第130話 洞窟踏破の印
第5階層に下りた俺たちは、まず周りを観察している。
1番重要な点は特に暗くなっていないということだ。
あとは、例によって小部屋が階段のすぐ横にあった。せっかくだから軽くご飯を食べるのに使ってから、外周を歩き始めた。
「第5階層は岩のコネクトを使ってくるか、それとも別のコネクトかな。そもそも第5階層で終わりという保証もないしな」
「そうね。第5階層を終わりにするなら全部のコネクトを、という考えもあるけど、キメラのことを考えたらやっぱり1種類なんじゃない?」
「たしかに。テンの気持ちを考えたらそっちしかあり得ない気がするな」
最後がどうなっているのか想像しつつ、外周を歩き続けた。
比較的すぐにプリンが気付いた。
「何かいるノ。たぶん飛んでるノ」
「来るプイ」
警戒しているとキメラが姿を現した。
思わず見とれてしまった。
「きれいだわ。ペガサスよ」
「プイ? ウマと白い鳥が合わさっているだけプイ」
「そうナノ」
「ああ、そうか。ハクチョウとウマで、ハクウマってところか」
「そうだと思うプイ」
まだモカはのんきなことを考えているようだ。
「倒すのが惜しいわね。背中に乗せてもらいたいわ」
「それはモミジさんの研究成果を待とう!」
「はっ、そうね!」
モカが正気を取り戻したときにはハクウマは岩を放ってきていた。
(ドン! ドン!)
(サッサッサッサッ)
強さは普通のようだ。かっこいいだけだな。
動物の組合せから言って、噛みついたり爪を使うことはない。足蹴りを除けばコネクトくらいだ。つまり、これからもコネクト攻撃中心のはずだ。
「岩をどんどん使って来るだろうから、気を付けて。とりあえずたたき落としたいな」
「なるほどプイ。ちょっと試してみるプイ」
「? 足で蹴られないように注意して」
「分かったプイ」
(ビューッ)
(バサバサッ)
クルルも飛んだ。
飛んで、ハクウマの上に行くようだ。なるほど。これなら巨大岩攻撃はされない。
そのままメイスを振りかざして、ハクウマに迫る。もちろんハクウマも気付いているが、素早さでクルルに勝てるわけがない。クルルは近づいたところで翼をしまい、風のコネクトだけで器用に向かっていった。
(ブン!)
(ヒヒン!)
クルルの一撃がハクウマの右翼を直撃し、バランスを崩したハクウマが地面に落ちてきた。
(ヒュヒュッ!)
(ドン!)
地面に落ちる前に居合抜きがさく裂した。地面に降り立つ前に勝負はついていた。
(スタッ)
「こういう戦い方もできるプイね」
「そうだな。初めて空で戦った感じだな」
「そうね。クルルは小回りが利くし、メイスが使えるから適任だったわね」
「えへへ、プイ」
(スッ)
(ドサッ)
(ザザザッ)
ハクウマを埋めていると、プリンが何かに気付いたようだ。
「とりあえず急いでここを離れるノ。まだ何匹か来そうナノ!」
俺たちはプリンの警告に従い、すぐにその場を離れた。
少し進んだあとに振り返ってみたがキメラは追いかけてきていない。どうやら気付かれずに済んだようだ。
「ハクウマは機動力があるから、遭遇しやすそうだな。気を付けないと」
「プリンたちが頼りだわ」
「だな」
そのあとは警戒しつつ外周を進んだ。
だが、階段は見当たらない。もうじき1周してしまいそうだ。
「最後だけ真ん中に何かある流れかな?」
「うーん。それだとキメラの育成上、問題になりそうよ。1周したら、逆回りで行きましょう」
「分かった。そうしてみよう」
やはり1周しても何も見当たらなかった。
モカの言うように逆回りで外周をもう1周することにした。
◇
逆回りに半周したところで、モカが立ち止まった。
「ここね」
「えっ? ここ?」
周りを見渡しても俺にはよく分からない。
「軽く飛んでみるのよ」
「えっ?」
(ビューッ)
「あっ!」
なんと壁が2重になっていた。
手前にある下の壁は高さが2.5mくらいだろうか。奥の壁は逆に上からつながっている。2つの壁の間には1mくらいは隙間があいていた。
「よく気付いたな……」
「この部屋だけ、草が生えてないのよ」
「ん? たしかに」
「つまり、ハクウマに来てほしくないのよ。上を見上げたら分かるから」
「なるほど」
「でも、スミロ人なら大きいから普通に仕掛けが分かるわ」
「そういうことか」
「私たちの背だと奥の壁は見えなくて、手前の壁だけに見えるわ。少し湾曲しているのかしら。目の錯覚も利用しているわね」
「すごいな。スミロ人ならここを簡単に飛び越えられるんだな」
「ネコ科ですもんね」
「たしかに!」
「じゃあ、行ってみましょうか」
「そうだな」
「行くプイ」
「ドキドキするノ」
(ビューッ)
(スタッ)
俺たちは2重壁の隙間に降り立った。
奥の壁は上のほうしかなく、俺たちにとってはしゃがまずに通れる高さだった。よく考えたらこの仕組みだとハクウマは大きすぎて入れなさそうだ。それも考えられているのかもしれない。
◇
奥に入ると、そこにはそれなりの広さの部屋があった。
「これは…… スミロの骨格標本?」
「に見えるけど、本物かしら?」
「たしかに! 白い石で出来てそうだ」
スミロの骨格標本もどきが部屋の入り口近くにあった。
その横からは槍が並んでいた。ベルも槍を使っていた。スミロ人は槍を好むのだろうか。身体が大きい上にリーチが長い槍を使えるとかなり有利になりそうだ。
部屋の奥のほうに行くと、石でできたスミロ人が数体ほど置いてあった。
石のスミロ人にはそれぞれ首輪が付けられていた。首輪は石で出来ているが、1番下のところは2本の牙の形をしており、そこだけ白い石で作られているようだ。
間違いなくこの首輪のことだろう。
「この首輪だよな?」
「そうでしょうね。他も一応見てからにしましょうか」
「そうだな」
まだ見ていない壁のほうに行くと、なにやら石碑のようなものがあった。カタカナでしっかりと書いてある。カタカナが伝わったあとで書かれたものだろう。
◆◆◆
強くあれ。
我らが神、テンとの約束が果たされるそのときまで。
神から授かった壁を護り抜くことこそ、我らが使命。
強くあれ。
◆◆◆
「すごいわね。『強くあれ』が2回も出てくるわ」
「まあ、カタカナが伝わったあとに作られたものだろうから、ある程度ねじ曲がっているところもあるのだろうけど」
「そうね。でも、短いからこそ、大事なところが残ったのかもしれないわね」
「たしかに。テンの功績うんぬんは書かれてないよな。自分たちが何をすべきかに特化しているし」
「スミロ人も護り人ナノ?」
「ん? そうだな!」
「私たちと一緒プイ!」
「そう考えるとなんか親近感が強くなるわね」
「だな」
他には何もなさそうだ。首輪はきっと後からまた返しに来るのだろう。ある意味儀式みたいなものだ。
「首輪は4つ持っていくんだよな?」
「ん? そうね。こういうのは普通、1人1つよね。だから、こんなにたくさんあるのよ」
「そうだよな」
俺たちは首輪を1人1つ手に入れた。石のスミロ人自体が大きいので、風で飛びながらじゃないと取れなかったが。
「これ重いな。とりあえず出るまでインベントリに入れとくよ」
「そうね。ありがとう。洞窟を出る瞬間は首にかけていましょう。誰かに見られているかもしれないから」
「そうしよう」
(スッ)
首輪を入手した俺たちは引き返すことにした。
◇
帰りは道が分かっているため、足早に進むことにした。
途中、キメラを埋め忘れたところにも寄って、全部埋めていく必要がある。おそらくスミロ人なら火葬するか食べるかしたのだろう。他にキメラの死体は転がっていなかったからだ。
キメラと戦う必要もないため、風のコネクトをうまく使い、戦いをすべて回避していった。それでもさすがにその日のうちに戻るのは厳しいため、第3階層で泊まってから進んだ。
そのあとはその日のうちに出られればいいと思い、キメラを埋めながら進んだ。
広いとは言え、夕方より前に余裕を持って出口まで来れた。
「なんとか出られたわね。広い洞窟だったわね。とりあえず首輪をつけましょう」
「だな」
(スッ)
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
(ズシリ)
やはり見た目通りに重い。
単なる石なので、特に何も変わった様子はない。隣でモカは光のコネクトを試しているがいつも通りだ。
「さすがに何の効果もないわね」
「ま、そうだよね。だって、成人になる儀式よりも前にここにくるわけだし、たぶんこれ返すやつでしょ?」
「そうだと思うわ。とりあえず、スミロドルフに行くまで着けていましょう」
「そうだな。とりあえず出たところでキャンプしよう。寝るときとかは外してもいいだろうし」
「そうね」
洞窟から出るとまだ十分明るい時間帯だった。それもあって周りの様子を伺っていたのだが、ものすごく驚くことになった。
なんと、入り口のすぐそばでスミロ人がキャンプしていたからだ。
しかも、よく見ると、サーベさんとイガさんだ。だが、どうやら驚いたのは俺たちだけじゃなかったようだ。
「ンガ!? まさか、もう出てきたのカ!?」
「えっ、サーベさんこそ、どうしてここに?」
「ンガ? 普通はここで待つ部隊と、ついて行って支援する部隊が要るんだ。お前たちが先に行ってしまったから、慌てて俺たちだけ走って来たんだ」
「あっ、そうだったのですか。すみません……」
俺たちがここまでの移動速度があるとは想像すらしてなかったということか。
「でも、首輪は取ってきましたよ?」
首輪をサーベさんに見せた。
サーベさんは首輪をじっくりと見ている。
「ンガ…… た、たしかに、間違いない。首輪以外に何か見つけたカ?」
俺たちは見てきたものを説明した。サーベさんは納得したようだ。
「ンガ。間違いなく、踏破したことを俺が認めよう。それにしても、俺たちがスミロドルフからたどり着く間に洞窟の奥から帰ってくるとは……」
「普通は何日くらいかかるのですか?」
「強さにも依るが、10日間が普通だ。階段横で泊まれるところがあっただろう?」
「あっ、やっぱりあそこに泊まるので正解だったんですね。行きと帰りで2回泊まりました」
なぜかサーベさんが数えながら不思議そうな顔をした。
「2回? 待て、お前たちはここに来て、そのままいきなり洞窟に入ったのカ?」
「えっ、ダメでしたか?」
「いや、ダメではないガ…… 普通は入る前にここで休んでから行くものだ」
「そのほうがいいかもしれませんね。あんなに広いとは思ってなかったので……」
「ガッハッハ! お前たちは村長が期待するだけのことはあるな!」
良かった。サーベさんも俺たちのことを認めてくれているようだ。
「じゃあ、あとはスミロドルフに帰るだけですね?」
「ンガ? 俺たちは今来たばかりなんだ。明日の出発にしてくれないカ……」
「そうですよね。帰りは一緒に行きましょう!」
「もちろんだ」
「あっ、あの、この首輪、重いので外してていいですか?」
「ンガ? もちろんだ。なんで首に着けているんだ?」
「えっ、首に着けないんですか?」
「そんな重いのを着けていたら戦いの邪魔だろうガ」
「……そ、そうですね」
まさかの反応だった。
強さ至上主義だから、余分なものを身に着けることを強要することなどあり得ないのだろう。
「じゃあ、みんなの分を回収しておくね」
(スッ)
「ふぅ、軽くなったプイ!」
(ピョンピョン)
「軽いノ!」
みんな軽くなって喜んでいる。プリンに至っては2mくらいジャンプしている気がする…… いくらなんでも跳びすぎだと思うが……
この日はサーベさんたちと一緒にキャンプした。
俺たちがどこからともなく出した寝袋で4人揃って寝始めてさらに驚かれることになった。




