第29話 エネルギー変換細胞とコネクト
――モカが機械に話しかけていた。
「あの、ここではどんなことを教えていただけるのでしょうか?」
「私に託された情報はエネルギー変換細胞についてです。聞きますか?」
「ぜひお願いします!」
◇
「分かりました。エネルギー変換細胞は、この宇宙に存在するダークエネルギーを扱うために作られた細胞です。その名の通り、エネルギー変換機能が最大の特徴です」
「ダークエネルギーって、宇宙を膨張させるというあれのこと?」
「素晴らしい。よく知っていますね。ダークエネルギーには空間自体を広げる能力があります」
「そんなエネルギーを扱ったり蓄えたりできるのかしら?」
「普通はできません。このエネルギー変換細胞は、ダークエネルギーが持つ本来の『空間自体を広げる能力』と、『並行世界間の壁に穴をあけたり広げたりする能力』の間を相互に超高効率で変換できるのです。さらに両者を高速で振動的に変換させ続けることで、結果的にエネルギーを細胞内に留めることに、見かけ上、成功しています」
「なるほど。太陽電池と光の関係みたいなものかしら? 光を電気に変えて、その電気を使って光を生み出しての繰り返しみたいな感じね…… 普通は蓄積できない光を蓄積しているようなものだわ。でも、それだとエネルギー変換ロス、つまり損失が発生するわ……」
「その通りです。ですが、ダークエネルギー自体は膨大な量が存在しますので、常に補充しているのです。補充量が損失分を上回ればいいだけです」
「なるほどね」
「「「?」」」
「いや、全く分かんないよ…… モカ、すごすぎる…… 俺たちには理解が難しいから、一旦モカよろしく」
「分かったわ、まかせて」
早々に議論から離脱した俺とクルルとプリンは、モカと機械が難しいやり取りを繰り広げているのを眺めることにした。
「ところで、エネルギーを変換しているのは分かりましたけど、それによってその付近だけ平均的には『空間自体を広げる能力』が弱くなるという理解で合ってますか?」
「まさにその通りです。それこそが『結合力』で、エネルギー変換細胞の大きな役割の1つです。本来広がる力があった上で釣り合っていたものが、力が弱くなり引き寄せられ結びつきが強くなります」
「……キメラを維持しているのはその結合力ですね?」
「その通りです。通常は拒絶反応が起きるもの同士を、結合させたままにするために使われました。ただし、長い間、世代を経てきたキメラたちにはおそらくもう拒絶反応も起きていないでしょう。ですが、結合力は引き続き使われているはずです」
「なるほど。AI細胞のスロット数の上限がエネルギー変換細胞数に依って決まるのも、使えるダークエネルギー量とそれによる結合力がエネルギー変換細胞数で決まるからですね?」
「はい、その通りです。エネルギー変換細胞が多ければ、扱えるダークエネルギー量も多くなります。また、『並行世界間の壁に穴をあけたり広げたりする能力』側に一時的に能力を偏らせた上で結合力をうまく利用するコネクトの力も向上させることができます」
「なるほど、それがコネクトの仕組みだったのね。でも普段から小さな穴はあけているのでしょう? 大丈夫なのかしら……」
「普段は、並行世界間の穴を分子サイズ以下に抑えておけるレベルでのみ振動させることで、不必要な物質移動を抑制しています」
「たしかに、そうしないと細胞内の分子が漏れ出しちゃうわね……」
「……でも、そうだとすると、好きな場所にコネクトを発動できるのはなぜですか? 細胞の中で穴があいてしまいませんか?」
「それはAI細胞の指示によるものです。AI細胞の詳細については私には情報が登録されていませんが、AI細胞の指示で、エネルギー細胞は体内を自由に移動するとともに、エネルギーの方向性を調節しています」
「なるほど。AI細胞との連携で、並行世界間の穴を体外にあけているのね。体のそばにしか穴があけられないのもそれが理由ね」
「そうです。また、偏りを大きくすればコネクトはより強くできますが、その分だけエネルギーが散逸しやすくなり、元に戻せる分が減るため、一時的に留めているダークエネルギーが減ります」
「それがあの疲労感の原因ね。ダークエネルギー自体はもともとたくさん存在しているから、何もしなくてもしばらくすれば回復するわけね」
「はい。理解が早いですね」
「疲労感はおそらくAI細胞が私たちに感じさせているだけね……」
「そのあたりについては私は分かりません」
「そうですよね。エネルギー変換細胞は普段は小さな穴をあけたり閉じたりしていると思いますけど、並行世界から漏れてくる光とかは感知できるのでしょうか?」
「はい、感知自体はできています。それをどう利用しているのかは分かりません」
「そのあたりはAI細胞の役目かしら……」
「あと、第2施設で教えてもらった亜人が使っている結合力もこういう仕組みだったのね。腕輪を身に着けられない理由の……」
「そうです。腕輪内の細胞との結びつきを維持するためにも結合力を多く使います」
「ありがとうございます。いろいろ分かりました」
「どういたしまして。分からないことがあればいつでも聞きに来てください。私に登録されている情報であればお答えできます。」
「あっ、最後に1つ。護り人が何を護っているかはあなたは知っていますか?」
「……私にはその情報は登録されていないです」
「分かりました。ありがとうございました」
難しすぎる…… モカにあとでゆっくりと翻訳してもらおう……
◇
とりあえず、難しい話は終わったようだし、能力向上に移ることにしよう。
「話は終わったみたいだし、能力向上できるか見てみようか」
「そうね」
ここでできることを機械に触れて調べた。
やはりここは『第3施設』だ。3つ目の施設になり、レベル等の上限がさらに上がった。
違う部分は以下だった。
◆◆◆
■AI細胞増加(増加後の最大スロット数10)
■AI細胞への登録
脳サポート機能(それぞれ最大レベル3)
コネクト能力向上(それぞれ最大レベル3)
コネクト接続先(『岩』、『氷』)
◆◆◆
「やったな。岩と氷だ。クルルとプリンに登録しような」
「ありがとうプイ! そうだプイ。できれば、ネックレスは岩にして、水は元の場所に戻したいプイ。モル人らしくプイ」
「私もネックレスは氷にしたいノ」
「それもそうだよな。移動できたはずだから、まず移動させて、そのあと能力向上させていこう」
「「それがいいプイ(ノ)!」」
アイデンティティは大事だ。モル人が水を使えることと、ウサ人が風を使えることは大切にしてあげないとな。
「じゃあ、順番にやろう。スロットは最大まで行けるかな?」
「大丈夫だと思うわ。1回洞窟の入り口まで引き返したじゃない。あのときたくさんキメラを倒したから」
「たしかにそうだな。これからもあまり1日で攻略しないほうがいいかもな」
「そうね」
そのあと、登録した結果は以下だ。予想通り、最大まで上げられた。
◆◆◆
(ヤマ)
現在スロット数10
スロット数は現時点の最大
スロット登録内容
解析不能1
動体視力2
反射神経1
形状生成能力3
放出能力3
護りのアクセサリーコネクト登録(最大2)
土
水
◆◆◆
◆◆◆
(モカ)
現在スロット数10
スロット数は現時点の最大
スロット登録内容
思考速度3
動体視力1
反射神経2
形状生成能力2
放出能力2
護りのアクセサリーコネクト登録(最大2)
光
風
◆◆◆
◆◆◆
(クルル)
現在スロット数10
スロット数は現時点の最大
スロット登録内容
水1
動体視力3
反射神経2
形状生成能力2
放出能力2
護りのアクセサリーコネクト登録(最大1)
岩
◆◆◆
◆◆◆
(プリン)
現在スロット数10
スロット数は現時点の最大
スロット登録内容
風1
思考速度1
動体視力2
反射神経2
形状生成能力2
放出能力2
護りのアクセサリーコネクト登録(最大1)
氷
◆◆◆
スロット数が限られる中、それぞれ特徴を活かせるように上げた。特にクルルとプリンは迷ったようだ。
クルルは、キメラが強くなってきているから、攻撃をかわす能力を上げたいと思ったようで、コネクト能力よりも反射神経などを重視した。
逆にプリンは、氷を使いこなすためのコネクト能力と、居合抜きに適したタイミングを理解するための思考速度を上げることを選択した。
モカもコネクト能力より、かわす能力が大事だと感じたのだろう。賢さはさらに上がったみたいだが……
俺は、俺にしか使えない『解析不能』が強敵に勝つための鍵になるため、コネクト能力を最大にしておきたかった。
「みんなまた強くなったな」
「そうね。クルルとプリンが岩と氷を使えるようになったのが1番大きいわ。戦略の幅が広がるもの」
「そうだな、あとで使ってみよう」
「「それがいいプイ(ノ)!」」
「じゃあ、武器と護りのコートも見ようか。こっちは大体予想できるけどね」
「そうね」
武器はやはり全て第2施設より丈夫で斬れ味の良さそうなものばかりだった。大剣のようなものもあったが、さすがに重そうだ。
「本当は両手に持つ剣のほうが威力が高いんだろうけどな。でも、コネクトを使うことを思うと、片手は自由にしたいよな」
「それに重い武器だと、キメラの攻撃をかわしにくくなるわよ」
「だな、片手で扱えるものに限定しよう」
「これなんだろう? ロングソードよりは短いし、グラディウスよりは長いよな?」
「うーん。なんだったかしら…… たしか…… スパタとかそんな名前よ」
「……軽くて良さそうだけど、俺の使い方だと刺したりするから長さがあったほうがいいか」
「そうね。私の場合はそもそもあんまり武器を使わないし、グラディウスより長いと辛いわ」
「まあ、敢えて武器の種類を変えたい理由はないか。レイピアとかにしたいわけじゃないよな?」
「うん。短剣の部類で十分よ」
「クルルはどう?」
「私はメイスがいいプイ。私だけが打撃で氷を壊せるプイ」
「たしかに! それ重要だな」
「プリンは言うまでもないな。太刀にするかどうかだけだな」
「そうナノ。でも長いと扱いにくいから小太刀が最高ナノ!」
「じゃあ、業物に変えるだけだね」
「それがいいノ」
ということで、結局みんな同じタイプの武器をランクアップさせるだけにした。たぶん今後もそうなるだろう。
それでも、素人目にも良いものになった気がする。ゲームのように武器の名前が分かるならきっと別の名前が付いているのだろう。
それに、これまでは銀色だった部分が、どの武器も握ったときに薄っすら青みがかるようだ。
第3施設の武器という感じで、例えるならロングソードレベル3と言ったところか。一体何でできているのだろうか?
「きれいな武器よね。これ、ひょっとしたら、内部か表面に護りのコートと同じような細胞が使われているのかしら。握ると若干雰囲気が変わるじゃない? 金属ならあり得ないわ。きっと、生体AIチップか、護りのアクセサリーと結びついて反応しているのよ」
「なるほどな。それで薄っすら青く輝くような雰囲気があるのかな」
「それにたぶん丈夫になっているかしら。ひょっとすると、第4か第5施設まで行くと、細胞で刃を拡張できるような武器とか、斬撃が飛ぶ武器があるかもしれないわよ!」
「そ、そうかもな……」
最後、お茶目スイッチが入ったような……
気を取り直し、護りのコートの確認に移った。
やはり、第2施設より大きな塊があり、こちらもレベル3なのだろう。迷わず交換した。
これだけ大きくなると、盾のようにも使えそうだが、打撃以外だと斬られてしまうかもしれないから、いざというときのみにしたほうがよさそうだ。同じことを思ったのか、モカも試していた。
「これ、盾みたいにできるわね。でも、ちょっと盾にするには薄すぎかしら?」
「そうだよな。盾にするより、腕のあたりを太めにしておいて、小手のようにしておくのがいいんじゃない? そうすれば形を変更する必要もないし、いざというときは小手部分で顔とかをガードできるし」
「そうね。それが良さそうね」
さて、目的は達したし、そろそろトライオラシに帰るか。
「じゃあ、そろそろトライオラシに帰ろうか」
「そうね。いろいろ分かったし」
「トライオラシについたらゆっくりと教えてほしいプイ」
「そうナノ」
「俺も……」
「ふふっ、分かったわ」
俺たちは第3施設をあとにした。




