第35話 ユキのたどった道
フューラスタードに行くためには、まずはトライオラシに向かう必要がある。だから、レイシュトに来る時に通った道を戻ればよい。
そう思って歩き始めたが、モカが少し考え事をしているようだ。
「ねえ、フューラスタードに行く前に、少し寄り道してもいいかしら?」
「ん? いいんじゃない。レイシュトさえ出ちゃえばそこまで急いでないし」
「どこに行きたいプイ?」
「ここから、プリンたちと出会った洞窟にどうやったら行けるのか気になったのよ」
「……確かに、あそこまで行けないとネックレスを隠せないもんな」
「そうなの。ユキさんがまだ第1施設にも行っていない状態でたどり着けるのかしら、って思ってね。プリンならこの辺り詳しいでしょ? どう思う?」
「うーん、1人だと少し危険だと思うノ」
「だよな…… プリンとマポリンもキメラに追いかけられていたわけだし」
「でも、第1施設には行ってなくても腕輪をしてたら、コネクトは強いと思うプイ」
「……クルルの言うとおりかもしれないわね。普通の人間よりはコネクトがずっと強いとして、それで行けるかを考えてみるほうが良さそうね」
「そうだ。洞窟まで行ったら久しぶりにラパンにも寄りましょうよ」
「そうするノ!」
◇
洞窟のほうに行く道が無いか確認しつつ進んだが、結局、レイシュトに行く時にドグ博士たちに会ったあたりまで来た。このあたりに分かれ道があったはずだ。
「レイシュトに行く時に分かれ道あったよな。あそこを川のほうに行ったら洞窟のほうに行けないかな?」
「方向はそうよね。ただ、橋ってあったかしら?」
「それは俺も気になってたんだ」
「とりあえず行ってみましょう」
分かれ道を左に曲がり、川のほうに続く細い道に入った。しばらく行くと川にたどり着いた。
やはり、ここには橋が無い。
「やっぱり橋は無いわね。でも、不思議ね。橋が無いのに、なんでこっちに道が続いていたのかしら」
「うーん、川の向こうにも道は続いていそうだね」
「ひょっとして、橋は壊れただけ? プリンはここに来たことある?」
「残念ながら来たことがないノ。でも東側の太い橋も壊れていたから、ここも壊れててもおかしくはないと思うノ」
「たしかに、ここは道幅も川幅も狭いから細い橋がかかっていたのかもな」
「……ここ見て」
モカが端まで行っていた。
「ここに何かあった跡だわ。きっと橋を支えていた柱があったのね。吊り橋かしら」
「壊れたにしてはきれいに無くなってない?」
「抜いたってことかしら」
「でも、1人で作業すると、仮にこっちを抜いたら向こうは抜けないよね? 渡れないから」
「東にある橋を回るか、風のコネクトとかで渡るか、どちらかね」
「なるほどね。風のコネクトを使う人だとすると、柱を抜くのは人力?」
「どうかしらね。風や水や氷の威力でも抜けるかもしれないわ。あとはヤマ魔法なら簡単でしょうけど……」
「抜いたんじゃなさそうナノ。斬ったみたいナノ」
もう1本の柱があったであろう場所にいたプリンが言ってきた。
「土が少し盛り上がっている気がしたから掘ってみたノ。そうしたら、下から柱の斬られた跡が出てきたノ」
「なるほど、こっちもかな」
こちら側も掘ってみると、切り株のような柱の残骸があった。
「つまり、意図的に橋を壊したということね」
「ずいぶん跡が古くないか?」
「たしかに…… ここの橋は古くに壊されて、東側に移されただけかもね」
「なるほどナノ。そういう話ならラパンのお婆ちゃんたちに聞けば教えてくれるかもナノ」
「それがいいわね」
「となると、ここを渡るなら、川に入るか、コネクトを使って渡るか、東側の橋まで回るか、の3択だな」
「どうしようかしらね。プリンなら向こう岸まで飛べそう?」
「簡単だと思うノ」
(ヒューッ、スタッ)
「すごいな……」
「……モカでも飛べると思うノ」
「飛べると思うけど…… あっ! プリン後ろ!」
(ヒュッ!)
(……ドサッ)
(……ヒューッ、スタッ)
キメラを一瞬で倒して、こっちに帰ってきた。
「やっぱりこの道は無理があるわ。飛ぶ姿が目立つのよ。そばにいるキメラに襲ってください、って言っているようなものよ」
「プリンだから平気な顔して倒せたけど、ユキさんにそれができたかは分からないな」
「そうプイね」
「それに風のコネクトも使い慣れていないと途中で落ちるかもナノ」
「……」
うーん…… 何か引っかかる。
後ろを振り返ってみると、細いとは言え、ちゃんと道になっている。
「なあ、おかしくないか? 昔、ここの橋を壊したとして、今もまだこんなに普通の道のままになるのかな?」
「たしかに道自体は最近まで人が通ってる感じよね」
「プリン。この川って深いのか?」
「そんなに深くないノ。あっても膝上くらいまでナノ」
「だったらこれが1番簡単じゃないか?」
(ボチャッ)
俺は土で細い道を少しだけ作った。
「一気につなげるとせき止められた水があふれるけど、このくらいずつなら…… プリン。俺が落ちそうになったら向こう岸に飛ばしてほしい」
「分かったノ」
少しずつ土の橋を伸ばす。後ろのほうの通った部分が崩れるのを待ってから手前に伸ばしていく。
これを繰り返すことで渡ることができた。
「できたでしょ?」
「これならあまり目立たずに渡れそうね」
同じことを繰り返して皆のもとへ戻った。
「土か風か分からないけど、こうやって定期的に渡っていたんじゃないかな? それにこの浅さなら濡れていいなら普通に渡れそうだよ。そうじゃないとこの道のきれいさが不自然だよ。ここで釣りでもするならともかく」
「なるほどプイ。でも、東側の橋を使いたくない理由は何プイ?」
「なんだろうな……」
「この道を進んでみて考えましょう。プリンと私の力なら一気に4人でも行けるわよね」
「たぶん行けるノ」
「落ちそうな時は俺も何とかするから」
(ビュービューッ!)
(スタタタタッ)
「2人ともすごい風の威力だな……」
「すごいプイ……」
あっさり渡れた。今度は近くにキメラがいなかったらしく、攻撃されることはなかった。
というか、あの風のコネクトを見たら逃げ出すんじゃなかろうか……
渡った先はすぐ林になっていた。距離感はちゃんとは分からないが、ここから洞窟まで1日じゃたどり着かないのではないだろうか?
「プリン。ここから洞窟までどのくらいあると思う?」
「1日か2日くらいだと思うノ。今日中には着かないと思うノ」
「だよな。適当なところでキャンプしよう」
◇
夕方が近づいてきて、もう少ししたらキャンプでもしようかと思い始めたとき、クルルが何かを見つけた。
「あそこにキャンプ跡があるプイ」
「やっぱりまだ最近も人が通ってたんだな。ただ、これも何カ月か経ってても不思議じゃないな」
「そうね。昨日とかそういう感じじゃないわね。でも、もしここでキャンプしていた人が今日通ってきてるとマズいから、ここから見えないくらいまでは進みましょう」
「たしかに。そうしよう」
それから早足で進み、日が落ちる直前になったのでキャンプにした。
林の中で危ないかもしれないから、道から外れて見えないところに土壁で囲った臨時キャンプを作った。
「相変わらずヤマはキャンプの達人よね!」
「まあ、キメラが襲って来ても俺たちなら大丈夫だろうけど、寝てる時に襲われるのは嫌だからな。こういうのを作りたくなるのさ」
「ふふっ」
「ところで、どう? こっちの道を通って何か気付いた?」
「うーん、誰にも見られないってことくらいかしらね」
「やっぱりそれくらいしかないかな……」
「林にさえ入っちゃえば、そう簡単に気付かれないわ。ユキさんって、たぶんだけど、それなりに有名人よね? だからこういう道を通るしかなかったんじゃないかしら?」
「たしかにな。ドスシウダに行く振りをしてレイシュトを出て、あの分かれ道でこっちに来るのさえ見られなければって感じだな」
「うん、そうよ。やはり、ネックレスは隠しに行ったということよね」
「それにさ、意外とこの林の中ってキメラ少なくないかな?」
「そういえばそうね。林に入ってから1度も襲われてないわ」
「あのとき、プリンたちが最初に襲われたのって林の中?」
「違うノ。林の外ナノ。林に逃げ込んで、そのあと、たまたま見つけた洞窟まで逃げ込もうとしたノ」
「そうか。もともと林の中にキメラが少ないのか、キメラすら恐れる何かがいるか、かな……」
「さすがにキメラすら恐れるものがこんなところにいたらラパンも無事じゃないわ」
「そうだな。さすがにそれは無いか」
◇
キャンプを終え、翌日、洞窟への道を歩きつつ、ふと思った疑問をモカにぶつける。
「なあ、ユキさんがなぜ隠したかはともかく、隠したあと、テルさんになんて説明したんだろうな?」
「まさか無くしたとは言えないでしょうね」
「だよな」
「研究者でしょうから、自分がネックレスの研究をするとでも言ったんでしょうね。ちょうど良さそうなキメラを見つけたとか何とか言って」
「一緒にやりたいって言われたら?」
「あなたは腕輪をよろしくっていう感じかしら」
「なるほどな。それなら不在にしてた期間はキメラ探しに使ってたって言えるか……」
「推測でしかないけどね。ごまかす方法はありそうってだけよ」
「でも、それで通るならネックレスを隠す必要まであったのかな? 亜人じゃなくてキメラでもいいなら、リアさんには危険が及ばないわけだし」
「たしかにね…… 持ってると怖いから保管しに行ったって素直に言うのもありかもね。あるいは盗まれたとでも言ったのかしら?」
「盗まれた、だと俺たちと出会ったらかなりマズいけど…… 今も普通に研究しているのおかしいよな。必死に探さない?」
「そうよね。やっぱり、腕輪ならキメラは着けられないけど、ネックレスは着けられるかもしれないからユイさんたちみたいに襲われたら危ないっていう説得が1番納得感があるかしら? まずはキメラに奪われても安全な腕輪だけで研究しようって。それでネックレスは危ないから隠しに行くって。」
「それもこれも、最後はテルさんの人となり次第か。もしリアさんを研究対象にしようとしたならユキさんは護ろうとするだろうからな」
「そうね」
「他に、トライオラシにあるキメラ研究所に持っていくっていう説明ならどうプイ? キメラ研究所に信頼できる研究者がいればだけどプイ」
「それもありね。持ち出す理由としてはかなり説得力あるわね。いずれにせよ、テルさんのことをよく知っているユキさんなら、何かしら言い訳する方法は取れそうね」
「そうだな。今は隠す理由より、隠せたのか、を考えたほうが建設的か……」
「そうね」
結局答えは出ないまま、洞窟までたどり着いた。そこでもう1つ疑問が湧いてきた。
「なあ、プリン。マポリンって洞窟に先に入ったところでキメラに追いかけられたって言ってたよな?」
「そうナノ」
「だよな。ってことは、ユキさんにも同じ危険はあったわけだ」
「今もキメラがいるか入ってみない? いつもいるわけじゃないかもしれないし」
「そうしよう」
洞窟に入って思い出した。この洞窟は暗かったんだった。
「そういえば、暗いよな、この洞窟」
「光のコネクト無しだと奥まではたどり着けないかしら?」
「コネクトじゃなくてたいまつでもいいとは思うけど……」
「そうね。普通の人だと、準備無しでは奥までたどり着けないということね」
「そうだな。隠すにはもってこいではあるな」
「……もともとそういう場所なんだと思うわ。例えば、ユリの子孫にだけ伝わる場所」
「あり得るな。だとすると、むしろラパン側からの行き方のほうを知らないのかもしれないな」
「あ…… そうか! それよ、ヤマ。私たちはラパン側から先に行けてしまったから気付けなかっただけなのよ」
「なるほど」
モカが光のコネクトを使い、明るくして進んだ。
以前、漢字のヒントを見つけたあたりまで進んだが、今回はキメラはいなかった。もともと小さな洞窟ということもあり、普段からキメラが住み着いているわけではないようだ。
確認が終わったので洞窟から出て、ラパン方向に向かうことにした。そこでモカが確信したように言う。
「やっぱりこの洞窟、今回来た道がもともと来るための道よね。ラパン側には道らしい道がないわよ」
「そうだな。俺たちがたどり着けたのは、プリンがコネクトを使った場所を目指して林に入ったからだし」
「私はキメラに追われて、たまたまたどり着いただけナノ」
「つまり、東側の橋に行くと目立つとか、こっちは行きにくいとかは全然関係なく、今回の道からしか行けないとユキさんが思ってたという説が1番納得ね。しかもキメラの数も少なかったから比較的安全よ」
「本人に聞くのが1番確実だけど、今のところそれを確かめないといけないほどのことはなさそうだな。とりあえず想定外の危険が増えることは無さそうってことだよな」
「そうね。じゃあ、久しぶりにラパンに行きましょう!」
「行きたいプイ!」
「そうナノ!」
ある意味空振りの洞窟来訪だったが、逆にそれで安心できた寄り道だった。




