第128話 スミロ人の洞窟
翌日、俺たちは洞窟に向かって出発することにした。
約束通り、村長と四天王の3人がついてきた。スミロドルフの東門からしばらく歩き、門からはほとんど見えなくなるところまで歩いた。
「このあたりまでこれば村からは見えないかな?」
「そうね。じゃあ、私たちは洞窟に行ってきます。たぶん今日中には洞窟には着きますが、中でどれくらい時間がかかるかは分からないので、何日かしたら帰ってきます」
「「ンガ!?」」
サーベさんとの話を聞いていなかったカイロさんとレータさんは驚いているようだ。
「じゃあ、行こう。とりあえずしばらくは低空で、途中から少し高くして、洞窟を探そう」
「そうね」
「「行くプイ(ノ)」」
(ビューッ!)
(バサバサッ!)
(スーッ)
「「ンガ!」」
後ろから驚きの声が聞こえたが、俺たちはあっという間に飛び上がり、すでに遠くまで進んでいる。軽く手を振って、そのまま飛んでいくことにした。
◇
(ビューッ!)
(バサバサッ!)
(スーッ)
低空過ぎて洞窟を見つけるのには不便過ぎたため、比較的すぐに高度を上げた。
高いところからだとよく見える。
南に道が続いており、両サイドに森が続いている。
東側、つまり左側に見える森の向こうは川のはずだ。
反対側の森はその向こうにも草原があるようだ。たぶんその向こうに湖があるはずだ。そちらの草原には高いところからでも見えるほど大きなキメラがゴロゴロいる。ゾウ系だとは思うが、あんなに大きかっただろうか…… とりあえず今はそちらには用事がないから気にしないことにした。
しばらく飛ぶと洞窟が見えてきた。
見た感じは施設がある洞窟と似ている。おそらく、テンがスミロ人のために作ったものだろう。
「あれだよな?」
「そうでしょうね」
「テンが作ったのかな?」
「そうだと思うけど、不思議よね」
「どうして?」
「だって、凶暴なスミロ人のほうもあそこに行けば強くなるわよ」
「あっ…… そうだよな」
「川の壁は凶暴なスミロ人が東側に行かないようにするためプイよね?」
「そうだと思うわ」
「ならこのあたりまで凶暴なスミロ人も来たプイよね」
「そうなのよ」
たしかに、凶暴なスミロ人まで強くなると困るはずだ。
(いや、待てよ……)
「なあ、モカ。たしか、元の凶暴なスミロ人のチップだけ初期型なんじゃなかったっけ?」
「あっ、そうね。そうか! 初期型は細胞を吸収できなかったのかもしれないわね」
「その可能性がありそうだよな。きっと、あまりに元のスミロ人が強いから、吸収する仕組みを作って強くすることを考えたんじゃないかな?」
「そうかもしれないわね。それに、あとから生み出したキメラとかは大人になるまでに時間がかかるから早く強くしたかったのかもしれないわね」
「なるほどな。おっ、そろそろ洞窟だな。降りるか」
「そうしましょう」
(スゥーッ)
(スタッ)
俺たちは洞窟のそばに降り立った。
◇
まだ昼前後という感じなため、奥まで行けるかはともかく、洞窟に入ってみることにした。
中に入ると、雰囲気としてはフィナルメンシウタットそばの洞窟に似ていた。奥に迷路でもあるのかもしれない。
さすがに施設はもうないだろうが、代わりに首輪が置いてある部屋とかがあるはずだ。成人になる前のスミロ人がここで鍛錬する場所だから、キメラがとんでもなく強いということもなさそうだ。
とりあえず迷わないことが大事だろうから、クルル人形とプリン人形を置きつつ進むことにした。
(ヒュヒュッ!)
(……ドサッ)
「キメラの強さは施設のある洞窟くらいナノ」
「そうか。一瞬過ぎて違いがよく分からないけど、プリンがそういうならそうなのかな」
「えへへ、ナノ」
プリンが居合抜きを発動した瞬間、風でかわそうとしていたから、そのコネクトの強さをプリンは感じたのだろう。それにしても大きなイノウシだ。
「ここのイノウシ、すごく大きいよな?」
「そうなのよ。イノウシってたまに大きな個体がいるけど、このあたりにはそういう個体が多いのかもしれないわね」
「スミロ人はこのくらいのキメラで鍛えても大丈夫なほど、元々が強いんだな」
「そうね。しかも、ほとんどコネクトとか牙は使わないみたいじゃない? 壁は焦げていないし、傷もないもの」
モカに言われるまで気付かなかったが、壁はきれいだ。
「洞窟で火を使うと危ないからじゃない?」
「そうよね。意外とちゃんと教育されているのかもしれないわね。奥のほうに行って、もし強いキメラがいるならそこで初めて使うとかかしら」
「そうだな。雰囲気的には奥のほうに強いキメラがいそうだよな」
「しかも、ちゃんとキメラがいるということは、ここで鍛錬する時期を定めていて、キメラが減り過ぎないようにしているのよ」
「そうだな。後で困らないようにあまり倒さないようにしないとな」
できるだけキメラに見つからないように慎重に進むことにした。
ただ、さらに進んですぐに分かったのは、この洞窟はすごく広いということだ。たぶんフィナルメンシウタットの洞窟よりもずっと広い。
キメラの数もずっと多く、しかもほとんどのキメラが大きい。さらに探すべき首輪がどこにあるかのヒントもない。
となると、自然と攻略に時間がかかる。おそらく、わざとそういう洞窟にしたのだろう。
「モカ。この洞窟広いよな。1番奥って、湖側なのかな?」
「どうかしらね。護り人用ではないから違うかもしれないわよ。でも、何にも目標無く歩くのも大変だから、とりあえず湖側を目指しましょうか」
「そうだな。クルルもプリンも気になることがあればすぐに教えてね」
「「分かったプイ(ノ)」」
洞窟内を慎重に歩く俺たち。遠くにいるキメラに気付けるクルルとプリンがいるおかげで戦わずにすんでいる。
だが、プリンが奇妙なことを言い始めた。
「なぜかイノウシばかりナノ」
「ん? そうなのか?」
「たしかにそうプイ」
洞窟に特定のキメラが多いことはこれまでもあったが、全部同じ種族というのはなかった気がする。モカが洞窟に生えている草などを見て言う。
「たぶんイノウシが好む食べ物がここにあるのよ。イノウシなら幼いスミロ人の鍛錬相手にちょうどよいのかもしれないわ」
「でも、イノウシだけだと相手のコネクトが固定されてて、実戦で困らないかな?」
「まさか……」
俺の言葉にモカが反応し、考え始めた。少し待つことにする。
「……とりあえず進みましょうか。プリン。これまでと違う音とか、風が通る音が聞こえたら教えてくれない?」
「? 分かったノ」
◇
しばらく進むとプリンが立ち止まった。
「あっちにキメラがいると思うノ。でも、なんか他と違う音がするノ」
「行ってみましょう」
プリンの言う方向に進んだ。行き止まりに見えるところに最初に戦ったのと同じくらいの大きなキメラがいる。
「プリン。あのキメラは倒すしかないわ。とりあえず光も使うわ」
「? 分かったノ」
俺たちの会話に気付いたイノウシが突進してきた。
(ピカーンッ!)
(ブモッ!)
(ヒュヒュッ!)
(……ドサッ)
「特に強さは変わらないわね。だけど、この先はどうかしら」
「先? あっ!」
イノウシがいた奥は行き止まりではなかった。
階段があったのだ!
まさかの階層構造だ。
「階段があるということは、ここは深い洞窟なんだな」
「そうね。おそらく管理された洞窟よ。地下迷宮と言ったところかしら」
「えっ……」
クルルたちにも分かるように表現しているが、要するにダンジョンだと言いたいようだ。そんなことあるのか?
俺の疑問が顔に出ていたのか、モカが俺の想像を否定する。
「ヤマ。でも、別に100階層とかはないと思うわよ。そんなに深くする意味はないから」
「良かった」
「でも、コネクトの種類別の階層だと思うわ。最初が風だったから、この先には、水、土、氷、岩くらいはあるんじゃないかしら?」
「つまり、5階層?」
「単なる予想だけどね。鍛えるためならそのほうが好都合でしょ?」
「たしかに」
こういう予想は当たることが多い。
「モカの予想って大体当たるからな……」
「あと、1番当たってほしくなくて、でもほぼ間違いないと思うのは、下に行くほど暗くなることよ」
「それはそうだろうな。スミロ人基準でできているから、1番下はかなり薄暗いんじゃないかな?」
「そう思うわ。だから、途中から私は光を使い続けることになると思うの」
「なるほど。第2施設のある洞窟みたいになるんだな」
「そうだと思うわ」
「まあ、俺たちなら大丈夫さ。行こう」
「そうね」
「「行くプイ(ノ)!」」
俺たちは階段を下りて第2階層に向かった。
◇
階段を下りたが、予想が外れて第2階層は全然暗くならなかった。
きっとここまでしっかり光が入る設計なのだろう。どういう仕組みなのかはさっぱり分からないが。
「意外と明るいんだな」
「そうね。ここまで明るいと、ひょっとしたら光のコネクトを応用しているのかもしれないわね」
「なるほどね」
感心していると、意外なことにモカが光のコネクトの不思議な点を語りだした。
「光のコネクトって本当不思議なのよ。水のコネクトなら水があるところにずっとつなげばいいじゃない? 例えば湖の底とか。深い湖ならものすごい水圧だから、あのとんでもない威力を説明できるの。でも、いつもあの強さで光ってる場所って、地球上に自然には見当たらなくない?」
「ん? そう言えばそうかもな。まさか、宇宙空間につないでいる?」
「そんなことしたらこっちから空気圧で押し出されるわよ」
「あっ、そっか……」
「だから、例えば、徐々につなぐ場所が動いているのよ。いつも昼になるように、とか、同じようなものがある場所を探して」
「つまり、時間変化が小さくなるよう接続位置を微修正する制御をしている感じかしら。位置だけじゃなくてつながる世界の選択も修正しているのかもしれないわね」
「そうすると、別の種類に接続しにくくなるから、登録したように見えるし、それならいろんなものを統一的に説明できるかもしれないわよね。逆に人工的に光るものがある場所につなごうとすると、1万年も使えない気がするから、やっぱり自然光だと思うのよね」
洞窟にいるのに頭の中では研究が始まっていそうなモカだ。でも、言っている不思議さはよく分かる気がする。
「なるほど。となると、洞窟でそれを遺物とかで応用すると、夜でも明るくなる?」
「そうなるかもしれないわね。施設内は普通に暗くなったけど、洞窟内は確かめたことはないわよね」
やはり光は特殊なのかもしれないな。
(あれ?)
「そういう意味では放電も特殊じゃない?」
「もちろんそうよ。ちょうどよいときに放電させるなんて人工的にやるか、生物が意図的にやるかくらいしかなさそうじゃない?」
「なるほどな。だからさっき言った制御の話になるのか。それにしたって実は分からないことだらけなんだな」
「そうよ。だから面白いのよ」
「えっ?」
まさかの面白い発言だった。
「接続先の登録や維持だけでもとにかく謎だらけなの。一生研究できる難しさだと思うわ」
「それを1世代で作り上げたテンはとんでもない天才だな」
「そうよ。知れば知るほど超天才よ。地球人じゃないかもしれないとすら思うわ」
「それ、本当にあり得るかもしれないな」
「そうね」
ここの洞窟はこういう頭の鍛錬のためのものではない気はするが、モカにとってはここもそういう場所なのだろう。ただ、キメラに襲われる可能性もあるから、要注意だ。
俺たちとは違い、クルルとプリンは周囲に気を配っていてくれる。頼もしい限りだ。
そんな中、プリンが反応した。
(ピクッ!)
「ん? 何がいる?」
「サイガメあたりだと思うノ」
「においはそうプイ」
「となると、この階層は水を使うキメラかな」
「少し戦ってみましょう。数を減らしすぎなければ大丈夫よ」
クルルとプリンがキメラのほうに歩いていった。
俺たちもついていく。現れたのはやはりサイガメだった。ただし、すごく大きい。
「サイガメはサイガメだけど、大きいよな」
「大きいプイ」
「カメの種類が違いそうね」
「こっちに気付いたみたいナノ」
(ズザーッ)
(サッサッサッサッ)
水鉄砲が飛んできた。威力はまずまずだ。このくらいなら俺たちの敵ではない。
(ピカーンッ!)
(スポッ)
光で驚き、頭を引っ込めた。
これは初めてのパターンだ。それを見たクルルがすぐに反応した。
(ドォーン!)
上から巨大岩を落とした。もはやサイガメは動けなさそうだ。自分たちに感電しないように、サイガメの頭を目がけて軽く放電する。
(ビリビリビリ!)
(ヒュヒュッ! ヒュヒュッ!)
気絶したのか、頭が出てきたので、プリンが一瞬で勝負を決めた。
(スッ)
俺は岩を消しておいた。
「首が引っ込んだのは初めてだな」
「そうね。ここのキメラは賢いのね。次は引っ込まないように気を付けるわ」
「そうだな。これだけ戦ってきてもまだ新しいことが起きるんだもんな……」
「私たちなんて、まだ1年くらいしかテン世界にいないんだから当然よ」
「そうだった……」
「でも、2人とも、もうすっかりテン世界の人プイよ」
「そうナノ」
「ありがとう」
これからも新しいことをたくさん経験することになりそうだ。そう思いつつ、第2階層を進んで行くことにした。




