第126話 スミロ人の村
(ビュッ)
(バサバサッ!)
(スーッ)
いつもよりずっと低空飛行で飛び始めた俺たち。低空飛行と言っても10mとかは軽くあるため、周囲には十分注意しながら進んだ。
速度は十分に出ているから、地面がものすごい速度で動いていく。
モカが先頭で道案内をしてくれる。少し東寄りにふくらみながら南下する予定だ。
周りを見渡すと草原にところどころ木が生えている感じだ。このあたりには特に道らしい道はない。キメラも遠くの方にちらほらいる程度だ。
最初に東寄りに飛んだおかげか、スミロ人らしい姿もなかった。たぶんスミロ人は大きいから出会えばすぐに分かっただろう。
◇
十分に速度を出していたこともあり、昼になるかならないかくらいのうちにはふくらみを戻し、ほぼ南下コースになっていた。
おそらく、もうじきスミロ人の村が見えてくるはずだ。みんなよりほんのわずかに高く飛んでいたモカが降り始めた。
「降りて歩きましょう」
「うん、分かった」
(スゥーッ)
(スタッ)
「スミロ人の村はすぐそこよ」
「さすがにあのスミロ人は追い越したよな」
「そうね。ずっと後ろを移動しているはずよ」
「ドキドキするけど、行こうか」
「行きましょう」
緊張する心を静めつつ、歩き始めた。
◇
そのまま南下を続けると、ついに村が見えてきた。
村の建物はどうやらほとんど石でできているようだ。川にあった壁もそうだったが、スミロ人は力があるから石を扱うのが得意なのだろう。
村からは東側に向けて道が続いているようだった。あんまり道から外れたところから行くのもなんなので、東側に少しまわって道を通ることにした。
東側の道を村のほうに進むと、いよいよ村の門が見えてきた。
門番らしき、スミロ人が2人立っていた。キメラが入るのを警戒しているのだろう。当然、俺たちのことも見えているはずだ。
不思議なことにそんなに驚いたり警戒している雰囲気には見えなかった。
門までたどり着いた俺たちは門番にあいさつすることにした。
「こんにちは。ここはスミロ人のみなさんが住んでいる村ですか?」
「ンガ? そうだ。ここはスミロドルフだ。知らないのカ?」
「あ、いや、村の名前までは知らなかったです。でも、ここに来るように言われたので、村があることは知っていたんです」
「ンガ? それにしても人間2人にモル人とウサ人とは珍しい。誰に言われたのカ?」
「ベルというスミロ人です」
「何!? ベル様だと? 証拠はあるのカ?」
「これです」
意外と穏やかに対応してくれて助かった。
俺は落ち着いて首輪を見せた。特に、ベルが付けた傷がよく見えるようにして。
それを見た門番のうちの1人がもう1人に言う。
「……お前は村長を呼んでこい!」
「分かった」
「……たしかにその首輪とその傷は間違いなくベル様のものだ。村長が来たら、話をするがいい。我らではこれ以上の判断はできない」
「分かりました。ここでお待ちします」
やはり、ベルは四天王と言われるだけあって、かなりの高い地位のようだ。あと、この傷の意味は分からないが、傷があったからこそ信じてくれた、そんな気がする。
しばらくすると、ひときわ大きく立派なスミロ人がやってきた。
「ンガ? お前たちがベルの首輪を持つものカ?」
「これです」
スミロ人は首輪をじっと見つめている。
しばらくして口を開いた。
「……たしかに。ついてくるが良い。『ベルが認めし者たち』よ」
「あ、ありがとうございます」
やはりこの首輪にはかなりの意味があるようだ。『ベルが認めし者たち』というのはおそらくはこの傷を見て判断したのだろう。
単に殺して首輪を奪ったもの相手にそのようなことは言わないはずだ。テルさんがベルに話してくれなければ、今俺たちはここで平穏に会話できていないかもしれない。そんなことが少しよぎった。
◇
案内されつつ、周りを見ると、スミロ人の村、スミロドルフは、意外と広く、かつ建物1つ1つがすごく大きい。これはあきらかにスミロ人が大きいからだろう。
なんか子どもに戻ったような感覚だ。
村長は俺たちをまっすぐ村の奥に案内してくれた。
位置関係的にどうやらあの門は東門のようだ。途中で南側に伸びる道もあり、遠くに門が見えた。そちらが南門なのだろう。一方、西側や北側は行き止まりで、門らしきものは見当たらない。
村の西側の奥のほうに行くと、道の北側に大きな家が見えてきた。
おそらくあそこが村長の家だろう。
だが、南のほうにはもっと大きな建物が見える。まさか催事場だろうか? その手前には広場らしきものもありそうだ。なにやら丸い台座もあり、その上に何かが置いてあるようだが、スミロの骨格標本とかではなさそうだ。
怪しまれない程度に周りを観察しながら進むと、やはり、先ほどの大きな家に案内された。
「ここが俺の家だ。俺は村長のタガだ」
「お邪魔します」
家の中は石でできてはいるものの、じゅうたんなどが敷かれ、暮らしやすいように見えた。俺たちはさらに家の奥に案内された。
家の奥の部屋には机と椅子が並べられていた。机は石でできていたが、椅子は木でできていて、布がかぶせられているようだ。お尻が痛くならなさそうで良かった。
「座ってくれ」
「ありがとうございます」
俺たちが座るのを見届けると、タガ村長が話し始めた。
「ベルが認めし者たちよ。何用があってここに来た?」
「あっ、まず、俺はヤマと言います。こっちはモカ、クルル、プリンです」
自己紹介をすると、モカが話を続けてくれた。
「私たちは…… ベルとレイシュトで戦いました。その最期に、ベルから『お前たちは、スミロ人とともに生きる未来を望むカ?』と問われました。ヤマが、みんなと仲良くしたい、キメラとだって本当は仲良くしたい、と答えたんです」
「そうしたら『お前のその目、最期に信じさせてくれ。これを持って、ここから西の土地を目指してほしい』と言われたのです。つまり、ベルはヤマを信じてくれたんです。だから、私たちはベルの言葉を信じて、西に来たんです」
「なるほど。ベルはもう死んだのだな?」
「あっ、はい…… 申し訳ありません……」
「お前たちが倒したのだな?」
「そうです。どうしても戦わざるを得ない状況になったのです。ベルは町を1つ滅ぼした他、このプリンの師匠や私たちの友人の両親を殺しました。なので、かたき討ちをする以外に道がなかったのです」
「なるほど。ベルが迷惑をかけたようだな。それに、ベルに勝てるほどの力があるなら、スミロ人は誰もお前たちを責めたりはせぬ。スミロ人は何よりも強さを尊ぶからな」
「たしかにベルもそんな感じでした」
次に何の話をしようか、俺は迷っているのだが、モカも迷っているようだ。
一方、タガ村長は遠い目をしている。ベルのことを思い出しているのだろうか?
「あの、ベルから聞いたわけではありませんが、ベルはスミロ人の四天王だったのですか?」
「そうだ。四天王の中ではまだ1番弱かったが、それでもこの村で5番目の強さだった。これからさらに強くなると思っていたが、テンのことをより知りたいと言って、掟を破って東の地に行ってしまった」
「やはりそうなのですね…… 東に行ってはいけない掟だったのですね」
「そうだ」
やはりその村長が1番強いのだろう。村長と仲良くなれれば他の人とも仲良くなれるのだろうか。そんなにうまくいくだろうか……
ここまで来たんだ。素直に聞いてみよう。
「あの、スミロ人のみなさんと仲良くなるにはどうしたら良いですか?」
「ンガ? ガッハッハ! お前は面白いことを言うやつだな! そんなことをこの村の村長に直接言える人間はたぶん1万年ぶりだと思うぞ!」
「えっ、1万年? まさか!」
「知っているだろう? 俺たちを生み出した神、テンのことを。お前たちにも伝わっておろう」
「はい。ただ、ちょっと間違って伝わっているところもあって、そのせいでベルが怒ってしまったようで……」
「何? どういうことだ?」
そのあと、モカが東側に伝わっている話をした。そして、俺たちが理解している内容も伝えた。タガ村長はだまって最後まで聞いていた。
「ンー。人間ともあろうものが情けないこともあるものだ。だが、お前たちは伝わっている内容とは違うその結論にたどり着いた。それはなぜなのだ」
「私たちはテンの子孫とも、テンの妻の妹の子孫とも知り合いなんです」
「ンガ!? そうだったか。つまり…… そうカ…… テンとの約束は今も破られていないのだな」
「テンとの約束?」
「そうだ。我らの祖先はテンによって生み出された。そして、テンたち人間を護るため、自ら戦いに出たのだ。だが、テンは我らの祖先が犠牲になることを決して認めなかった」
「たしかに、テンならそうするでしょうね」
「我らの祖先は人間たちの壁となることを選んだ。それに対し、テンは壁なら自分が作ると言ったそうだ。お前たちも東側から来たのなら分かるだろう。あの素晴らしい壁を」
「やはりあの壁はテンの時代に作られたものなのですね」
「もちろんだ。ただし、全部ではない。その後も長い年月をかけて今の壁を完成させたと伝わっている」
「たしかにいくらスミロ人でもあの規模をすぐには作れないよな」
「そうよね。でも、約束というのは壁のことではないですよね? スミロ人を護るための約束ですよね?」
タガ村長は少し驚いたような顔をした。
「……お前はまるでテンの妻のように賢いな。そうだ。テンは我らスミロ人に必ず生き残るよう言い遺していた」
「いつか、必ず迎えに来る。そのときには自分は生きていないだろうが、いつか、スミロ人とともに生きることを目指した人間がやってくる。それまで、生き残っていることを約束してほしいと」
「なるほど……」
「壁が少しできてきたころ、そのいつか来る人間のことをテンはこう言い遺したそうだ。いつかスミロ人より強い人間がここに来る。だから、スミロ人は強さを大事に、切磋琢磨してほしい。いつか、その強い人間と協力できるように、と」
「我らの祖先はテンの言葉を信じ、強さを大事にしてきた。テンの言うような人間は待てど暮らせど来なかった。だが、その言葉により我らは強さを得て、ここまで生き延びて来られた」
「テンは我らを生かすためにそう言ったのだと信じられるようになったのだ」
なるほど。自分たちを生かすためにテンが尽くしてくれた、となればテンを大事にするのは当然のことかもしれない。
タガ村長はさらに続きを話し始めた。
「だが…… だが、四天王であるベルより強いお前たちが今こうしてやって来た。テンは本当に目指していたと信じたい。我らスミロ人と人間たちがともに生きる世界を」
「テンは本気で目指していたと思いますよ。私たちが聞いた話では、数百年くらいのつもりだったそうです。まさか1万年も維持されると思っていなかったらしいです。テンたちの作った仕組みがすごすぎたみたいです」
「なるほど。さすが神と言われるだけある」
人間よりスミロ人のほうがよほどテンのことを信仰している。スミロ人にとっては神なのだろう。よく考えれば実際に生み出したわけだから、神そのものと言って間違いない。
「ただ、スミロ人にはスミロ人の考えや伝統がある。村のものはなかなかお前たちを信用しないだろう」
「そうですね。今はベルの首輪を持っているから、私たちの様子を見ているだけだと思います」
「そうだ。首輪を持つのにふさわしくないと思われれば、お前たちは村からは追い出されるか、首輪を奪われるだろう」
「どうしたら首輪を持つのにふさわしいと…… まさか――」
「そうだ。強さ以外を我らスミロ人が認めることは決してない。それがテンとの約束だからだ」
「なるほど。でも、殺し合いはしたくありません」
「もちろん、殺し合う必要はない。ただし、物事には順序がある」
「順序?」
「我らスミロ人は、幼い頃からまず洞窟で鍛えるのだ。そこで生き残ったものが、さらなる強敵と戦う儀式を経て、ようやく成人として認められる。成人の中でさらに1番強いものが全員に認められる」
「なるほど。つまり、私たちで洞窟を踏破すること、儀式で強敵を倒すこと、最後にスミロ人のみなさんと模擬戦をして勝てばいいのかしら?」
「……本当に賢いな。簡単に言うとそうだ。ベルに勝ったお前たちだ。儀式まではこなせるだろう。だが、残りの四天王とこの俺より強くなければ、スミロドルフのスミロ人はお前たちを認めないぞ」
「分かりました」
「仲良くなるために模擬戦をやるってよくあるもんな。全然大丈夫だよな!」
「そうナノ!」
「まずは洞窟に行くプイ」
「ほう…… なるほど……」
「洞窟はどこにあるのですか?」
「スミロドルフの南東だ。東門から出て、途中から分かれ道を南に行けば良いだろう。洞窟の奥深くにある首輪を持って帰ってこい」
「首輪? ベルの首輪みたいなやつですか?」
「そうだ。ただの石でできた首輪だが、偽物かどうかは我らが見たらすぐに分かる」
「分かりました。とりあえず洞窟の奥に行けば分かりそうですね」
「そうだ。たどり着ければ何のことかは間違いなく分かるだろう」
なるほど、たしかに空から見たときに洞窟みたいなものがあった気がするな。
「ただし、出発は3日後にしろ。村のものにお前たちのことを説明しておかなければ、村の外でスミロ人と戦いになる可能性があるからだ。それまで、この家で過ごせばよい。適宜、面通しをさせてやる」
「ありがとうございます!」
タガ村長は部屋の奥のほうを向いてそちらにいる若いスミロ人に声をかけた。
「イガ!」
「はい」
「4人の世話はお前がやれ」
「分かりました」
「イガは俺の娘だ。困ったことがあれば聞くといい。家の外に出るときは一緒に行くといいだろう」
「ありがとうございます!」
意外といい人かもしれない。とりあえず3日後まで俺たちはスミロドルフで過ごすことにした。




