第20話 暗い洞窟
「プリン。ちょっと前に、ワシイノと戦ってなかったかしら?」
「そうナノ。それがどうしたノ?」
「何のコネクトを使ってきたの?」
「土ナノ」
「じゃあ、あいつも土を使う可能性があるわけね……」
モカが何やら考えている。
「ライオンって普通は集団で狩りをするのよ。あいつは1匹だから、力の強さを活かした奇襲を使うかもしれないわ。それにワシの目の良さ、空を飛ぶ力。爪と前足の強さ。それに土壁で防護も土そのもので攻撃もできる。手強いわ……」
「落とし穴は効かないから、やっぱり羽根を落とすのが大事だよな」
「ええ、間違いないわ。羽根さえ落とせば、プリンの居合抜きで倒せるはずよ」
「トカコウよりずっと大きいから水や風で吹っ飛ばすのは難しいかもプイね」
「そうね……」
モカが悩んでいる。
だが、珍しく俺がふと思い付く。
「モカ、ブーメランが効くと思わないか? ライオンって言ってもデカいネコだろ? あいつのすぐそばにブーメランを飛ばせば飛びつきたくなるんじゃないか?」
「えっ? ふふっ、まさかそんな発想があるなんて! すごいわ、ヤマ。さすがネコ人の神様!」
「何ナノ、それ?」
「ああ、それはまた後でな……」
俺の称号、多すぎないか?
「じゃあ、クルルの水で先制攻撃して、相手が避けるか土壁で応戦してきたところで、ブーメラン作戦かしら? 思わず手が出たところで、光でひるませ、その隙にプリンが首か羽根を落とすの。羽根を落としたら落とし穴も効くようになるから何とでもなるわ」
よし、作戦が決まった。相手がどう出るかで、俺のコネクトまで使うかが決まりそうだ。
ワシライが近くのキメラを攻撃していた隙に近寄り、クルルが攻撃を仕掛ける。
(ズザーッ!)
(ガウ!)
(ドン!)
(バサバサッ!)
クルルの水にすぐに反応し、巨大な土壁を出したあと、横に回避するかと思いきや、飛んだ!
「ちっ、そうきたか。でも、君も心はネコだよな!」
あえて地面寄りのほうの微妙に届かないところを舞うようにブーメランを投げた。パッと見は単なる下手な投擲だ。
しかし、効果はてきめんだった。
(くるくる……)
(ガ、ガウ!)
思わず手が出るワシライ。完全にネコだ……
(ピカッ!)
(ガッ!?)
地面のすぐそばに降りてきた瞬間、地面のそばから強烈な光が発せられ、のけ反った。
次の瞬間――
(ヒュッ!)
(……バサッ)
(スッ)
片方の翼を見事にプリンが斬り落とした。ダメ押しとして、立とうとしたところの土を俺が消し去った。急に足場がなくなり、焦るワシライ。勝負ありだ。
振り返っていたプリンに目で合図した。
(ヒュッ!)
(……ドサッ)
一気に落とし穴を渡り切る速度でもう一度プリンが居合抜きを放ち、ワシライの身体と頭は落とし穴に落ちていった。
「ふう、うまくいったな!」
「ブーメラン作戦大成功ね!」
「すごいプイ!」
「ほんとすごいノ! キメラの気持ちまで分かるなんて、さすがヤマナノ!」
なんか変な感心のされ方をしている気がするけど……
周りの様子を見ていたモカが続ける。
「あの土壁の大きさ、普通のキメラじゃないわよね」
「ああ、だろうな。洞窟から出てきたんだろう」
「……あいつを倒したら周りのキメラが落ち着いた気がするわ。たぶんこれでドスシウダは大丈夫ね。これからどうする? ドスシウダに行くか、洞窟に行くか」
「洞窟でいいんじゃないかな? ドウシウダはまだキメラと戦った余波で大変だろうから、今すぐに東門から入ると怪しく見えると思うんだ」
「それもそうね。そうしましょう」
当初の予定より少し早いが洞窟に行くことに。だが、そろそろ夕方だ。キャンプしてから洞窟に挑もう。
◇
洞窟のそばでいつものようにキャンプをした。俺たちはずっとキメラを警戒していたが、グリフォンみたいなワシライを倒したおかげか、キメラは散っていき、落ち着いていた。
次の朝、洞窟に向かった。1日で攻略できれば良いがどうなるかは分からない。
「この洞窟は結構暗いな」
「そうね。少しは光が入ってきているけど、しっかりは見えないから不意打ちが怖いわね」
「光を使わないノ?」
「ちょっと迷っているの。だって、私たちはここにいます、ってキメラに教えているようなものでしょ」
「なるほどナノ」
「なら私とプリンでしっかり音を聞くプイ。それが1番安全かもプイ」
「そうね。2人は耳が良さそうよね。戦いのときには明るくするから安心して」
どんなキメラがいるだろうか。ワシライはまだ他にもいるとして。
これだけうす暗いんだ。目が良いキメラがいてもおかしくない。同じことをモカも考えていたようだ。
「……うす暗いから、目が良いキメラがいるんじゃないかしら。コウモリやフクロウ、あとはヤモリみたいなキメラね。それに奇襲が得意なワニとかが混ざると怖いわ」
「そうだな……」
しばらく進んだところで、クルルが止まって小声で言う。
「ちょっと待つプイ。生き物のにおいプイ。近くにいるはずプイ」
そうか。クルルは鼻も良いんだな。プリンは耳をピクピクさせて音を探っている。
「どうする? 明るくしてしまえば、奇襲を防げないかな?」
「そうね。近くにいるならこのままだと不利だわ」
パッと周囲が明るくなる。洞窟自体は広くて、壁や天井までは距離がある。飛ぶキメラも十分動き回れそうだ。
「上よ!」
上から何かが勢いをつけて向かってきた。クルルが水で応戦する。
「当たらないかもしれないから、回避もするプイ」
(ズザーッ)
(ヒュッ)
(サッサッサッサッ)
どうやら水はかわされたようだ。あの動き……
「風ね。飛ぶのに風も使うなんて面倒だわね」
「模様からすると、トラというよりヒョウ? あとはフクロウかタカか」
「フクヒョって感じプイ」
「それでほとんど音がしなかったのね」
(フクヒョウじゃなくてフクヒョなのか…… 意地でも4文字なんだ…… まあいいけど)
俺たちはそれぞれ攻撃を回避しつつ、キメラの分析を急いだ。
「ただ、明るくなって、奇襲を防いだから、あとはそんなに怖くないはずよ。羽根を何とかできれば勝てるわ」
「どうやるかな。たくさん水と土を放つ?」
「できなくはないプイよ」
「そうね……」
(ピクッ!)
「ナッ!」
(ヒュッ!)
(……ドサッ)
「えっ? えっ? 何?」
「……モカ、あぶなかったノ」
モカの後ろには羽根の生えたチンパンジーみたいなサルが斬られて横たわっていた。
コウモリの羽根みたいだから、サルコウか? 一瞬でプリンが斬ったようだ。
「大丈夫か、モカ! まさか、複数で奇襲なんて……」
「プリンのおかげで大丈夫よ! プリン、ありがと! でもキメラたちが連携しているわけじゃないみたいよ。フクヒョも驚いてるみたい」
たしかにフクヒョは丸い目を見開いてこちらを見ている。
「あっちがずる賢いのよ。他にもいるかもしれないから気を付けましょう」
「プリンとクルルの五感に頼るしかなさそうだな」
「ええ、そうね」
「「分かったプイ(ノ)」」
「プリンかクルルのどちらかは周囲に気を配る役をするようにして、もう1人とヤマの2人で攻撃するのはどうかしら?」
「とりあえず、あいつは見えているから私が戦うプイ」
「そうね。動体視力の良さはクルル、反応の速さはプリンが私たちの中で1番ね」
今までにない戦闘体制に変えた。と言っても、少し前までとあまり変わらないから油断しなければいけるだろう。
モカは広く警戒し、明かりを確保している。
プリンは周囲の気配に集中して、耳がピクピク動いている。
「クルル。水なんだけど、大きいのを打ってもかわされるから、細く絞って勢いよくたくさん打つってできるか?」
「たぶんできるプイ」
「羽根は俺が斬るから、あいつのかわす方向を絞りたいんだ。追い込んでくれるか?」
「やってみるプイ」
「ヤマ、あいつの足の爪に気を付けて。だから、ヤマもコネクトで、あいつの足のあたりに土を出しながら行くといいわ」
「なるほどな。プリンみたいな合わせ技だな」
「そう。そういう器用なの得意でしょ?」
「だな」
会話している間にプリンがもう一体斬り倒した。本当に油断ならないやつらだ。こちらの注意がそれた瞬間に攻撃してくるようだ。
「じゃあ、行くプイ」
「ああ」
(ズバババ!)
(ヒュッ)
一気に複数の鋭い水鉄砲が飛んだ。空に逃げられないように上にも撃ちつつ、逃げる方向を制限している。
フクヒョは風も使いつつ、すばやくかわした。
(まずは土壁だ!)
(ドン!)
俺はフクヒョのそばに土壁を作った。そして、そこに突っ込んだ。
フクヒョは土壁を使って俺がジャンプすると思ったのだろう。かわせるように体勢が低くなった。それを見て思い付く。
(そうじゃないんだな! これは予想できないだろ!)
(スッ!)
(ホゥ!)
俺が土壁にぶつかる直前、急に土壁が消えた。もちろん俺が消したからだ。フクヒョは驚き、目をまん丸にした。勝負ありだ。俺は消えたと同時に土壁があった場所を駆け抜け、羽根と首を一気に落とした。
「よし。これでひとまず大丈夫だ。そっちはどう?」
「ええ、大丈夫よ」
見ると、サルコウの死体が合計4匹も転がっていた。
「ずいぶん隠れていたんだな」
「そうね。全部プリンが倒してくれたわ」
「今は気配は近くには無さそうだから大丈夫そうナノ」
「そうか、ありがとう」
忘れずに細胞を吸収しつつ先に進むことにした。
ついでに少し気になっていたことをモカに聞く。
「なあ、モカ。強いキメラから吸収できる量って多く感じないか?」
「多いと思うわ」
「それってつまり――」
「何らかの手段で、こういう洞窟にいるキメラは細胞を吸収しているはずよ」
「だよな。スロットが増えていないことだけが救いか……」
「そうね。複数のコネクトを使ったりはしてこないものね」
◇
その後も奥に進んだが、サルコウが多かった。プリンが気付いて倒したり、クルルが気付いて水で吹き飛ばしたり、がほとんどだ。この洞窟は人間だけでの攻略はかなり厳しいと思われた。
だが、さらにしばらく進むと、サルコウが急に出なくなった。
「サルコウたち、急にいなくなったノ」
「強いキメラがいるということね…… 慎重に進みましょう」
ゆっくり進むと、またキラキラしたところに出た。ただし、今度は壁に傷は無さそうだ。ここまでと違って明るさは十分だ。
「少し遠いけど、あっち見える? 水たまりがあるわ。小さな池みたいになってるの。怪しいから近寄っちゃダメよ」
「水のコネクトを使うキメラかな?」
「どうかしら。コネクトなら水か氷あたりかしら」
「そうだった。氷もあったな」
「キラキラしてるということは、ボスがいそうだよな」
「たぶんね。あの水の中にいるとしたら、最悪なのがワニかカバのどちらかよ。静かだから、ほぼ間違いなくワニだと思うけどね」
「ワニなら水を使ってもおかしくはないけど、コネクトってそういう風に決まっているわけじゃないからな。氷かもと思っていたほうが良さそうだな」
「そうね」
「問題はワニだとして、もう1つが何か、よ」
「近寄らずに水から引きずり出したいプイね」
「どうしたらよいノ」
「困ったわね……」
「ん? 簡単だろ。餌付けさ。これを投げ込めばいいさ」
そう言ってインベントリからキメラの肉を取り出した。
「なるほどね。相変わらずキメラの気持ちが分かるのね」
「いやいや…… 問題は相手が出てきたあとなんだから」
「あの水たまりを何とかしないとね。土で埋め立てるのもありだけど、結構水が多いから大変よね。やっぱり最後はヤマに消してもらうしかないかしら」
「キメラがいなくなれば時間かけて消せると思うよ」
クルルが何かに気付いたようだ。
「ね、ねえプイ。水面から何か生えてるプイ?」
「ん? 羽根? 大きな羽根みたいね」
「まさか、飛ぶワニなんてないよな。完全にドラゴンじゃん」
「でも正解みたいナノ。ゆっくり向きを変えたノ」
「羽根を濡らしたくないし、隠す必要もないということよ。つまり、奇襲しなくてもすばやく動けるってことよ。あの羽根から考えるとワシワニでしょうね」
「あごの強さ最強で、皮膚は硬くて、空も飛べて、目が良くて、水か氷のコネクトを使うという感じでいいかな?」
「大体ね。あとは爪も強いわよ」
「居合抜きは難しそうナノね」
「小太刀じゃ傷を付けられるかどうか、という感じかしら」
「どうやって勝つプイ?」
「氷だったらいいんだけどね。氷なら、とにかく大きな氷を出させて、ヤマがそれを使って攻撃するのよ」
「水だったら?」
「クルルに相殺してもらいながら、ヤマとプリンで斬る以外ないわ」
「ま、考えててもしかたないさ。そろそろ行くか」
「そうね」
いよいよ挑む!




