第19話 プリン侍
エーンスタットに着いた時には日が暮れかかっていたため、そのまま宿屋に向かうことにした。
宿屋の部屋に入って、くつろいでいるときにふと思い出した。
「そうだ、最近キメラの肉とか売ってなかったから明日あたり売りに行こうかな。イノウシなら珍しくないからと思って、インベントリに入れておいたんだ」
「そうね。お金を使うばかりっていうのもよくないわね。あと、腐る前に売らないと、インベントリが臭くなるわよ」
「たしかに……」
「氷のコネクトを使えればいいプイね」
「そうね。第2施設とか第3施設とかに行けばあるかもしれないわ。そういえば、コネクトってどんな種類があるのかしら?」
「そうだよな。俺とモカが見たことがあるのって、水、土、風、氷、岩、光かな。他にもあるのかな? プリンは師匠とか師匠の親友たちとかが使ってるの見たことない?」
「見たことないノ。他にもあるのかは分かんないノ。キメラでも他の種類は見たことないノ」
「クルルも?」
「私もないプイよ」
「……そうか。でも、新しいのを見つけるのも楽しいしな! 分かんなくてもいいや」
「ふふっ。ヤマらしさ全開ね! ところで、次の施設に行って他のも登録できたらみんなは何を登録したい?」
「私はやっぱり岩プイ。あの岩に対抗するコネクトを使いたいプイよ」
「私は何か固形のがいいノ。風は空気だからナノ」
「……なるほどね。じゃあ、岩があればクルルで、あとは、氷あたりがあればプリンってのはどうかしら?」
「「プイ(ナノ)!」」
「俺はあんまりこだわりないな」
「ヤマはそうよね。何でもできるもん。私は風かな。追い風を使って逃げたり、何かを避けたり、そういうことに使いたいわ。うまくやれば空飛べるかもしれないしね」
「ナッ! 追い風って何ナノ?」
「あっ、そうか。あっさり倒しちゃったから分からなかったのね。あの洞窟のイノウシが使ってきたのよ。自分に後ろから風を当てて、すごい勢いで突進してきたのよ」
「そうナノ? そんな使い方があったなんてすごいノ」
「それ、プリンとの相性最高じゃないか? 居合抜きになりそう!」
「居合抜き…… ひょっとして、それって師匠の技…… 今度やってみるノ!」
「俺はモカが風っていうのもいいと思うよ。モカはキメラから離れてみんなが見える位置にいるのが大事なんだよ。俺たちの司令塔なんだから」
「そうプイ!」
「なるほど、そうかもね」
「じゃあ、この流れだと、水があったら俺かな。水筒に補充できるし」
「なんか1人だけ目的が違う気がするプイ……」
「ま、ヤマらしくていいわね」
「「そうプイ(そうナノ)!」」
◇
次の日、久しぶりに肉を売ってお金を手にしたので、プリンにも渡しておいた。これで、みんなで分け合って持つことができた。
「私も持っていていいノ?」
「もちろんだよ。みんなで分け合って持っているんだから」
「うれしいノ!」
こんなことでも喜んでくれるプリンは素直でいい人だ。
さあ、そろそろ新しい都市に行こう。ラパンに行って、そのあと…… どう行ったらよいのだろうか?
「なあ、プリン。ドスシウダってラパンからどう行くんだ?」
「橋を渡って、分かれ道を左だったと思うノ」
「どのくらいかかる?」
「ラパンから2、3日だと思うノ。エーンスタットからラパンまでとそんなに変わらないノ」
「なるほどな」
「そういえば、ドスシウダ以外にもレイシュトにも行けるのよね?」
「行けるノ。でも、レイシュトのほうには洞窟は無かったと思うノ」
「じゃあ、今は行かなくてもよさそうね。いつか遊びにでもいきましょう」
「それがいいノ!」
◇
ラパンを経由して、しばらく行くと、川があった。ここの橋が壊れていたのだろう。今は修理されて直っている。
「なんで橋が壊れたんだろうな」
「そうよね。最近、大雨は降ってないわよね」
「キメラのせいナノ」
「やっぱりそれしかないか……」
元の橋がどのくらい丈夫だったかは分からないが、川の太さから考えるとそれなりの丈夫さだったはずだ。強いキメラだったに違いない。
モカも気になったようだ。
「ここの橋が壊れるって、よくあるのかしら?」
「あまり聞いたことないノ」
「嫌な予感がするわね……」
「ああ、普通じゃない強さのキメラってことだよな」
「ドスシウダに急ぎましょう」
橋を渡り進むと分かれ道があった。プリンに教えてもらったように左折して進む。
少し進んだところで、初めて見るキメラに遭遇した。
「あれは、何かしら? 角の生えたチーター?」
「チーシカってとこかな?」
「そうみたいプイね」
「足が速そうだし、高く跳び上がりそうだわ。でも、プリンの居合抜きなら当てられれば勝てるわよね」
「やってみるノ!」
「じゃあ、私たちは援護ね。クルルの水とヤマの土で気をそらし、うまくいけば私の光でひるませるわ。隙を見て、プリンが斬る感じで」
「「分かった(プイ)」」
「分かったノ……」
プリンは意識を集中しているようだ。
うまく隙を作らないとな。あっ、向こうがこちらに気付いた。牙をむき出しにして、ゆっくりと向かってくる。まずは俺から行こう。
(当たるかな? えいっ!)
(ズドン!)
(サッ!)
土の塊を勢いよく飛ばした。だが、すばやくかわされた。速い!
チーシカがこちらを向いた瞬間、クルルが水を放つ。しかも空中と2方向だ! 跳ばれないようにだ。いつの間にそんな器用なことを覚えたんだ。
(ズズザーッ)
(サッ)
「さすがクルル! もらったわ!」
(ピカッ)
氷のコネクトで水の勢いを抑えつつ、チーシカが横にすばやく飛び退いた。その瞬間、モカの光のコネクトが当たった。
ほんの一瞬だけ、チーシカがひるんだ。
プリンはその隙を逃さない!
「師匠…… 見ててナノ!」
(ヒュッ!)
ほとんど音もなく、プリンが駆け抜けた。
(……ドサッ)
少し間があって、チーシカの首が落ちた。
「すっげえ……」
「すごいわ、プリン……」
「かっこいいプイ……」
3人ともあまりのかっこよさに驚きを隠せなかった。1人それに気付かず喜んでいるプリン。
「やったノ! できたノ! ナ? みんなどうしたノ?」
「プリンがあまりにすごくて唖然としてただけだよ」
「すごい速さだったプイ!」
「もはやサムライね!」
「えへへナノ。でも、これ真っすぐしか進めないから、不意を打たないと難しいかもナノ」
「なるほどね。でも、大丈夫よ。私たちがいるんだから」
「そうプイよ」
「ありがとうナノ!」
これは新たな攻撃パターンだな。特に動きが速い相手に有効だろう。今の俺たちではとても追いつける速さじゃない。心強い仲間だ。
「じゃあ、ドスシウダに向かうか」
「そうね」
◇
歩きながらモカがプリンに聞く。
「さっきのチーシカってこの辺でよく出る? あのキメラの氷で橋が壊せるかしら?」
「私は見たことがないけど、いてもおかしくはないと思うノ。でも、橋はもっと丈夫だと思うノ」
「そうよね。私もそんな気がしたわ。強いけど、まだ私たちも余裕があるしね」
次の洞窟はどのくらい強いキメラが出るのだろうか……
そういえば、プリンに圧倒されていて忘れていたけど、もう1つ見逃せないことがあったのを思い出した。
「そういえば、クルルのあれ、すごかったな! 2つに分けたんだよな?」
「そうプイ! 出口を2カ所に分けるようなイメージをしたらできたプイ!」
「クマシカのときみたいに跳ばれたくなかったのね?」
「そうプイ!」
「おかげで横に行くって分かって助かったわ」
「私も狙いを定めやすかったノ」
「ププッ。ありがとうプイ」
今度俺もやってみよう。そう思いながらドスシウダに向かう。明日には着くだろう。
◇
分かれ道から南東方向に向かっていった道が東向きに徐々に曲がっていったころ、ドスシウダがはっきりと見えてきた。
「あれは…… 砂煙かな?」
「えっ! まさか、キメラに襲われているんじゃないかしら!」
「「「!」」」
「急ぐぞ!」
すぐにドスシウダの西門に着いた。
西門のそばには宿屋も見える。正面に続く道の先は道が2つに分かれ、円を描いているようだ。その円の中にはお店がならんでいる。だが、今はもっと奥、おそらくお店たちが並んでいるよりも東側のエリアから砂煙が上がっている。
西門の衛兵に急いで確認する。
「何があったんですか?」
「東門のほうからキメラが押し寄せたんだワン。衛兵が戦っているワン。西側はまだ安全だから、向こうに行かないほうがいいワン」
「ありがとう」
やはり、モカの予想通りだ。教えてくれた衛兵には悪いが、急いで東に向かう。
「プリン! 洞窟があるのって、きっと東側よね?」
「そうナノ!」
「だとすると、普通のキメラじゃないわよ。どうする、ヤマ」
「とりあえず行こう」
「でも、私たちのコネクトはみんなが見えるところで使っちゃダメよ」
「そうか。特殊だもんな」
「助けないプイか?」
「そうじゃないわ。キメラの数と種類にも依るけど、都市の中は衛兵に任せて、私たちは東門から出たところのキメラを倒すのよ」
「なるほど。キメラがこれ以上増えないようにしてあげるんだな」
「そうよ」
俺たちはドスシウダの真ん中の丸くなった道を駆け抜け、東門に向かう。
◇
東門の近くまで行くと、門のすぐ内側に1体のキメラがいて、衛兵とにらみ合っていた。
「あれは…… ウシ……ガメかな?」
「そうみたいね。幸い、硬いくらいで、そこまで強くはなさそうね。あれなら衛兵にまかせても大丈夫かしら」
「そうだな。見渡しても、大ケガをしている人はいなさそうだし、大丈夫そうだな」
「じゃあ、東門を抜けるわよ」
「いいけど、どうやって? 衛兵の横を走り抜ける?」
「あ…… それはちょっとね……」
一旦止まって物陰に隠れた。
さすがに俺たち4人がキメラの横を走り抜けるのはマズい。どうするか……
ただ、そこはモカ。一瞬目をパチクリさせた後、すぐに考え付く。
「そうか。バレなきゃいいのよね。ヤマって、軽い砂みたいな土をコネクトで出せる?」
「ん? たぶんね」
「じゃあ、それをプリンの風であたり一面まき散らすの。攻撃の感じじゃなくて、強めの風が吹き荒れた感じだと最高だわ。そうしたら、みんな目に砂が入って、目を閉じるわ」
「えっ、でもそれじゃ私たちの目にも砂が入るプイよ?」
「護りのコートよ。意識すれば、目も護れたわ。透明だから見えるし」
さっきのはまさか……
「そんなこと…… うおっ、できるぞ!」
「「すごいプイ(ノ)」」
「そうだ、みんなから見えないなら、走り抜けるときについでにプリンがサクッとキメラを斬ってもいいかもね」
「そうするノ!」
「よし、じゃあ行くよ、プリン」
「まかせてナノ」
俺が軽い土をたくさん出し、プリンが思い切り巻き上げた。
まるで砂嵐だ。俺たちは目には入らないけど、視界はかなり悪い。そんなことより短時間で走り抜けなくては。
「ついてきてプイ!」
動体視力を高めているクルルが走り出したので、ついて行った。
途中でひるんでいるウシガメの横を通った。頭はまだ引っ込めていないようだ。
(ヒュッ!)
(……ドサッ)
一瞬風向きが変わったと思ったら、ウシガメは倒れた。周りは目を押さえているため、気付かれずに済んだ。
そのまま一気に東門を駆け抜けた。
◇
東門のあたりにはまだ何匹かキメラかいた。ただ、とりあえず門の防護は固められるだろうし、衛兵から見えなくなるように、もう少し先までに行くことにした。
東門から出たところの右側に大きな湖があった。かなり先まである。湖の左側に沿っていったあたりにどうやら洞窟がありそうだ。岩山のようなものが見える。
「あっちに行ってみよう」
「そうね。あの岩山に洞窟がありそうよね。キメラもあっちのほうが多いわ」
洞窟までは色々なキメラがいた。
先ほどと同じウシガメ、どこにでもいるイノウシ、ついに出たウマシカなどだ。ただ、これらは俺たちにとってはそれほど強くなく、細胞吸収対象でしかなかった。
洞窟に近づいたとき、今回の原因らしきキメラを見つけた。
「あれは…… まさか、グリフォン?」
「ワシ……ライオン? ワシライかしら?」
「何ナノ、あれ……」
「強そうプイ……」
「あれのせいで、この辺のキメラが逃げ出したんだわ」
さて、どうするか……




