第28話 だまし合い
周りを警戒しつつ、階段を下りる俺たち。上から攻撃されると危ないためだ。
結果、下りる前に先に周囲を確認しておいたのがよかったのか、キメラに襲撃されずに下のほうまで来ることができた。
「ここから飛び降りればいいプイね」
「いけそう?」
「全然平気プイ」
「一応、軽く風で助けるノ」
「よし、行こう」
「うん」
(ヒューッ)
(スタッ!)
崖下にみんな降り立った。
崖下は意外と広い空間で、道幅も広い。地面は昨日のカバガメが使った水のコネクトの影響で濡れていた。ただ、足跡は特にはないから、このあたりを別のキメラが歩いたわけではなさそうだ。
「キメラはこのあたりにはいなさそうだな。どっちに行けばいい?」
「あっちよ。奥に行って、キラキラが見えてきたら目的地よ。たぶん強いキメラがいると思うわ」
モカが片方を指差した。そちらを見ると、たしかに先まで行けそうだ。
「そうか、こっちが湖のほうなんだね」
「そうなの。ここ以外に奥に行く道がないの」
しばらく先に進むと、岩が転がっているエリアが見えてきた。
嫌な予感しかしない。クマシカがいたところと同じだ。周囲を最大限警戒しつつ進んだ。
少し進むと、ついにキラキラが遠くに見えてきた。
モカが小声でささやいた。
「やっぱりこっちが正解ね。岩を使う強いキメラがいるみたいだから、気を付けて」
「ああ、クマの可能性があるよな」
「たぶんね。あの崖を降りられるから、羽根が生えているか、ジャンプが得意か、あるいはサルみたいに賢くて器用か」
「ジャンプだけだと苦しいだろうから、羽根かな。サルだとずる賢いキメラのイメージが強いから嫌だな」
「でも、羽根が生えたキメラをこの洞窟で見てないわよ。崖の罠の可能性も考えるとサルの可能性のほうが高いんじゃないかしら?」
「そうだとするとなおさら厄介だな」
「ええ、そうね」
そろりそろりと進むと、クルルとプリンが何かに気付いたようだ。
「何がいるプイ……」
(ピクピク)
プリンは耳を動かしていた。
俺たちは急いで岩陰に隠れて様子を探り続けた。
「何か食べている音がするノ」
「よく見えないけど、たぶん倒したキメラを食べているんだよな。あのキラキラの壁際のやつがそうじゃないか?」
「そうね。あ……」
「ん? 吸収してる?」
俺たちがキメラから細胞を吸収するような感じで、何かがキメラに入っていくように見えた。
「やっぱりそうだったのね」
「どういうこと?」
「あのキラキラが触媒効果のある鉱石なのね。たぶん護りの腕輪とネックレスにも同じ鉱石が含まれているんだわ。だから、壁際に行くと、触媒効果が発動して、吸収できるんだと思うわ」
「なるほど、それでキラキラがある洞窟にいるキメラは異常に強いんだ」
「ええ、きっと1番奥以外にもキラキラがところどころにあるのよ。特にキラキラが多い1番奥には強いキメラがいるというわけ」
「つまり、この洞窟にいるとスロットが増えない以外はどんどん強くなるわけだな」
「そういうことね」
「どうやって倒すプイ?」
「もうじき食べ終わりそうナノ……」
さて、どうするか。キメラの身体に羽根は生えていない。見た目からするとほぼクマだが、手を器用に使っていることはたしかだ。
「あれだけ器用に手を使うということは、クマザルよね、きっと」
「ああ、俺にもそう見える」
予想していた中では最悪な部類だ。
「きっとだまし討ちしてくるわ、倒せそうと思ったときが1番危険な瞬間よ」
「なら、だまし返すしかないな。だまし合い勝負だな」
「そうね。だますならヤマのコネクトしかないわね。プリンが斬ると見せかけて、途中で止まって、ヤマのコネクトで倒すの」
「岩には不自由しなさそうだから、あとはどうやってその条件を作り出すかだけだな」
「それは戦ってみないと分からないわね。でも、どの道、短期決戦よ。体力で負けているはずだから、長期戦はどう考えても不利よ。見た限り、岩はたくさん出せるんだと思うわ。プリンと私の風を使ってかわすのが大事そうね」
「この前みたいな落とし穴での回避はやめておこう。俺のコネクト自体が秘策だからな」
「そうしましょう」
「……食べ終わったプイ」
「いよいよナノ!」
◇
食べ終わったクマザルがこちらに気付いた。次の瞬間――
「上プイ!」
(ドォン!)
「いきなりかよ!」
「私たちをバラバラにするつもりよ!」
いきなり岩の雨を降らせてきた。
(ビューッ!)
(ビューッ!)
俺とプリン、モカとクルルの2組に分かれ、風のコネクトを使ってかわした。
「ヤマとクルルはプリンと私から離れないようにね!」
「「分かった(プイ)」」
(ダダダダダッ!)
次は物理攻撃をするつもりのようだ。俺のほうに突っ込んできた。クマのパワーを持ったクマザルの攻撃をまともに受けたら危ない。
「させないプイ!」
(ズザーッ!)
(サッ)
クルルの巨大な水鉄砲が炸裂した。バラバラにされたせいでクルルからクマザルまでは距離があったため、余裕を持ってかわされた。
「なら、もう一発!」
(ズザーッ!)
(ビューッ!)
今度は正面から俺が水鉄砲を撃ち、その隙にプリンと横に回避した。今はジャンプでの回避だけはしてはならない。プリンもそのことが分かっているようだ。
「あいつは私たちが上に跳んで回避するようにしむけると思うノ。でも、引っかかっちゃダメナノ!」
「ああ、モカが離れているからな」
(ゴロゴロ! ゴロゴロ!)
予想通り、今度は巨大な岩がいくつか転がってきた。思わず跳んで回避したくなる。
「ちっ、どうする…… 武器じゃ斬れそうにないな」
クマザルは不気味な笑みを浮かべている。間違いなく跳ぶのを狙っている。
(ゴロゴロ! ゴロゴロ!)
(サッ! ビューッ!)
最初のいくつかはなんとか横にかわすが、徐々に横に回避するのが難しくなってきた。跳んだあと、さらに横に飛ばしてもらうしかないか。
そう思ったとき――
(ゴロゴロ!)
(スパァン!)
「えっ? 岩が割れた?」
「うまくいったプイ!」
「ヤマたち逃げて!」
水の刃だ!
モカとクルルのほうにはクマザルの意識が向いていなかったからできたんだ。
おかげで俺とプリンは割れた岩の隙間を縫って回避することができた。
(キィッ!)
クマザルは作戦通りにいかず怒っているようだ。怒って今度は水の刃を使ったクルルのほうに向かうようだ。
「じゃあ、今度は俺が邪魔する番だな」
(ドン! ドン! ドン! ドン!)
(ドコッ! ピョン! ピョン! ドコッ!)
大きな土壁をいくつも出した。しかし、さすがはクマザル。薄い壁は殴って破壊し、分厚いのは軽快に飛び跳ねていった。
だが、おかしい。
岩を使わないなんて。
絶対何かを誘っている。モカはいち早くそれを見抜き、ピンチ兼唯一のチャンスが近づいたことを知らせてくれる。
「ヤマ! プリン! 一発勝負、あとはまかせたわよ!」
「クルル、あいつの進路を制限して、できれば壁側に誘導して!」
「分かったプイ!」
(ズバババン)
いつもの水鉄砲の嵐だ。
岩を使えば防げそうなものなのに、防ごうとしない。むしろ、先ほどの岩を出したことで少し疲れて必死によけているようにすら見える。さらに壁際まで逃げて、追い込まれた演出までしているようだ。
次の瞬間、モカの光が炸裂する。
(ピカッ!)
(キキーッ!)
目がくらんだようだ。そういうジェスチャーをした。
だが、おそらく全く効いていないか、目を使うつもりがないのだろう。
俺とプリンは顔を見合わせ、うなずく。
「行くぞ、プリン!」
「まかせてナノ!」
プリンが小太刀に手をかける。
(ヒュッ!)
(ドォーン!)
やはり、そうだ。プリンが居合抜きを発動した瞬間、これまでで1番大きい岩がプリンの『真上』から降ってきた。
だがそれは、『プリンが居合抜きを続けていたら』の話だ。プリンはしっかりと岩の手前で止まっていた。
(今しかない!)
「これはお前でも予想できないだろ!」
(ドゴォーン!)
◇
クマザルは壁と巨大な岩の間に挟まれ、息絶えていた。
結果だけ見ればクマシカと似たような倒し方にはなった。だが、強さは桁違いだった。
クマシカも目くらましをしつつ、岩を放ってきたが、完全に向こうが優勢であることを知らしめた上での攻撃だった。モカだけが気付いたとは言え、攻撃を回避できた。
それに対し、クマザルは自分の力を隠し、こちらが有利と思わせた上のカウンター攻撃だ。攻撃の威力そのものも全て格上だった上に、倒せると思ったときにやられるのでは精神的なダメージが大きすぎる。1人やられたら最後、一気に全員やられてしまうのは間違いない。非常に厄介なキメラだった。
「すごいキメラだったわね……」
「ああ、これまでで最凶だな。これ、俺のコネクト無しの場合は、どうやって倒すんだろうな?」
「今の私たちじゃ、犠牲無しには無理でしょうね。私たちが犠牲になって、なんとかプリンの居合抜きを成功させるしか道はないわ」
「そんなのいやナノ!」
「そうだな! 誰も犠牲になんてしないさ! みんなで進むんだ。そのための俺のコネクトなんだと思うよ」
「そうね。秘策だからね!」
周りを見ると岩がゴロゴロしている。やはり元から転がっていたのはあいつが出した岩だったようだ。
その岩を見てモカが言い出す。
「ねえ、ヤマ。ヤマのコネクトだと岩を横に思い切り飛ばせるけど、クマザルもクマシカもそういう使い方はしなかったわね」
「そう言われてみるとそうだな。基本、上から落とす感じで、転がすのがせいぜいって感じだったな」
「水や風は、もともと高い圧力がかかっているところにつながるみたいでかなりの勢いで出せるけど、岩はそれが難しいのね。施設で放出能力を上げられないキメラだと特にそうなるのかしらね……」
「俺は能力を高められたから、巨大な岩でも吹っ飛ばせるようになったんだな」
「……でも、それだけじゃないと思うわ。たぶんヤマのコネクトが特別なのよ。だって、岩の重さって動かすことすら全くできないレベルよ。それに、クマシカのときはまだ能力向上させてなかったじゃない」
「あ…… たしかにそうかも…… まあ、クルルたちが岩や氷のコネクトを使えるようになれば分かるさ」
「そうね。あんな岩をあの勢いで吹っ飛ばしてくるキメラがいたら、今の私たちじゃとても勝てないわね……」
「だな…… 俺と同じ能力を持つキメラがいないことを祈ろう」
「そうね…… とりあえず施設を探しましょう。この奥にあるはずだわ」
◇
奥に向かいつつ、モカはキラキラした鉱石を丹念に調べていた。
腕輪にも使われていると言っていたが、俺は自分の腕輪を見てみてもよく分からない。たしかにどちらも透明であるところは共通なのだが。
「この鉱石と細胞部分をどう融合させているのかしらね。とにかくすごい技術だわ」
「でも、これだけ鉱石があるのにどうして腕輪やネックレスをたくさん作らないのかな? みんなで使えばいいのに」
「そうね。なんとなくだけど、別にキメラを滅ぼしたいわけじゃないんだと思うわ。共存させたいんじゃないかしら。みんな私たちみたいに強くなったらキメラを滅ぼしちゃう気がするわ」
「まあ、そりゃ、もともとは動物なわけだし、滅ぼす必要はないよな」
「仲良くできれば1番良いプイね」
「本当そうだよな! それが1番いいよな!」
「キメラって本当不思議ナノ……」
さらに奥に進むと、他の施設と同じタイプの扉があった。ユリの模様に腕輪をかざし、開いた扉の先の部屋に入った。
部屋の中も他の施設と一緒のようだ。
「よく来ました。護り人たちよ」
いつものように声をかけられた。モカが機械に話しかける。
「こんにちは。あの、ここではどんなことを教えていただけるのでしょうか?」
「私に託された情報はエネルギー変換細胞についてです。聞きますか?」
「ぜひお願いします!」
このあと、機械から教えてもらった話は俺にはあまりにも難しすぎた。
次話ではコネクトの仕組みの根幹にも関わる部分が明かされます。
21時頃投稿予定です。




