第36話 プリンの想い
ラパンへは前回と同じく夕方くらいに着いた。
「ようこそナノ! えへへっ、ナノ」
プリンはラパンに俺たちと来れてうれしそうだ。こうやってたまに皆の故郷に寄るのが良いだろうな。
モルジクにもいつか寄ってあげよう。モルジクは遠いけど……
「ふふっ、歓迎ありがとうね! プリン。前はプリンも早く第1施設に行きたかったでしょうし、ドスシウダならすぐそこで遠くに行く感じもなかったから、あまりみなさんとゆっくり話をしなかったわよね。今回はこのあと遠くまで行っちゃうし、ウサ人のみなさんと交流したいわ」
「そうだよな。明日にでも、町を案内してくれないか?」
「もちろんナノ!」
「たのしみプイ!」
買い物だけ少ししたあと、プリンの家に向かいつつ、クルルに言う。
「いつか皆でモルジクにも行こうな」
「そうしたいプイ! そのときは私が皆を案内するプイ!」
「楽しみにしてるわ」
「そうナノ」
プリンの家でゆったりしつつ、モカはプルンを作り始めた。ラパンの皆に振る舞うつもりだ。
「ここでももう知られているのかしらね」
「レイシュトですら知られていたから有名なんじゃない? でも、なんてったって本家だからな」
「ふふっ、ここまで話題になるなんて驚きだわ」
「まあ…… 驚きではあるけど、黒船襲来だからしょうがないかな」
「もう、私は開国を迫るわけじゃないんだから」
「はははっ、そりゃそうだね。ただ仲良くしたいだけだしな」
「そうよ」
まあ、実際に黒船に乗ってた人の中に、実はただ外国人の友だちを作りたいだけで乗ってきたっていう人がいてもいいしな。モカが小声で何か言ってきた。
「それに、黒船には日本人も乗ってたっていうじゃない? 漂流してたところを助けられて、それで帰国できた人とか」
「へえ、そうなんだ。じゃあ、仲良くするため、って前向きに思ってもいいよな」
「ふふっ、ヤマらしいわね。別にいいんじゃない? そもそもプルンは友好の証よ」
「だな!」
歴史はともかく、俺たちは仲良くするために行動しているわけだから気にする必要はないよな。モカの笑顔を見て、そうあらためて思った。
◇
次の日の朝、モカプルンを持ってラパンの中を案内してもらった。
ウサ人たちの町というだけあって、モルジクのように畑も多かった。ニンジンを育てているのかと思いきや、ニンジンだけじゃなく、ブロッコリーとかコマツナなどの野菜も多かった。
「ニンジン以外も好きなんだな」
「そうナノよ。ブロッコリーの葉っぱとか最高ナノ!」
「私はあんまり食べないけど、モル人のみんなも同じこと言ってたプイ!」
すごく共感し合っている。たしかにモルモットとウサギってなんか一緒に飼われているイメージあるかもな。おいしい野菜の話で盛り上がりつつ、プリンはどこかに向かっているようだ。
「このあと、ラパンで1番年寄りのお婆ちゃんのところに行こうと思うノ。あの橋のことを聞いてみようと思うノ」
「いいわね。何か分かるかもしれないわ」
プリンに連れられて、畑のそばの古い家に案内された。中にはお年寄りのウサ人がいた。
「お婆ちゃん、おはようナノ!」
「あら、プリンちゃん、おはようナノ。お友達もいらっしゃいナノ」
「私の仲間たちと久しぶりにラパンに帰ってきたノ」
「あらあら、プリンちゃんと仲良くしてくれてありがとうナノ」
「いえいえ、プリンにはいつも助けられてます。あっ、そうだ! これ、どうぞ」
「ナ? これは…… ナ! モカプルンですノ?」
「ご存知でしたか」
「ええ、ドスシウダから来た子に1度だけ分けてもらったノよ。これ本当においしいノよ」
「お婆ちゃん、これが本家ナノよ」
「本家、ナノ? まさか――」
「はじめまして、モカと言います」
「ナ! モカさんがプリンちゃんの仲間だなんて、驚きナノ! ま、まさか、モカプルンの元となっているウサ人というのは――」
「このプリンです! かわいいお耳の色がそっくりですよね」
「ええ、そうナノよ。そうだったノですね。いい仲間に出会えたノね、プリンちゃん」
「えへへっ、そうナノ」
ここでプリンが話を切り出してくれた。
「お婆ちゃん、昔のこと教えてほしいノ」
「もちろんいいけど、なにナノ?」
「ドスシウダに行く時に通る橋の西側のほうに、もう1つ道があるんだけど橋がなかったノ。昔からなかったノ?」
「ああ、あっちの林のほうに行く道のことナノ?」
「そうナノ」
「私も橋がかかっているのは見たことないノ。だから、昔からかかってないと思うノ」
「そうなんですね。その割に道がきれいだったから不思議だねって話してたんです」
「あっちの道を使う人が今もいるノね。あの先に何かあったのかは聞いた記憶がないし、川を渡ってまで行こうとしたウサ人の話も聞いたことがないノ。だから今も通ってるなら、ラパンの人じゃなくて、レイシュトかドスシウダのどちらかの人たちだと思うノ」
「そうナノね。謎が少し解けたノ。ありがとうナノ!」
やはり、あの橋は昔に壊されたままなのに、今も誰か通っている。それも風のコネクトを使うラパンのウサ人ではない、ということだ。
「それと、お婆さん、この辺の林ってキメラが少ないわよね、どうしてかしら?」
「どうしてかは私も聞いたことがないノ。でも、だからここに町を作ったみたいナノよ」
「なるほど。町のそばにキメラが多いと困りますもんね……」
「ええ、そうだと思いますノ」
理由は分からないけど、第1施設からも第2施設からも離れているから、キメラはそっちに行っちゃうのかな。まあ、いないに越したことはない。
「ありがとうナノ! じゃあ、私は皆を町の中案内するから、またナノ!」
「いってらっしゃいナノ」
俺たちは軽くお辞儀して、プリンと外に出た。
◇
先ほど聞いた話で少し思ったことをモカに聞く。
「キメラって多い場所と少ない場所があるよな。施設がある洞窟は明らかに多いよな」
「そうね。洞窟に引き寄せられるのは間違いなさそうだけど、このあたりにキメラが嫌がる何かがあるのか、ないのかは全然分からないわね」
「そうだよな。第1施設とも第2施設ともそれなりに離れてはいるから、洞窟にキメラが取られているのか、ここを避けているだけなのか、どっちとも言えないよな」
「そうよね。まあ、洞窟の何に引き寄せられているかも分からないくらいだから、何を嫌がるかはもっと分からないわね」
「キメラを引き寄せる何かってなんだろうな。光に集まる虫じゃないんだから」
「そうね。光は無関係ね。第2施設のところは暗いのにキメラが多いし、ここのそばの洞窟は暗いのにキメラはいないし、第1、第3施設のところは明るかったわ」
「使うコネクトとかもそんなに関係しなさそうだしな。やっぱりキラキラくらいかな」
「まあ、今のところはそれしかないわね。でも、集めるってことは光じゃないけど、それなりに遠くまで何か届かないとおかしいわよ。においとか音とか……」
「キラキラからはにおいも音もしなかったプイよ」
「そうナノ」
「クルルとプリンがそう言うなら間違いないだろうね」
「……残るはチップにもある結合力ね。それが1番しっくり来る説明だけど、鉱石自身にその効果があるとは思えないから…… まさかね……」
「ん?」
「いや、あの洞窟のどこか、あるいは洞窟そのものが細胞でできているとか?」
「いやあ、そりゃすごい話だな。でも、壁の中に埋め込んであれば分からないな」
「でしょ?」
「でも、それだと私たちも洞窟に引き寄せられちゃうプイよ?」
「あ、そうだよ。それだと変だよ」
「そうね。やっぱり私たちを襲ってくるキメラと、それ以外の生き物には何か違いがあるのよ」
「いつか分かるときが来るといいな」
「そうね」
話し込んでいる間に次の目的地の野菜販売所に着いた。ここで採れた野菜がいっぱい売っていた。
「あっ、野菜がいっぱい。ねえ、ヤマ。買っていきましょうよ。私たちは草を食べられないから野菜不足なのよ」
「そうだな。食べ切れる範囲でたくさん買っておこう」
「いらっしゃいナノ」
「葉物が多いのね」
「そうナノ。私たちは葉物が大好きナノ。後はイネとかも好きナノ」
「イネは実よりも葉っぱ部分?」
「もちろんナノ」
だよな…… まあいいか。
「じゃあ、これとこれと…… あと、これもいいわね…… じゃあ、このくらいで」
「……そんなに! ありがとうございましたナノ!」
モカが結構な量の野菜を買った。お金を回してあげることもラパンのためになるし、いいことだろう。俺たちにはインベントリがあるし、野菜大好きなクルルとプリンもいるから、余る心配は全くなさそうだ。
「そういえば、ここの野菜はドスシウダとかにも売りに行くんですか?」
「そうナノ。衛兵さんたちもたくさんいるから、みなさんたくさん買ってくださるノ」
「なるほど。それでこんなに畑が広いんですね」
「そうナノ。私たちウサ人なら食べ切れちゃうかもしれませんけど、売り物でもあるノ」
「そうなんですね。じゃあ、私たちがドスシウダで食べた野菜はラパンの野菜だったのね」
「そうだとうれしいノ」
「このあとドスシウダにも行くから、またおいしい野菜探してみます」
「ぜひナノ!」
ラパンとドスシウダは近いこともあり、商業的にも紐づいているようだ。つまり、人の往来もそれなりにある。
「ラパンとドスシウダの間はそれなりに人が行き来するってことだよな」
「そうね。この間を通れば、有名人なら気付かれる可能性は高いわね」
「そういえば、プリンの師匠は有名人?」
「有名かは分からないノ。普段はラパンにいなくて、稽古をつけてくれるときに来てくれるだけナノ」
「まあ、そりゃそうか。稽古ってどこでやるの?」
「……見たいノ?」
「できれば……」
「せっかくだから、プリンがみんなに稽古つけてあげたらどうかしら?」
「ナ!」
「それいいんじゃない。行ってみるか」
◇
プリンに連れられていったところは、剣道場のようなところだった。なるほど、こういうところで修行したら刀を使いたくなるよな。
「こんにちはナノ」
「はいナノ。ナッ! プリンちゃんナノ? 久しぶりナノ!」
「久しぶりナノ。今日は私の仲間たちと久しぶりに帰って来てたノ。みんな頑張って稽古してるノ?」
「もちろんナノ。久しぶりに手合わせしたいノ。プリンちゃん、すごく強くなった感じがするノ」
そりゃ今、プリンに勝てるウサ人は1人もいないことがほぼ確実だろう。うまく手加減するのが大事そうだ。
「木刀とか竹刀を使うのかな?」
「木刀が基本ナノ。竹刀は長すぎて私には合わないの」
「そうか。まあ、当てないように気を付けてね。今のプリンは師匠には及ばなくても、少しは近い強さになってきていると思うよ」
「まかせてナノ!」
中に入ると何人かのウサ人がいた。出会ったころのプリンと似た雰囲気だ。
「よろしくお願いしますナノ。私は普段キメラとたくさん戦って来ているから、みんなは本気で私を斬りに来て平気ナノ。私は寸止めするから大丈夫ナノ。私に一撃当てられるようにしてほしいノ」
「はいナノ! 頑張るノ!」
そこから先はまさに先生と生徒。もちろんプリンが先生だ。圧倒的に強い。一撃どころか、間合いに入ることも難しい。
あっという間に生徒たちは息が上がってきた。
「ハァハァ…… プリンちゃん、速すぎナノ。全然ついていけないノ」
「風をうまく使わないとダメナノ。後ろから自分に当てればもっと加速できるノ」
「そうナノ?」
「一瞬だけ本気出すから見ててほしいノ」
そういうと居合抜きの体勢に。やはりこれを見せるべきだよな。
(ヒュッ!)
「ナッ! ナッ! す、すごいノ! 見えなかったノ」
一瞬で近寄り寸止めされている木刀を見て、周りのウサ人は目をまん丸にしている。と思いきや表情が崩れてきた。
「プリンちゃん、その技、ノエ様の技ナノね? ついに…… ついにできるようになったノね?」
「そうナノ…… 私は師匠が目指していた大事なものを護る役割を引き継ぎたいノ。ここにいる大切な仲間と一緒に護っていくノ。師匠はきっと、私たちのこと、見ていてくれるノ。だから…… だから、みんなもこの道場を護っていってほしいノ」
「分かったノ。道場のことはまかせるノ……」
「「……」」
ウサ人はみんな泣いていた。
そうか、ここのウサ人はみんな同じ一門だったんだな。プリンの気持ちもみんなに伝わったようだ。
ふと気付くと年配のウサ人が近寄ってきた。元師範といった雰囲気だ。
「プリンちゃんは強くなったノ。それでも、ノエにはまだまだ及ばないようナノ。だから、無理せずに、信頼する仲間と協力していくのがいいノ」
「はいナノ!」
「みなさま、プリンのこと、よろしくお願いしますノ」
「もちろん、俺たちにとってもプリンは大切な仲間なんです。お互い何度も命を助け合っています。これからもきっとそうでしょう」
「ええ、そうよ。みんなの幸せを護るのが私たちがやりたいことだからね」
「そうプイよ」
「本当によい仲間に恵まれたノ。まるで、ノエの若い頃を見ているようだノ。ラパンはいつでもみなさまを歓迎しますノ。困ったときはいつでも来てくださいノ」
「はい、ありがとうございます!」
ラパンに寄った甲斐があった。俺たちは心からそう思った。
涙を流すプリンをモカが抱き寄せ、道場をあとにしてプリンの家に向かうことにした。




