第30話 分からないこと
第3施設を出て、もと来た道を戻ることにした。
俺が作った階段は1番下までは続いていないのだが、コネクト能力を上げたプリンの風で簡単に階段になっているところまで到達できた。
その後、入り口に向かう途中で、何体かキメラに遭遇したついでに岩と氷を試してみて分かったことがあった。
「やっぱり大きな塊になると岩を飛ばすのは無理プイ。でも小さいものなら勢いよく飛ばせるプイ」
「氷も同じナノ」
「やっぱりヤマのが特別なのよ。もうヤマ魔法としか言いようがないわね」
「その表現、私も好きプイ!」
「私もナノ!」
「えっ……」
「じゃあ、これからは『解析不能』じゃなくて、『ヤマ魔法』と呼びましょう!」
「「賛成プイ(ナノ)!」」
「ま、まあいいけど……」
お茶目スイッチには伝搬する特性があるらしい。すっかりクルルもプリンも染まってしまった。ついにヤマ魔法が公式名称になってしまった。たしかに他に呼びようもないのだが。
「あっ、そうだ。氷ならネコ人に聞けば良い使い方を教えてくれるかもしれないけど、どうする?」
「どうしようかしら。ゲンタに会うならガトアルデまで行く必要があるわよ?」
「さすがに遠いな。まあ、モカもいるし、俺たちで考えればいいか」
「ねえ、ゲンタってどういう人ナノ?」
「そうか、プリンは会ってないか。ガトアルデの村長をやってるネコ人なんだ。これをくれたんだよ」
そう言ってネコ人のお守りを見せた。
プリンは不思議そうな顔をしてのぞき込んでいる。
「どこかで着けているネコ人を見たような気がするノ…… でも、人間で着けている人には会ったことないノ」
「そう言えば、エーンスタットのチップ屋のネコ人には、今生きてる人間でこれを持っているのは俺だけって言われた気がするな」
「そういえばそうね」
「あっ、でも、これはネコ人にとっては安全祈願のお守りってゲンタが言ってたから、ネコ人なら身に着けてるんじゃない?」
「なるほどね。人間で身に着けてるのが『ネコ人の神様』のヤマだけということね」
「前も言ってたけど、ヤマは『ネコ人の神様』ナノ?」
「いやあ、何かネコ人が好きそうな箱とかおもちゃとかを作ってあげたら、そう言われちゃってさ。あっ、ゲンタも助けたか」
「そんなこともしてたノね。それは神様と呼ばれると思うノ」
「そう?」
「ネコ人のみんな、ものすごく喜んでいたプイよ。ヤマは自分のすごさに気付かないところがまた良いところプイ」
「「そうね(ナノ)」」
「…… まあ、いいことにするか」
氷のコネクトの話からだいぶそれてしまったが、まあ、しかたない。どちらにしろ、ガトアルデまで戻るのはさすがに遠すぎるから、何か用事ができたらにしよう。
そんな話をしながら洞窟の外に出ると、もう夕方に近かったため、キャンプすることにした。
◇
翌日の夕方ごろにトライオラシに戻ってきた。
数日ぶりの宿屋なので、いつものようにまずはお風呂にゆっくり入って、そのあと今日は語り合う日としよう。
「洞窟とかに行くとお風呂に入れないのがいまいちよね」
「私は意外と平気プイ」
「私もナノ」
「えっ、そうなの? そうか、モル人とウサ人は半分はお風呂好きじゃない身体なのかしらね」
「まあ、それはしょうがないよ。モカはゆっくり入っておいで」
「はーい」
モカの長いお風呂を待ったあと、晩御飯も食べて満足したところで、第3施設で分かった情報の整理を始めることにした。
「モカ。いろいろ分かったことがあると思うんだけど、俺たちにも分かるように教えてくれないかな?」
「そうね…… まずは、キラキラしたあの壁にある鉱石の話かしら?」
「そうだな。そっちはまだ分かりやすいと思うな」
「私たちの護りの腕輪と護りのネックレスにはおそらく洞窟にある鉱石が含まれているの。この鉱石はキメラを倒したあと、エネルギー変換細胞を吸収するための触媒になる性質があるのよ。簡単に言うと、この鉱石に近づいた状態なら腕輪とかが無くても細胞を吸収できるの」
「うん、たしかそういう話だったな」
「私の予想では、この鉱石は湖の何かが堆積してできたんだと思うの。だから、湖のそばにしかないの」
「湖のそばの洞窟にだけキラキラがあって、強いキメラが出るのはそのためなんだね」
「たぶんだけど、湖のそばだから、洞窟を掘ったんだと思うの」
「えっ? 誰かが洞窟を作ったの?」
「そうじゃなきゃ、決まって1番奥がキラキラした空間になっているのが説明できないと思うのよ」
「たしかにな。その奥に施設があるわけだし」
「うん。施設がなぜあそこにあるのかまでは分からないわ。鉱石のそばである必要はないし。あるとしたら、あの強いキメラで護られていて、誰も近づけないようにするくらいかしら」
「ああ、護り人以外に近づかれると困る可能性は高いな」
「でしょ? だから強いキメラが育つ環境の奥に施設を作ったんだと思うの」
「……施設のための洞窟、とは考えられない?」
「うーん。それはあるかもね…… 少なくとも今はそんな感じよね。でも、護りのアクセサリーを持っていないと扉を通れないから、強いキメラに護ってもらう必要はあるのかしら?」
「護るためじゃなくて、護り人を育てるためじゃない?」
「ん? なるほどね。それならしっくりくるわね」
「……あんな強いキメラで護り人を育てるノ? 危なすぎないノ?」
「きっと普通は先代の護り人と一緒に行くのよ。プリンの師匠と親友2人がついてきてくれたら勝てそうな気がするでしょ?」
「なるほどナノ!」
「問題はそこまでしないといけないほど、何から何を護るか、だな」
「そこは分からないままなのよね。あと2つの施設に行けばきっと分かるわ」
「そうだな」
キラキラのほうは大体イメージつかめたかな。分からないこともあるけど、モカも分からないならどうしようない。
「じゃあ、あとはエネルギー変換細胞か。この話は難しすぎたから、大事なとこだけ分かるように教えてほしいな」
「分かったわ。そうね…… エネルギー変換細胞にためているエネルギーを使ってコネクトを使っている、というのが1番大事な点かしら」
「それでエネルギー変換細胞をたくさん吸収するとコネクトが強くなるんだな」
「そうよ」
「あと、コネクトを使うとエネルギー変換細胞内のエネルギーが減るから疲れるんだわ。でも、自然界に存在するエネルギーを吸収して回復できるから、しばらくすると回復するの」
「分かりやすく言うと、エネルギー変換細胞数が最大MPで、コネクトを使うとMPが減って、MPは自動回復するっていうことだよな?」
「そう! ヤマ、バッチリよ!」
「「?」」
「あっ、ごめん。俺とモカしか分からないネタだった……」
クルルとプリンを置いてけぼりにしてしまった。それに、こっち方向に話が行くとモカのお茶目スイッチが入ってしまいそうだ……
「キメラとの関係も言ってたプイよね?」
「うん。エネルギー変換細胞のおかげで結合力が高められているの。それを利用して、キメラを維持できているみたいよ。2種類の生き物の結合力を高めたということだわ」
「なるほどな……」
「あとは、まだ分かっていないけど、コネクトをうまく使いこなせるかはAI細胞のほうが強く関係しているみたいだわ」
「まあ、AI細胞が司令塔なんだろうな」
「そうだと思うわ」
これまでの話からすると、キメラやチップ、腕輪、コネクトとかいろいろあるけど、生まれた順序がポイントかもな。
「モカ、ありがとう。だいぶ分かった気がするよ。でもさ、なんでこういう細胞とかを作ったかは分からないよな」
「分からないわね」
「せめて、生まれた順序というか、歴史が知りたいよな」
「そう! そうなのよ!」
「少なくともキメラが生まれたよりもあとにコネクトができたということはあり得ないとは思うわ。でも、キメラとコネクトが1番最初だとすると、どうもしっくりこないのよ」
「というと?」
「強い動物を結合させて人を襲うようなキメラをなぜ生み出したのか、そんなキメラが強くなる洞窟をなぜ作ったのか、理由が全然分からないのよ」
「……普通は強大な敵がいたと考えるしかないだろうけど、人間を襲うようなキメラにしたのはなぜだろう?」
「強大な……か……」
「キメラ以上に強大な敵がいるプイか?」
「ちょっと想像できないノ」
「そうだよな。いることも想像できないし、いたとしてもその先の理由が分からないし……」
「……」
モカが考え込んでいる。こういうときは待ってあげたほうがいい。クルルとプリンに目で合図した。しばらくすると、モカが口を開く。
「火、だわ」
「火?」
「クルル。火のコネクトを使う種族に会ったら殺されるって言ってなかった?」
「そうプイね。常識プイ」
「そうナノ」
「火のコネクトを使うキメラ、じゃなくて、種族って言われてない?」
「プ? そう言われてみるとそんな気がするプイ」
「でも、火のコネクトを使うキメラや種族なんていないよな?」
「今は、だと思うわ。それに、火に対抗するなら、水、風、土、氷を使いたいわ。岩も役立つわ」
「なるほど」
「それに…… 種族と言われてピンとくるのは亜人よ」
「えっ? モル人、ウサ人、ネコ人、イヌ人は火のコネクトなんて使わないと思うけど」
「そうよ。昔、別の亜人がいたんじゃないかしら。火のコネクトを使う亜人で敵対している種族が」
「そうか。それなら、人間や亜人を攻撃する習性を持った強いキメラが必要だったとしても不思議じゃないな。だとすると、キメラは俺たちの敵じゃなくて、もともとは味方だったってこと?」
「味方とまで言えるかは分からないけど、敵のつもりで作られたわけじゃないとしても不思議じゃないわ」
「洞窟でも言ってたよな。キメラを滅ぼしたいわけじゃないだろうって」
「そうよ。一緒に戦ってくれたキメラたちなら、自分たちを攻撃してくるとしても、滅ぼしたいとは思わないはずだわ。キメラも被害者なんだから……」
「……まあ、全部推測よ。もう少し歴史とかの知識が必要だわ」
「そうだな。それに、仮に火のコネクトを使う亜人がいたとしたら、それを誰が何のために生み出したか、っていう疑問が増えちゃうしな」
「たしかにそうね。どんどん理由が必要になっていっちゃうわね」
「じゃあ、次はレイシュトにでも行って、何か伝わっている歴史がないか調べるのもいいかもな」
「そうね。もともと次に行く予定だしね」
「プリンの師匠のお友達のことも分かるかもプイね」
「そうかもナノ」
「腕輪の持ち主である護り人か…… どんな人なんだろうな」
「そうね…… 私たちが分かっていない答えにたどり着くためには知る必要があるかもだし、プリンの師匠の親友なら、いい人に決まっているわ。つながりのある人を探すのは悪くないわ」
「明日にでも出発する?」
「そうね。トライオラシではお菓子作り大会もなさそうだし」
「え…… あったら出るつもりだったの?」
「え? 出ちゃダメ?」
「いや、いいけど…… プルンがおいしすぎたから次はどうするのかなって」
「たしかにそうね。でもクリームを使うものも作りたいのよね……」
「……」
「でもここからレイシュトだとドスシウダは通らないけど、いいノ?」
「ん? そうなの?」
「そうナノ。トライオラシの西門から出れば、直接レイシュトのほうに行けるはずナノ。5、6日あれば着くと思うノ」
「まあ、しょうがないわね」
この世界のお菓子業界にとっての黒船は相変わらずなようだったが、ドスシウダに寄らずにレイシュトに行けることで黒船再襲来から救われたようだ。




