第127話 スミロドルフ
俺たちは村長の家の中を案内された。案内してくれたのはタガ村長と娘のイガさんの2人だ。
まず、俺たちが3日ほどお世話になる部屋だ。
「ここともう1部屋を使うがいい」
「あっ、いや、私たちは4人で1部屋でいいです」
「ンガ?」
「私が第2夫人で、プリンが第3夫人プイ。モカが第1夫人プイ」
「だからみんな同じ部屋が普通ナノ」
「そうカ。夫婦だったカ。なら1部屋で十分だな。それに、人間とモル人とウサ人の3人の妻がいるとは、お前の言葉に偽りはなさそうだな」
「ありがとうございます」
なんかクルルたちのおかげで信頼感が増した気がする。そんなに亜人と人間の夫婦は珍しいのだろうか。
それよりも、スミロ人がモル人やウサ人のことを知っていることに違和感を覚えた。
「ところで、みなさんはモル人やウサ人のことをご存知なんですね」
「当然だ。キメラヴィルにも住んでいるだろう?」
「あっ、そうか。ここからなら遠くないか。村長たちなら向こうにも行けるか……」
「もちろん行こうと思えば、ではある。それよりも、北の関所で昔はたまに交流をしていたと聞く。だから、キメラヴィルに住む亜人や人間のことは知っている」
「なるほど。あそこは北の関所って言うんですね」
「ンガ? ……そうだ」
「北の関所にあったあの部屋は交流のための場所だったのよ。だから机だけあったのね」
なるほど。立食パーティーみたいなことをしていたのかもしれない。
「ところで、荷物はないのカ?」
「あっ、大丈夫です。私たち、ちょっと特殊なので」
「……なるほど」
「?」
なぜか納得してくれた。モカも一瞬だけ不思議そうな顔をしたがすぐに納得したようだ。あとで教えてもらうことにしよう。
そのあとは、必要な設備、お手洗いやお風呂を教えてもらった。広いキッチンもあったため、モカが鴨の卵とヤギ乳があるかを聞いていた。どうやら手に入るようだ。モカプルン最強説はここでも通用するかもしれない。
家の中をひと通り案内してもらったあと、入り口のほうの応接間のようなところに通された。
「このあと、四天王のうちの2人を呼んでくる。残る1人はもうじきスミロドルフに帰ってくる」
「あっ、北のほうに行っているのですね?」
「そうだ。見かけたカ?」
「ええ、それらしき声だけ聞こえたので」
「そうカ。サーベに気付かれずに声だけ聞けるとは。まあ、ベルを倒せたのだから、驚くこともないカ」
「名前までは分からなかったです。もう1人と一緒に山を下りていたことくらいしか」
「なるほど」
話していると誰か来たようだ。きっと四天王の2人だろう。
「おお、来たカ」
「村長、いかがされた?」
「その者たちは?」
「お前たちを呼んだのはこの者たちを紹介するためだ。このあと、洞窟踏破、それと儀式を乗り越えられたら、最後に我らに挑戦する者たちだ」
「ま、まさか、人間にやらせるなど無茶では!?」
「そうだ。そのまさかだ」
せっかくなので自己紹介をしておこう。
「はじめまして。俺はヤマと言います。こちらはモカとクルルとプリンです。少しの間お世話になります」
「私はカイロだ。四天王の2番目だ」
「俺はレータだ。四天王の3番目だ」
2人ともとても大きく強そうだ。しかもカイロさんはどう見ても女性だ。
「それにしても、この4人がそれほど強いとは思えないガ……」
「すぐ見た目で判断するからレータは私に勝てないんだ」
「まあ、待て。アレを見せるがよい」
「あっ、はい」
ベルの首輪を見せた。
「それは…… な、なんと!」
「まさか、ベルより強いだと……」
「そうだ。ベルの不始末のせいで、この者たちの大切な人たちに犠牲が出てしまったそうだ。やむなく戦ったそうだ」
「なるほど。だが、ただ戦って勝っただけで、ベルはここまで信頼はしないのでは?」
たしかに。勝っただけでこの首輪はくれなかっただろう。
「そうだ。この者たちは、テンの子孫たちとも通じている。そして、テンの約束を果たす目的で来ている」
「えっ、あの話は本当のことだったのカ……」
「伝説じゃなかったのカ……」
「いずれ戦ってみれば嘘か本当か分かるはずだ」
「「分かりました」」
「この者たちのこと、村のものに伝えるように。村の外で会ってもむやみに攻撃するなと」
「「はい。伝えます」」
2人ともテンの約束のことなどをよく知っているようだ。あいさつが終わると2人は出ていった。
「あとはゆっくりともう1人の四天王、サーベが帰ってくるのを待つがよい」
「ありがとうございます」
モカが何か言いたそうだ。
「あの、お買い物に行ってもいいかしら?」
「構わぬ。イガと行くが良い」
「やった。行きましょう」
◇
村長の家から出ると、既に俺たちのことは噂になっているようで、ジロジロと見られた。そもそも、最初に来たときに村長に連れられて来たのだから、なおさらだ。
今は気にしてもしょうがないからイガさんとお買い物に向かうことにした。
お買い物ができるのはちょうど村の真ん中の十字路あたりだった。
南側をよく見ると、南東側には鴨やヤギが飼われている場所と畑がありそうだ。生活するために必要なのは他の都市とたいして変わらないようだ。
モカはお店で例によってプルンの材料を買い込んでいた。
お金はなんと共通だった。
どうやら、このお金自体を発明したのがテンたちなのだろう。そう考えるといろいろと辻褄が合う。スミロ人は強いからキメラ肉はあまり高く買い取ってくれなさそうだから心配していたのだが、とりあえず問題は無さそうだ。
イガさんはモカが買うものの組合せを不思議そうに見ていた。やはり、こちらでもプルンは無さそうだ。
そのあと、村長の家に戻り、お菓子作りが始まった。
イガさんも興味津々のようで、一緒に作っていた。どうやら、スミロ人も文字は読めるようだ。交流していた間に伝わったのだろう。ひょっとしたら、北の関所で勉強していたのかもしれない。
文字が読めるということは、当然レシピがモカから渡された。
これまたいつものことだが、ものすごくイガさんに驚かれた。
「つ、作り方を教えてくれるのカ?」
「もちろんよ。みんなでおいしいものは分け合わなきゃ!」
「モカは東のほうではお菓子の神様って呼ばれているプイ」
「ついでにヤマはネコ人の神様と呼ばれているノ」
「ネコ人カ。頭のいい亜人カ」
「そ、そうですね。研究所の所長をしていたりしますね」
スミロ人にとってネコ人とはラグさん一族を指すようだ。あの一族なら頭が良いからそう思われてもしかたがない。でも、まさかすぐに箱に吸い込まれてしまうとは思っていないだろう。
◇
しばらくして、モカプルンがたくさんできあがった。食卓に行き、村長も呼んだ。
「これは何だ?」
「『モカプルン』と呼ばれるお菓子です。モカが作り出して、東のほうでは大人気なんです」
「食べてみていいカ?」
「もちろんです! どうぞ」
(パクッ)
「ンガ! こんなおいしいお菓子初めて食べた!」
「おいしい!」
「カイロたちにも食べさせていいカ?」
「もちろんですよ。そのためにたくさん作ったの」
「お父様。私も作り方を教えてもらったから、作れるようになった」
「な、なんと!」
これまたものすごく驚かれた。
「お父様。モカさんたちがテンの約束を果たせなくとも、私は仲良くしたい。今までこんな風にしてくれた人はいない」
「もちろん、それは構わない。ただ、スミロ人が全員納得するには約束を果たせるかどうかが大事だ」
「それは分かってる」
なんか、戦わなくてもモカプルンだけでスミロ人を納得させられないものかと思わず考えたくなるようなやり取りだ。
そういえば、スミロって大型肉食動物で、見た目はネコっぽいけど……
「あ、あの、余っている木とかありませんか?」
「ンガ? 木? 倉庫にいっぱいある。木より石のほうをよく使うから余ることが多い。使いたければ好きにしていい」
「あっ、ヤマ、あれを作るのね!」
「そう。気に入ってもらえるかは分からないけど」
「大丈夫だと思うわ。ライオンでも効果があるって聞いたことがあるわ」
◇
モカプルンを食べたあと、モカの心強い知見を胸に、俺は箱作りに励んだ。
ただし、ネコと違ってスミロ人は大きいので、箱も大きくなる。俺たち4人で入れるくらいのものとそれより少し小さめのものを用意した。
「お待たせしました。作ったのはこれです」
「ンガ? それは……」
「ンガ? なんだ?」
とりあえず箱をおいて、2人の様子を眺めることに。
タガ村長とイガさんは箱を眺めながら周りをくるくると歩いている。
だが、次の瞬間――
「ンガァ…… これいい!」
「ンガ? お父様? 私も! ……ンガァ」
タガ村長が箱に入り、続いてイガさんも入った。そして、入ったあとは出てくる気配が全くない。
「さすがネコ人の神様プイ」
「すごいノ。スミロ人にも通じたノ」
「大きいけど、心は似ているから、惹かれるものは似ているんじゃないかなって」
うっとりしているタガ村長がふと我に返ったのか聞いてきた。
「もっとたくさん作れるカ?」
「もちろん。3日間待っているのも暇なので、たくさん作りますよ」
「あっ、私もモカプルンをたくさん作りますよ」
2人は驚いて目をまん丸にしている。
「……お父様。この人たち、本当に神なんじゃ……」
「……いや、違う。神であるテンの使いだ」
「神ではなくて、テンの使い。つまり、天使なのカ…… 納得だ……」
「そうだ。我らスミロ人のところに来た天使たちだ」
なんかすごいことになってる……
ここでは神様じゃなくてまさかの天使扱いだ。テンが神様なのだか、しょうがないか。だが、強さも証明しないといけないのがややこしい。
◇
このあと、四天王のサーベさんが帰ってくるまでの2日間でスミロドルフでは劇的な変化が起きることとなった。
俺が作った箱にはスミロ人が至るところで入っている。
モカが作ったモカプルンをおいしそうに食べるスミロ人や、作り方を教わったスミロ人がモカプルンを一生懸命作る姿であふれていた。2日後にはお店で販売が始まっていた。
そんな中、北の山から戻ってきたサーベさんたちが驚くのは無理もなかった。俺たちが村長の家でモカプルンをみんなで食べていたところ、サーベさんたちがやってきた。
「失礼! 村長!」
「おお、来たカ。サーベ」
「いったい何が起きたのカ!」
「落ち着け、サーベ」
「いや、村のあちこちに箱があって皆が入っているし、その変わった黄色い食べ物を食べている」
「あっ、それは俺たちが……」
「ンガ? 村長、その者たちは?」
「サーベを呼ぼうと思っていたが来てくれて呼ぶ手間が省けた。この者たちを紹介しよう。このあと、洞窟踏破、それと儀式を乗り越えられたら、最後に我らに挑戦する者たちだ」
「ンガ? ま、まさかテンの……」
「さすがサーベ。察しが良いのは四天王筆頭の男だけはある」
「アレを見せるがよい」
「あっ、はい」
ベルの首輪を見せた。
やはり、この首輪を見た反応は同じようだ。村長が他の四天王たちに説明したのと同じ説明をしてくれた。
「なるほど。まさか、ベルより強い人間が存在していたなど……」
「サーベ。お前は北の山をもう1人とともに下りてきたな?」
「ンガ? はい」
村長がモカに向かって聞く。
「どのあたりカ?」
「川からはだいぶ西側に離れていて、平地になったばかりの森の中ですね」
「ンガ?」
「そのあたりを通ったな?」
「はい」
「この者たちに気付いたカ?」
「いや……」
「しゃべっていた内容は分かるカ?」
「はい」
モカが聞いた内容を話した。サーベさんが驚きのあまり固まっている。
「どうだ。サーベに気付かれずにそれを聞けるほどの者たちだ」
「ンガ…… ですが、その話をしたあと、俺はまっすぐスミロドルフに来たはず。この者たちはいつ?」
「2日前だ」
「そうですね。その話を聞いた日の昼過ぎくらいですね。ここに着いたのは」
「ンガ…… そんな速さで移動できるのカ……」
「まあ、そうですね。私たちもそれができるようになったのは結構最近です。明日、洞窟に出発するときに村長と四天王の皆さんにだけはお見せしても良いですが……」
「そうだよな。この人たちなら信用できるよな」
「ンガ!」
「ガッハッハ! そうさせてもらおう」
唖然としているサーベさんだが、よく見ると箱に身体が入っている。
俺たちがそのことに気付くと本人もそれにようやく気付いたようだ。
「ンガ! 入ってしまった! なんだこれは? ンガァ……」
「我らは、この者たちがテンの使いであることを証明してくれることを祈ることとしよう」
スミロドルフのスミロ人たちとなんとか親しくなれそうだと安心する俺たちだった。




