第25話 次の洞窟を目指して
ここ何日かお菓子作りとかですっかり楽しんだ俺たちだったが、明日あたりにはそろそろ次の洞窟にでも向かうことにしよう。
「次の洞窟があるのってどこか分かる?」
「洞窟以外にレイシュトもこのそばにあるのよね?」
「そうナノ。でも、レイシュト側には強いキメラが出る洞窟はなかったと思うノ」
「じゃあ、次はフューラスタードのそばに洞窟があるのかしら?」
「フューラスタードはここからはかなり遠いノ。途中にトライオラシがあるノ。湖沿いの道を歩けばたしかいけるノ」
「トライオラシ……」
「なるほど。じゃあ、次行くならレイシュトかトライオラシだな」
「レイシュトに何しに行くプイ?」
「プリンの師匠の親友が前に住んでたんじゃなかったっけ?」
「そうナノ」
「腕輪の元の持ち主を探すというのも目的だもんね。でも、もう亡くなっているはずだからどうしようかしら」
「そうだな」
「行き方としてはレイシュトに行ってからトライオラシに行くほうが近いと思うノ」
「……」
「どうした? モカ」
「うーん。近さはそうかもしれないけど、少し気になることがあるのよね。私は先にトライオラシに行きたいかしら。トライオラシには洞窟があるのよね?」
「たぶんあると思うノ」
「しかも、あるのは第3施設だと思うわ」
「ん? どうして?」
「なんとなくというか、名前からして……」
「「「?」」」
「まあいっか。モカが気になることがあるなら、先にトライオラシに行こう。その後に1度ドスシウダに戻ってきてもいいし。ついでにボコ隊長に会いにくるのもいいしさ」
「そうプイね!」
「トライオラシはどこから行くんだ?」
「南門だと思うノ」
「そうか、じゃあ、買出しして準備したら明日くらいに出発しよう」
◇
翌日の朝、南門に行くと、『このさきトライオラシ』と書かれた立て札があった。
「こっちで合ってるみたいね。どのくらいかかるのかしら?」
「あっ、あなたはモカさんワン! トライオラシなら4、5日くらいの距離になりますワン」
「そうなのね。ありがとう!」
衛兵が教えてくれた。モカはすっかり有名人だ。
衛兵は俺のほうもちらっと見た。何か気になることでもあったのだろうか?
南門を出ると、道は左のほうに曲がっていた。
その左側には湖が広がっている。大きくてよく分からないが、弓なりに曲がっているようだ。おそらく最短距離はまっすぐ南に行くのだろうが、道なき道を行くのも大変なので、道なりに行く。
「湖のそばだからワニ系とかのキメラが出るかもしれないから気を付けましょうね」
「そうだな。洞窟内じゃないから強くはないとは思うけど、噛まれたら痛そうだもんな」
「そうプイね」
「そういうこと言っていると本当に出ると思うノ。というより、あそこに何かいるノ」
「あれは、ワニ? いや、チーターかヒョウかな?」
「チーターの速さがあるワニだと大変ね。そういえば、前に倒したチーシカは氷を使ってきたわよね」
「そうだな」
「氷なら私が砕けるプイ」
「え? クルルそんなことできるようになったの?」
「そうプイ!」
「そうそう、この前、ドスシウダの西門を出たところでいろいろ試したんだよな」
「プイ!」
「そうだったのね。なら、余裕を持って戦えるかしら。でも警戒はしましょうね」
「そうだな」
チーワニに少し近づくと、向こうは戦闘体勢に入った。とにかく噛まれないことが大事だ。
(タッタッタッタッ!)
警戒していると、まだ距離はあるが、すぐに猛スピードで突進してきた。
「よし、クルル、水と土で通り道を制限するぞ」
「プイ」
(ズバババン!)
(ドン!)
2人で同時に水鉄砲を出して通り道を制限した。ついでに土壁も作ってさらに制限を強くする。
「へえ、そんなやり方あるのね! じゃあ、私はプリンの邪魔にならないよう、横に行きつつ、光を使うタイミングをはかるわ」
「分かったノ」
(ヒューッ)
モカも追い風ですばやく移動した。モカのほうにチーワニが行けないように俺とクルルで通り道を制限し続けたが、氷のコネクトを放って打開しようとしてきた。
「そんなの効かないプイ!」
(バァン!)
クルルがすばやく氷の飛び先に回り込み、メイスでいとも簡単に砕いた。
それを見たチーワニは諦めて、プリンを攻撃対象に変更したようだ。そのためにチーワニがモカたちから目を離した瞬間、タイミングを見計らっていたモカが光を放つ。
(ピカッ!)
(ガゥ!)
風以外も使うと思っていなかったのか、目がくらんだようだ。
さらに、次の瞬間――
(ヒュッ!)
(……ドサッ)
ほとんどチーワニに何もさせずに簡単に倒すことができた。
「クルル、強くなったわね!」
「ププ!」
「モカだって追い風使いこなしてるじゃん」
「そうね。プリンが使っているのを何度も見ていたから、うまくできたわ」
「私たちの風と風を合わせたら何かできるノ?」
「うーん、1番は長く飛べそうというところかしら。地面ごと支えられたらすごいけど、そこまでいかなくても、飛ぶキメラも多いから役に立つと思うわよ」
「ねえねえ、水と風はどうプイ?」
「水も風もどちらも土を浸食するのよ。だから、合わされば浸食が速くなるから土壁とかを作られたときに役立つはずよ。あとは水の刃を作れれば1番強いんだけどね。本当にうまく作れれば硬い鉱物も斬れるはずよ。たぶんだけど、水の竜巻を作って勢いを与えて、薄く刻んで鋭くした超高圧の水の刃を放つの。間違えて自分たちに当てないようにするのは結構難しいと思うわ」
「さすがモカだな!」
「そうプイ!」
水の刃か。そういえば、水でダイヤモンドも斬れるって聞いたことがあるな。まだ、そこまでの圧力で出すのは相当集中しないと難しい気もするけど、未来のある話だな。それに、外にいるキメラには余裕をもって勝つことができても、洞窟内のキメラは別格だから、強くなるに越したことはない。
そんなことを考えていると、湖のほうを見ていたモカが言う。
「この大きな湖の中ってキメラはいるのかしら? ワニみたいなのはいるのでしょうけど、魚みたいなのはどうかしら?」
「いないと思うプイ」
「私もそう思うノ。カバサイみたいな水が好きな強いキメラもいるけど、魚は普通に魚として泳いでいるノ」
「そうなのね。キメラになったのは陸上を動ける動物ばかりなのね」
「カバ系もいるのか、強そうだな……」
俺たちが戦ったことのあるキメラには混ざっていなかった強い動物がいくつかいそうだ。特にカバやゾウあたりが混ざってくるとなかなか厳しい戦いになりそうだ。
「あと、南のほうが強いキメラが多いのは気のせいかしら?」
「モカの言うとおり、理由は分からないけど、南のほうが強いキメラが多いノ」
「だから、モルジクは北のほうにあるプイ。草がいっぱいあって、キメラがあまり強くないから暮らしやすいプイ」
「なるほどね。そういうことだったのね」
(となると、最初に連れてこられたあの施設は何のためにあるんだ? あまりキメラが強くないエリアに作りたかったのだろうか…… それとも人があまりいないエリアであることが必要だったのか……)
「南のほうが強いとなると、このあたりの都市の間を移動するのは大変なのね」
「そうナノ。私たちみたいに強い人は少ないから、移動するときは護衛を雇うことが普通ナノ」
「そういえば、門を出るときに、俺のほうを見られた気がしたけど、護衛と思われたのか」
「そうね! きっと、か弱い女性3人を1人で護衛する強い男の人って思われたのよ」
「え…… かわいいならともかく、3人とも全然弱くないでしょ……」
「中身はそうでも、見た目じゃ分かんないわよ」
「そりゃそうだな。俺も防具をつけてないから、ちょっと不思議に思われたのかもな」
「あっ、それだわ、きっと。門を出入りするときだけ身に着ける防具を買ってもいいかもね」
「それは面白いアイデアだな。でも脱ぎ着するのは面倒だし、忘れそうだから今のままでいいや」
「ふふっ」
そのあとも進んでいくと、ドスシウダの南門から予想できたとおり、湖の形に沿って道があることがはっきりと分かってきた。湖にはワニ系のキメラかいるため、釣りができるわけではないし、何のためにこのような道になっているか謎だ。
モカも同じ疑問を持ったようだ。
「なんでわざわざ湖沿いに道があるのかしらね? キメラが出やすそうなのに」
「俺も不思議だったんだよ。わざわざ遠回りしているよな、これ」
「たしかにそうプイね」
「なんナノでしょうね」
「湖を調べたかったのかしらね……」
「湖を?」
「次の洞窟に行けばもう少し分かると思うわ」
「なるほど。それもあってトライオラシに行きたいんだね?」
「うん。そうなの」
「あるいは、この西の方に何かあるのかもしれないけどね」
「うーん。特にここから見える範囲では何もなさそうだけど……」
「少し飛んで上から見てみるプイ? プリンにお願いすればできる気がするプイ」
「いや、危ないからやめたほうがいいわ。失敗して落ちたらケガするし、きっとキメラを呼び寄せるわ」
「そうプイね」
やはり謎は深まるばかりだ。
◇
そのあと1日何度かキメラと戦いつつ進むと、数日でトライオラシの門が見えてきた。
トライオラシの門も、エーンスタットやドスシウダの門とほとんど変わらない印象だ。
「トライオラシの門も他の都市の門もあんまり変わらないんだな」
「そうよね。この都市たちって同じくらいの時期にできたのかしら?」
「私たちも昔からあるってことくらいしか知らないノ……」
「まあ、違う時期に作ったかもだけど、そんなに遠くにあるわけじゃないし、いい門の作り方があれば参考にするから、自然と同じになっていってもおかしくはないんじゃないかな?」
「そうね。仮に都市が1万年前にできたとしても、何回も取り替えているでしょうし」
そのまま進み、トライオラシの門を通過した。ここはどうやら北門のようだ。
中に入るとすぐ、モカは湖があるほう、つまり東側の様子を見ていた。東側にはドスシウダと同じような衛兵向けの施設がありそうだ。
「やっぱり洞窟は東にあるのね」
「ん? やっぱり?」
「湖のそばにあると思ったのよ。これまでもそうだったでしょ?」
「たしかに。2つなら偶然かもだけど、3つとなると偶然と思えなくなるな」
「そうなの。だから、ここに来たかったの。3つとも共通しているところがあれば、そこが重要な点だと思うの」
「なるほどナノ。納得ナノ」
「これまでの2つに共通していたのは、他には、キメラが強いことと、1番奥のほうがキラキラしてたことくらいプイか?」
「いや、まだあるの」
「?」
「キラキラの部屋は湖により近いところにあったのよ」
「洞窟内だと俺にはよく分からなかったけど、湖方向に進んだ先に施設があったってこと?」
「そうなの」
「あとは、洞窟内のほうがキメラの数も多いことかしら」
「たしかに。ドスシウダのときはサルコウがすごくたくさんいたな」
「他の場所ではあんなにはいないプイね」
「キメラが集まる理由でもあるということナノ?」
「そこまでは分からないけど、あのキラキラがヒントだろうと思っているの」
「まあ、たしかにあやしいよな」
「とりあえず、洞窟は明日向かうとして、今日は宿屋で休みましょう」
「そうだな」
例によって門のそばには宿屋があったので、泊まることにした。
せっかくなので、受付で簡単にトライオラシについて聞く。
「トライオラシにはどこかおすすめの場所とかありますか?」
「トライオラシはレイシュトからいらっしゃる方が多いので、食事処が多いのが特徴ワン」
「そうなんですね。どうしてトライオラシにみなさん来るのですか?」
「南門のそばに研究所があるからワン。研究者の人たちがよく来ますワン」
「へえ、何の研究をしているのかしら?」
「詳しくは分からないですが、キメラ研究所と書かれた看板が出ていますワン」
キメラ研究所か…… たしかにあっても全然不思議じゃないな。むしろ他の都市にないのが不思議なほどだ。
「トライオラシ以外にも研究所はあるのかしら?」
「レイシュトには大きな研究所がありますワン。ここはその出張所みたいなものらしいですワン。他の都市にあるかは分かりませんワン」
「そうですか。ありがとうございます」
部屋に向かいつつ、モカが小声で言う。
「あそこも研究所だった可能性が高そうね」
「……たしかにな。明日、見た目とかが似ているか見てみよう」
「うん」
都市の散策は明日にして、今日は久しぶりのお風呂にゆっくりと入り、移動の疲れを癒すことにした。




