第17話 師匠
ラパンはモルジクより少し大きな町だった。
町が大きいのはモル人よりウサ人のほうが体格が大きいからだろう。それと、ネコ人と比べるとウサ人の数は多いようだ。ガトアルデは村という感じだったが、ラパンは町という感じがする。
夕方にはなっていたが、ラパンに着いたら入り口のところでプリンが待ってくれていた。
「こちらへどうぞナノ!」
「そうだ。俺たちに敬語は使わなくていいですよ。仲良くなりたくて来たんですから」
「そうナノね! じゃあヤマたちも敬語を使わないようにしてほしいノ」
「あっ、そうだった。そうしよう!」
「ふふっ、仲良くなれそうでよかったわ」
そのあと案内されたプリンの家は大きかった。古くからの名家だろうか? 蔵のようなものまでありそうだ。
「立派なおうちプイね!」
「そうナノ。昔からあるみたいで、全然使ってない部屋とかいっぱいあるノ」
「向こうにあったのは蔵かしら?」
「蔵といえば蔵かもしれないノ。でも、中身は空っぽナノ。もうずっと使ってないノ」
「へえ……」
通された部屋で、草餅とお茶をもらった。草を使うあたりはさすがウサ人だ。
やっぱりプリンという食べ物はなさそうだ。聞くのはやめておこう。
もちろん草餅はすごくおいしかった。
落ち着いたところで、プリンが聞いてきた。
「晩御飯までもう少しかかるから待っててほしいノ。そういえば、ヤマたちはラパンに来ようとしてたみたいだけど、何か用があったノ?」
「そうなんだ。ウサ人と仲良くなりたかったっていうのもあるんだけど、それだけじゃなくて……」
どう言ったら良いか迷っていたらモカが助けてくれた。
「あるウサ人の知り合いがいないか探しに来たのよ」
「なるほどナノ。それは誰ナノ?」
「名前とかは全然分からないの。ただ、お墓がガトアルデとモルジクの間にあって――」
「ナッ!? どのあたりですノ?」
食い気味で聞かれて、モカも少し驚いたようだ。
「えっ? ガトアルデの近くの森に入ってすぐくらいだったわ」
「ひょっとしたら…… 私の師匠かもしれないノ。いや、でも違うかもしれないノ」
「そういえば、洞窟で私が光のコネクトを使ったときに言ってた、あの師匠よね。ウサ人なの?」
「そうナノ」
「プリンの師匠も光のコネクトを使えるの? ウサ人って風のコネクトを使うんじゃないのかしら?」
「あ…… このことはだまっていてほしいノ…… 師匠から言っちゃダメって言われていたノ。師匠以外で初めて光のコネクトを使う人を見て、ついナノ……」
「うん、分かった。大丈夫よ。私たち、たぶんプリンの師匠のおかげで今生きていられるから」
「?」
「ま、それはあとで話すとして、プリンの師匠って、ウサ人にしてはとても強くなかった?」
「そうナノ! すごく反射神経がいいし、動体視力も並外れていたの! 私も師匠みたいになりたくて……」
「間違いないわね…… ねえ、師匠には、すごく仲良しの人間が2人いなかった?」
「いたノ! 名前は分からないけど、親友だって言ってたの!」
「その2人って今どうしているか分かる?」
「……」
やはり、そういうことか……
「……ちゃんとは分からないけど、数カ月前に亡くなったって聞いたノ…… エーンスタットのほうに師匠と一緒に行ってそのままナノ。キメラに殺されたって聞いたけど、あんなに強い師匠たちが殺されるなんて信じられないノ」
「辛い話を思い出させてごめんね…… でも、もう少しだけ教えて。親友の2人ってどんな人? その2人もとても強かったんじゃない?」
「そうナノ! なんで知ってるノ? たしか、普段はレイシュトで暮らしていたと思うけど詳しくは知らないノ。エーンスタットに行く前に会いに来てくれて、何かの様子を見に行くって言ってたノ。ヤマたちは師匠のお友達ナノ? その割には若そうに見えるノ」
「実は会ったことはないの…… ねえ、最後にもう1つだけ聞いていい?」
「もちろんナノ」
「……プリンの師匠、変わったネックレスをしてなかった?」
「うーん…… そういえば一度見たような気がするノ…… ただ、透明過ぎたから汗の反射とか、気のせいかもしれないノ」
俺とモカとクルルの3人でうなずく。そして、ついにネックレスを差し出す。
「これじゃないかしら?」
「ナ? ナッ! これナノ! 間違いないノ! どうして持ってるノ?」
「たぶんだけど、これはプリンの師匠が持っていたネックレスと同じ能力をもつ別物よ。実際に師匠が着けていたものは…… たぶんクルルが着けているものよ。ただ、今は取り外せないからこちらでごめんね……」
「このネックレスはどういうものナノ?」
「それは……」
モカも迷っているようだ。なら俺が。
「なあ、プリン。ちょっと話がずれて悪いけど、師匠が護ろうとしていたものを護りたいと思わないか?」
「ナ? 師匠は何を護ろうとしていたノ?」
「実は分かんないんだ。だけど、俺たちは、それを、ネックレスを含めて、プリンの師匠から別の人経由で託されたと思ってるんだ。だから、もし、プリンが師匠の遺志を継ぎたいと思ってくれるなら…… その…… 俺たちの仲間になってくれないか? そうしたら、ネックレスのこととか、もっといっぱい話をしたいんだ」
「…… 私なんかでいいノ?」
「もちろん。俺たちはいろんな種族と仲良くなりたいと思っているし、皆が安心して一緒に暮らせる幸せな未来を作りたいって思っているんだ。だからウサ人のプリンに仲間になってもらえたら、すごく嬉しい。ただ、マポリンもいるし、無理にとは言わないから」
「そうナノね。今晩考えさせてほしいノ」
「うん。もちろん。返事は急がないから、ゆっくり考えて。あっ、このネックレスは実はすごく貴重なものなんだ。だから他の人には見せないでもらえるかな?」
「もちろんナノ。私も身に着けてみてもいいノ?」
「もちろん!」
恐る恐るプリンがネックレスを身に着けた。ぴったりとプリンにくっついた。
「ナ! やっぱり本当にこのネックレスがあの時のナノね……」
「やっぱりね……」
◇
その後、まだ、少し明るかったので、モカが蔵を見せてほしいと言い出した。
「蔵ナノ? いいけど、空っぽナノよ?」
「うん。空っぽで使っていないというのを見たいのよ」
「「「?」」」
モカ以外、全員理解できていないが、プリンについて行った。
蔵に着くと、鍵を開けてもらい中に入った。少しひんやりとしてて、でもほこりっぽくはなく、手入れはされていたようだ。
「うん、これなら……」
「?」
「ううん。見せてくれてありがとう」
「ん? もう終わり?」
「そうよ。詳しくは明日ね」
「「「?」」」
結局何も分からなかった。まあいいか。
その後、お風呂に入らせてもらい、晩御飯もご馳走してもらった。
その夜、俺たちがゆっくりと休んでいる間に、プリンはマポリンと話し込んでいたようだ。
◇
次の日、俺たちがくつろいでいるところにプリンがやって来た。丁寧にお辞儀してから語り出した。
「もし私で良かったら、仲間にしてほしいノ。マポリンも賛成してくれたノ。師匠が大切にしていたものを私も大切にしたいノ。それに……」
「?」
「3人が戦っている姿を見て、種族を超えた本当の仲間なんだなって思えたノ。私とマポリンもそうだけど、それを戦いの中でも実現している皆なら信頼できるって思ったノ。本当に師匠と親友たちを見ているようで、私の理想だったノ。だから、一緒に行って私も本当の仲間になりたいノ」
「そうか。信頼してくれてありがとう! これからよろしくな!」
「よろしくナノ!」
さて、何から話していこうか、と思っている俺とは対照的に、モカは意外なことを言い始めた。
「仲間になってくれてありがと! 一緒に来てくれるって信じてたんだよ。でね、1つお願いなんだけど、蔵を私たち4人で使わせてくれないかな?」
「いいけど、どうするつもりナノ? ここに戻ってきたときしか使えないノよ?」
「ふふっ、そこはまかせて! ヤマに」
「へっ? 俺?」
変な声が出てしまった。
モカはまだ何のことか分かっていない俺たちを蔵につれて行った。
「ヤマさ、蔵の中を接続先として覚えられるよね?」
「ん? ああ、できると思うよ。何も入ってないけどね」
「とりあえずやってみて」
「分かった」
言われるがまま、蔵の中に少し入ったところで、並行世界とつなぎ、何も取り出せないことを確認し、そのつなぎ先を覚えるよう意識した後、閉じた。
「じゃあ、いつも通り蔵に鍵をかけましょう」
「「「?」」」
言われるがまま、プリンは鍵をかけた。
「じゃあ、ヤマ。この水筒を、さっきの覚えたほうの蔵の中に保管してみて」
「あ…… まさか! インベントリ?」
「大正解! さすが私のヤマ!」
(私の?)
何かすごく恥ずかしくて嬉しい枕詞が付いていたけど、平常心を保って、水筒を保管しよう。
(スッ)
「ナ!」
「これくらいゆっくりなら大丈夫だろうな」
「じゃあ、元の部屋に戻ろうか」
「ん? ああ、そういうことか」
「ナ?」
プリンはついていけていないようだ。当たり前だろう。クルルですら、何をしているかは分かっていなさそうだ。
元の部屋に戻ったあと、モカが続ける。
「じゃあ、ヤマ。さっきの水筒出して」
「やっぱりね! はいっ、どうぞ」
(スッ)
俺の手の中には並行世界から取り出した水筒が握られていた。
全く同じ世界の同じ場所にしかつながらないことを利用した、並行世界のインベントリだ。これはとんでもなく便利だぞ!
「ナ! どういうことナノ?」
「このあとゆっくり順番に説明するから待っててね」
「そうだな。情報量が多すぎるから、今日1日かかりそうだな。それより、このインベントリはすごく便利だけど、俺がいないと使えないから、本当に貴重なものは入れないようにしような。俺が倒れたりしたら使えなくなるんだから」
「そうね。でも、そういう貴重品はたぶん身に着けるものしかないから、リュックが要らなくなるわよ」
「そうかもな」
「すごいプイね!」
おっ、クルルも理解が追いついたようだ。あとはプリンだな。
今日は語らいの日になりそうだ。
◇
このあと、プリンに説明するのはやはり大変だった。
と言っても、説明したのはほぼ全てモカだけど。俺が活躍したのは、俺の能力を見せるときだけだ。まず、水、石を例によって見せた。
「2つ出せるなんて、師匠みたいナノ!」
「じゃあ、いよいよ…… いいよな?」
「「もちろん(プイ)」」
「プリン、これを見せるということは、本当に信頼する仲間という証なんだ。驚くかもしれないが、見ていてほしい」
「?」
(シュボッ)
「ナッ! ナッ!」
ピョンピョン跳ね回ってクルルとモカの後ろに行きブルブル震えている。
「お願いナノ。私を殺さないでほしいノ……」
「大丈夫よ、プリン。あれは火のコネクトじゃないわよ。あれは『解析不能』なヤマ魔法よ」
「いやいや、それじゃ余計に分かんないでしょ……」
「モカったら、プリンがかわいそうプイよぉ」
「ごめんごめん……」
いきなりお茶目スイッチ全開になって驚かされた……
「でも、火のコネクトじゃないのは本当よ。ヤマのコネクトのうちの1つは本当に特別なの。さっきのインベントリも含めて、ヤマにしか使えないの」
「どういうことナノ?」
このあと、俺の能力の不思議さを簡単に伝えた。インベントリについてもようやく納得してもらえたようだ。インベントリという言葉はクルルも知らなかっただろうが、そもそもこんなもの自体を見たことがないのだから、適当に名付けたのと同じだろう。
そして、いよいよ、ネックレスや師匠とかの話だ。
「そもそも、プリンの師匠が2つ以上のコネクトを使えたのは、護りのネックレスを身に着けた護り人だったからよ」
「護り人って何ナノ?」
「まあ、私たちも実は護り人のことはよく分かってないの。本当の護り人は、プリンの師匠と親友たちのはずよ」
「?」
「プリンの師匠は、たぶんだけど、親友2人から託されて、この護りの腕輪とネックレスを抱えて必死でキメラから逃げたのよ。でも、最後に力尽きて亡くなってしまったところを、モルジクに向かっていたダブル爺が見つけたの」
「ダブル爺は師匠を丁寧に弔ったあと、腕輪とネックレスを大切に保管してたの。それを、最後に次の世代に遺してくれたの。できれば持ち主に返してあげてほしいってね」
「クルルはダブル爺と親しかったの。ある時、たまたま私たちと出会ったことで、腕輪とネックレスとダブル爺の手紙を見つけたの。それで、私たちはダブル爺たちの遺志を継いで、旅に出たのよ」
「すごい話ナノ。師匠もすごいけど、そのダブル爺って人がすごくいい人ナノね」
「そうプイ! ヤマみたいに優しくてとってもいい人プイ! 人間なのにモル人のブイ婆ちゃんをとても大切にしてた人プイ。そこもヤマと一緒プイ。だから、ダブル爺とブイ婆ちゃんみたいな関係にヤマとなりたいってみんな思うプイ」
「なるほどナノ。私が心奪われるのも当然ナノね」
「へっ?」
「ププッ! でも、ヤマはモカがいつも1番だから気を付けるプイ。私が2番目で、プリンを3番目にしてあげるプイ!」
「私は3番目でもいいノ」
「ま、私が1番ならいいわよ」
「おいおい…… なんか変な方向に話がいってないか……」
その後はとてつもなくご機嫌なモカが第1施設のことなどを詳しく説明してくれた……




