第23話 モカの楽しみ
ボコ隊長が衛兵施設を案内してくれることになった。
今いる隊長室は2階だ。どうやら3階は宿舎になっているようで、衛兵たちが寝泊りしているそうだ。3階も案内されそうになったが、さすがにお世話になる機会もなさそうなので遠慮した。
2階の真ん中にある大きな部屋は作戦本部だそうだ。中に入れてくれた。真ん中に大きな机があり、会議ができるようになっている。強いキメラが出たときの作戦会議をここでしていると説明してくれた。
「作戦と言っても、相手のキメラが使うコネクトの種類くらいしか情報がないことが多くて、ぶっつけ本番となることも多いワン」
「実際に見てみないと分からないことも多いわよね」
「そうなんだワン。それに、結局は倒せるだけの威力のある攻撃がほとんどない、というのが1番の課題ワン」
「私たちも真正面から攻撃してもかわされたり防がれたりすることが多いノ。私の攻撃が効くのは、みんなが相手の隙を作ってくれるからナノ」
「たしかにな。どんなキメラでも、驚いたり、ひるんだ瞬間に少しだけ無防備になるんだ」
「私がコネクトで相手の動きを制限するだけでも意味があるプイ」
「なるほどワン。君たちは一人ひとりが強いだけじゃなくて、連携することでさらに強さを発揮してたのかワン」
「そうだな。俺たちの要、その連携の作戦のほとんどを考えてくれるのがこのモカなんだよ」
「もう、ヤマ! 恥ずかしいじゃない」
「あっ、そうだ。キメラって倒してもまた出てくると思うんだけど、どのくらいの期間でまた出てくるかは分かる?」
「バラバラなはずワン。次の世代がまだ子どもなら大きくなるまでの時間がかかるワン。でも、大人のキメラも多いし、キメラ同士も争っているみたいで、すぐに別の強いキメラが出てくることのほうが多いワン」
「前みたいに都市まで来てしまうことって多い?」
「あまりないワン。洞窟の中でキメラ同士が戦っていることが多いからだと思うワン」
「なるほど……」
(まるで、洞窟がキメラ養成機関のようだ…… それと施設が洞窟の奥にあることは関係しているのだろうか……)
「では、そろそろ他を案内するワン。2階の残りは会議室や個室ばかりだから、1階に行くワン」
「分かった。ありがとう」
考えても答えの出ない謎ばかりだ。いつか分かるときが来るのだろう。今は気にしてもしかたなさそうだ。
◇
1階も建物の構造は2階と似ていたが、真ん中の大きな部屋は食堂のようだ。腹が減っては戦はできぬということだろう。
東側――階段とは反対側――には、調理場と休憩所があり、南側の建物の入り口のそばには救護施設のスペースが広く確保されていた。キメラとの戦いでケガした衛兵たちが運び込まれるのだろう。
「調理場は、使っていない時間帯は自由に使って構わないワン。衛兵たちは、みんな外でキャンプすることも想定して調理の練習をするワン」
「なるほど。何か作ってみたいものがあったときは助かるわ」
「いつもキメラの襲撃を恐れているから、楽しみと言えば食べることくらいしかないワン。それもあって、料理大会やお菓子作り大会はよく開かれるワン。そのために練習する衛兵もいるくらいだワン」
「お菓子作り大会!」
「ん?」
モカの目が輝いている。まさか……
「衛兵たちはキメラが出ないときは奥の訓練場で訓練を積むことが多いワン。訓練場の手前には武器、防具が置いてある倉庫があるワン。そういえば武器、防具は大丈夫かワン?」
「今のところ大丈夫かな」
「防具を身に着けないのはすごいワン」
「ああ……」
「キメラの攻撃はすごいから、受け止めるよりかわすほうが大事だと思うわよ。そのために私たちは身軽さを選んでいるの」
「なるほどワン」
「ただ、衛兵たちは集団で戦うから防具はあったほうがいいわ。私たちみたいに広い範囲を自由に動き回れないでしょう?」
「さすが要と言われるだけあるワン。納得だワン」
さすがモカ、うまく護りのコートのことを言わずに説明しきった。
「あの、調理場を見に行ってもいいかしら?」
「やっぱり? 行こうか」
「ふふっ」
1階の1番北東にある調理場に行く。
中に入ると調理台がいっぱいあった。大勢の食事を作ることができそうだ。モカは使える器具の確認をしているようだ。
「かまどなのね。火加減が難しそうね。あとは材料と食器ね。買出しが必要だわ」
「モカは何を作りたいプイ?」
「ふふっ、内緒よ」
「大体、見せてもらったから買い物とかに行く?」
「うん。そうしたいわ」
「じゃあ、ボコ隊長、案内してくれてありがとう。また、来るから」
「いつでも歓迎ワン。いってらっしゃいワン」
◇
「とりあえず買い物も大事だけど、お菓子作り大会が次いつあるか把握しないとね!」
「やっぱり出るんだ……」
「いいじゃない」
「うん、いいよ。そんなに急いでないし、楽しみながら進むのが大事だから」
「お菓子作り大会なら、北の方にある催事場でやるはずナノ。張り紙があるかもナノ」
「さすがプリン。行ってみましょう!」
モカは張り切っているようだ。さっそく衛兵施設を出て、都市の中央に向かう。
円形の道に出たところで北に向かうと催事場と思われる建物が見えてきた。近くに来ると意外と大きな建物だと分かる。
「ここね。立派な建物ね」
「あっ、あそこに何か書いてあるプイ」
「掲示板ね」
近づいてみると、お菓子作り大会の案内が書いてあった。全てひらがなとカタカナなので読みにくいが、要するに以下のようだ。
◆◆◆
ドスシウダお菓子作り大会
開催日は長月7日
以下のどれかの部門に参加可能。
おもち部門
おまんじゅう部門
あんこ部門
創作部門
参加者は当日昼までに受付し、当日昼に催事場入り口に集合をすること。
各部門の優勝賞品は、お菓子職人の称号と黒糖1袋。
5回優勝するとお菓子作り名人の称号をもらえる。
材料は水以外は全て持ち込み。審査員4人分を作ること。
使える器材は…… 俺にはよく分からなかった。
◆◆◆
「私は創作部門ね! 今日の日付がよく分からないけど、いつなのかしら?」
「ナ? 今日は長月5日だから、開催は2日後ナノ」
「意外とすぐね。買出しして、明日練習しなくちゃ」
(こっちの世界に来てから1カ月も経っているのか…… 戻れても留年はしかたがないな……)
催事場をあとにして、食料品が売っているお店に向かうことにした。
お店は都市の中央部分の南側にあった。すぐそばには服屋とかもあるが、そちらには今は興味がないようだ。どんな食材が手に入るのか興味があるので、俺も一緒に行く。
「うーん。やっぱり卵が必需品なんだけどなあ。鶏の卵はなさそうね。でも、この鴨の卵なら良さそうね」
「卵を使うのか、何を作るんだろうな……」
「ふふっ。えっと、砂糖は…… そうだ、賞品にもなっている黒糖にしましょう。賞品になるくらいだから、きっとみんなの口に合うんだわ」
(なるほど、そういう考え方もありか)
「ふふん、ふふん」
モカがものすごく楽しそうだ。クルルとプリンも興味津々だ。
「あとは、牛乳は手に入らないのよね…… ヤギ乳ならいけるわね」
材料を見て気付く。
「ねえ、モカ。まさか――」
「シーッ!」
「プ? 何プイ?」
「あっ、いや……」
「明後日のお楽しみ!」
「ん? 明後日? ということは、明日の練習は1人でするの?」
「もちろんよ。ヤマたちは適当に楽しんできて」
俺たちはどうしようか。暇だからお金稼ぎでもするかな。この近所ならモカがいなくて困るキメラはいなさそうだし。
「じゃあ、俺たちはキメラでも倒して、お金稼ぐか」
「いいプイね」
「強くなったのを確認したいからちょうどいいノ」
結局、モカは材料に加え、保管時の冷却用の氷と、小さな丸い食器もいくつか購入した。買出しが終わったあとは、宿屋に行き、いろんな意味で明日に備えることにした。
◇
次の日、モカは料理の練習のために朝早くから衛兵施設に行くようだ。
「もしキメラが出たら、すぐに俺たちを呼びに来てね。たぶん西門を出たあたりで、キメラと戦っているから」
「分かったわ。じゃあね」
一方の俺たちは西門を出て、まず周囲を確認した。
ラパンのある北側方向は川があって、橋まで行かないと渡れない。
南側だと出会ったことのないキメラが出るかもしれない。
やはりドスシウダからあまり遠くないところにしよう。川と道の間くらいのエリアでキメラを倒しつつ、強さを確認していこう。
「ヤマ、風と土のコネクトを利用して砂嵐を前に作っていたプイけど、水と土とか、水と風だと何ができるプイ?」
「うーん。雨の嵐とか? 火事のときに役立ちそうだな。水と土だと、あとで焼けば硬い土の塊が作れるから、いい感じのかまどが作れそうだな!」
「プイィ。そうじゃなくて、キメラとの戦いプイ……」
「あっ、そうか…… 難しいな。水の竜巻くらいしか思い付かないな。モカに今度聞いてみるか」
「そうプイね……」
クルルがちょっとがっかりしている。ごめんよ。俺にはモカみたいなアイデアは出てこないんだ……
「クルル。たまにはメイスで戦ってみるのはどうナノ? クルルは動体視力だけじゃなくて反射神経も高めたノよね?」
「そうプイね! せっかくの武器だから、たまには使ってみるプイ!」
プリンのおかげで、クルルの機嫌が良くなってよかった。俺もいろいろ試してみるか。
「それはいいと思うな。小太刀やロングソードは斬ったり突いたりするのはできるけど、メイスみたいに打撃はできないからな。硬い相手とかに強いし、氷のコネクトとかなら砕けるんじゃないか?」
「試してみるプイ!」
「俺は2つのコネクトを同時に使えないかとかを試してみたいな。完全に同時は無理でも時間差を付ければいけると思うんだ」
「ヤマは土と水プイ?」
「そうだな」
「なら私と反対側から水を出せば、水で挟み撃ちできるプイね」
「おっ。なるほどな。水と風は2人使えるから組み合わせでいろいろ使えそうだよな」
「それが私が言いたかったことプイ」
「ごめんごめん。アイデアが出てこなかっただけだよ」
「しかたないプイね」
話していたら、運が良いことに、ブタウシを発見した。おいしいキメラだ。
「メイスでいくプイ!」
「頑張れ!」
「プリン。私をブタウシの向こうに飛ばしてほしいプイ。逃げられないように囲むプイ」
「まかせてナノ」
(ヒューッ)
クルルが宙を舞ってブタウシの向こうに行った。囲まれたことに気付いたブタウシが攻撃をしかけようとしたが、その前にクルルがすばやく動く。
「こっちプイ!」
(ブヒッ!)
ブタウシは角で応戦しようとするが、そこにクルルの棘付きメイスが炸裂した。
(ブモウ!)
角を見事な反射神経でかわしつつ、ブタウシの頭を砕き、吹っ飛ばした。というより、棘によるダメージが1番大きそうだ。一撃でブタウシはふらふらとなり、駄目押しの次の一撃で仕留めた。これで高級肉ゲットだ。
「クルルも反射神経が良くなったから、このくらいのキメラなら余裕があるな」
「そうプイね。プリンに追い風を使ってもらえれば、もっと勢い増すプイか?」
「そうかもしれないノ。でも、自分で止められないから危ないと思うノ。いざというときだけにしたほうがいいノ」
「なるほどな」
次に現れたのはチーシカだ。前も戦ったことがある。たしか氷を使ってきたはずだ。
「クルル、あいつが氷を使ってきたらメイスで砕くか、弾き返してごらん」
「やってみるプイ」
「俺はシカでも越えられない土壁に挑戦するか」
「じゃあ、私はその壁を使って相手を翻弄してみるノ」
まずは俺が高い土壁を作って包囲した。チーシカは上を見上げ、越えられなさそうなことを悟ると、氷を使って壊そうとした。
「そうはさせないプイ」
(バァン)
氷が飛んでくる先に回り込み、メイスを一閃したクルルにより、破裂音とともに氷は砕け散った。やはりこういう使い方ができるようだ。
プリンはというと、気付いたらすごいことをしていた。壁と壁の間をピョンピョン飛びはねて行き来している。
「三角飛びナノ!」
チーシカですら目標を定められない模様だ。その隙にクルルが背後に回る。それを見たプリンが正面から攻撃をしようと見せかける。引っかかったチーシカの後ろ脚にメイス攻撃が炸裂した。動けなくなったチーシカは最後はプリンの一撃で仕留めた。
「いろいろな戦い方ができるプイね」
「そうだな」
最後に出てきたのは、おなじみイノウシだった。いつもより大きめの個体だ。
「クルルと俺で水を前後から出して動きを封じてみるか。イノウシだから前に進むのを抑えつつ、別の方向にも行かせないように。その隙にプリンの一撃で」
「「分かったプイ(ノ)」」
両側に広がった俺とクルルはイノウシの動きに合わせて円を描きながら、動きを封じることに。
イノウシからしたら、片方に気付き横に行こうとしたらそちらからも来るという感じだったのだろう。あっさりと追い込むことができた。ついでに土壁で進行方向をさらに抑制したところで、プリンの居合抜きで倒した。
「やっぱり動きが抑えられていると斬りやすいノ!」
「そうだよな。水も土も便利だな」
「そうプイね」
イノウシも倒したことで、肉と牙で荷物がいっぱいになった。インベントリに入れれば余裕なのだが、それだと売りにいけないので、手で持てる量にしておく必要がある。
そろそろドスシウダに戻ることにしよう。




