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第34話 持ち主たちに起きたこと

 宿屋に戻ってきたときには夕方になっていた。往復と話を聞くだけで丸1日かかってしまった。


「はあ、遠かったわね。これじゃあ、今日は商店街でクリームを作るのは無理ね」

「まあ、明日でいいんじゃない?」


「そうね。今日は分かったことをゆっくりと整理しましょう。明日はクリームを作ったらそのままレイシュトを出発しましょう。そのために今夜中に作り方を書いておくわ」


「そんな急いで出発するノ?」

「どうしてプイ?」


「研究者の家に今日行ったのよ。明日、私たちを探しに来てもおかしくはないわ。だから、午前中にクリームを作って、昼には出発したいの」


「なるほど、モカの言うとおりにしよう」

「「分かったプイ(ノ)」」



 さて、どこから話を始めようか。モカにまかせるか。


「どこから話を始める?」


「そうね。まずはプリンの師匠の話よね」

「そうナノ」


「やはり、残念だけど、亡くなったのは間違いなさそうよね。ただ、遺体は見つかっていないみたいだから絶対じゃないけどね。一緒にいた親友がユイさん夫婦ね」


「そして、ユイさんの娘がユキさんね。ユイさんのお母さんはユミさんで、ユミさんが先代のネコ人の神様ね」

「う、うん、そうだね……」


「ここの受付のイヌ人の方の話と合わせると、1度、ユミさん夫婦とネコ人、ユイさん夫婦とプリンの師匠の6人でしばらく旅に出ているわ。そのときに護り人を継承したのだと思うわ」

「私もそう思ったノ」


「つまり、ヤマと私が着けている腕輪の元々の持ち主はユイさん夫婦で、クルルが着けているネックレスの持ち主がプリンの師匠だったので間違いないわ」

「そうなるな」


「そうプイね。私がこのまま着けていてもいいプイか?」


「いいノ。むしろクルルが着けていてほしいノ。師匠を超えるためには師匠とは別のネックレスのほうがいいノ」

「なるほどな」



 2人のネックレスを入れ替えるのはリスクがあるなあ、と思っていたからプリンの思いは助かるな。


 そんなことを思っていたらモカが続きを説明し始めた。


「ここから先はまだ分からないことが多いわ。今日会ったリアさんっていうネコ人にユキさんはネックレスを渡そうとしたんだわ。そのネックレスは、今プリンが身に着けているもののはずよ」

「そうだと思うノ」


「おそらく、腕輪はユキさんとテルさんも身に着けているわ。さらに、ネックレスを隠したのはおそらく…… ユキさん」


「どうして隠したのかな?」


「そこが分からないのよ。でも、テルさんの言葉やユキさんがレイシュトの外にまで行ったという話から考えるとそれ以外ないわ。洞窟に隠したことで安心したのだわ」


「となると、2人に会わなかったのは本当によかったな」


「ええ、そうだわ。現物を知っているなら、私たちが護りのアクセサリーを身に着けていることを見抜かれる可能性もあったわ」

「だよな」


「不思議なのは、リアさんにネックレスを渡すつもりだったのに、直前にやめたとも言えることよね。その理由が分からないのよ。たぶん渡すことで、リアさんに危険が及ぶとユキさんが思ったのだろうけど」


「ユイさんたちみたいに危険なキメラに襲われるとか?」


「可能性はあるわね。リアさん自身は理由を知らないから今日は聞きようがなかったわね。あまり根掘り葉掘りユキさんの様子が変になったタイミングとかを聞けないしね」

「そうだな。人探しに来たという感じじゃなくなるしな」



 ここで、結構大事な点にたどり着く。


「あと、結果的にリアさんは護りのネックレスを見たことはなさそうよね」


「なあ、となるとユキさん夫婦もまだ護り人として施設に行ってないんじゃないかな?」


「なるほど! そうだと思うわ。行くなら3人で一緒に行かないと手間だもの」


「先代護り人がいない中、2人で洞窟に行くなんて自殺行為だから、行きたくても行けないよな。それに、施設に行く前に情報を教えてもらえていない可能性も高いから、施設のことや腕輪の本当の力を全く知らない可能性もあるよな」


「……そうか。そういうことなのね」

「「「?」」」



「ユキさんも、おそらくテルさんも研究者だと思うわ。仮に、腕輪のことを知っているはずのユイさん夫婦が亡くなり、自分たちには腕輪だけが遺されたとしたら、研究したくなっても不思議じゃないわよね」


「もし、そんなときに偶然キメラを倒したり、倒されたキメラのそばに行って細胞を吸収したりしたら……」

「あり得るわ。リアさんが研究対象になることを恐れたのかもしれないわ。ネックレスさえ着けていなければ普通のネコ人になり逃れられるわ」


「なるほどな。ユキさんも亜人大好きみたいだしな」

「そうね。正確な理由は分からないけど、ネックレスを無くしたというのはたぶんうそなんだと思うの」


「……というのと、たぶん1番大事な点は、今、『まともに力のある護り人は私たち4人しかもういない』ということよ」


「なるほど。つまり、俺たちは第4、第5施設に行って、護り人として成長しきらないといけないということだな」




「……ええ、そうよ。ユリの子孫が代々護ってきたものを、私たちがつながないといけないんだわ」




「なかなか大変な使命だな…… あれ? ユリ? 百合?」


 とんでもないことに気付いたかもしれない。もちろんモカも気付いたようだ。


「あ…… えっ!? まさか……」

「まさかな……」


「どういうことプイ?」

「教えてほしいノ!」


「この腕輪やネックレスの模様、ユリの花だよな?」

「プイ? プ!」

「ナ!」


 みんな気付いたようだ。



「あの施設を作ったのはユリかユリに非常に近い存在かもしれないわ。近い子孫あたりかもしれないわ。あるいは子孫でユリと同じ名前を受け継いだ人か……」


「だから、代々ユリの子孫が護り人なんだな」


「でも、ユリって、1万年も前の人よ。存在自体あやしいくらい昔の人よ。そんな時代から護り続けないといけないほどのものって一体何なのかしら……」


「人口が非常に少ないことと関係してるんだろうな……」

「そうね。何かしらの大きな危機に対抗しているのね……」



 だいぶ分かってきたけど、気になることがまだ俺にはあった。


「もう1つ不思議に思っていることがあるんだけどさ」

「ん? 何かしら?」


「ネックレスが隠してあったところ、漢字で封印されてたよな。ユキさんは読めたのかな?」


「読めたんだと思うわ。施設で言ってたじゃない。護り人の中でだけ伝えられているって。だから直系のユキさんだけなら読めたんじゃないかしら」



 なるほど。それなら読めたことも納得だ。あれ?


「ん? となると、まさかだけど、テルさんからも隠したかったのかな?」


「……可能性は高そうね。リアさんを研究対象に1番してしまいそうなのがテルさんだからね。テルさんから護りたかったか、危険なキメラから護りたかったか、どちらかなんじゃないかしら」


「でも、今でも普通に夫婦みたいだから、危険なキメラから護りたかっただけかもプイね」

「そうかもな。そのほうがしっくりくるかもな」


「テルさんってどんな方なのかしらね。答えはそこにある気がするわ。ただ、会いに行くのは危険だからやめたほうがいいけど」

「そうだな。歴代の護り人のような人なら仲間を研究対象になんかしないだろうから」



 これで俺たちのやるべきことははっきりしたかな。


「つまり、俺たちがやるべきことは、第4、第5施設に行き、護り人として成長すること。その間にユキさん、テルさんに会わないように気を付けること。ついでに研究所に近づかないこと。くらいかな?」


「そうね。重い使命を背負うことになっちゃったわね。というか、使命を知りに行くっていう感じね」


「まあ、いいさ。それでクルルやプリンに出会えたのなら俺は大満足さ」


「ふふっ、さすが私たちの(・・・・)ヤマね」


「「そうプイ(ナノ)!」」



 なんか枕詞が成長した気がするんだが、気のせいか?



◇


 次の日、朝早くモカに起こされた。お菓子屋さんに行きたいらしい。早くレイシュトから出発するためにもゆっくり寝ているわけにはいかない。


 とりあえず、みんなでお菓子屋さんに向かうことにした。


「おはようございます」

「あっ、モカ様。準備はできてますノ。これすごいですノ!」


「見せてもらってもいいかしら?」

「もちろんですノ」


 一体何を用意してもらったんだろうか。見ていると少量のヤギ乳が出てきた。


 いや、これはまさか、ヤギ生クリームか!


「ひょっとして、生クリーム?」

「大正解! さすがヤマね」


「多めのヤギ乳を冷やしながら、じっと置いておいてもらったの。それで、上澄みだけをすくっておいてもらったのよ」

「へえ、そんな風にして作れるんだ」


「まあ、ヤマと私が普通に知ってるやつだと置いておいてもダメなんだけどね」

「へ?」

「まあ、その辺はややこしいから、またいつかね」

「うん、まあいいや」


「ただ、ヤギ乳だとホイップは難しいと思うのよね。牛乳とは違うからなあ…… まあ、やれるだけやって。という感じのお試しね」


「へえ、そういうものなの?」

「うん。脂肪の大きさが違うのよ」

「?」


「とにかく、しっかり氷で冷やして、頑張るだけね」


 そういうと、黒糖も入れてボールを氷でしっかり冷やしながらひたすら混ぜ始めた。これ、疲れるやつだ。たまに店主と交代しながら混ぜている。



 しばらくすると、一応ホイップ状になったように思われた。


「……意外とうまくいったかしら? 本当はバニラエッセンスがほしいけど、それはないわよね」

「さすがにないんじゃない?」


「味見してみましょうか」


 俺たちみんなとお菓子屋の店主で味見をした。



「おっ。悪くないわ。いいヤギ乳なのね、きっと」

「すごくおいしいですノ! こんなものができるなんてすごすぎですノ!」

「「これおいしいプイ(ノ)!」」


 クルルとプリンも驚いていた。


「これをプルンの上に乗せるのよ。そうすると立派になるでしょ?」

「ナ! それはすごいノ…… あの…… これを売っても良いノですか?」


「ん? もちろんよ。あなたに作ってほしくて昨日の夜に作り方まで書いてきたんだから。はい、どうぞ。おいしいお菓子をみんなに出してあげてね!」


「ありがとうございますナノ! モカ様はお菓子職人というより、『お菓子の神様』ナノ!」

「ふふっ、私はみんなとおいしいお菓子を食べたいだけよ」


 新たな神様誕生だ。これでモカも俺と一緒で神様昇格だな!



「ただ、今日のはほんの試作品よ。まだまだ改良の余地がたくさんあるから、研究をお願いしたいわ」

「分かりましたノ! いろいろ試してみますノ」


「私たち、今日にはレイシュトを出発しないといけないから、また今度レイシュトに来たら一緒にお菓子作りしましょうね」

「楽しみに待ってますノ!」


 なるほど。モカが急いでいるにも関わらず、ここでクリーム作りをしたかったのは、完成させるためじゃなくて、ここのパティシエに教えて研究してもらうためだったんだな。


 これできっと目的を果たせたのだろう。モカと目で会話してそう理解した。



◇


 短い時間だったけど、レイシュトの人とも交流できて満足だ。


 腕輪の持ち主を探すという目標もひと区切りしたことだし、次のステップに進まなくちゃな。



 護り人として力をつけ、使命を知る必要がある。



 そう思うとなかなか大変な旅になるような気もするけど、みんなが一緒ならきっと何とかなるだろう。


 そんなことを思いながら、俺たちはお菓子屋をあとにし、レイシュトの東門に向かった。


いつもお読みいただきありがとうございます!

第2章はここまでで、次のお話から第3章に入ります。


もしよろしければ、第2章の締めくくりに、ページ下部から作品への評価(星やブックマーク)で応援していただけると大変励みになります!


十分なストックがありますので、これからも毎日お届けします!


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