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第33話 持ち主の情報

 冷蔵庫を手に入れた俺たちは、モカプルンを作ろうとしているお菓子屋さんを探しに行くことにした。


 商店街の中ほどに、いくつかお菓子屋さんがあったが、どれがお目当てのお店かはすぐに分かった。


 『モカプルン近日発売予定!』


 と書かれていたからだ。


 お店をのぞくとウサ人のパティシエっぽい人がお菓子を販売していた。


「いらっしゃらいませナノ。お菓子はいががで…… ナッ!?」


 パティシエはモカを見て固まっていた。続きの言葉が出ないようだ。


「おいしそうなお菓子がいっぱいね! きっとプルンもおいしく作ってくれそうだわ」

「あ…… あの、モカ様ナノですよね?」



 ようやく声が出てきた。なぜか、パティシエ界隈ではモカは様付けのようだ。


「様って柄じゃないわよ。モカでいいわよ」

「いえいえ、何をおっしゃいますノ! お菓子職人の称号を得ている方は私たちからすれば、様付けは当然ナノです」


「そういうものなのね…… ところで、プルンはうまく作れそうですか?」

「そうナノです! 作り方を丁寧に書いていただいたので、私たちにも作れるようになりましたノ」


「よかったわ。楽しみにしているわ」

「ありがとうございますナノ! ところでモカ様はまた新しいお菓子を作ろうとなされているノですか?」


「まだ、挑戦してないけど、作りたいものは決めてるわよ」

「ナ! もし、作ってみたい場合はお申し付けくださいノ。厨房を使っていただいて結構ですノ」


「まあ、ありがと!」


(ジーッ……)


 モカが俺を上目遣いで見てくる。かわいすぎるからやめてくれ……



「もう、そんな顔しないでくれ。用事がすんだらね」

「うふふっ、ありがと」


「「たのしみプイ(ナノ)」」


 クルルとプリンも楽しみのようだ。


「ひょっとして、そちらのウサ人のお仲間が、プルンの元となった方ですノ?」

「そうです! 次はこっちのクルルを参考にするつもりなの」


「プイ!?」


「えっ? 何を作るつもり?」

「クルルって名前じゃかわいそうだから、クリームにしようと思うの」


 そう言うと茶目っけたっぷりな視線を俺に向ける。うまいこと名前をつけたってことにしたいのだろう。


「なるほどな。いい名前だな。白と茶色のどちらにするの?」

「やっぱり最初は白よ。茶色に適した材料をまだ見つけられていないの」

「たしかに、見たことないな……」


 チョコがいいのだろうがないだろうな。そのうちカカオを見つけることがあれば、という感じだろう。


 パティシエは興奮して話を聞いていた。


「すごいですノ! いつでもいらしてくださいノ!」

「うん。用事をすませたら来ますね。あっ、そうだ。お願いしたいことがあるんですけど……」

「もちろんですノ!」



 何やらお願い事があるらしいので、その間に買いたいお菓子を選んでおいた。


 そのあと、宿屋に戻って食べてみたが、見た目通り、非常においしかった。これならモカプルンも期待できそうだ。


 さて、明日は都市の北西のほうに行くことにしよう。



◇


 次の日、とりあえず道なりに西に向かうことにした。


 しばらく大通りを西に進むと北のほうに研究所の正面の門が見えるところに来た。どうやらここが、都市の中央を南北に走っている道らしい。


 それと、歩いてみて気付いたのだが、どうやらレイシュトは碁盤の目のように道が走っているようだ。


 せっかくなので、右に曲がり、研究所に向かってまっすぐ歩くことにした。


 坂道を上る形になっており、見た目以上に時間がかかりそうだ。1ブロックもそれなりに大きく、お店などがいっぱいある。自動車や馬車などが一切ないのが不思議なくらいの光景だ。


 ただ、車がないため、道を舗装する必要がないのはどの都市も共通で、土だったり石畳だったり、という感じだ。レイシュトは全体的に石畳の道で、おしゃれな都会感が出ている。


 かなり歩いたところで、研究所がだいぶ近くなってきた。


 ここまで、碁盤の目のような道とはいえ、左右、つまり東西に遠くまで見渡せることはなかったのだが、突然左右ともに都心の端の壁まで道が通じているところに来た。


 見渡した感じからすると、東西もかなり広いが、どちらかというと南北に長い都市の形のようだ。



「ここで南北が分かれているのかしら」

「そんな感じだよな。ここまでは道を歩いていても亜人のほうがずっと多いもんな……」



「……どうする? このまま進むと研究所の正面の門に着いちゃうよな」


「さすがに気になるわね。ここで西側に行きましょうよ。1番北西なら、ここで西の突き当たりまで行くのがいいんじゃないかしら」

「そうしよう」



 西に向かって、またまっすぐ進むことにした。


 本当に広い都市だ。こっちの世界に来る前だったら片道だけで十分バテてしまいそうだ。すっかり体力がついたようだ。


 俺たちの推測が正しければ、右側の北のエリアが研究者ゾーンで、左側が亜人たちが多いゾーンだ。右側の様子に注意しておかなくては。


 歩いていて気付いたのだが、どうも北のほうはあまり人の気配がしないようだ。


 不思議に思っているとモカが口を開く。


「そうか。みんな研究所に働きに行っているのね」

「あれ、じゃあ、今日は研究者には会えないかもな」

「もっと早く気付けばよかったわ」


「どうする?」

「うーん……」


「もし、護り人の2人が亜人と仲良しなら、亜人だけは家にいるかもナノ。研究所には行かない気がするノ」

「それはあるかもしれないわね。行ってみましょう」



 西側の1番奥のブロックまでたどり着いたので、北に向かった。


 西側は大きな家が並んでいた。その中でも1番北側の家までたどり着いた。たぶんここなんだろう。


「ここまで来て思ったけど、いきなり訪問でよかったのかな?」

「でも、他に手段ないわよ?」

「それもそうか。これが呼び鈴かな?」


 見るからに呼び鈴という感じの文字通り鈴があった。


(チリン、チリン)

「はーいニャ」



 髪の長いきれいなネコ人が出てきた。


「どちら様ですニャ?」

「あの、人探しをしていまして…… 探しているのは真っ白な髪のウサ人の方なんです。仲間の師匠なんです」

「私の師匠ナノ」


「その方のお名前はなんですニャ?」


「ノエ様ナノ」

「ニャ! ノエ様に弟子がいるとは聞いていましたがあなたがそうなのですかニャ」


「半年ちょっとくらい前に、エーンスタットのほうに行くついでにラパンに会いに来てくれたノ。それっきり会えていないノ。それに……」


 プリンが泣き出しそうな顔になった。


 それを見て、ネコ人はうそではないと確信したようだ。おそらく事情を知っているのだろう。



「今日はこの家の主のご夫婦は不在なのニャ。だから、離れで良ければ、お話できると思いますけど、どうしますニャ?」

「ありがとうございます。ぜひ、お話を聞かせてください」


 そう言って軽くお辞儀をした。どうやらお守りが見えてしまったようだ。


「ニャ! それは!」


「あ…… これはゲンタからもらったお守りです」

「ニャンと。ひょっとするとユミ様以来の方かもしれないですニャ。こんなところではなんですので、どうぞお入りくださいニャ」


 ゲンタがくれたお守りの威力が本当にすごい。それに宿屋のイヌ人の記憶通り、ここに住んでいた人が昔持っていたようだ。



◇


 離れと言えないほどすごく立派な建物に俺たちは案内された。


「どうぞ、お座りくださいニャ」

「ありがとうございます」


「……ノエ様が亡くなられたのをご存知なのですニャ?」

「そうナノ。そう聞いたノ。でも信じられなくて、知っている方にお話を聞きたかったノ……」


「私も最初聞いたときは信じられなかったニャ。しかも一緒に出かけていたユイ様夫婦も殺されたニャ。でも、ノエ様のご遺体は見つかってないニャ。帰ってらっしゃらなかったから亡くなったと判断されたニャ」


「たぶんですが、モルジクとガトアルデの間にあるお墓に眠っているのだと思います。俺たちはお墓のそばを通りましたので」

「そうだったのですかニャ。ユキ様が帰ってきたらお伝えしますニャ」


 何か考えていたモカが話し始める。


「あの、ユキさんというのは、今この家の主の方ですか?」

「そうですニャ。とても仲良くさせていただいているニャ。あっ、私はリアと言いますニャ。ユキ様は、かの『奇跡の超天才』の妻の妹の子孫と言われている方ニャ。とても賢い研究者一族ニャ」


「あっ、こちらこそ自己紹介もせずにすみません。俺はヤマと言います。ノエさんの弟子がこのプリンで、そちらはモカとクルルです」


「モカ? もしや――」

「隠してもあれなので言ってしまいますが、『モカプルン』を作ったモカ本人です」


「すごい方たちなのですニャ!」



 お守りとプルンのおかげでいろいろ話を聞けそうだ。モカもそう思ったのか質問を始める。


「ユイさんがユキさんのお母様で、ユミさんがお祖母様なのですね?」

「そうですニャ」


「ユミさんが、ヤマの前のネコ人の神様というわけプイね」

「そうですニャ! まさか、またネコ人の神様にお会いできるとは光栄ですニャ」


「いやいや…… そんな大したことないですよ……」

「ユミ様も同じことを言っていましたニャ。やっぱりヤマ様も神様ニャ」


 これは何を言っても裏目に出るパターンだな。きっとユミさんというのは俺と思考回路が似ているのだろう。



「やっぱり師匠は亡くなったノですね……」

「はい、私もそう聞きましたニャ。それに生きているならここに戻って来ますニャ」


「残念ね…… プリンに、師匠やユイさんたちと会わせてあげたかったのですが……」


「あなたたちもユキ様のように亜人のことを本当に大切にしているのですニャ」


「もちろんです。本当に大切な仲間ですから」

「ユキ様も同じことを言ってくれたニャ。今度大切な仲間の印を渡すって言ってくれたニャ」


「優しい方なんですね」

「そうですニャ。ただ、そのあとしばらくしてから、ユキ様の様子がすこしおかしくなったニャ。ある時1人でレイシュトの外まで行かれたくらいニャ」


「そうなんですか。心配ですね」

「でも、戻ってきたら何か安心したようでしたニャ。ただ、仲間の印を用意したのになくしちゃったから代わりのものを探すねって言われたニャ。たぶんなくしちゃって一生懸命探していたんだと思うニャ」


「仲間の印ってどんなものだったのでしょうね。私たちも仲間で何か共有できたらうれしいわね」

「そうだな。今度商店街で探してみるか」

「ふふっ」


「……仲間の印がなんだったかは私も分からないニャ。ただ、テル様…… テル様というのはユキ様の夫なのですが、そのテル様から、ユキ様からネックレスをもらったかと聞かれましたので、ネックレスを渡すつもりだったのかもしれないニャ。いただいていないとお伝えすると、不思議そうな顔をされたのを覚えていますニャ」


「渡すはずのものをなくしちゃったのなら、しかたないですよね。きっと一生懸命探されたのでしょう。それでテル様と相談して、諦めて別のものにしようと決めたのだと思いますよ」

「きっとそうですニャ」


「プリンの師匠のことを伺いに来たのに、いろいろとお話させていただきありがとうございました。やっぱりプリンの師匠だけあって、とても良い方に囲まれていたと分かってよかったです」


「そうナノ。師匠の分まで私頑張るノ」

「大したお力になれずにすみませんニャ」



 話を聞けたので帰ろうとしたところで、モカが質問をする。


「あの、もしご存知なら、ですが、ユキさんのご先祖の『奇跡の超天才』の妻の妹の方のお名前とかは伝わっていないでしょうか?」


「うーん…… 1回だけ聞いた気がするニャ。なんと言っていたかニャ…… 間違っているかもしれませんが、ユリ様だったと思いますニャ。みなさん似た名前を代々使われるそうですニャ。なので違っていたらすみませんニャ」


「そうですか。勉強になります。ありがとうございます」



 いろいろ教えてもらえたので、丁寧にお礼を行って家を出た。しばらく歩いてからモカが話し始める。


「すごくいろいろなことが分かったわ。謎も増えたけど……」

「そうか。宿屋に着いたら、また教えてくれる?」


「ええ、ここで話すわけにはいかないから。ただ、今日でよかったわ。ユキさんとテルさんがいないときで」

「ああ、それは俺も思った……」



 今思えば少し危険な賭けをしてしまったようだ。


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