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第31話 すれ違い

◇◇◇


 ――ヤマたちがトライオラシの西門からレイシュトに向けて出発しようとしていた頃、ドスシウダでは宿屋のロビーでタツキとカエデがプルンを前にして話をしていた――



「カエデ、また今日も『モカプルン』を買い足すつもりか?」

「当たり前よ。研究所に戻ったらまた何カ月も食べられないんだから。良いタイミングでこっちに来てよかったわ」


「良いタイミングも何もレイシュトに定期報告に行っただけだろ?」

「だからよ。レイシュトと研究所の間は片道3週間くらいかかるのよ。このくらいのご褒美がないとやってられないわよ」


「……それにしても、この『モカプルン』ってお菓子は見たことないよな」

「そうね。創作部門優勝だったらしいわよ」


「優勝者って男か?」

「人間の女性らしいわよ。ウサ人の仲間に似ているからこれを作ったって聞いたわ」


「そうか……」


「ん?」


「いや、これだけ珍しいものだと、並行世界から来たやつらが作ったのかなと思っただけだ」

「ああ、あいつらね。どうかしらね。逃げ出しておいてこんな目立つ行動するかしら?」


「たしかにな。ひそかに侵略計画を練っているほうが普通だな。やつらが普通ならな」


「言いたいことは分かるわ。でもお菓子作り大会に出るのはあまりに侵略者にそぐわないわ。ウサ人の仲間がいて、こんなおいしい『モカプルン』を作って、しかもみんなに作り方を教えてくれる人が侵略者だとは思いたくないわ」


「そうだな」

「それに女のほうは、あんたも名前覚えてないんでしょ?」


「なんか自己紹介してた気はするけど、興味なかったからな。そういうカエデだって――」

「私はあのとき画面に集中してたからよ」


「遺物が音も記録できればよかったんだがな。映像も長くは残せないし」

「しかたないわ」


「ところで、やつらを探すために、トライオラシのほうも確認してもらおうと思う。あそこはキメラ研があるだろ。一緒にドスシウダに来た護衛の何人かに伝言をお願いしたんだ」

「いいわね」


「まあ、本人たちに会っているのが俺たちしかいないから、まともに探せるかは分からんが、それでも何かあやしい動きがないかくらいは分かるだろ」


「トライオラシのあとは?」

「一応、フューラスタードまで足を伸ばしてもらって、そのあと研究所に来てもらうことにはしてる」


「じゃあ結果が分かるのはかなり先ね」

「しかたないさ」



 カエデと話をしていると、何人かの男たちがそばにやってきた。


「おっ、噂をすれば。あいつらに行ってきてもらうんだ」

「あっ、カエデさんもご一緒だったんですね。出発前にタツキさんにご挨拶を、と思いまして」


「おはよう。タツキから話は聞いたわ。あなたたちとは言え、長い道中大変だと思うけど、よろしくね」

「はい、おまかせください。 ……では、タツキさん、行ってきますので」


「ああ、よろしく頼む。『ナギ』ってやつの痕跡だけでもいいから見つけてくれ。あと、湖沿いはたまにチーワニみたいにすごく強いやつも出るから油断するなよ」

「はい。気を付けます!」



 カエデは俺の言葉の何かが気になったようで、護衛たちを見送ったあと、俺に聞いてきた。


「ところで、『ナギ ヤマト』ってどっちかが名前なのかしらね? 両方なのかしら?」


「そりゃナギのほうが名前だろ? 海のナギなら普通の言葉だし、名前にも使うだろ。ヤマトってなんだそれって感じだから、単なるオマケでつけたか、『山と』同じくらい立派な隊長みたいな意味だろうよ」

「そういうものかしらね」


「ああ、やつは最初に、なんで俺の何々を、みたいなことを言って驚いていたからな。意味は分からなかったが、こっちの世界では知られていないはずの役職か何かで呼ばれたら驚くだろ? 役割がバレたかも、とかでな」


「まあ、そうね…… (自分で名前付きのものを送り込んできたくせに、なんで驚いていたのかしら。気付かれない自信でもあったのかしら……)」


 カエデはいまいち納得していないようだが、まあ名前なんてどうでもいいことだ。



◇◇◇



「プリン。西門から行くんだよな?」

「そうナノ」


 次はレイシュトに行くことにしたので、俺たちはトライオラシの西門に向かっている。



 西門の前には、『このさきレイシュトほうめん』と書かれた立て札があった。


「『方面』ってどういうことかしら?」

「一応、途中で曲がればドスシウダにも行けるからナノ。でも、ドスシウダに行くには大回りになるから、こっちから行く人はいないノ」


「そういうことね。ドスシウダからレイシュトに向かう道と、トライオラシからレイシュトに向かう道が途中で合流するような感じかしら?」

「そうナノ。さすがモカナノ」


「なるほどな。道がどうなっているか分かったことだし、そろそろ行こうか」

「そうね」



 歩きながら、ふと考えた。


 レイシュトのそばには強いキメラが出る洞窟はないらしいから、キメラはそれほど警戒する必要はないだろう。それより、レイシュトには大きな研究所があると言っていたから、研究所の人間のほうに警戒すべきだ。俺たちの予想が正しければ、勘違いで捕まっただけなのだが……


 これまで、道中で人に出会ったことはほとんどない。だが、トライオラシには宿屋が多くあり、レイシュトから研究者が来ることも多そうなので、今回は道中で会う可能性は十分にあるだろう。



「なあ、クルル、プリン。レイシュトに着くまで、使うコネクトは水と風だけにしてくれるか?」


「いいけど、どうしてプイ?」

「不思議ナノ」


「レイシュトとの間の道なら、誰かに会うかもしれないだろ? 岩を使うモル人、氷を使うウサ人って、あやしくないか?」


「「たしかにそうプイ(ナノ)!」」

「だろ?」


「たしかにそうよね。私たちも土と風だけにしましょう。それならエーンスタットに売っていたチップで対応できるわ」

「それがいいな」


「もちろん、安全第一だけど、たぶんこの辺に出るキメラなら、2人いれば全部倒せるわ」


 たしかに、俺かプリンがトドメを刺すために、誰かが隙を作れば十分だろう。プリン1人でもすばやいキメラ以外なら勝ててしまうだろう。



「あと、これを持って歩こう。手ぶらで歩いているのもちょっと変だろ?」


 そう言って、リュックをインベントリから出した。


「そうね。ヤマ、随分警戒してるわね」

「モカは大丈夫だと思う?」


「うーん、なんとも言えないわね。ただ、リュックも持たずに歩いていると、キメラから命からがら逃げた人に見えるだろうから、助けようとついてこられたりすると面倒だわ」

「そうだよな」



◇


 警戒してた割には、人と会うことは全くなく、4日ほど経った。キメラも俺たちにとって強いものはおらず、肉をチャージしただけだ。チャージと言えば、大事なことに俺たちは気付いた。


「プリン。肉をインベントリに入れる前に、氷漬けにできないか?」

「氷で囲う感じナノ?」


「そう。そうすれば日持ちするだろ?」


「でも、インベントリが濡れちゃわない?」

「そうか……」


「あっ、冷蔵庫買いましょうよ。ドスシウダにあったじゃない。プリンの氷を入れて、それをインベントリに入れるのよ。そうしたら、肉も安全に保管できるわ!」


「おっ! それだな! レイシュトに売っているかもしれないから、着いたら確認しよう」

「そうしましょう」



 5日目に分かれ道に到達した。


 左側がレイシュトで、右側がドスシウダと立て札に書いてある。


 一応、前のほうにも進めなくはなさそうで、細い道が続いていた。その先には遠くに川が見えている。以前、ラパンからドスシウダに行く道をふさいでいた、あの川だろう。ここから通じている先には見た限り橋はなさそうだから、川まで行けるだけのようだ。


 俺たちは左側に曲がり、レイシュトに向かうことにした。



 少し進むと、道を通る人たちに初めて出会った。向こうは6人組で、イヌ人が5人で人間が1人だった。その中の人間が声をかけてきた。


「随分と軽装ですが、大丈夫でしたか?」

「ええ、たまたまキメラに出会わなかったので。出会っても隠れて逃げるつもりでしたし」


「たしかに、下手に戦うより逃げたほうがいいですな。このあたりは見通しもいいし。私たちはドスシウダに行くのですが、あなたたちはレイシュトに行かれるのですか?」


「ええ。仲間のウサ人の知り合いの人間を探しに行くんですよ」

「ああ、それはいいことですな。レイシュトは人間が他より多いですから、人間が助けてあげたほうがうまくいくでしょうな。私も見てのとおり、イヌ人と仲良しなので、気持ちはよく分かります」


「そうですね。俺も亜人と仲良しの人間で悪い人にまだ会ったことはないですね」

「全くですな。では、お気を付けて」

「そちらこそ、では」



 何とか無難にこなすことができた。しばらく歩いて見えなくなったところで、モカに話しかける。


「どうだった? 普通だったかな?」

「うん。大丈夫だと思うわよ。私も亜人と仲良しの人間で悪い人に会ったことないもの」


「イヌ人たちも慕っているようだったプイ」

「そうナノ。あの後、聞こえて来た会話も普通だったノ」

「どんな会話だったのかしら?」


「ドスシウダに行ったら『モカプルン』ってのをみんなで食べよう、とか」


「ん? 『モカプルン』!? なんで私の名前が付いているの?」

「ふふふっ、そりゃ、発明者だからじゃない? 歴史に残るな、これは」


「もう、なんでヤマはそんなにうれしそうなの! 恥ずかしいじゃない!」


「えっ、すごくいいことプイよ?」

「そうナノ。モカのプルンが認められて、私もすごくうれしいノ」


「えっ…… そ、そう? まあ、みんながそう言ってくれるなら……」


 まさかの情報を仕入れることができた。ひょっとしたらモカのことを知っている人がレイシュトにもいるかもしれないな。いい意味で有名なわけだから、きっと何かの助けになるだろう。



 そう思っていると、モカが気になることを言い出した。


「そう言えば、さっきの人、人間が助けてあげたほうがうまくいくって言ってたけど、どういう意味かしら? まさか、亜人が差別されているの?」


「いや、そんなことはないと思うプイけど」

「たしか人間が多く集まる食堂とか酒場があるって聞いたことがあるノ。だから、人探しでそういうところに行くなら人間がいたほうが行きやすい、とかだと思うノ」


「なるほどね…… まあ、でも、クルルとプリンは絶対に私たちのそばにいて。大きな研究所もあるって言うし」

「そうだな。用心はしておこう」


「「分かったプイ(ノ)」」



◇


 さらにもう1日進むと、ようやくレイシュトの門が見えてきた。


 どうやらこれまでで1番大きな都市のようだ。都市全体が北に向かって少し上り坂になっているようで、坂の頂上あたりに、すごく大きな建物があるのが見える。あれが研究所だろう。


 ファンタジーの世界なら普通はあそこに城があるんだけどな、と思わず考えてしまったところで、俺にもお茶目スイッチが伝搬してきている可能性に気付いて恥ずかしくなった。


 そう思っていたら――


「あんな大きな研究所があるのね。でも、普通あそこにあるのはお城よね。あれじゃ、いまいち気分盛り上がらないわね」



 本家のお茶目スイッチは健在だったが、城がなかったおかげでスイッチが押されずにすんだようだ……


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