第131話 スミロドルフへの帰還
次の日、俺たちはサーベさんたちと一緒にスミロドルフに帰還することになった。
行きは空を飛んできたこともあり、大体の道はイメージできていた。とにかくひたすら北に進む感じだ。
道は草原の中を貫いており、両サイドには森がある。森にはキメラがそれなりにいそうな雰囲気だ。
サーベさんは四天王の中でも1番強いはずだ。だから、俺たちがキメラから護る必要は全くないだろう。
イガさんの強さは分からなかったが、ここまでサーベさんと走って来れたということは四天王に次ぐくらいの強さはあるはずだ。なによりあの村長の娘だ。強いに決まっている。
道を歩いていると、昼くらいには向かいからこっちに向かってくる人たちに出会った。どうやら、サーベさんたちの後ろから俺たちのために来てくれていた人たちみたいだ。
「ンガ? サーベ様、もう戻るのカ?」
「そうだ。この者たちは洞窟を踏破した。俺がそれを認める」
(スッ)
一応、首輪を出しておいた。
「首輪も持ってきました」
スミロ人たちが俺たちのそばに来て首輪を見ている。
「ンガ…… 本当だ。こんなに早く……」
「村長の目に狂いはないということだ」
「分かりました」
「あっ、俺たちのために来てくださったんですよね? ありがとうございます。帰りは一緒に行きましょう」
「ンガ!? そ、そうだな」
「そうだ。せっかくだ。左側半分はお前たちが護れ。俺とイガは右側を護る」
「そうですね! 俺たちのために来てくれたんだから、当然護ります!」
「ンガ……」
スミロ人たちは唖然としているが、ものすごい量の荷物を持っているため、キメラに襲われると大変そうなのだ。護衛っぽい人もいるが、サーベさんには及ばないはずだ。俺たちが護ったほうがいいだろう。
それに、サーベさんは俺たちの力にもきっと興味があるのだろう。
◇
みんなで歩いていると、さすがに目立つのか、キメラが襲ってきた。最初に来たのは右側からだ。
森の木からワシライがこちらに目がけて突っ込んできた。
(ヒュッ! グサッ)
「ンガ!」
(ブン!)
サーベさんが一瞬でワシライを突き刺し、そのあと槍を振り回してワシライを森まで吹っ飛ばした。もはやワシライは生きてはいないだろう。
さすがに強い。速さは俺たちのほうが上だが、力がすさまじい。あの吹き飛ばしをやるなら岩とオレ魔法が必要だ。
(ん?)
逆に言えばそれを使えば出来ちゃうのか。俺は人間を辞めている気が今更ながらしてきた……
「ンガ! さすがサーベ様」
「あれくらいで驚いているようではお前たちもまだまだだな」
「す、すみません……」
サーベさんと他の人との強さの差はだいぶありそうな雰囲気だ。しかたがないかもしれない。
首輪をしているのはこの中だとサーベさんだけ…… いや、違う。イガさんも身に着けていた。イガさんも強いということか。
落ち着きを取り戻し、また歩き始めた。
今度は左側からキメラが向かってきた。あれは…… どこかで見たな。ゾウトラかな。
「あれはゾウトラかな」
「そうプイ」
「左側だから私たちね」
「とりあえずささっと倒すノ」
「そうだな。万一巨大な土が降ってきたときに備えて俺は防護にまわるよ」
「分かったノ」
「ン、ンガ!?」
(ん?)
なぜか驚かれた気がする。スミロ人なら普通に勝てそうなキメラだと思うが。
(ドドドドドッ!)
ゾウトラが土の弾丸を撃ってきた。
(ガンガンガンガンガン!)
それを全部クルルがメイスで吹き飛ばす。
(ピカーンッ!)
(パ、パォ!?)
(ヒュヒュッ! ヒュヒュッ! ヒュヒュッ! ヒュヒュッ!)
(……ドサッ)
「外にいるゾウトラは強くないから大丈夫ナノ」
「そうプイ。土の威力も弱いプイ」
「そうだな。俺なんか、何もやることなかったよ」
「まあ、いいじゃない。みんなの安全が1番大事よ」
「そうだよな! じゃあ、行きましょうか」
「……」
「ン、ンガ…… い、行こう」
まさか、驚かれた?
サーベさんすらちょっとうろたえていた。サーベさんが俺たちに聞いてきた。
「お前たち、今の戦いはどのくらい本気なのだ?」
「まだ全然ですかね? 使っていない技のほうが多いですね」
「なるほど。ウサ人があれほど早く動けるものなのカ…… ベルを倒したというのは本当だな。ベルは四天王の中でも1番素早く反応が早いのだ。力は弱かったが、攻撃をかわす能力は村長に次いで高かった。だが、あの速度ならベルでもとてもかわせまい」
「ああ、そうかもしれませんね。でも、ベルと戦ったときは俺たちは今よりもだいぶ弱かったので、1回かわされたんですよね」
「そうナノ。初めてかわされたノ」
「ン、ンガ? ベルを倒したときよりだいぶ強くなっている?」
「そうですね。あのときは4人でギリギリ戦えるかどうかくらいでしたよ」
「そうカ。近々戦うのが楽しみだ!」
「そうですね」
つまり、サーベさんは俺たちが儀式を乗り越えるのは確信しているようだ。
向こうでは、イガさんとモカが話をしているようだ。
「イガさんも首輪をされているということは、四天王ではなくてもそれに近い強さなんですよね?」
「ンガ? そうだガ、どうしてそれを?」
「その首輪は強い人にしか渡されないものだと聞いたので。それを着けると伸びが止まった能力がまた伸びるようになりませんか?」
「ンガ!? そ、そうなのだ。なぜかは分からないがそうなのだ」
「やはりそうなのですね。私の想像通りです」
サーベさんは2人のやり取りが気になったようだ。
「お前は本当に賢い人間だ。賢いのはあのネコ人だけではないのだな」
「ん? もしかして、ラグさんをご存知ですか?」
「ンガ?」
「非常に綺麗な毛並みの青い目のネコ人です」
「ンガ。それなら知っている。最近、東側にベルを探しに行ったときに森で助けたことがある」
なんと! サーベさんが助けてくれたのか。
「ありがとうございます! ラグさんは私たちとも仲良しなんです。ラグさんもスミロ人に助けてもらったと言ってました。ものすごく強かったって言ってましたけど、サーベさんなら納得です」
「あの青い目がどうしても気になって、助ける気持ちになったのだ」
「もしや、ラグさんの先祖のことをご存知ですか?」
どうやらサーベさんはピンときていないようだ。
「ンガ? いや、ただ、青い目のネコ人は神を助ける存在だと聞いたことがあっただけだ」
「そうなんですね……」
モカは話すかどうか迷っているようだ。俺は目で合図した。モカは話し始めた。
「……スミロ人の皆さんにとってテンは大切な存在ですよね?」
「ンガ? 当たり前だ」
「テンと妻のマリ、その2人とともに研究していたのが青い目のネコ人なんです。そのネコ人の子孫がラグさんです。つまり、サーベさんはテンを支えたネコ人の子孫を助けたんです」
「ンガ!? そうだったのカ」
「ベルは私たちの大切な人を殺しましたが、サーベさんは私たちの大切な人を助けてくれました。スミロ人にも人間にもネコ人にも、いろんな人がいるということです」
「そうナノ」
サーベさんは何かを思い出しているようだ。
遠い目をしつつ、少しずつ語ってくれた。
「ベルは…… テンが約束を果たしに来ないことを不思議がっていたのだ。そのおかげで我らは強くなり、生き残ってこれたのは理解しつつも、テンに見捨てられたのではないカ。そう思ったようだ」
「なるほど……」
「東に行けば、人間が住んでおり、テンの子孫もいるはずで、もっと詳しく分かるはずだと主張し、村を飛び出して行った。ベルは、テンに、神に愛されていると感じたかったのだろう」
「そうだったのね。それなのに運悪く、間違った話を聞いてしまったのね…… 不幸な話だわ」
「村長から聞いた。不運なことだ。その話を聞く前にお前たちに出会っていたら、それだけが悔やまれる」
「そうですね。でも、ベルが町を滅ぼしたり、プリンの師匠たちを殺したりしなかったら、私たちはベルには会うことはできませんでした。ベルの行動がテンの約束を果たすことにつながったんです」
「なるほど。お前たちが……」
「ん?」
「いや、そのうち村長が教えてくれるだろう。まずはお前たちは強さを証明するがいい」
「そうですね!」
村長もサーベさんも、テンから何か伝えられていることがあるようだ。
ひょっとしたら俺たちが別の世界から来たことに気付いているのかもしれない。今ここで議論するのはやめたほうが良さそうだ。
そのあとも何回かキメラは襲撃してきた。これだけ目立つ移動をしていたらしかたない。
すべてサーベさんと俺たちであっさりと退けた。イガさんが戦う姿も少しだけ見ることができたが、サーベさんよりは弱いというのはなんとなく分かるかどうかと言ったレベルで十分過ぎるほど強かった。
途中でキャンプする際にはやはり俺たちが寝袋に4人でこもることに驚かれたが、もはや驚かれ慣れているので、気にすることもなくなってきた。
サーベさんたちもいるおかげでしっかりと休むことができ、非常に楽にスミロドルフまで帰ってくることができた。
◇
「では、村長に報告に行くがよい」
「そうですね。行ってきます。みなさんありがとうございました」
「ンガ」
荷物部隊と別れて村長の家に向かった。
イガさんは自分の家なので当然一緒だ。サーベさんは話の流れ的についてこないと思っていたのだが、なぜかついてきた。別に困りはしないから気にしないけど。
「ただいま、戻りました」
「ンガ? おお、帰ったカ。さすがだな。サーベ、イガ、どうだったカ?」
「はい。村長の予想通り、いや、予想以上かと。我々が洞窟に入る前に踏破するほど」
「あっ、これを持ってきました」
あらかじめ出しておいた首輪を村長に見せた。
「ンガ。たしかに。他に見たものは?」
サーベさんと同じことを聞いてきた。モカがしっかりと答えてくれた。
「ンガ。間違いない。洞窟を踏破したことを俺も認めよう」
「あ、あの、少し教えていただいてもいいですか?」
「ンガ? なんだ?」
モカが村長に質問した。
「石碑には『壁を護り抜く』と書いてあったのですが、壁を攻撃する存在がいるのですか?」
「キメラはもちろん、かつては他にも攻撃するものがいたと伝わっている」
「主にテンが生きていた時代の話ですね?」
「そうだ。そのために我らは壁となったのだ」
「その、攻撃してくる種族は今はもういないのですか?」
「おそらく。少なくとも、俺は見たことがない。直接会ったというものを聞いたこともない。だが、残念ながら、いないという証拠もない……」
いないことを証明するのは難しいだろう。しかも、全世界に広まっていたら、絶滅したことを確認するのはG世界の技術でも難しい。
「ありがとうございます。すごいですね。攻撃してくる種族がいなくなったかもしれないと分かったあとも、しっかりと壁を護り続けるなんて」
「ンガ? それが我らの誇りだからだ。お前たちもそうであろう。『東の護り人』よ」
「えっ? 護り人のことをご存知だったのですね」
まさかの言葉だ。しかも、『東の』とついている。
つまり――
「当然だ。我ら壁を護る『西の護り人』、神が創りし生き物を護る『東の護り人』、テンの約束を果たすためにはどちらも欠けてはならぬ」
「なるほど…… ということは、その首輪は西の護り人に代々伝わるものですね?」
「そうだ。材料は手に入るため、壊れて作り直すこともあるガ」
「そうだったのですね。教えていただきありがとうございます」
報告ついでにいろいろ教えてもらえたのは運が良かった。
儀式はどんなものなのだろうか。俺の頭はすでに未来の想像に切り替わっていたが、村長も同じようだった。
「ンガ。次は儀式だ。準備ができたら出発するガ、どのくらい休みがいるカ?」
「えっ? 俺たちはいつでもいいですよ?」
「ンガ? ガッハッハ! 分かった。今度は我らを置いていかないように一緒に行くのだぞ。出発は明日にする」
「あっ、この前はすみません…… 明日出発ですね。分かりました」
まさか置いていかれるとは村長も思っていなかったようで、釘をさされてしまった。
そのあと、洞窟踏破のお祝いなのか、盛大なご飯を振る舞われた。
最初に抱いていたスミロ人への印象というか、怖いという先入観とは全く違い、大きくて強いけど、俺たちと同じように生きている人たちなのだとあらためて感じることができた。




