今日は特別なお客さんに来てもらったワン」
「ワン? ワン! プリンさんたちですワン!」
「そうワン。まずはお前たちの訓練を見てもらって、そのあと、手合わせしてもらうワン」
「えっ、大丈夫かな……」
「と言っても、1対1では我らでは何もできないワン。4対1くらいならどうワン?」
「どうかな、みんな?」
「私は大丈夫ナノ」
「私もやってみたいプイ」
「なら私もやってみようかしら」
「じゃあ、そういうことで」
「楽しみワン」
衛兵たちは気合が入ったようだ。
そのあと、一通り訓練を見させてもらった。
集団での防御や、複数に分かれての攻撃など。これならたしかにキメラを倒せそうだ。ただ、強いキメラだと犠牲は避けられないだろうな…… モカも真剣に見ている。
「どうですかワン?」
「強いとは思うわ。でも、強いキメラと戦うと、どうしても犠牲が出そうね」
「それはしかたないワン」
「そうよね…… そうだ。私たちは攻撃をできるだけ受けないようにしているの。それを今日伝えてあげましょう」
「それがいいノ」
「プリンに一撃加えられたら賞品はモカプルン1カ月分って感じだな。1番反射神経がにぶい俺から行くか。みんなの目を慣らす必要もあるから」
「まあ、いいかしら」
「いいプイよ。プリンは最後プイ」
「分かったノ」
◇
まず、俺と衛兵4人からだ。今回は俺も木刀だ。衛兵たちはどう攻めるか考えているようだ。
(タタタタッ!)
だが、俺たちがどのくらい強いか分からないからか、とりあえず突っ込んできた。反射神経は俺が1番にぶいが実は動体視力はプリン並みなんだよな。衛兵の動きははっきりと見える。
まずは全員の攻撃を簡単にかわす。
(シュッ、シュッ、シュッ、シュッ)
(サッサッサッサッ)
「ワン! 速いワン」
(タタタタッ!)
驚きつつもまた突っ込んできた。それじゃあ、キメラの餌食になってしまう。土の段差を作ってみる。
(ドン)
「うワン!」
突然現れた土の段差に4人とも転び、木刀を突き付けられて、勝負あり。
「あんなに真っすぐ突っ込んではダメワン。キメラだったら殺されていたワン」
「そうだな。土なら平気でも岩なら間違いなく殺されているな」
「気を付けますワン!」
◇
次はクルルだ。
「モル人だから水を使うワン。気を付けるワン」
次の衛兵組が相談をしている。モカが助言する。
「そうよね。相手のコネクトを推測するのは大事よ」
(ドン)
衛兵組は考えた末に土壁を使いつつ、攻撃することにしたようだ。衛兵の前に壁ができたことで、水の攻撃の直撃を避けられそうだ。衛兵はそのまま壁を拡張しつつ、回りこもうとする。
「なかなかいい作戦プイ。でも、コネクトの強さはみんな違うプイよ」
(ズザーッ)
「「ワン!?」」
4人の真ん中の土壁が一瞬で消え去った。後ろに立っていたらただじゃすまなかっただろう。
「あと、水は土を浸食できるプイ」
(ズバババン)
「「ワン!?」」
あっという間に4人の真ん前以外の土壁が無くなった。4人がひるんだ瞬間、クルルは回り込み、木刀を寸止めして、勝負あり。
「惜しかったプイ。相手の強さがどのくらいかは常に警戒しないといけないプイ。私たちもそれで死にかけたプイ」
「ありがとうございますワン! 気を付けますワン!」
◇
次はモカだ。モカは風も使うから見た目以上にすばやく動ける。それを見抜けるかがポイントだ。
「今度は人間だから、どんなコネクト使うか分からないワン。でも、人間の女性は男性よりは力が弱いから、力技はしてこないと思うワン」
「ふんふん」
なかなか良い作戦を立てている。さて、どうするか。モカに光まで使わせたら大したものだが……
4人は2人ずつに分かれて動いてきた。これならコネクトを片方が受けても残り2人が動ける。衛兵らしい戦い方だ。当然、モカはそれを読んでいる。
「仲間を犠牲にする戦い方はダメよ」
敢えて4人の真ん中に立つ。ちょうど4方向から攻め込めそうだ。
(タタタタッ!)
チャンスと思った4人は突っ込んできた。もうじき木刀が届くというとき――
(ヒューッ)
モカは飛び上がり回避。4人は自分たち同士で衝突寸前。その隙に、モカが木刀を突きつけて勝負あり。
「キメラも作戦を考えてくるときがあるわ。特にサル系のキメラは気を付けてね。勝てると思ったときが1番危ないの」
「ありがとうございますワン! 気を付けますワン!」
◇
最後はプリンだ。たぶんボコ隊長から聞いていて、プリンが強いのは分かっているのだろう。警戒しつつ、4人が構えている。
「私は空を飛ばないようにするから、頑張って当ててみてほしいノ」
「ワン!」
(シュッ、シュッ、シュッ、シュッ)
(ササササッ)
プリンは俺よりもずっと速い。当然全く当たらない。
「それじゃあ、ヤマ相手のときと同じナノよ」
(シュッ、ドドッ! シュッ、シュッ、ドドッ! シュッ)
(ササササササササッ)
今度は土のコネクトを混ぜてきた。とにかく数を打つ作戦だ。
「よくなったノ! でも、まだ隙間だらけナノよ」
まだ全く本気を出す必要もなく、かわしているプリン。その直後、プリンの後ろから結構な大きさの土壁が迫る。4人の合体技のようだ。
(ドォン!)
「面白い作戦ナノ。1人でダメなときはみんなで力を合わせるノ」
(ヒュッ、ヒュッ)
(……ドサッ、ドサッ)
土壁を斬るなりして対処することを予想していた4人はプリンに斬りかかろうと突進する。だが、プリンもそれを予想している。
(タタタタッ!)
(ヒューッ!)
(カカカカン!)
一瞬で駆け抜けつつ、4人の木刀を弾き飛ばした。さすがに勝負ありだ。
「最後の技は良かったノ。みんなで力を合わせればもっと強くなるノ」
「ありがとうございますワン!」
◇
4組とも非常に良い稽古になっただろう。
だが、俺が満足しているとボコ隊長がとんでもないことを言い始めた。
「すごいワン。ものすごい訓練だったワン。1つお願いがあるワン。ぜひ、4人が2対2に分かれて模擬戦をやるところを見せてほしいワン。衛兵のみんなに見せてあげたいワン」
「えっ?」
「プイ?」
「ナ!」
「……おもしろそうね!」
「「「!」」」
あれ? 1人だけ反応が違う。みんなでモカのほうを思わず向いた。
「いいじゃない。やったことないし。ヤマとプリンが物理攻撃型だから分かれて、水と風に偏らない組にすればいいから、ヤマと私、クルルとプリンでいいんじゃない?」
「……ま、まあ、いいか。モカとプリンの組み合わせだと居合抜きを回避できなくなるから、この組み合わせがいいかな」
「あっ、ヤマ魔法だけは禁止ね。あれは秘技だし、あれを本気で使われたら2対2じゃ勝負にならないわよ。1対3じゃなきゃ」
「そ、そうかな…… じゃあ、あとは……」
一応、釘を刺しておくか。
「あの、みなさん。俺たちの戦いの様子は誰にも言わないと約束していただけますか? じゃないと俺たちも困ってしまうので」
「もちろんワン。隊長命令ワン!」
「誓いますワン!」
イヌ人なら大丈夫だろう。
「よし、じゃあやってみるか。武器はどうする? さすがに俺とプリンは木刀じゃないと危ないけど、クルルはメイスじゃないと困るかな?」
「プリンと組むならメイスじゃなくても大丈夫プイ。使うのはプリン相手の場合だけだと思うプイ」
「たしかにそうだな。じゃあ、みんな木刀でいいか」
「そうね、そうしましょう」
「万一危ないときは組に関係なく、あれを使ってでも助けるからな」
「「もちろんよ(プイ)」」
「もちろんナノ。でも、ちょっとくらい当たっても木刀なら全然大丈夫だと思うノよ。あっ、木刀を折っちゃったらごめんなさいナノ」
「ふふっ、折らないようにお互い気を付けましょうね」
(ゴクリ……)
周りからツバを飲み込む音が聞こえた。このくらい緊張感があったほうがいいだろう。
「あと、みなさん、巻き添えを食らわないよう離れててくださいね」
「ワン!」
「よし、じゃあ、やろうか」
◇
クルルとプリンが小声で作戦会議している。俺たちも小声で話す。
「プリンにまともに居合抜きを使われたら負けよ。プリンから目を離したらダメだわ」
「向こうもそれは分かっているだろうし、向こうはモカの光をまともに食らったら負けというのも分かっているだろうな」
「つまり、その他のコネクトと木刀の戦いの嵐の中で、不意を打ったほうが勝ちね」
「なるほど、じゃあ、狙いはクルルじゃなくてプリン?」
「そうね。クルルを狙うのが普通だから、プリンの不意を打つのが重要ね。風と風で打ち消して、居合抜きの威力を落とした時に、横からヤマが行くのはどう?」
「なるほど。普通は間に合わないところを間に合わせるわけね」
「そうよ。私の予想は私の光をプリンの氷を使って横にそらしつつ、くらんだ振りをすることよ。眼鏡みたいに使ってね。他に光を遮りつつ、攻撃するのは難しいから」
「なるほど、敢えてそうさせて、居合抜きを放つときにさらに風で対処だな。その間、クルルを俺が抑えつつ、最後の攻撃、だな」
「そうよ。そこまではプリンの刀を私が、クルルのコネクトをヤマが対処するのがいいわ。あと、岩はかわさずに水の刃で斬ろうかしら。ヤマは超高圧な水を出してくれればいいわよ」
「そうだな。俺だとプリンの刀はまだかわせないからな」
大まかな作戦が決まる。向こうも決まったようだ。クルルとプリンに声をかける。
「準備はいい?」
「いいプイ(ノ)」
俺はボコ隊長のほうを向き、合図を促す。
「それでは、始めワン!」
楽しい模擬戦が、始まった!




