第37話 マポリンの想い
プリンの家のほうに向かうと、マポリンが家のそばにいた。
「あっ、プリン。もうみんなの案内終わったの? まあ、ウサ人のみんなは昼は休みたいかしら」
「そうナノ。でも、まだマポリンのところにみんなを連れてってなかったから行きたいな、って思ってたノ」
「あら、ならちょうどいいわ。みなさんもぜひ一緒に遊びにきてくださいな」
「ありがとう!」
みんなで歩きつつ、話に花を咲かせる。
「ウサ人のみんなって、昼は休むのか? プリンは結構いつでも元気だけど」
「私はたしかにいつでも元気なほうだけど、大体みんなは朝と夕方が元気ナノ」
「へえ、そういうものなのか」
「あら、ヤマ知らなかったの? ウサギはそういうものよ。ウサ人なら普通だと思うわ」
「それで、朝早くから案内してくれたのか。お婆ちゃんが早起きなのかと思ってた」
マポリンは残念そうに言う。
「でも、私は全然朝起きれなくて…… 私は夜型だから、夕方にプリンたちと遊ぶことが多いの。いつもってわけじゃないけどね」
「そうナノよね。マポリンは朝起きないノよね。弟に起こされてるって言ってた気がするノ」
「そうなの。弟は早起きが得意なのよ。姉弟なのに、全然違うの」
「弟さんって、モル人が大好きな?」
「そうなの! 小さい頃にモル人の友だちができて、それ以来ずっと。将来は絶対モルジクに住むと思うわ」
「あそこはモル人とモル人好きにとっては楽園そのものだよな…… なあ、クルル」
「楽園プイ!」
「今日は弟さんいるのかしら?」
「残念ながら、今、エーンスタットに出かけているのよ。せっかくクルルちゃん来てくれたのにね」
「またいつか会えるプイ」
「そうね」
「マポリンはラパンに住んでるの?」
「ううん、普段はドスシウダに住んでるの。でも、しょっちゅう遊びに来てるから、プリンの家の離れを使わせてもらってるの」
「なるほどね」
離れに着いたところで、プリンが心配そうに言う。
「マポリン、部屋きれいナノ?」
「今日は大丈夫なのよ!」
「なら良かったノ」
なぜか自信満々で答えるマポリン。これは普段は部屋が汚いと言っているようなものだな。部屋に案内してもらうと、たしかに特段汚いというわけではなかった。
「きれいでしょ?」
「良かったノ。いつもみたいにお布団が敷いてあったらどうしようかと心配だったノ」
「ああ、万年床ね。それはそれで普段は過ごしやすそうだけどな……」
「でしょ! 分かってくれる人がいて良かったわ」
「でも、それじゃ、人を呼べないノ」
「だから今日は片付けたのよ」
なるほど。プリンが帰ってきたことを昨夜聞いて準備した、ということかな。なんだかんだ言って仲良しなんだな、この2人。
「2人とも仲良しなんだな」
「まあ、それはそうね。ウサ人とか人間とか関係なく、私たちはいつも対等だから」
「そうナノ」
「それが理想的な姿だと俺も思うよ。なあ、クルルもモカもそう思うでしょ?」
「「もちろん(プイ)」」
「そうそう、私、抹茶が好きで、最近は黒糖を入れたりして飲んでるの。いかが?」
「おいしそうね。いただくわ! マポリンも、このプルンをどうぞ」
「えっ? これモカプルンだよね? あ!」
マポリンがモカを指差して驚いていた。今ごろ気付いたようだ。プリンも呆れ顔だ。
「マポリン、今ごろ気付いたノね。まあ、マポリンはモカをもともと知ってたからしょうがないノね」
「驚かしちゃったかしら。これ、実は私が作ったの。プリンの耳の色に似てるでしょ?」
「そうなのよ! プリンに似ているなあって思ってたのよ! プリン良かったね! こんなおいしいお菓子の元になれて」
「私も驚いたノ」
そのあと、みんなでお菓子と抹茶を食べて満足したところで、マポリンが聞いてきた。
「みんなはこのあとどうするの? また旅に出るの?」
「そうナノ。とりあえずフューラスタードを目指してるノ」
「フューラスタード…… 遠いね。まあ、プリンは強いから大丈夫かな」
「そうだけど、たぶん、マポリンが思っている以上にプリンは強くなっているわよ」
「え? そうなの?」
「たぶんそうナノ」
「じゃあ、ドスシウダまで一緒に連れていってくれない? たまにキメラが出るから、いつもは護衛を頼むんだけど」
「それはいいと思うわ。私たちと一緒なら安全よ。むしろ、プリンの強くなった姿を見せてあげたら?」
「もしキメラにあったらそうするノ」
今日移動すると到着したときに遅くなるなら、明日移動することにした。
今日はそのあと、みんなで久しぶりに語り合った。主にプリンがマポリンにいろいろ話して聞かせていた。
◇
次の日、マポリンを護衛しつつ、ドスシウダに向かうことにした。おそらく俺たちと一緒なら明日中には着くだろう。
橋を渡ったあたりでいろいろと思い出した。
「そういえばこの橋が前は崩れてたんだよな。直ったあと通って、そのあとプリンが居合抜きを覚えたんだよな」
「チーシカがいて、試したらできたノ。そうそう、あんな感じのチーシカだったノ」
「あっ、あれ本物のキメラよ……」
「もう油断し過ぎプイ」
「ごめんナノ。私が倒してよいノ?」
「もちろん。支援が必要なら言って。チーシカなら1人でも余裕でしょ?」
「たぶん大丈夫ナノ。動きが速すぎたら、水で動きを止めてもらえるとうれしいノ」
「ねえ、あんな強そうなキメラなのに余裕なの?」
「まあ、見ててあげてよ」
「うん」
プリンはチーシカとにらみ合いを続けている。前、ここで戦ったときは、クルルの水鉄砲とモカの光でひるませたあとの居合抜きだったように思う。サポートなしなら難易度は全然違うはずだ。
(ドドド!)
(ドドドン! バリバリバリ!)
チーシカは氷のコネクトで先制攻撃してきた。それに対し、プリンも氷のコネクトで跳ね返した。プリンの氷のほうが威力が高いので、氷はチーシカに向かって跳んで行った。
(サッ)
ウサ人から氷を使われると思ってなかったチーシカは驚いて、横に回避した。
プリンはその隙を逃すはずはない。
(ヒュッ!)
(……ドサッ)
「このくらいなら余裕ナノ」
「…… プリン、めちゃくちゃすごいじゃん! プリンの師匠みたいじゃない? かっこいいよ」
「えへへ、ナノ」
そりゃ、洞窟に一緒に逃げたときとは別人のような強さだろう。驚くのも無理はない。
「みんなといることでここまでプリンは強くなれたのね! ほんとよかったわ」
「そうやって素直に喜んでくれる友だちがいるって、良いことよね、プリン」
「そうナノ!」
「そうだな。そろそろ夕方が近いしキャンプにする?」
「そういえばみんなすごく軽装だけど、大丈夫?」
「大丈夫ナノ。ヤマにまかせておけば、すぐに準備してくれるから」
「そうだな。その辺でお茶でも飲んでて」
「こっちプイ」
クルルがマポリンを連れ出してくれている間に、インベントリから最小限のキャンプ用品を出した。ささっと食べ物も用意して、みんなに声をかける。
「そろそろご飯にしよう」
「「はーい(ナノ)」」
「マポリンもいくプイよ」
「えっ? もうできたの?」
即席かまどで肉を焼いて振る舞った。水筒もあるし、立派な食事だ。
「すごいわ。まるで都市の中にいるみたい。ヤマってものすごく器用な人なのね」
「私たちから見てもすごく器用だと思うわよ。おかげで快適な旅ができるの」
「やっぱりみんなで楽しく過ごしたいからな」
「……すごいとしかいいようがないわ」
マポリンにとっては驚きしかない2日間だったかもしれない。キメラは瞬殺、快適なキャンプで1泊して、あっという間にドスシウダに到着したからだ。
◇
ドスシウダに入ると、衛兵が俺たちに気付いたようだ。
「ワン! ヤマさんたちですワン! おかえりなさいワン」
「久しぶりに戻ってきたんだ。あれから大丈夫かな?」
「問題ないですワン。ボコ隊長もみなさんに会いたがっていたワン」
「明日にでも会いに行かないとな」
俺たちと、衛兵のやりとりに疑問を持ったマポリンが聞いてくる。
「ねえ、みんなは衛兵たちとも仲良しなの?」
「そうね。私たちは4人ともこれを持ってるの。たしかボコ隊長はプリンに忠誠を誓ってたわよ」
そう言って、金色の犬の肉球マークが書いてある特別衛兵隊員証を見せた。
「それって、『特別衛兵隊員証』よね? しかもその肉球って隊長の印じゃない?」
「そうなの。かわいい肉球よね」
「え…… すごすぎてもう言葉にならないわ……」
「これ、そんなにすごいのかな?」
「ヤマはすごいものをいっぱい持ちすぎてるから分からないだけプイ」
「クルルの言うとおりだわ」
「いやいや、モカだって『お菓子職人』の称号持ってるじゃん」
「でも『ネコ人の神様』の称号には負けるわ」
「あれ、でもモカも『お菓子の神様』って言われてなかったっけ?」
「あれ? そうかしら…… おかしいわね、そんな記憶が薄っすらあるわ……」
「だろ? お菓子とかわいさでみんなの心を鷲掴みしているのがモカなんだから」
「うふふっ。でも、ヤマはネコ人だけじゃなくて、ネコ系のキメラまでブーメランで虜にしたじゃない?」
「えっ? あ…… そう言われてみるとそんな気がしなくもないけどな……」
「……プリンがここまで強くなって、しかも楽しそうに過ごせている理由がよく分かったわ」
「私もそう思うノ」
「私もよく分かるプイ」
「「ん?」」
「「「……」」」
なんか3人が俺とモカを見て呆れている気がするが、気のせいだろう。
そうこうしているうちにマポリンが俺たちを家に案内してくれた。
マポリンの家は催事場から少し西の奥まった場所にあった。
「どうぞ、いらっしゃい」
「おじゃまします」
「あっ、向こうの部屋は行かないでね」
「やっぱりマポリンはマポリン、ナノ……」
「こんなに簡単にラパンとドスシウダとの間を移動できたの初めてよ。プリンたちは本当強いのね」
「強くないとみんなの幸せを護れないからかしら」
「そうね。優しくて強い人が増えるといいわね」
「あっ、優しくて強い、で思い出した。隊長のところにも明日行かないとな。みんな元気しているかな。最近キメラが来たりとかはない?」
「1カ月くらい前に出たっきりかな。そのときは衛兵の被害も少なくて、すぐに収まったから良かったの」
「そうか、なら良かった。衛兵たちもケガしちゃうと治るのには時間かかるだろうしね」
「そうよね。短時間でケガを治せる便利なコネクトとかあればいいのにね。ヤマでもそこまでは難しそうよね」
「ああ、さすがにな……」
「私は長くドスシウダにいるけど、そういう便利なコネクトは聞いたことないわね。研究所の人なら知ってるかもだけど、今まで見たことないし、あるなら衛兵たちが使ってると思うわ」
「そうだよな。1番ほしいのは衛兵たちだよな」
「そういえばマポリンは普段何しているの?」
「私は催事場で働いているの。たまに、催事場でやる演劇に出たりするの」
「へえ、演劇があるのか!」
「たまにだけどね。きっと次は『モカプルン』が登場すると思うわ」
「えっ? 演劇に?」
「『モカプルン』を巡っての争いか、争いを『モカプルン』が鎮めてしまうか…… とかかな?」
「モカプルンはいつでもたくさん作ってあげるから、モカプルンで争わないでほしいわ……」
「分かったわ。モカプルンの生みの親からの依頼ってことで演出家に伝えておくわ」
「ありがとう!」
「次の演劇はいつくらいに開催されるの?」
「まだ稽古もこれからだから、半年弱くらい後かな」
「そうか、そのときはみんなで観に来ような」
「そうするノ」
「ありがとう。頑張って稽古するわ」
「そうだ。今は無理でも、いつかキメラと仲良くなれるっていう演目ができるといいな」
「それ、すごいわね! 演出家が求めていた新しい発想そのものだわ」
「ん? そう? なら伝えてもらっていいよ。著作権なんて要らないから」
「チョサクケン?」
「ああ、気にしないで…… とにかくそういう演劇も観たいなっていうことだから」
「私もそういうの観たいプイ」
「だよな。クルルならそう言ってくれると思ってたよ」
「ププッ」
モカも補足してくれる。
「人間も亜人もキメラも仲良くできたら最高の未来だと私たちは思っているのよ」
「そうナノよ」
「……すごいわね。プリンたちとは違うやり方だけど、私もそういう未来の実現に貢献できるように頑張るわ」
「そうだな。お互いがんばろうな」
いつかキメラと人間が仲良くできる日が来るかは分からないけど、その日が来るためには、演劇のようなものを通じて人の心が変わっていくことも必要だろうな。




