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第16話 新たな出会い

(ラパンまではどのくらいだろうか?)


 翌朝出かける前に、そう思うと同時にまだ買っていないものに思い当たった。


「そうだ。地図を買おう」

「いいわね」

「チズって何プイ?」


「「え?」」


(まさか、地図ないのか?)


「どのあたりにどの都市や町があって、どういう風に道がつながっているかを図や絵にしたようなもののことよ。見たことない?」


「私はないプイね…… そもそもほとんどの人は要らないんじゃないプイか? 道にはどっちに行けばどこに着くか書かれた立て札があったりするプイ」

「なるほどね。で、道がないところはキメラが多くいるから、通らないってことね」

「そうプイ」


「それで問題ないということは、相当人口が少ないのね……」

「一応、道具屋に寄って聞いてみるか。他にも何か分かるかもだし」

「そうね」



◇


 カフェの数軒隣にある道具屋に行ってみることにした。



「いらっしゃいませワン」

「すみません。もしご存知なら、ですが、地図ってありますか?」

「ワン? チズ? 食べ物ですワン?」


「それはチーズだよな……」


「もう、ヤマ! そうじゃなくて、これからラパンとかに行こうと思っているのですが、どっちに行ったら良いか描いてあるものがあると便利だなって思いまして……」


「……なるほどワン。とりあえずラパンなら西門から出て道なりだワン。他の都市もどこにあるか知りたい、ということかワン?」

「そうです!」


「ワゥーン。私も行ったことがないところは詳しくは分からないワン。エーンスタットからは、北門に行けばすぐそばにガトアルデがあって、その先にはモルジクがあるはずワン。西門から2、3日行けばラパンがあって、その先にはドスシウダとレイシュトがあるワン」

「ふんふん」


「それと、南門から次の都市まではかなり遠いワン。たしか南門を出るとすぐに東のほうに道が曲がっていって、途中で道が分かれるワン。そこで南にずっと行けば、そのうちフューラスタードに着いた気がするワン。もう1つの道は北のほうに行けるらしいけど、そっちに行っても町や都市は無かったはずワン」

「ふんふん」


「あと、知ってると思うけど、東門はとても強いキメラが出ることがあるから行かないほうがいいワン」

「ふんふん。分かりました。ありがとうございます!」


 なるほど。都市を中心に道がつながっている感じかな。モカは1回聞いただけで覚えたようだ。相変わらず賢すぎる。そして、ふんふん言ってるのがかわいすぎる。


 モカが理解したので、お礼ついでに塩とかの調味料を買っておいた。


 調味料は快適な旅の必需品だ! 即席食器とか、かまどとかは俺が作れるけど、調味料とかは作れないからだ。そんなにかさばらないから、多少余分にあっても困ることはない。


 一方、水はコネクト能力が上がったクルルがチョロチョロだろうと自在に出してくれるから、意外と困らなさそうだ。


 あとは、おいしいキメラもいるから飢える危険性は低いが、強いていうなら、俺とモカが野菜不足になりがちというくらいだろうか。


 クルルはたまに草をもぐもぐしているから大丈夫そうだが…… 今度おいしい草を教えてもらうか……



 準備ができたところで、いよいよラパンに向けてエーンスタットを出発することに。十字路に戻り、今度は西門に向かう。


 と思いきや、違う方を見ながらモカがクルルに尋ねる。


「ねえ、クルル。南門から出ていった先って分かる?」

「プ? 西門じゃなくて南門プイ?」


「そう。東に曲がっていって、その先に北に行ったほうに何があるのか知ってるかなって」

「プイ? 方角的には、森のほうプイか? いや、湖があるから森には行かないプイか…… 分からないプイ。何か気になるプイか?」


「クルルも知らないのね…… そっちに何があるのか気になっただけよ。道があるなら、その先に何かがあるのだろうと思ったの」



 モカと目で会話する。位置関係的におそらく俺たちが逃げ出したあそこだ。俺たちは、なぜかそこで侵略者認定されたが、あの場所自体が知られていないとは…… 俺たちをこっちの世界に引っ張り込むくらいだから、きっと普通の施設じゃないよな。


 クルルは特に知らないようなので、気を取り直して西門に向かうことにした。



 西門には『このさきラパン』と書かれた立て札があった。



◇


 ラパンまでは2、3日だと言っていたので、それほど遠くはなさそうだ。モルジクと比べると、この辺りの町の間隔は狭いのかもしれない。


 道なりに歩いていたこともあり、キメラは少なく、初日に1回、大人のイノウシに遭遇したくらいで、安全な旅を続けられていた。



 もうじきラパンが見えてくるだろうと思っていた2日目。右の方から強い風の音が聞こえた。


「ん? 何の音かしら?」

「コネクトっぽいプイ」


「誰か戦っているのかな? あっちに何かあるのかな?」

「プイ…… 洞窟とかはいっぱいあるから、この辺にもあるかもプイ。危険な洞窟は限られているプイけど、そうじゃないのはよく分からないプイ」



 気になるので、道から外れて、林っぽいところに入ることにした。


 しばらく進むと、小さな洞窟の入り口が見えてきて、その前にウサ人が倒れていた。あわてて駆け寄って声をかける。


「大丈夫か!」

「うーん…… ナッ! ワシイノはどこナノ?」

「ん? キメラか? 特に見当たらないけど……」


「そうナノね。なら吹き飛ばせたノかな…… よかったノ」

「あっ、俺はヤマ、こっちはモカとクルル。君は?」


「私はプリンと言うノ。友だちのマポリンと遊んでいたらワシイノに追いかけられて、洞窟が見えたからここまで逃げてきたノ。洞窟なら空から攻撃されないからナノ」



 とりあえずプリンは大丈夫そうだ。


 プリンはウサ人だと思うが、ウサギというよりネザーランドドワーフだな。やっぱりもふもふだ。耳の先だけ黒くなっていて、本当プリンみたいな色だ。


 この世界にもプリンはあるのだろうか。あとで聞いてみようかな……


「マポリンもウサ人?」

「違うノ。人間の女性ナノ。とってもいい人ナノ! ナッ! マポリンを探さなきゃいけないノ!」


「なら手伝うよ」

「ナ? ありがとうナノ!」


「洞窟の中かしら? プリンを置いて行ったなら何か理由があるはずよ。マポリンは今もキメラに追われているかもしれないわ」

「急ぐノ!」



 洞窟に入ると、そこは薄暗かった。奥にいけば真っ暗だろう。


「モカ、頼む」

「まかせて。抑えて長時間使えるようにするわ」


 モカが光のコネクトで照らした。懐中電灯みたいで便利だ。


「光を使えるなんてすごいノ! 私の師匠みたいナノ!」


(師匠?)


 気になることはあるが、今は人命救助が優先だ。どんどん奥に行く。



 モル人とウサ人はどちらも耳が良いのだろう。クルルとプリンがほぼ同時に音に気付いたようだ。


「「ナ(プイ)!」」

「あっち照らしてプイ! 逃げる足音が聞こえるプイ!」


 そうクルルが叫ぶと、音がすると言うほうに突っ込んでいった。


 モカが光でそちらを照らすと、人間の若い女性が逃げているのが見えた。


 その後ろから、甲羅のあるイノシシが追ってきている! あれはイノガメだろう。


「マポリンが追いかけられてるノ!」


(ズザーッ!)


 マポリンが追いつかれそうになったとき、クルルの水鉄砲が炸裂した。向こうもそれに気付き、水で応戦してきた。


(ズザーッ)


「プ! 水同士プイ。でも負けないプイ!」


(バチャッ! ズザーッ!)


 さすがにクルルの水鉄砲のほうがずっと強く、あっさりと押し切った。


 押し切られたイノガメがひっくり返しになったところで、追いついた俺がロングソードでトドメを刺した。



「あ、ありがとう…… 強いのね、あなたたち。あっ! プリン! よかった、無事で!」

「マポリン! よかったノ!」


 2人が抱き合って無事を喜んでいる。間に合ってよかった。



 無事合流できたから入り口に引き返そうかと思ったところで、モカが耳元で言う。


「ねえ、ヤマ。あそこ見て」

「ん? あれは……」


 壁に漢字で何か書いてあるようだ。ここにも何かあるのだろうか?


「でも、2人を安全な場所に連れて行くのが先だな」

「そうね」



◇


 とりあえず洞窟の入り口まで戻ってきて、周囲の安全を確認できたところで、マポリンが声をかけてきた。


 マポリンは黒髪の小柄な女性だ。ピンクのゆったりした服を着ていて、ちょっと派手だ。


「先ほどはありがとうございました。あらためまして、マポリンと言います。プリンとここまで逃げてきて、先に洞窟に入ったところで、イノガメに追いかけられてしまって……」


「無事でよかったプイ」

「あっ、あなたモル人? モル人ですよね!」

「そ、そうプイけど……」


「あっ、ごめんなさい。私の弟がモル人が大好きだったので、つい……」

「そうだったプイね!」


 この人も種族の壁を超えて仲良くなりたい人だ。仲良くなれる気がする。丁寧にあいさつしておこう。



「自己紹介が遅くなりました。俺はヤマ、このモル人はクルルで、こっちはモカです。ラパンに行こうと思って、エーンスタットから向かっていたところでした。たまたま、風の音が聞こえて、こちらに様子を見に来たんです」


「じゃあ、ひょっとしてプリンも助けてもらったの?」

「そうナノ! ぜひうちに来てくださいノ。ラパンに着いてからゆっくりとお話がしたいノ」


「では、お言葉に甘えて、と言いたいところですが、もう少しここで調べたいことがあるので、マポリンを連れて先に戻っていてもらえませんか?」


「? 分かったノ。マポリンを早く安全なところに連れていきたいから、そうさせてもらえると助かるノ」



◇


 2人と別れて、俺たち3人で洞窟の奥に進んだ。



 先ほどのところまで来て、漢字が書いてある壁を見ると――


『右進 左壁上押 直進 右壁押 右壁下引 百合』


 間違いなく進み方が書いてあった。


 そして、最後の百合はユリの花、つまり、護りのアクセサリーを指しているだろう。


「行ってみよう」

「「うん(プイ)」」



 右に進むとすぐに行き止まりだった。


 左壁の上のほうを見るが、暗くてよく見えない。


「まかせて。もっと明るくするわ」

「「おおっ(プイ)!」」


 今度ははっきり見えた。


 わずかに他と違う部分がある。手を伸ばして、その部分を押すと、壁が開いた。


「これ、モル人では届かないよな」

「そうね。どういうことかしらね」


 分からないことはあるが、そのまま指示通りに進んだ。漢字が読めるなら難しくはない。



 最後は右壁の下の出っ張りを引くと、そこが取れて中からユリの模様が出てきた。


「じゃあ、開けるよ」

「「うん(プイ)」」


 腕輪をかざすと鍵が開いたようで、壁部分が扉として開いた。中に入ると、狭い小部屋だった。


「うーん。狭さや置いてあるものからして、第2施設じゃなさそうね。単なる倉庫かしら?」

「そんな感じかな。あれは何だろう?」



 特に気になるものがない中、1つだけ、箱があった。さっそく開けてみると――


「これは、まさか、護りのネックレス!」


「えっ? なんでこんなところに? 引き継がれるものじゃなかったのかしら。何かメッセージはないの?」


「…… 特にはなさそうだな」

「…… 明らかにここに隠されているって感じだし、メッセージもないなら誰かに渡そうとしたわけじゃなさそうね」


 意図が分からず困惑する俺たちだった。だが、後ろを振り返っていたモカが何かに気付いたようだ。


「あっ、そうか。ネックレスが置いてあるということは、置きに来た人はネックレスの持ち主本人1人ではないわ。出られなくなるもの。しかも漢字を読める人か、その人に教えてもらった人にしかここに隠せないわ。第1施設での話を考えると、護り人を継承して腕輪をした人間が関わらないとたぶん無理だわ」


「なんで置きに来たプイ?」

「自分で持っておくことすらできないわけだから、本人とネックレスの持ち主の両方に危険が迫っていたのだわ」


「ダブル爺が拾った腕輪の持ち主とは別プイ?」

「たぶん別だと思うわ。危険が去ったなら取りに来るでしょうし、そうじゃないならもう1つネックレスを持ったままというのは変でしょ?」


「「なるほど(プイ)」」



「つまり、腕輪はまだ別にある可能性が高いということよ。ここに1つだけネックレスがあるということは、ひょっとしたら、腕輪2個とネックレス1個が1つの世代に託される1組で、全部で2組あるのかもしれないわ。引き継ぎと言っても、あの第1施設に護りのアクセサリーを初めてつけた人たちだけで行くのは危険すぎだわ。だから強い先代が支援しながら行けるように2組あるんじゃないかしら?」


「たしかにありそうな話だな…… 強い先代が支援する仕組みならよほどのことがない限り、引き継ぎも失敗しないはずだしな」


「そうよ。よほど予想外なことが起きたのかもしれないわ。仮にこれまでの予想が全部当たっているとすると、6人いたはずの護り人のうち3人が死に、1人はアクセサリーを手放し、残り2人しかいないわ…… しかもその2人にも危険が及んでいるはず」

「そうだとすると、緊急事態な気がするプイ」



「……どうする? 持っていくほうがいいかな?」

「迷うわね。普通なら置いていくところだけど……」


「さっきのプリンだね?」

「そうよ。ヤマも気付いた?」


「ん? いや、はっきりとは。ただ、プリンの師匠が気になる」

「私と同じだわ。だって、ウサ人のプリンは風のコネクトを使っていたはずよ。なのに、プリンの師匠は光を使えるわ。もし、プリンの師匠がウサ人なら、護り人以外ないわ。だから、これをプリンに見せるかを迷っているの」



「一度話を聞いてそれからここに一緒に取りにくるか、持っていって話の流れ次第で見せるか、どちらかかしら……」

「それなら持っていってもいいんじゃない? 見せないことにするなら俺たちだけで置きに来るだけだし。プリンに渡すなら持っていったほうが早いし」


「そうね。手間を考えたら、持っていくほうがよさそうね。私たちなら他の人よりは、奪われる心配が少ないし」

「じゃあ、ネックレスを持ってラパンに行こう」


「「うん(プイ)」」



 その後、洞窟を出て、ラパンに向かうことにした。


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